スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP13

 

「う~ん……」

 

 妙な寝苦しさを感じ、音羽は目を覚ます。

 目に入ってきたのは、小麦色の細い足だった。

 

「あり?」

「うにゅ~……」

 

 視線を下へと動かすと、何がどうなってるのかは不明だが、上下逆になっているルッキーニがこちらの足に抱き付いていた。

 

「あの、ルッキーニちゃん?」

「すぴ~」

 

 音羽は恐る恐る声を掛けてみるが、ルッキーニは熟睡していて起きる様子が無い。

 

(昨日は大変だったからな~)

 

 攻龍・イミテイトとの激戦を思い出しつつ、音羽は相変わらず熟睡しているルッキーニを見る。

 

「シャーリー……」

 

 そこで、ルッキーニの口から呟きが洩れる。

 

(シャーリー? 確かルッキーニちゃんの保護者代わりの人だっけ………胸が七恵さん以上の)

「シャ~リ~………」

 

 ウイッチ達から名前だけは聞いていた相手の事を思い出した音羽だったが、ルッキーニが再度その名を呟く。

 上下反対なのでよく見えないが、その目じりには僅かに涙が浮かんでいるように見えた。

 

(……いきなり見た事も無い場所に飛ばされて、訳の分からない敵と戦ってるんだから、さみしくなって当然だよね……!?)

 

 突然感じた感触に、音羽の思考が断絶する。

 足を掴んでいたはずのルッキーニの両手が、しっかりと音羽の尻を掴み、挙句に揉んでいた。

 

「ちょ、ルッキーニちゃん?」

「……うじゅ、残念賞」

 

 思わず赤面しながらなんとか剥がそうとした音羽の耳に、ルッキーニの呟きが飛び込んでくる。

 15分後、上下逆さのルッキーニに足にしがみつかれたままの音羽のすすり泣きで目が覚めた可憐とエリーゼは、状況が理解できずに顔を見合わせた。

 

 

 

「システムならレシプロ機に近いが、配線が独特だな」

「そうっすね、特に動力周りなんて意味不明に近いし……」

「私もそこまではよく分からないのよね……今の所不調は無さそうなんだけど」

「外装だけならこっちでもなんとかなりそうだ。ただ、このままだといつオシャカになるかは責任持てん」

「う~ん………」

 

 格納庫の中で大戸と遼平、そしてミーナが半ば手探り状態でストライカーユニットの整備に取り掛かっていた。

 

「応急処置以上の知識を持ってるウイッチ自体、それほどいないのよ。シャーリーさんは自前で改造してたけど」

「技術体系が違い過ぎる。本格的に整備するなら、まずどこぞの研究機関で専門研究する所から始める事になるぞ」

「こんなんどう研究すりゃいいんだ?」

「エネルギー工学の専門家がひっくり返りそうなのは確かね」

 

 背後から聞こえた声に三人が振り返ると、そこに電子レポート片手の周王が立っていた。

 

「戦闘時その他のデータを見せてもらったけど、私でも機動理論は理解不能よ。そもそも、このサイズで信じられないエネルギー効率の数値が出てるわ。純粋な出力比ならソニックダイバーやRVの方が上だけど、独自性はストライカーユニットの方が上ね」

「となると、この時代ではストライカーユニットはオーバーホール不可能という訳ね………」

「残念ながらな」

「でもウイッチの人達は回避うまいっすから、ダメージは最低限で済んでます。まあしばらくはなんとか……」

 

 どうにか遼平が整備をしている時、格納庫の扉が開いてどこか虚ろな目をしてうつむきながら音羽が木刀片手に現れる。

 

「どうした音羽、暗いぞ?」

「………遼平」

 

 習慣の剣術訓練にでも来たのかと思った遼平だったが、顔を上げた音羽の目が涙ぐんでる事に、思わずたじろぐ。

 

「あたしってそんなに貧相かな………」

「……何の話だよ?」

「………ルッキーニちゃんに」

「彼女の基準は気にしない方いいわよ? 大丈夫、これからまだまだ魅力的になれるわ」

「ミーナさん……本当ですか? 信じていいんですか?」

「ええ」

 

 ミーナの助言に、音羽の顔が段々明るくなっていく。

 

(のせるのが上手いな)

(ウイッチの隊長というだけあるわね)

 

 その光景を大戸と周王が感心していると、遠くからローター音が響いてきた。

 

「あれ? なんか搬入予定ありましたっけ?」

「いや、ねえな……待て、ありゃ……」

「来たようね」

 

 遼平と大戸が外を見る中、一機のヘリがどんどん近付き、やがて後部甲板に着艦する。

 そして機内から鋭利な目つきをした若い男性士官が降りてきた。

 

「げ、緋月さんだ………」

「一条艦隊に行ってたんじゃ………」

「誰?」

「ソニックダイバー隊の元副官さ。もっとも冬后とは反りがあわねえ事が多いが」

 

 明らかに苦手そうにしている音羽と遼平の様子に、ミーナが首を傾げた所で大戸が説明する。

 当の緋月は出迎えた周王と何か話し込んでいたが、やがてミーナの方に鋭い視線を向けるとこちらへと向かってくる。

 

「貴女が、ウイッチ隊の隊長ですね?」

「ええ、初めまして。カールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」

「統合人類軍 極東方面大隊 技術開発本部所属、緋月 玲少尉です」

 

 ミーナの敬礼に、緋月も返礼で返す。

 だがその目は、ミーナを油断無く観察しているようにも見えた。

 

「早速ですが、少し会議を行いたいので、ご出席願えますか?」

「分かりました。私だけでいいでしょうか?」

「極秘事項なので」

 

 それだけ言うと、緋月は素早く艦内へと消えていく。

 

(なるほど、音羽さんが苦手な訳ね……どこかマロニー少将に雰囲気が似てるわ。もっとも彼の方が何枚も上手のようだけど)

 

 第一印象ですらどこか謎を感じる緋月に、ミーナは油断しない事を心中で決める。

 

「一条さんとトゥイーさんも読んだ方がいいわね。ちょっとこちらで判断できない事が起きたわ……」

 

 周王の言葉に、尋常ならざる事態が起きつつある事を、ミーナは薄々悟っていた。

 

 

 

「これは、本日未明に一条艦隊所属ビックバイパー隊が撮影した物です」

「おいおい、どうなってやがるんだこりゃ………」

 

 士官室の中で映し出される映像に、冬后は絶句していた。

 だがそれは、その映像を見ていた他の全ての者達も同じだった。

 映し出されたのは、無数のワームがどうやら二つに別れ、争っている光景だった。

 

「ワームが同士討ちだと? そんな事は聞いた事も無いぞ!」

「オレもです。ワームとは散々戦ったが、こんな状況は一度たりとも………」

「ワームとの戦闘資料にもこんな記述はありません」

 

 副長が声を荒げる中、冬后も瑛花も自分の知りうる限りの対ワーム戦闘データを脳内で探ってみるが、こんな事例は欠片も無い。

 

「有り得ないわ………ワームの根幹は医療プログラムよ。同士討ちなんてそもそも組み込まれてないわ」

「……似たような光景を見た事があります」

『!?』

 

 ミーナの発言に、全員の視線が彼女へと集中する。

 

「私達の世界で、ネウロイのコアを利用したウォーロックという無人兵器が製造された事があります。ウォーロックの最大の兵装は、内蔵されたコアをネウロイに干渉させ、同士討ちさせるコアコントロールシステム。それを使用した時、ちょうどこれと同じ事が起きました。

ただ、システムその物が未完成だったため、ウォーロックは完全にネウロイ化して友軍に攻撃、最終的には赤城と融合、我々501小隊が総力を持って撃破する事態となりました」

「つまり、これは何者かがワームに干渉してきた結果だと?」

「恐らくは………」

 

 緋月の恐ろしい仮説にミーナが頷き、その場がざわめき始める。

 

「不可能よ! ワームに干渉どころか、完全に乗っ取るなんて事、アイーシャにすら………」

「確かに私にも出来ない。けど、ワームの中枢プログラムに匹敵、もしくはそれ以上の能力を持つシステムがあれば可能」

 

 周王がその仮説を否定しようとするが、それまで無言だったアイーシャが仮説に補足事項を足す。

 

「ちょ、ちょっと待って。仮にそれができるとして、それってどれくらいの物が必要なのかしら?」

「………攻龍の全電算能力をそれに集中させても、不可能ね」

「一条艦隊の全艦艇の電算機を並列化させても不可能でしょう」

「………この世界に中枢本部並の能力を持つ移動要塞でもあれば可能なんじゃない?」

 

 ジオールの問いに、周王と緋月が少し考えて絶望的とも言える可能性を述べ、ついでとばかりにフェインティアが余計な突込みを入れる。

 

「だが、現実に起きている。他に可能性は?」

「残念ながら、現在の我々の技術では、ワームにこれほどの電子攻撃を行うのは不可能です」

「Gの中枢オペレーションが総力をかければ可能かもしれませんが、それ程の干渉は許可されてません………」

 

 艦長の疑問に、周王、ジオールがそれぞれ否定意見を述べる。

 

「つまり、我々のあずかり知らぬ所で、ワームに干渉できるほどの能力を持った何かが行動している、と考えるのが妥当という事ですか」

「……認めたくは無いが、そうとしか考えられん」

 

 緋月の導き出した答えに、艦長も重々しく頷く。

 

「……あいつだ」

「あいつ、とは?」

「分からない。けど、最近ずっとこちらを見てる奴がいる。あいつしか考えられない」

 

 アイーシャの意味不明な言葉に、緋月が周王の方を見るが、周王も困った顔をして首を傾げる。

 

「どうやら、アイーシャにしか感じられない何かがいるらしいんだけど、他の誰にも……」

「私も一瞬何かを感じた事はあるのだけど、彼女程は………」

「分かりました。私はすぐに一条艦隊に戻り、今後の対策を統合軍本部と協議します。ワームに直接干渉出来るような者がいるとしたら、ネスト攻撃作戦が根底から覆される可能性が…」

「マスター!」「マイスター!」

 

 そこへ、今まで姿を見せなかったストラーフとムルメルティアが慌てた様子で士官室へと飛び込んできた。

 

「あら、やっと起きたの?」

「大変、大変だよ! 大規模な時空歪曲エネルギーが発生してるよ!」

「それって!」

「時空転移の前兆だ! しかもとんでもない大型の…」

 

 それぞれのマスターに慌てた様子で報告する二体の武装神姫に続けて、ジオールの携帯端末がけたたましいアラームをかき鳴らし、同時に虚空にオペレーションシステムのオペレッタの姿が映し出される。

 

『緊急報告、そちらの座標に大規模な時空歪曲を確認。至急その場から離脱してください。繰り返します…』

『み、皆さん! 外、外が!』

 

 更に続けて、艦内放送から慌てふためいたタクミの声が響く。

 

「何事だ!」

『わ、分かりません! けど外が!』

 

 副長の怒声にも要領を得ないタクミの様子に、艦長と副長、それにアイーシャを除いた全員が一斉に室外へと駆け出す。

 

「第一級警戒態勢発令、隔壁降下用意」

「外の映像を!」

 

 艦長と副長が次々と支持を出す中、外部の映像が画面へと映し出される。

 

「これは………」

「……呼んでる、誰?」

 

 

 

「おいおい、なんだこりゃ!」

「何が起きてるんや!」

「全員中に入れ!」

 

 攻龍のクルー達が外の光景を見て絶句する中、士官室から飛び出してきた者達が後部甲板へと飛び出し、そこから見える光景に絶句する。

 

「な、こいつは………」

「アレは何!?」

「時空歪曲! しかも大型!」

「あれは………!!」

 

 全員が絶句する中、それが何か分かったジオールと、見た事があるミーナの顔色が変わる。

 それは、虚空に突如として出現した奇妙な渦、他でもないウイッチ達がこの世界に飛ばされた原因と全く同じ物に見えた。

 だが、その直径は比べ物にならず、攻龍を丸ごと飲み込めるほど巨大だった。

 

「みんな艦内に待避して! 隔壁を!」

「すぐにRVの発進……間に合わない!」

「ちょ、なんか吸い込まれてない!?」

 

 フェインテイアの言葉通り、攻龍は徐々にその渦へと向かって引き込まれつつある。

 

「ブレーダ!」

『干渉不可能、相対エネルギーが違い過ぎます』

「す、吸い込まれたらどうなるんや?」

「そりゃ、ウチらがウイッチの皆はんと同じ身分になるだけや!」

「逃げられる連中だけでもどうにか逃がせ! ソニックダイバーの緊急発進…」

「無理よ、ブレーダの脱出艦の出力でも無理なのが小型機の出力で脱出できる訳ないじゃない!」

「下手すれば歪曲に引きちぎれるぞ。マイスター程の強度があればなんとかなるかもしれんが」

「ち、発進停止! 早く中に入れ!」

 

 推力全開でなんとか渦から逃れようとする攻龍だったが、脱出艦もバーニアを吹かして協力するがすでに渦から逃れる事は不可能な領域に到達しつつあった。

 

「総員艦内待避完了、隔壁閉鎖!」

「ほい!」

「どうやら、覚悟決めなあかんようやな……」

「どんな覚悟だよ!」

 

 遼平が思わず怒鳴った時、渦の吸い込む力が急激的に強くなっていく。

 

「きゃあああぁぁ!」

 

 音羽が思わず悲鳴を上げて手近の柵にしがみ付いた時だった。

 

(音姉………)

「誰!?」

 

 突然響いた声に、思わず音羽が叫ぶが、周囲にその声の持ち主はいない。

 

(気をつけて……あれは………機械を…統べる……もの……)

 

 途切れ途切れの声が音羽の脳内に直接響くように聞こえてきた時、凄まじい振動が攻龍を襲う。

 

「おわああぁぁ!」

「地震かぁ!?」

「違う、攻龍が浮いたんや!」

「馬鹿な! 攻龍が何tあると…」

「何かに掴まって! 飛ばされるわ!」

 

 ジオールの声に、全員が手近の物にしがみ付いた時、攻龍と脱出艦、二つの船が、その世界から消えた。

 後には、何も無い、静かな海が広がっていた………

 

 

 

AD2300 銀河中央アカデミー

 

「以上が私が導き出した理論です。これを利用すれば、より効率的かつ、安全な能力使用が可能となります。最大の利点は、空間断層をはさむ事により、能力使用者の危険を最大限に減らす事が出来る点となります。何かご質問は?」

 

 巨大な議場の中央、一人の男性がある新理論の発表を終えようとしていた。

 直接、回線越しを含めて数千人以上の科学者がそれを聞き終え、全ての科学者達がその新理論に目を見張り、互いに意見を交換しあう。

 だがそこで、一つの拍手が起きる。

 見れば議席の中央、恐らくはこの場で最年少と見えるメガネを掛けた三つ編みの少女が、一人手を叩いていた。

 それに同調するように拍手は広がり、やがて満場の拍手となって新理論は受け入れられる。

 

「それでは、これで発表を終わります」

 

 壇上の男性は小さく頭を下げ、その場から降りる。

 後には、なかなか鳴り止まない拍手だけが残っていた。

 

 

 

「もう直到着ですよ」

「うわあ、あれが全部学校?」

「すごいな、まるで城だ…………」

 

 見えてきた銀河中央アカデミーの姿に、ウイッチ達は絶句していた。

 

「学部だけでも150以上、生徒数だけでも数万、関連研究機関を含めればちょっとした国家惑星並の巨大コロニーだからね」

「この銀河の最先端技術の半数以上がここから生まれてるわ。私の武装もここの関連施設で作られたの」

「凄まじいな………」

 

 ポリリーナとミサキの説明に、バルクホルンですらも絶句していた。

 

「リューディアは先程到着したようです。こちらも」

「入港許可は出てるわ」

「エミリーちゃんがデッキまで今迎えに来るって。あと、ミサキちゃんから頼まれた事、アポ取っておいたとかメールに書いてあるンだけど、何?」

「ちょっと気になる事があって」

「ふ~ん、ねえねえ見学とかしていいのかな?」

「頼めば許可は出るみたいですよ、もっとも下手に横道にそれると遭難する程広いそうですが」

「毎年新入生がそれで捜索されるって噂もあったわね」

「ハルトマン、貴様はここで大人しくしてろ。捜索の手間が省ける」

「え~」

 

 興味しんしんのユナにエルナーとポリリーナがどこか危険な事を呟き、それを聞いたバルクホルンがハルトマンに釘を刺す。

 

「とにかく、ここで集められるだけの情報を集めましょう」

「私のIDなら、ここの中央図書館のAAレベルまで閲覧可能よ」

「じゃあ私とエグゼリカはそっちに。ヴァーミスの情報が見つかるかも」

「香坂財団はここにも出資してますの。私はそちらから当たりますわ」

「私達はウルスラ・ハルトマンと合流してストライカーユニットの整備を依頼しておこう」

 

 ドッグに接岸した所でそれぞれが行動を開始し始める。

 

「それでは、その第一人者とやらに会ってみるか」

「ほら、ユナも」

「は~い」

「私も行きます。エグゼリカは先に図書館へ」

「分かりました姉さん」

 

 ぞろぞろと皆が降りてくるのを、三つ編みにメガネをかけた少女、元暗黒お嬢様13人衆の一人、「教養のエミリー」ことエミリア・フェアチャイルドが出迎える。

 

「いらっしゃい、ようこそ銀河の知の中枢へ」

「久しぶりエミリーちゃん」

「話は聞いてるわユナ。パラレルワールドからの異邦者に別銀河の機械戦闘体、非常に興味をそそられるわね」

 

 そう言いながら微笑むエミリーの目に尋常ならざる光が宿っているのを美緒は見逃さなかったが、多少変わった人物らしいとの話を聞いていたのであえて何も言わないでおく。

 

「その件はあとでデータを渡します。それよりも今は現状のデータ解析を」

「あら、この子がミサキが言ってた武装神姫ね」

 

 美緒の肩にいたアーンヴァルが先導を促すが、エミリーはそちらにも視線を送り、メガネを少し動かす。

 同時にメガネに仕込まれたセンサーが発動、アーンヴァルの簡易解析データが次々と表示されていくが、そこでエミリーが首を傾げる。

 

「どういう事かしら? このサイズでこのエネルギー量、メルトダウンくらい起こしそうなんだけど………」

「めるとだうんとは何だ?」

「それは私も気になりましたけど、その辺もあとで調べてみましょう。やる事は山積みです」

 

 エルナーに促され、色々と名残惜しそうな視線のまま、エミリーは頷く。

 

「そうね、まずは先約から済ませましょう。学会の前に入れておいたのは運がよかったわ。発表の後、アポがひっきりなしで全然取れないらしいの」

「そんなにすごい発表だったの?」

「ええ、能力開発の関係者がひっくり返ってたわ。世の中、天才ってのはいる者ね。私以外にも」

「はあ………」

 

 ポリリーナの問いかけに少しアレな返答を返すエミリーに、同行を促された芳佳は生返事を思わず漏らす。

 

「あの、坂本さん。坂本さんならともかく、なんで私がその学者さんに会わなければならないんでしょう?」

「私にも分からん。だが、ミサキは何か思う所があっての事だろう。無駄な事を好む人物には思えんし」

「待ってください!」

「あ、ウルスラさん。お久しぶりです」

「挨拶も無しに何をそんなに慌ててるんだ?」

 

 そこへ、背後からウルスラが駆けてくる。

 彼女をよく知る者なら驚いただろうが、ウルスラは極めて珍しく慌て、手には先程公表されたばかりの理論式が表示された端末を持っていた。

 

「これ、本当にここで発表されたんですか?」

「そうだけど………」

「その人に合わせてください、すぐに」

「これから行く所だ。どうかしたか?」

「この理論式は、間違いなく…」

 

 途中まで言った所で、ウルスラが芳佳の姿に気付いて口をつむぐ。

 

「いえ、会ってからにします」

「?」

 

 首を傾げる芳佳だったが、一向はそのままアカデミー内を進み、ある部屋の前で立ち止まる。

 そこでミサキが一歩前に進み、インターホンを押した。

 

『はい、誰かな?』

「一条院です」

『ミサキ君か、どうぞ』

 

 インターホンから聞こえてきた男性の声に、芳佳はふと何か懐かしさを感じる。

 

(今の………)

 

 芳佳がその懐かしさが何かを思い出す前に扉が開き、皆がその中に入る。

 

「失礼します」

「急用って言ってたけど、一体…」

 

 室内にいた白衣姿の男性が、書類を手にしながらこちらへと振り返る。

 その顔を見た芳佳は、一瞬自分の心臓の鼓動が止まった気がした。

 

「お父………さん?」

「芳佳? 芳佳なのか?」

 

 そこにいた人物、写真や記憶より少し老けたような気もするが、それは紛れも無く、父親の宮藤 一郎に他ならなかった。

 

「大きくなったな、芳佳」

「お父さん!!」

 

 父親が、記憶にある通りの笑顔を浮かべた時、芳佳は思わずその胸に飛び込み、泣きじゃくる。

 

「本当に宮藤博士なのですか!?」

「美緒君か、立派になったな」

「あ、いえ……」

 

 予想外の人物に、美緒すらも呆然としていた。

 だが、ウルスラだけは予想していたのか小さく頷く。

 

「やはり、これは宮藤理論………しかもかなり進化した物ですね」

「おや、君もウイッチか」

「ウルスラ・ハルトマンです。しかし、宮藤博士は行方不明と聞いてましたが……」

「そうだ。私がいない時に、研究所がネウロイの襲撃を受け、遺体は見つからなかった……」

「さて、何から話せばいいのかな………そうだ、まずはミサキ君にお礼を言わないと。君が娘を連れてきてくれたのだからね」

「いえ、博士には前に色々とお世話になりました。それに、前に見せてもらった娘さんの写真が、彼女とそっくりだったので………」

「お陰で、また芳佳と会えた。ありがとう。ただ、あまり喜んでもいられないだろうね」

 

 宮藤博士の言葉に、泣きじゃくっていた芳佳がふと泣き止む。

 

「そ、そうだ! お父さん、私達元の世界に戻らないと!」

「その前にこの世界にネウロイが確認されたのです!」

「ヴァーミスがこの銀河に侵攻を開始しました!」

「他にも色々異常が起きてます。ぜひとも博士のお考えを…」

「皆さん、取り合えず落ち着きましょう」

 

 全員が矢継ぎ早に話す中、エルナーがなんとか話をまとめようとする。

 

「そうだな、ひとまず君達の船に行こう。色々と確認しなければならない事もある」

「分かりました。こちらもまだ情報収集の途中ですし」

「まずは………」

 

 

 

「宮藤博士が生きてた!?」

「芳佳ちゃんのお父さんが?」

「行方不明と聞いてましたけど……」

「でもなんでここに?」

「次元転移がもっと前から起きてたんじゃ……」

「あ、ちょうどいいや。ストライカーユニット見てもらおう♪」

 

 宮藤博士来訪の情報に、ウイッチ達を中心として皆が騒ぎ始める。

 色々と憶測が飛ぶ中、プリティーバルキリー号の中央会議室で主だったメンバーが集められて緊急会議が行われていた。

 

「まずは自己紹介をしておこう。私は宮藤 一郎、芳佳の父でストライカーユニットの理論設計をした者だ」

「その人がなぜここに?」

 

 エリカの問いに、宮藤博士の口からその時の事が語られ始めた。

 

「あれは7年近く前になる。ストライカーユニットの汎用小型化に成功し、私は次の段階の研究に取り掛かった。それはまた新たな理論を用いた、完全な新型ユニットの試作だった」

「エーテル反応型ユニット」

 

 ウルスラの発した言葉に、宮藤博士は頷く。

 

「まだ理論も手探りの中、試験用モデルの製作に取りかかった時だった。そのモデルが突如として異様なまでのエネルギーを発し、その結果、ネウロイを呼び寄せる事となった」

「そんな事が………私は何も聞いてませんでしたが………」

「まだ危険度すら分かってない研究だった。軍にすら極秘に研究していた物で、とても報告が出来る状態ではなかった。だが、その危険度を一番最初に気付いたのはネウロイの方だった」

 

 その時の事を思い出したのか、宮藤博士の顔に苦渋の表情が浮かぶ。

 

「ネウロイの爆撃が行われた時、試験用モデルは更に異常なエネルギーを発し、爆発と同時に私は気を失った。気付けば、この世界の病院に私はいた。当初は見た事も無い物ばかりある世界に驚いたが、やがて少しずつ状況が飲み込めた。あれは、空間どころか次元にすら干渉できる代物だったと」

「なるほど、それで私がこの世界に飛ばされた理由も分かりました」

「そんな物騒な物研究してたんですか……」

「未知に立ち向かわずして何が科学と!」

 

 ウルスラが妙に納得する中、エルナーが呆れてなぜかエミリーがやけに興奮していた。

 

「そして、私は記憶障害の一種として治療を受けながらも、この世界の技術を学び、宮藤理論の再構築に取り掛かった。たまたまそれがこの時代の能力研究者の目に留まり、その研究室に招かれて今に至っている」

「待って。それが事実としたら、宮藤博士とウルスラがいるのは説明できる。けど、他のウイッチ達は?」

「確かに。我々はそんな物は使っていなかった」

 

 ポリリーナの質問にバルクホルンが頷き、宮藤博士は考え込む。

 だがそれよりも早く、エルナーがある仮説を口にした。

 

「考えたくはありませんが、異なる世界にまで干渉できる存在、それが何らかの行動を起こしている可能性があります」

「それが、我々やネウロイをこの世界に呼び込んだと?」

「そう考えるのが一番妥当です」

「そんな存在がいるのなら、ヴァーミスにも干渉してる可能性があるわね………」

「だとしたらヴァーミスの襲撃の場にペリーヌやバルクホルン達が居合わせたのも納得できる。ひょっとして我々は、試されたのではないだろうか?」

 

 美緒の恐ろしい仮説に、その場に冷たい空気が流れ込む。

 

「つまりそれは、この私の家を襲っておいて、テストだったという事ですの?」

「考えたくはありませんが………恐らく」

「でも、そんな事が本当に可能なのでしょうか? 長距離転送でも相当な施設とエネルギーが必要なのに、次元間ともなると………」

「仮説だが、否定要素が今の所存在しない。ならば、まずは相手の目的を調べる事だ」

「今ありとあらゆる方面で情報を収集、解析しています。ただ、ヴァーミスの目撃情報に統一性が見当たらなくて………」

 

 宮藤博士の提案だったが、エルナーが現在入ってきている情報の一覧を見て芳しい結果が出ていない事を告げる。

 

「ここまで来て宮藤博士と会えたのは行幸だったが、今後の行動指針が一切分からない、という事か………」

「もう少し情報収集を行えば、何か分かるかもしれないわ。それにあなた達のストライカーユニットのオーバーホールも行った方がいいでしょう」

 

 思わず唸る美緒に、ポリリーナが提言。

 

「そうだな、いいですか宮藤博士?」

「分かった。もっとも私のやってた頃と随分と変わってるかもしれんが」

「基礎設計は変わってません。というよりも、宮藤理論で構築された部分は私でも改良できませんでした」

「見学させてもらっていいかしら? 宮藤理論で構築された物というのに興味があるわ」

 

 技術関係の面子が出ていった後、残された者達が考え込む。

 

「状況が理解しきれんが、我々はこの世界に呼ばれ、何らかの実験に使われた。という事か?」

「証拠はありませんが………」

「あなた達だけでなく私達や、そして恐らくネウロイやヴァーミスもね」

 

 バルクホルンの仮定に、エルナーは言葉を濁すが、ポリリーナが更に恐ろしい仮定を告げる。

 

「だが、なぜ?」

『…………』

 

 美緒の疑問に、沈黙がその場に降りる。

 

「敵と味方の確認のためでは?」

『!!』

 

 美緒のそばにいたアーンヴァルの言葉に、全員が一斉に虚を突かれる。

 

「敵とは私達、そして味方とはヴァーミスやネウロイ、そういう事?」

「そうシュミレートできます」

「それなら、敵の攻撃が散発的だったのも納得が行くわね」

「きちんと返り討ちにしてさしあげましたし」

 

 クルエルティアが問いかけるとアーンヴァルは頷き、ポリリーナとエリカは自分達が戦った時の事を思い出す。

 

「だとしたら、なぜその後向こうは手を出してこない? 脅威ではないと判断されたのか?」

「舐めるな! 我々はそんなに安い相手ではない!」

 

 美緒が低く唸るが、激昂したバルクホルンが思わずその場に立ち上がる。

 

「落ち着いてください。私も皆さんが弱いとは欠片も思っていません」

「しかし、今の所目立った行動を起こしていないのも引っかかるわ………ヴァーミスはもっと苛烈に攻めてくるはず」

「本隊がどこかにいる、という事?」

「そうなるとは思いますが、それらしい情報は何も………」

 

 エルナーがなだめる中、クルエルティアとポリリーナの疑問にエルナーも体を傾けるようにして疑問符を浮かべる。

 

「一つ言える事は、このままでは済まない。きっと何か大きな事が起きるだろうという事です」

「それがいつ、どこで、どれくらいの規模かという事が問題か」

「準備を万全にしておくしかないわね」

「また返り討ちにしてさしあげますわ」

 

 皆が新たなる闘いの予兆を感じながら、それに備えるべく行動を開始する。

 その予感は数日後、現実の物となった………

 


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