僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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危機

 深く閉じていた瞼がゆっくり開く。深い暗黒の世界に目が慣れていたせいか、蛍光灯の光がとても眩しい。

「ここ…は」

 明久はゆっくり起き上がった。そこで手が温もりに包まれているのが分かった。

 従者の木下優衣の掌だ。どうやらずっと看病していて疲れが出たのか寝ているらしい。

「ってことは、此処は病院か…。」

 腹部にさされたような傷の痛みも少しだが治まっている。

「…ん…」

 握っていた明久の手首が動くのに反応し、優衣の眉が僅かに動いた。そして瞼を半分だけ開け、目を擦る。

 しかし、そこで優衣は驚いたように目を見開いた。

「あ、明久さん!?傷の方はもう良いんですかッ!?」

「あ、うん。まだ少し痛むけど。」

 そう言うと優衣は力が抜けたようにその場にしゃがみ込み、

「良かった~。二日経っても目を覚まさないからどうなるかと…」

 優衣の目には涙が浮かび上がっていた。心配させてしまったな…と少し反省する。

 その時、割り込むように明久の病室に入り込む人影が見えた。―――坂本雄二だ。

「よぅ、明久。体の具合はどうだ?」

「うん。まぁ問題ないよ。心配かけたね。」

「誰がお前の心配なんかするか、ボケ。」

 すると雄二の発言にイラッときた明久は雄二の股間を蹴る。病み上がりなので軽く蹴った。

 しかし、股間というのは男性にとって急所でもある。どんな軽い攻撃でも軽減されることはない。

「ぐ…ッ!テメェ、何しやがる」

 雄二は股間を手で押さえながら苦悶した表情を見せる。目元には涙が浮かび上がっている。

「何だ、雄二、股間を手で押さえて泣きたくなるくらいに僕を心配していたんだね。もう正直じゃないなぁ。」

 明久は爽やかな表情で言った。雄二の頬辺りに怒りマークみたいな物が見えたが気にしない。

 「明久、テメェ後で殺す」と目が訴えていたが、そんな視線だけの語りかけなど痛くも痒くもない。

(まぁ、良い運動にはなったかな)

 そう明久は心の中で納得する。痛みを堪えるように股間を押さえる雄二は明久の病み上がりの運動に扱われただけである。

「くそッ!こんなことしてる場合じゃねえッ!明久、王宮に来い。」

 雄二は声を荒々しく張り上げ言う。冷静な思考判断を持つ雄二だが妙に焦っているらしい。

「あの、坂本さん。でも、明久さんはまだ病み上がりですし…。」

 優衣は雄二を止めるように言う。しかし…。

「普通ならそう言うんだけどな。今は緊急事態だ。人手も少ない。動けるヤツは欲しい。それにコイツはこう見えて第一国家騎士だ。」

「んで、どう言った緊急事態なの?」

 明久は雄二に聞く。

「それは王宮に着いてから話す。とにかく来い。」

 明久は取りあえず、雄二の言う通り王宮へ向かうことにする。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「…来たか」

 王宮に七人中四人の国家騎士が集まり、「よし」と言う。話を始めようとする雰囲気だ。

 しかし、残りの三人が足りない。

「まぁ、お前らから大体状況は聞いた。今、フミヅキがどういう状況に陥っているのかもな…。」

 そこで明久は首を傾げて、

「フミヅキの状況…?そこまで状況は危ういのか?」

 明久はカヲール二世に問う。

「ああ。アンタは二日間寝てたから知らないんだったね。」

 カヲール二世の言葉がピタリと止まった。とても言い難そうな表情をする。

 しかし、その重たい口が開かれる。

「…フミヅキがこの一週間で崩壊する。」

 瞬間、空気が冷たく変わるのを感じた。

「…崩…壊…?」

 明久は間抜けたような声を出す。心臓の鼓動が強く鳴り響く。そして、不安げに拳を握りしめた。

 そして息を呑んで、ゆっくり息を吸って吐く。そして、動揺を隠し、平静を装い、

「そんなもの、信じられるか…ッ!」

 明久はカヲール二世を睨みつけて言う。そんなバッドニュースを聞いて普通に納得など出来ない。

「だが、事実だ。」

 雄二はカヲール二世をフォローするように言う。

 だが、明久も全く思い当る節がないという訳ではなかった。数百人…いや、それどころか数千、数万をも超える騎士を平然と敵に回す様な男。

 姉、優子の命を奪い、アリスの魂まで利用するあの男。

「…高城か…?」

「ああ。」

 雄二は頷いた。

 しかし、いくら高城でもフミヅキを敵に回すだけの力があるということになる。

「じゃあ、高城はフミヅキ全てを敵に回すだけの力があるってことか…」

「死霊兵よ」

 そこで口を挟んだのは第六国家騎士の小山友香だ。

「死霊兵?」

「人間は死んでも魂は消えることはない。その魂を生きた形に転生させることを『死霊転生』って言うんだけど、それを武装させた死霊を死霊兵って言うらしいわ。ま、死霊術士お得意の術ではあるらしいけど。」

 『死霊兵』。確かに兵力とするには有効なのだろうが…。

「でも、そんな死霊兵だけでフミヅキを一週間で滅ぼすっていうのもどうかと思うけど。」

 明久は死霊兵がいくら兵力として扱うにしても、たった数体だけでは不可能と考えた。

 しかし、死霊兵は数体という次元を超えていた。

「死霊兵の数は数万。フミヅキに十分すぎるくらいの数だ。」

「は…?」

 明久は唖然とする。高城が一週間でフミヅキが崩壊すると言うわけだ。

「そして、吉井。お前は何故やられた?お前の話だけまだ聞いていない。」

 カヲール二世は明久に言う。そこで明久は真実を言う。

 

 

 

「そうか…。木下優子は生きていたか…。アリスも。」

 カヲール二世は下を俯いて言う。

「ババア。僕はアリスと会うまで彼女との記憶を失っていた。アンタが何かしたのか?」

 明久は怒気にも近い表情で言う。

「いいや、違う。高城はアリスを転生させる際にフミヅキ全体にアリスとの記憶だけを操作させる結界を張っていたのさ。だから、四年前のアリスの死を境に記憶が消えるような設定を作っていたんだろう。実際、ほとんどの人間がアリスとの記憶を忘れている。」

「…それで…」

 明久は納得する。それなら、アリスと居た時間を覚えていないのも頷ける。

 しかし明久は最後、アリスと約束したのだ。「私を忘れないでください」というワスレナグサに秘められた言葉をずっと…ずっと忘れないつもりだった。

 高城の結界に記憶が左右されていたとは言え、彼女を忘れてしまった自分が腹立たしい。

「しかし、優子とアリス…。アイツ達が高城のところにいるってのは相当フミヅキを不利にさせているな…。」

 カヲール二世は舌打ちをする。

 しかし、カヲール二世はすぐに表情を変える。何かまだ伝えなければならないことがあるそうだ。

「そして、あともう一つお前らに言わなきゃいけないことがある。」

 カヲール二世の拳はプルプルと震えていた。

「久保、島田、清水の三人は今、病院で治療を受けている。だが…」

 カヲール二世の言葉が止まる。

「何だ?どうしたんだよ」

 雄二は少し苛立つようにして聞く。

「先ほど、生き残った山崎と沖田から報告があった。」

「…何の?」

 それは衝撃的な事実だった。

「第七国家騎士の土方十四郎は戦死した。」

「…は…?」

 全員が恐怖、または不安のようなものに包まれたように固まる。

 フミヅキ崩壊の危機はすでにそこまで迫っていたのだ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 時間は二日前に遡る。

 土方達はミナヅキという町で任務を行っていた。それは脱獄した根本を追うための追跡任務。

 ミナヅキは驚くことに人が誰も居ないという事態で、荒廃していた。

 しかし、そこで予想外のことが起きたのだ。

 二百体の死霊兵が土方達を襲い、彼らは何とか迎撃で来たものの死霊兵の数は後ろから押し寄せるように増え、斬っても斬っても、また出てくる始末。

 国家騎士である土方でも体力はほぼ限界に近い。そこで、一端死霊兵達との距離をとり隠れることにする。この数では流石に逃げきれることは出来そうにないのでほんの僅かの休戦だ。

 土方達は洞窟のような場所を見つけ、結界を張り、何とか死霊兵から退けた。

 そして、その時には既に辺りは暗くなっていた。死霊兵が土方達の居場所に気づくほんの僅かな時間ではあるが、体力を回復させる必要があった。

「土方さん。いくら此処で体力が回復してもコイツ等はどんどん数を増やしていく。さっきよりも苦戦すると思いますぜ。」

「ああ、そんなことは分かってるよ。」

 沖田の言葉に土方は頷く。だが、どうしようもなかった。あの数の死霊兵を前に逃げられるという確信はなかった。

 戦うか、殺されるか…?当にそんな状況に追い込まれているのである。

「まぁ、フミヅキにいるババアにでも電話が繋がれば救援を呼びたいところだが、この町には電波が届かねえ。それも無理となると…ま、こうなるよな」

 土方は吐き捨てるように言う。

「だが、どうする?トシ」

 近藤は真剣な眼差しで聞く。

「そうですよ。これじゃ、オレのミントンのラケットが…!」

「テメ…ッ!まだ持ってたのかよ、ソレ。」

 土方はこの状況下でもバドミントンのラケットを大切そうに持つ山崎に軽く苛立つが、コイツに構ってる場合ではないな、と判断する。

「しかし、結界も長くは持たねえ。どうするか…」

 そんなことを考えていた時――――。

「――――ッ!?」

 剣が結界の防御を貫いた。

「随分、見つかっちまうのが早かったな…」

 見ると、そこには死霊兵がいた。数百体の死霊兵が押し迫ってくる。

「…チィ」

 土方は呪力を込めた刀で一気に十体ほどの死霊兵を薙ぎ払っていく。

 取りあえず洞窟の外に出る、そう考えたのだ。そうしなければ囲まれて殺されるだけである。

 結果、ギリギリではあったが、洞窟の外に出られた。

「あ~あ。どうするんですか?土方さん。」

 沖田は口調とは裏腹に不安と焦りを顕わにした表情で聞く。

「……。」

 土方は必死に考える。自分たちが生き残れる最善の方法を。しかし…。

(このままじゃ確実に死ぬ…。)

 それが今の状況。いくら斬っても、囲まれているこの状況ではいずれ殺される。

「くそッ!闘るしかねぇッ!」

 土方は力強く剣を振るっていく。

 数百体の兵と数人の騎士の壮絶な戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 


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