せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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一発ネタを連載作にすることの大変さを書きながら思い知る。


1−1 未来の巨乳キャラを守るんだ!

‡雁夜おじさんサイド‡

 

 

レンゲで掬ったおかゆをこちらに向けて「あーんして」とばかりに迫るバーサーカーからもぎ取ったおかゆをひたすら口にかっ込む。塩加減が絶妙でなかなか美味いのが腹が立つ。米の旨みを存分に引き出す質素かつ贅沢な味わいは日本人の味覚にクリーンヒットする。見た目は西洋騎士のはずなのにおかゆを作れるというのは理解に苦しむ。聖杯からの情報にはそんなことも含まれているのだろうか?

とりあえず精力をつけなければと頬を膨らませてもしゃもしゃと朝食を咀嚼する雁夜の前では、桜がバーサーカーに肩車されてキャッキャと喜んでいた。未だ全快には程遠いが、笑顔を見せるだけの余裕が生まれたのは良いことだ。バーサーカーの方も乗り気のようで、暴れ馬のように装いながらもまるでお姫様を扱うように丁重に相手をしている。「ぐるる」とか「うごご」とかしか声らしい声を発しないが、どうやら子どもの相手を出来るくらいの理性は残っているらしい。

 

(こいつ、本当にバーサーカーなのか?)

 

少なくとも雁夜にはそうは見えなかった。肌を突き刺すプレッシャーも狂戦士そのものだが、言動はその正反対だ。面倒見のいい近所のお兄さんと言えばちょうどいいだろうか。召喚した直後に暴走した際はマスターの制御すら受け付けない凶悪なサーヴァントを引いてしまったのかと不安になったが、もしかしたら臓硯をマスターである俺の敵と瞬時に理解して排除したのかもしれない。マスターに負担をかけないために魔力消費を最小限にセーブしているらしいバーサーカーの背中を眺め、雁夜は空になったお椀を枕元に置いた。バーサーカーのセーブと食欲が満たされたおかげで、死人のような干からびた肌に若干の張りが戻る。

 

(理性のあるバーサーカー、か。狂化でパラメーターが向上しつつも思考能力がほとんど低下していないなんて、どういう理屈なんだ?)

 

冷静に考えれば、これは反則とも言える事例だ。バーサーカークラスの有利な特性だけつまみ食いしてデメリットはほとんど無視なんて他のマスターが聞けば怒り狂うだろう。サーヴァントシステムを開発した臓硯ならば何かしらの見当がついたかもしれないが、今となってはそれも叶わない。叶えたいとも思わない。雁夜にとっては己のサーヴァントが意外に従順そうだとわかっただけで十分だった。

 

(バーサーカーの制御に問題はなさそうだ。残る問題は、兄さん———現・間桐家当主、間桐鶴野の存在か)

 

奴は臓硯の傀儡のような男だ。臓硯の指示通りに動き、立ち向かうどころか意見することも出来ない操り人形。臓硯亡き今も、その意思を継いで桜を次代の間桐家のための贄にしようと画策するかも知れない。急造の魔術師である俺と違って鶴野は長年修練を積んだ生粋の魔術師だ。正面きって戦っても勝ち目はない。だが今の俺には強力なコマがある。

 

(一応、説得はしてみよう。奴も臓硯の被害者ではある。だが聞き入れなければ、最悪、バーサーカーを使って奴を……)

 

「ぐるるっ」

 

「ん?な、なんだバーサーカー?……この手紙を読めっていうのか?」

 

実の兄の殺害も視野に入れだした俺の肩をぽんと叩いたバーサーカーが一通の手紙を手渡してきた。その手は心配するなと言うように親指がぐっと立てられている。この英霊の馴れ馴れしさというか見た目とのギャップというか英霊らしかぬ日常じみた所作には、雁夜はもう驚かなくなった。

手紙の差出人は鶴野だった。

 

『なんかスゲー怖いお前のサーヴァントがめっちゃ睨んでくるし、ジジイもくたばったらしいし、もう俺もゴールしていいよね?というわけで俺は生まれて初めての自由を満喫しに自分探しの旅に出るので絶対に探さないで下さい。絶対だぞ?絶対だからな?

P・S 桜をよろしく^^』

 

「あんのクソ兄貴!」

 

ふざけた手紙をグシャグシャに丸めて部屋角のゴミ箱にシュゥゥ———ッッ!!超!エキサイティン!!

まだ満足に動かせない腕のせいで目標を逸れて床に落ちた手紙をゴミ箱に入れ直すバーサーカーを尻目に、盛大な肩透かしを食らった雁夜はがっくりと頭を抱える。

色々と言いたいこともあったが、すでにいない人間に言っても仕方がない。元より、先に間桐家から逃げ出したのは雁夜の方なのだから、鶴野を強く責める資格が自分にないことも重々承知していた。

大きくため息を付いて思考を切り替えると、「さて、これからどうするか」と雁夜は独りごちた。桜の救出という目的は果たしたし、目下の障害と思った兄もとんずらこいた。遠坂時臣に桜にした仕打ちを思い知らせてやろうと心中で渦巻いていた執念も、無事な桜を見ていると小さくなってゆく。残す問題は———自らのサーヴァントと聖杯戦争だ。正直に言って、今の自分に聖杯に叶えてもらうような大それた願いなどない。そうなると、バーサーカーはお荷物以外の何者でもない。魔力を食いつぶす上に敵襲の危険も誘う厄介者だ。

はしゃぎ過ぎて疲れたのか足取りのおぼつかなくなった桜を優しく支えるバーサーカーにちらりと流し目を送る。雁夜が眠っている間に桜は自分の命の恩人であるバーサーカーにすっかり懐いてしまっていた。

 

(悪い奴ではなさそうだし、心苦しくはあるが、自害でもさせて消えてもらった方が———)

 

「ぅぅっ…」

「うごごごっ!?」

「っ!?桜ちゃん!?」

 

突然、その場に倒れ伏した桜とそれに慌てふためくバーサーカーに悪寒を感じて駆け寄る。

抱き上げれば、桜の顔色は蒼白になり、全身から玉のような汗が吹き出していた。唇が急激に乾き、肌から潤いが見る間に抜け落ちてゆく。まるで雁夜が今の状態になるまでを早送りで見ているかのようだ。

 

「こ、これは……!」

 

思いつく理由は1つだけ———臓硯の蟲による強引な施術の影響だ。臓硯という頭脳を失った蟲どもが暴走し始めている。サーヴァント制御を目的として植えつけられた雁夜の蟲と違い、桜のそれは臓硯が理想とする次代の間桐を生む母体育成を目的としている。臓硯のコントロールを離れた蟲どもは目的を見失い、桜の体内で暴れまわっているのだ。

 

「臓硯め……死んでもなお桜ちゃんを苦しめるのか!」

 

荒い息を吐く桜を自身のベッドに寝かせながら、雁夜は憤怒に燃えた。

バーサーカーがどんなに魔力消費をセーブしても、すでに蟲によってボロボロに食いつくされた雁夜の身体は一年も持たない。後悔はない。そうなることを承知した上で臓硯に取引を持ちかけたのだ。しかし、桜は違う。

 

(この娘には、真っ当な人生を歩ませてやりたい)

 

刻々と息を荒くする桜の頬を撫でる。ザラリとした粗い肌触りに臍を噛む。

間桐家の魔術を知る臓硯も当主もいない今、あるかどうかもわからない治療法を捜している猶予はない。あと数日の間に、蝕まれた桜を癒さなければならない。それほどの奇跡を起こせるものが必要だ。

一度目を閉じて覚悟を決めると、雁夜は背後に向き直る。そこには従者然として雁夜の後ろに控え立つ騎士———バーサーカーがいた。禍々しく燃える赤い瞳を力を込めて真っ直ぐに見つめる。

 

「バーサーカー、聖杯に願うことが出来た」

 

バーサーカーは黙して雁夜の口から命令が下されるのを待つ。まるで言わなくても雁夜の意思が通じているかのように。雁夜は爛々とギラつく赤い双眸の奥に同じヒトの心の温かさを感じた。

 

「桜を救う。そのために、俺はこの命を使い果す。協力してくれ、バーサーカー」

 

幼い少女のために命をかける。清らかで強い願いを掲げた雁夜の顔には、今までにない熱い信念と誇りが確かに芽生えていた。その願いに、黒鉄の騎士は片膝を突いて応える。左胸に叩きつけた右拳がガシャンと力強い音を立てる。主君への忠誠を示す返礼だった。

 

ここに、桜の命を救うために聖杯を目指す者たち———間桐雁夜/バーサーカー陣営が誕生した。

 

 

‡バーサーカーサイド‡

 

 

雁夜おじさんを助けるのが目的だったんだがなぁ。今はどうにかこうにかして魔力消費を抑えてるからキツくないだろうけど、俺(バーサーカー)が本気で戦うことになったらおじさんの寿命ゴリゴリ削っちゃうんだぜ?血反吐吐いて地べたでジタバタ痙攣だぜ?

……まあ、本人が望むのならいいか。凄くさっぱりした顔してるし。それにこのまま桜ちゃんが死んじゃったら雁夜おじさんの今までの決死の努力も水の泡だしな。俺としても、例え夢であったとしても小さな女の子が苦しんで死んでいくことを見過ごしたくない。この夢から覚めたら最悪に目覚めが悪いことになる。

 

しゃーない!ここは一つ、騎士っぽくカッコつけた返礼をして、おじさんと一緒に戦うことにしますか!




まだこの頃にはバーサーカーの台詞に顔文字はなかったんですね。懐かしい。

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