せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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アゴヒゲの人用の紅茶カップが大昔に発明されてるらしい。


2−7 時臣さんは紅茶飲むとき顎鬚も一緒に飲んじゃわないの?

‡綺礼サイド‡

 

 

『綺礼サマ〜、アーチャーがライダーとセイバーに合流しましたよ。えーと、座り込んで酒盛りに加わろうとしているように見えるのですが———あ、自分から酒を提供してますよ。こりゃ完全に飲む気マンマンですねあの金ピカ。はは、ウケるwww』

 

女アサシンからの念話報告に若干の苛立ちを感じつつ、こめかみを押さえた綺礼は報告を端的に訳して通信機に吹きこむ。

 

「アーチャーが聖杯問答に加わったようです。自ら酒も提供したと」

『よりにもよって、酒盛りとはな……』

 

もう何度目かわからない遠坂時臣のため息が通信機から漏れる。生粋の魔術師である彼には、ライダーの破天荒な言動は受け入れがたいものらしい。さらに、そこに己のサーヴァントまで加わったとあれば、果たして彼の苦悩は如何なるほどなのか。

弟子であるのなら、内心の動揺が透けて見える師を労る素振りくらい見せるべきなのだろうが、綺礼にもその余裕はなかった。件のイレギュラーの突然の介入によって衛宮切嗣と接触するという計画が頓挫し、つい先ほど這々の体で帰還を果たしたばかりだからだ。目論見を邪魔された上に、帰還と同時に城での酒盛り開催である。ため息をつきたいのはこっちの方だと綺礼は不快そうに眉根を寄せた。楽しみを邪魔されたと言わんばかりの苦々しい表情だ。彼が感情らしい感情を表に出すことは珍しいのだが、生憎と今は独りきりなのでそれを驚く者はいない。

 

「アーチャーは放置しておいても構わぬものでしょうか」

『仕方あるまい……。王の中の王にあらせられては、突き付けられた問答に背を向けるわけにもいかんだろうからな』

 

ライダーがアインツベルン領の結界を破壊してくれたおかげで、アサシンは王たちの問答を盗み聞ける距離まで近づくことができた。アサシンが見聞きした情報は綺礼を経由して時臣にほぼリアルタイムで伝えられている。

今夜の聖杯問答は武力が行使される気配はないという綺礼の報告に、時臣は安堵していた。切り札の宝具の全体を知られることさえなければ酒盛りくらいは目を瞑るべきだ、と時臣は己のサーヴァントの使役をほとんど諦めている節がある。どうせ何言ってもはいはいワロスワロスで片付けられるのだし、最後に令呪で自決さえさせられれば良いのだから、それまでの辛抱だと腹を括ったのだろう。

 

『ところで、綺礼。ライダーとアーチャーの戦力差……君はどう考える?』

「ライダーに神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を上回るような切り札があるのか否か。そこに尽きると思われますが」

『うむ……』

 

唐突に水を向けられた質問にも綺礼は冷静に答える。

ライダーはまだ戦闘らしい戦闘もせず、底力を見せることもなく無傷のまま力を温存している。イスカンダルという真名を考慮しても、セイバーであるアーサー王と同等かそれ以上に警戒しなくてはならない相手だ。

他にも危惧すべき陣営がいるのだが、そちらはこの問答に参加する気はなさそうなので一旦隅においておく。

 

『……この辺りで一つ、仕掛けてみる手もあるかもな。綺礼』

「成る程。異存はありません」

 

酒盛りに興じている今は襲撃のチャンスでもある。古来、酒を酌み交わしている最中に殺された王は数知れない。敵勢力を監視する眼と耳を失うのは惜しいが、ライダーの底力を見聞できるのなら使い潰しても問題はない。あの未熟なマスターに怪我一つでも負わせてライダーの足枷とできれば儲けものだ。

 

「全てのアサシンを現地に集結させるのに、おそらく10分ばかりは———」

『綺礼殿、バーサーカーのマスターが遠坂時臣氏の御内儀にご息女を返しました。間桐雁夜を暗殺するなら今が好機。どうか、ご命令を』

「……!!」

 

脳に直接滑りこんできた別のアサシンの報告に、綺礼の口がピタリと止まった。

間桐雁夜———時臣の予想を裏切り、綺礼の計画を破壊した最大のイレギュラー。その名を口にしたアサシンの声には隠し切れない激情が滲んでいた。一度出し抜かれたことを口惜しく思っているのだろう。バーサーカーがアサシンの目をも騙してみせる擬態能力を有していると判明していなかったとはいえ、目の前をまんまとすり抜けられたことは暗殺者としての沽券を激しく傷つけられたに違いない。アサシンがようやく異変に気付いたのは、バーサーカーが時臣の長女、凛を抱えて間桐邸に帰還した時であったのだから尚更だ。綺礼自身も、目論見を邪魔されたことで間桐雁夜への鬱憤が蓄積している。

バーサーカーを伴い、さらに気絶した凛を人質にして外出するという徹底ぶりには舌を巻いていたが、その人質を遠坂葵に引き渡した今なら暗殺のチャンスがある。桜も傍にいるようだが、あの娘はすでに間桐の者だ。巻き込まれても時臣も何も言うまい。

 

『……?どうした、綺礼。何か問題でも?』

「……いえ。アサシンを集結させるのに15分(・・・)ばかりは時間を要すると思われます」

『良し。号令を発したまえ。大博打ではあるが、幸いにして我々が失うものはない』

 

それを最後に時臣との通信は幕を閉じた。

時臣には、遠坂凛が間桐雁夜の手に落ちたことを告げなかった。もしかしたら、間桐雁夜が凛を人質にして遠坂葵を奪おうとするかもしれなかったというのに。それを知った遠坂時臣が冷静でいられなくなるかもしれなかったというのに。

何故そのような危険な賭けをしたのかは、綺礼自身にもわからなかった。ただ、そうすると楽しいもの(・・・・・)が見れるかもしれないという予感があったのだ。

安っぽくて物悲しげで悲惨な未来を予想させるような、ナニカが……。

 

(それを易々と手放すとは、つまらん奴(・・・・・)だ)

 

間桐雁夜には、もはや期待を感じない。あるのは、大きな障害という危険視だけだ。時臣は「お手並を拝見」などと言っていたが、そんな悠長なことで済ませられる相手ではない。唯一、サーヴァントの真名もわからず、宝具も知れない上に、すでに二つの陣営を脱落させたダークホースなのだ。求め続けた己の在り方、己の愉悦のカタチをようやく識ろうとしている今、それを阻みかねない敵は早急に排除しなければならない。

 

『アサシンよ、速やかに間桐雁夜を殺せ』

『御意』

 

打てば響くような即座の返答に、綺礼の口元が鋭く釣り上がる。

アサシンは汚名をそそごうと気力を充溢させている。あの間桐雁夜といえど、気配遮断スキルを有し、気づかぬ内に背後に忍び寄るアサシンからの一撃必殺の攻撃を防ぐことができる道理はない。

時臣には、汚名返上に躍起になったアサシンが勝手に行動して間桐雁夜を殺したとでも報告すればいいだろう。どうせアサシンは全てが15分後に消えるのだし、真相を知られる恐れはない。

綺礼は笑みを浮かべたまま、久しぶりに収集するばかりだった年代物のワインを口にしてみる。

 

(なるほど、勝利の美酒とはこのような味なのかもしれんな)

 

この時の綺礼は、間違いなく間桐雁夜への勝利を確信していた。

だから、バーサーカーが擬態して間桐邸を出立したのが誰の目を誤魔化す(・・・・・・・・)ためだったのか、という初歩的な疑問にも気付かなかったのも無理は無い。




この辺から綺麗も救済する方向に修正されました。

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