せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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今回、1−2でバーサーカーのステータス隠しの幻惑宝具の効果が薄くなっていた理由が明らかになります。何かに使えないかと適当にフラグ投下!していたら、良い感じに拾えました。


グランドウォーカーダ!!


2−2 白菜の漬物こそ至高

‡雁夜おじさんサイド‡

 

ポリ、という適度な歯ごたえと共に広がる、少し強めの塩味。

野菜本来の味と芯まで染み込んだ塩気が口腔内に膨らみ、唾がじゅわっと溢れでてくる。この機を逃すまいと、すかさず炊きたての白米を口に放り込んで噛みしめれば、ほんわかとした熱さと米特有の柔らかな甘みが爆発して思わず鼻から荒い息が吹き出る。

 

「バーサーカーのお漬物、美味しいよぉ」

 

隣では桜が涙すら浮かべてはふはふと口に白飯を運んでいる。同感だ。もっとも雁夜の場合は、涙を流す暇すら惜しいほど白飯を頬張っているのだが。

朝食は実に質素なものだった。白飯、漬物、少量の焼き鮭、千切りキャベツ、味噌汁。———だがどれも、天下一品の美味さだ。少し強めの塩味が効いたおかずと真珠のように白銀に輝く炊きたての新米の組み合わせに勝るものはない。丹念に骨抜きされた焼き鮭は脂が載っていてジューシーだ。そのカリカリに焼けた皮に舌鼓を打ちつつ、再び白飯を頬張る。やはり美味い。鰹だしでしっかりと裏打ちされた赤味噌の味噌汁も、味噌のコクを残しつつもさっぱりとしていてとても飲みやすい。

 

「「ふう。ごちそうさまでした!」」

 

雁夜と桜がぺろりと朝食をたいらげ、同時に手を合わせる。見事に重なった食後の礼に、互いに苦笑する。それを優しげに見守るのはエプロンをつけたバーサーカーである。うんうんと頷いているあたり、彼も自分の料理を食べてもらえることに喜びを覚えているようだ。

 

「うごごご?」

「デザート!?いるいる!」

「……俺ももらおうかな」

 

桜は完全にバーサーカーと意思疎通が出来ているらしい。そのことに若干驚きつつも、食後の満足感の前にそんな些細なことはすぐさま立ち消えてしまった。純日本食の朝食など久々に口にしたが、やはり自分は根っからの日本人なのだということを改めて思い知らされた。魔術師だとか間桐だとか言う前に、自分は日本人なのだ。ビバ、日本人!ビバ、日本食!!

 

「リンゴだ!ねえ、ウサギさん作ってウサギさん!」

「ぐるる〜」

「きゃあ、可愛い!ありがとうバーサーカー!」

 

懐から取り出した黄金の短刀でデザートのリンゴを器用に切っていく。桜にせがまれるとあっという間に可愛らしいウサギが出来上がる。分厚い篭手を装着していてもこの器用さなのだから、生身ならどれだけの腕前なのやら。

しょりしょりとリンゴの皮を途切らせることなく剥いていく手際の良さに思わず目を奪われる。まるで機械のような精密さと人間味を感じさせる繊細な指使いは熟練の職人を彷彿とさせる。アーチャーの短刀(・・・・・・・・)の切れ味の効果もあるのかもしれないが、それでもバーサーカーの自身の技術が————………

 

アーチャーの短刀……。

 

アーチャーの短刀……?

 

アーチャーの短刀!!??

 

「そ!れ!は!アーチャーから奪った宝具じゃないかあぁあああああああああああああ!!!」

 

冬木市の一角で、苦労人の雄叫びが響き渡った。聖杯戦争一番の苦労人、間桐雁夜の朝は今日も通常運転である。

 

 

………

 

……

 

 

 

「大体なぁ、お前にはシリアスが足りないんだよ!もっと真面目に———おい、聞いてるのかバーサーカー!」

「うごうご(´д`)」

「おじさん、口の横にリンゴついてるよ。とってあげるね」

「本当に聞いて———ありがとう桜ちゃん。とれた?」

「うん、とれたよ。リンゴもう一個いる?」

「いや、最後のは桜ちゃんが食べなよ。おじさんはもうお腹いっぱいだから」

「えへへ、ありがとう」

 

しゃりもぐしゃりもぐとリンゴを頬張りながら、洗い物をする己のサーヴァントの背に向かって説教をする雁夜と、その横で同じくリンゴを齧る桜。他のマスターが見たら卒倒しそうな光景だが、三人にはすっかり日常と化していた。

 

(まったく。バーサーカーは真面目なのか不真面目なのか判断がつかないな。……それにしても、このリンゴは美味いな)

 

最後のリンゴを桜に譲ったことをほんの少し後悔してしまうくらい、バーサーカーが切ったリンゴは美味かった。舌触りの良い果肉と芳醇とした瑞々しい甘さはそんじょそこらのスーパーで買えるレベルには思えない。ルビーのような真紅の皮と黄金色の果肉は宝石のように美しい。しかし、バーサーカーが買ってきた時は極普通のリンゴであったし、元々間桐邸にあったものでもない。

 

(アーチャーの宝具で切ったせいなのか?)

 

考えられる原因は1つだけだ。神々の宝物、人類の至宝、想念の結晶。有り得ない事象を実現する究極のモノ、“宝具”。特にあのアーチャーの神々しい迫力を考えるに、その所有物であった宝具の等級も相当なものに違いない。そんな人知を超えた奇跡の塊に触れたのだから、リンゴもその恩恵を受けて当たり前なのかもしれない。

 

(待てよ?じゃあ、その“奇跡の食べ物”を口にした俺の身体はどうなるんだ?)

 

麻痺して動かない己の左顔面に触れる。いつも通り、死後硬直した死体のようにざらざらとして硬い皮膚だった。———だが、表皮の下に、ほんのりとした人肌の温かさが蘇っていることに気付く。

 

「……なあ、バーサーカー。もしかして、その短刀を奪った目的は最初から———」

 

 

ドン!

 

 

「うっ!?」「きゃっ!?」「……グルル」

 

唐突に、遠く重い破裂音が腹底に響いた。通常の『音』ではなく、魔術師のみに察知できる魔術的な信号弾。つまりは魔力のパルスだ。

目を白黒させる雁夜と桜を尻目に、落ち着いた様子のバーサーカーが東の方角の窓を開ける。晴れ渡った青空に、チカチカと光る不思議な花火が光っていた。何らかの呪香を織りまぜているらしく、魔術師にだけ目にできるような仕掛けが施されている。明らかに戦争に参加しているマスターとサーヴァントに向けた合図だった。

 

(あの方角は……冬木教会か?監督役の教会がいったい何の用なんだ?)

 

教会は戦争中はあくまで裏方に徹するはずなのだが、何かあったのだろうか。

 

「雁夜おじさん、あれは何なの?」

「わからない。とりあえず使い魔に見に行かせるよ。桜ちゃんは安心して寝てていいんだよ」

「ウゴゴ」

「……うん、おやすみなさい。バーサーカー、おじさん」

 

桜が自室に戻るのを見届け、使い魔の蟲を放つ。桜の前で蟲を見せるのは憚られた。

 

「……バーサーカー、何だと思う?」

「グルル」

 

他の人間が見ればわからないだろうが、雁夜には彼の変化がよく見て取れた。その視線も呻き声も、緊張を孕んで鋭く低くなっている。只事でない何かを感じ取っているのかもしれない。先までの温厚な雰囲気を脱ぎ捨て、歴戦の戦士の気迫を放っている。その双眸が「用心しろ」と言っている。

 

「ああ、わかってる。大丈夫さ」

 

(なんたって、お前という頼もしいサーヴァントがいるんだからな)

 

余裕すら感じさせる笑みを口端に浮かばせ、雁夜は目を閉じて使い魔と意識をリンクさせた。

 

 

………

 

……

 

 

 

「連続殺人犯がマスターになって、サーヴァントも暴走———!?」

 

使い魔を介して見聞きした老神父の言葉に、雁夜は瞠目して声を荒らげた。

監督役、言峰璃正から告げられた下手人の存在は、雁夜を大いに驚かせ、怒りを覚えさせた。魔術のイロハも知らない殺人犯が何の偶然かマスターになり、サーヴァントの力を利用して誘拐事件を乱発している。しかも、その毒牙の対象は———桜と同じ年代の、幼い子どもたちだという。力の弱い者を平気で踏みにじり、まだ何も知らない無垢な生命を侮辱し、冒涜し、無残に強奪する。吐き気を催す、唾棄すべき邪悪な行為だ。

 

(そんなこと、許されていいことじゃない!)

 

元々、魔術の持つ陰惨さを嫌って間桐家を飛び出した雁夜のモラル感覚は、一般人と何ら変りない。むしろ、より強く『平和な日常』を愛している。間桐臓硯による悪辣な修行と遠坂時臣への嫉妬と憎悪でその感覚は失われつつあったが、桜とバーサーカーとの触れ合いによって鬱屈としかけていた性根もすっかり元に戻っていた。子どもを害する、という許されざる悪行に、雁夜の中の正義感が轟々と燃え上がる。

 

(もしも、奴らの魔の手が桜ちゃんや凛ちゃんに及んだら……!!)

 

想像するだけで背筋を悪寒が走る。自分の命より大事な彼女らを危険に晒す者なら、何よりも優先して排除しなければならない。もはや、「キャスターを倒した陣営には令呪を一つ進呈する」という璃正の誘惑など雁夜には何の意味もなくなっていた。一刻も早く、キャスター陣営を打倒しなければならない。

 

「バーサーカー、やるべきことが増えた。もちろん引き受けてくれるな?」

 

雁夜の問いかけに、バーサーカーが胸甲をガシャンと叩いて応える。兜の目庇から滲み出る灼熱の眼光が、義憤の色に染まっている。彼もまた、雁夜と同じく弱き者をいたぶる外道を許せないに違いない。サーヴァント(相棒)との意見の一致に、雁夜は力が漲るのを感じた。

 

(問題は、キャスター陣営の居場所がわからないってことだ。あの神父も詳細については知らないようだった。自力で探すしかないが、相手が魔術師(キャスター)クラスとなると難しいな。どうやって居場所を特定するか……)

 

「……あの、おじさん、バーサーカー。邪魔してごめんなさい。でも、やっぱり一人じゃ怖くて寝れなくて……」

 

控えめに発せられた声に振り返れば、枕をぎゅうっと抱きしめた桜が今にも泣きそうな顔で二人を見上げていた。その姿に心臓を鷲掴みにされたような保護欲を掻き立てられ、雁夜は慌てて桜の元へ駆け寄ろうとする。蟲蔵から解放されたとは言え、まだ悪夢にうなされることがあるに違いない。まだ10にも満たない少女にとってアレは精神を苛むトラウマだ。傍にいてやらなければ。

 

「ああ、じゃあおじさんが———……バーサーカー?どうしたんだ?」

 

駆け寄ろうとした雁夜の肩を、バーサーカーが掴み止めていた。人外の握力が雁夜の動きを制限する。血飛沫のように紅くギラつく双眸は、眼前の雁夜ではなく桜を見据えていた。まるで『物』を仔細に観察するかのような無機質な視線に、最悪の可能性が頭を過ぎる。

 

「バーサーカー、お前、まさか桜ちゃんを囮に使うつもりじゃ……!?」

 

猛獣を捉えるためにわざと獲物をチラつかせ、食いついたところを狙う。合理的な作戦だ。だがそれは、その獲物が子どもでなければ、の話だ。雁夜には到底受け入れられる話ではない。バーサーカーの腕を渾身の力で振り払い、桜を庇うように立ち塞がる。

 

「そんなことは絶対に許さ——— 「ぐるるー!(`ω´*)」 ———え、違う?」

 

今度はバーサーカーが怒る。「誰がんなことするか!」と言わんばかりに腰に手を当てて唸る。冷静に考えれば、彼が子どもを囮に使おうなんて言い出すはずがないのだ。ホッと安堵し、そしてさらに首を傾げる。

 

(じゃあ、一体何なんだ?)

 

「……ん?なんだ、目が霞む……?」

 

バーサーカーの不可解な行動を理解できずに悩んでいると、不意に視界が歪みはじめた。目の前のバーサーカーの姿が急激にボヤけ、不鮮明になってゆく。輪郭がボヤけ、霞み、身体の大きさすら判別できなくなる。だというのに、バーサーカー以外には何も異常は見られない。———否、その現象はバーサーカーだけに起きていた。彼独自の幻惑宝具が、ステータスを隠すだけの役割を終え、本来の力を使ってバーサーカーの姿をまったく別の何かに変身させようとしているのだ。

果たして、変身が完了したその姿は、

 

「ぐるるー!」

「な、な、なァ———ッ!?」

「わあ、バーサーカー、そんなことも出来るの!?」

 

雁夜が見下ろす(・・・・)先にいるのは———桜と瓜二つの姿となった、己のサーヴァントだった。

 

 

‡バーサーカーサイド‡

 

 

教会からのお知らせ花火だ。言峰父からのキャスター討伐のお誘いだろう。せっかく二人が美味しそうにご飯を食べてくれていたというのに、胸糞悪い話を持ってきやがって。イエスロリータ、ノータッチ!これ世界の常識ですよ。雁夜おじさんも子ども殺しに大変お怒りのようです。ボクらとっても気が合いますね!まあ、俺は巨乳お姉さん派なんだけどな!アイリスフィールマジ天使!

 

「バーサーカー、やるべきことが増えた。もちろん引き受けてくれるな?」

 

もちろんだぜ。雁夜おじさんが熱い男になってくれて俺は嬉しいよ。

さて、問題はキャスター陣営にどう近づくかだ。キャスターの真名がジル・ド・レェだってことも、セイバーをジャンヌと思い込んでストーカーしてるから今夜アインツベルン城に出現することもわかってるんだけど、待ち伏せするのは難しい。腐ってもキャスタークラスだからバーサーカーの接近はすぐに気付かれるだろうし、アインツベルンの領地に気付かれずに隠れてるなんて芸当も出来そうにない。俊足のランサーや元代行者の綺礼の侵入も感知できるくらいなんだから。油断させてこっそり近づき、無防備なところをボコるしかない。となれば、アレ(・・)を使うしかあるめえ!

 

「……あの、おじさん、バーサーカー。邪魔してごめんなさい。でも、やっぱり一人じゃ怖くて寝れなくて……」

 

お、ちょうどよかった。対象の姿をしっかり観察しとかないとボロが出るかもしれないからね。細部まで観察しておきましょう。なんか雁夜おじさんが失礼なことを言ってきたのでちょっと怒りました。儚げで可憐な桜ちゃんを囮にするなんて鬼畜な所業をしそうな顔に見えるのかよ!顔は見えないけどな!

 

「……ん?なんだ、目が霞む……?」

 

さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!これぞ、ランスロット固有の補助宝具であり、俺が原作のバーサーカーと唯一ちょっとだけ違いがある宝具!その名も、『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』だ———!!

 

「な、な、なァ———ッ!?」

 

おお、雁夜おじさんが出川みたいにめっちゃ驚いてる。そこまで清々しいリアクションをしてくれると俺としても驚かせた甲斐があったってもの———

 

あ、気絶した。




思わず涎が垂れてきそうな美味い食べ物の描写を書けるようになりたい。

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