僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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安倍晴明

 高城の死霊術により転生された死霊兵…。

 ほとんどの死霊兵が骸骨という粗末な姿で武装している。

 しかし、死霊兵の姿は霊力によって生前に近い形で転生されていく。

 例えば陰陽師、巫女、教会における聖職者などといった人々は肉体を持たない骸骨兵でなく、転生する際に肉体が与えられる。

 そして今、西村宗一の目の前にいる男も高い霊力を宿し、転生する際に肉体が与えられている。

 その男の名は安倍晴明(あべの・せいめい)。平安時代に陰陽師として活躍し、後世にまで名を語られた人物である。

「オレが生きていたあの時代から約千年程の時が過ぎたが、どうやら現代人にもオレの名は通用するらしい。」 

 晴明は満足げに笑む。自分の生涯が後世にまで伝えられたことに歓喜を感じているらしい。

 しかし、その表情はすぐに歪んだものに変わる。

「しかし、あの高城という男の死霊術による呪縛にはオレの陰陽術でも解呪することが出来ない。忌々しいことだ。」

 晴明は苛立ったように言う。

「フン。構わん。お前が王都に害をなす者ならオレはお前が誰だろうと叩き潰すまでだ。」

 西村はポキポキと指の関節を鳴らして言う。

 そんな彼を見た晴明は少し興味深そうに、

「潰す…か。今までそう言ってオレに挑んできた者は皆、無残に死んでいった。命知らずも良いところだ。だが、その挑発に乗るのも悪くはない。」

 と晴明は薄く微笑んだ。

 西村も笑みを浮かべ、

「ちょうど良い。久々の戦場だ。準備運動にはなる」

 と言う。

 それを聞いた晴明は「ホゥ」と又もや感心したように頷いた。

「面白い。その自信が何処から湧いて出てくるものか見せてもらおうか。」

 晴明は式神を取り出し、それを西村に向けて放つ。

「…『式神・水龍』(しきがみ・すいりゅう)…!」

 すると、式紙が発動し、水の龍が出現する。

 空を見上げるほど巨大で禍々しいほどの殺気を放っていた。

 しかし、西村は気にせず前へと突っ走る。

「馬鹿が…ッ!死ぬ気か?」

 あまりにも無謀と思える西村のその行為に晴明は蔑むような目で西村を見た。

 そして西村はそんな晴明を気にせず、拳を水龍に向けてく。西村の剛腕な拳も水龍の前では体の一部分にも達しない程小さい。

 晴明は終わったなとでも言いたげに目を細めた瞬間――――。

 水龍は西村の拳に触れると共に破裂したように弾け、水飛沫となる。

「…何だと…?」

 あまりにも衝撃的な出来事に晴明も驚きを隠せなかった。

 さらに驚くのは水龍に触れた西村の拳には傷は一つもついていない。

「お前…何者だ…?」

 晴明は西村に問う。

 ただの素手で式神に勝てるはずがないと晴明の心が訴えていた。

 しかし、西村は言う。

「オレはただの訓練所の教官だ。子供たちを正しい方向へと導く教師だ。それ以外は何者でもない。」

 そう告げる。

 しかし、晴明は先程よりも強い疑いの眼差しを向けた。「それは嘘だ」と。

 小細工は要らない。本気でこの男を殺そう―――。晴明はそう心に思い、別の式神を取り出した。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 雄二と翔子、そしてフミヅキ兵の兵士たちは数万を超える死霊兵と刃を交えていた。

「…『千鳥鋭槍』(ちどりえいそう)…ッ!」

 雄二の持つ刀『雷切』(らいきり)の刀身が伸び、その刀身の長さを利用し、一気に数十体斬り裂いていく。

 しかし、まだ死霊兵の数はたった数十体斬られたところで何の意味もなさない。彼らの数は数万。その内の数十体などほんの一部分に過ぎない。

「チッ…。何だよ、コレ…。」

 雄二は吐き捨てるように言う。いくら神童と呼ばれる頭脳を持っていても今、この軍勢に囲まれた状況では頭脳を使った戦い方は出来ない。

 ただ目の前の敵を只管斬っていくだけだった。

「雄二、下がって…。」

 翔子が雄二に言った。雄二は言う通りに後ろへと下がった。

「何だ?何か策でもあるのかよ?」

「策はない。ただ、私自身の力を強化することは出来る。」

「?…どういうことだ?」

 すると、翔子は自身の刀『蜘蛛切』(くもきり)を強く握った。

「…憑依しろ『土蜘蛛』(つちぐも)…」

 すると黒い蜘蛛のような影が翔子の背後から現れ、翔子を包み込んだ。

 『土蜘蛛』…。それは平安時代に存在していたと言われる大妖怪。そして、その土蜘蛛を斬ったとされる刀こそ翔子のもつ『蜘蛛切』とされている。

 『土蜘蛛』を斬ってからは『蜘蛛切』には『土蜘蛛』の力を吸収し、より強い妖刀となった。そしてその力を引き出すための力。それが憑依だった。

 そして翔子は刀を振るった。

 すると、その斬撃で数百体の死霊兵が消滅する。

 そしてまた一振り、また一振り。死霊兵の数は急激に減っていった。

「何だ、お前そんな力を残していたのかよ」

 雄二は早くそれ使えよという表情で翔子に言った。

「それは無理。憑依を使えば、それだけ『土蜘蛛』に理性を奪われやすくもなる。簡単には使えない。」

 そう翔子は言う。

 つまり憑依は強力な力ではあるが、強力になる分、リスクも存在するということであった。

「まぁ、そうか…」

 雄二もそれを聞き、それなら仕方がないと嘆息した。

 そのときだった。ビルの上からこんな声を漏らした。

「へぇ。もっと苦戦するかと思ったけど国家騎士って言うだけあって結構実力あるみたいね…。」

 と、感心したように言う。

 その声が出ると共に数万を超える死霊兵は、その声の主に体を向け恭しく跪いた。

 数万の死霊兵が全員こんな敬意を持つかのような態度は初めて見る。

 そして崇められているその先には一人の少女が居た。長い金髪をリボンで結んだ輝くほどに美しい少女だった。

 そして雄二が言う。

「お前、アリスか…?」

 一応、四年前、アリスと同じ訓練所に通っていた雄二はアリスとの面識があった。そのためどんな姿でどんな性格なのかも知っていた。

 しかし、高城の記憶を混乱させる結界のせいで大半の町人達はアリスの記憶を失っていた。よくアリスと一緒に居た明久でさえ先日まで忘れていた程だ。

 しかし、雄二はその記憶が残っていた。記憶が残る唯一の人間と言って良いのかもしれない。

「…アリス?」

 その少女は可愛らしく首を傾げた。

「ああ、そっか。私とアリスは見た目そっくりだもんね。そう言うのも無理はないか。」

 少女は自分で納得したように言う。

 だが、雄二は混乱したような表情になる。

「その口ぶりからすると、お前はアリスじゃないのか…?」

「アリス…。アーサー王のことでしょ?女性だって知った時はビックリしたけど。彼女なら今頃愛人にでも会ってるんじゃない?」

 雄二の質問に少女は投遣りに答えた。

 つまり、この発言からして彼女はアリスじゃないらしい。愛人なのかどうかは知らないが、どうやら明久と会おうとしている。

 なら、目の前の少女は一体何者だ―――?

 そんな疑問が生まれてくる。

「私の名はジャンヌ。…私はジャンヌ・ダルク」

 そう彼女は名を告げた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

  晴明は新たに式神を取り出した。

「…『式神・閻魔』(しきがみ・えんま)…!」

 すると炎を纏う大男が現れる。そして、手には巨大な炎剣が掲げられていた。

 その式神は迷うことなく西村に炎剣を振るう。

 そして、地面を簡単に抉ってしまうほどの破壊に西村は襲われるのだが―――。

「うォオオオオオオオオオオオオオオォッッ!」

 西村は無傷のまま拳を振るっていく。

 そして、またもや先程の水龍と同じく拳に触れた瞬間に閻魔は弾けた。

「…チィ…ッ」

 そして、さらに晴明は新たに式神を取り出す。

「…『式神・鋼牙』(しきがみ・こうが)…!」

 すると鋼に覆われた虎が牙をむき出しにした状態で西村の方へと駆けていくが、結果は同じ。素手で弾かれ、鋼の虎は破片となる。

 だが、晴明はそれでも攻撃をやめなかった。

「…『式神・鎌鼬』(しきがみ・かまいたち)、『式神・雷神』(しきがみ・らいじん)…ッ!」

 すると、風を纏った獅子が西村を襲う。そして、さらには上空からは雷撃を纏った麒麟が襲う。

 だが、結果は同じ。西村は拳で相殺していく。

「…何故、効かない―――!?」

 晴明は苛立つ表情で言う。自分の式神がまるで意味を成していないことを思うと腹が立つ。

「…これで終わりか―――?陰陽師…。」

 西村は訊く。しかし、晴明は答えない。

 すると、西村は拳を上げる。そしてその拳は勢いよく晴明の腹部に放たれる。

 そして晴明は約一キロメートルほど吹っ飛んだ。とんでもないほどの怪力だった。

「ぐ…っ…がハッ!」

 腹部を強く打たれ吐血する。だが、これだけの攻撃を受けて死なないのは晴明にも彼に対抗すだけの力があるからだ。

「どうなっている―――!?アイツは人間なのか―――!?」

 晴明はそう言う。この腕力が人間な筈がない。あの体の頑丈さが人間の筈がない。

 すると、気付けば晴明の目の前には西村が立っていた。

「フン。普通の人間なら生きてはいられない。よく生きていたな」

 西村は笑う。

 晴明はゾッとした。彼は生前、自分の陰陽術が他者に敗れる、もしくは自分が傷を負うなど一度もなかった。それもただの腕力による攻撃で傷をつけられるなんていうのは彼にとっては恥だった。

「いくらお前が凄腕の陰陽師でもそれはオレに届くことはない。所詮は人でしかないからな。」

 そう西村は言った。

「馬鹿が。お前も人間だろう―――?」

 そんな晴明の言葉を西村は否定した。

「いいや。違う。オレは人間を超える新たな人種だ。」

 そう言った。

 だが、晴明にはその言葉の意味が分からない。いや、晴明だけではない。誰もが西村の言葉を聞いて納得するはずがない。誰もが人間であるから。

 そして人間である限りその言葉は、彼の存在は理解できない。

 

 ――――なら、彼は…。西村宗一とは何者だ――――?

 

 そんな疑問が込み上げてくる。


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