僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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死霊兵の襲撃

「「ァウアアァアアアアアアアアアアッッ!」」

 100人ほどの武装した骸骨が美春と美波を襲う。それに反応し、二人は武器を召喚する。

「お姉様!」

「うん、行こう。美春!」

 当然この数では逃げることも出来ない。二人は戦うことにする。

 美春の武器は二年前と変わらない銃の召喚武器『断罪者』(ジャッジメント)。そして、美波の武器は破魔の属性を帯びた霊弓。

 だが、二人には欠点があった。美春の断罪者(ジャッジメント)、美波の霊弓も接近戦向きの武器ではないことだ。

 しかし、それだけなら敵と距離を取れば問題ないのだが、今、この場所はそれが出来ない。

 理由は今、彼女たちはこの骸骨の兵士に囲まれてしまっているからだ。逃げ場がない。戦うしかない。しかし、その状況はかなり不利と言えた。

 しかし…。

「ハァァアアアアアアアアアアッ!」

 美波は五本程の矢を用意し、それを一気に放つ。すると、矢の数が倍増し、十体の兵を貫いていく。

 美春も飛びあがり、空中で銃弾を放っていく。死霊兵の数は凄まじい勢いで減っていく。

 そして、美春はさらに断罪者(ジャッジメント)を変形させる。形は銃から弓矢へと変わる。

「…『原罪の矢』…ッ!」

 放たれた矢は二十体ほどの兵を消していく。

 これで半分ほど数は減った。そこで少し安心の表情を浮かべる美春。しかし、その表情はすぐに不安とへと変わる。

 実は美春は二年前の根本との戦いで左腕を失っていた。そして、彼女はそれ以降、義手で訓練を受け、再び国家騎士としての道を歩み始めた。

 この二年間どんなに腕を動かしても義手が動かなくなる心配はなかったのだが…。今、その義手がまるで石化したように動かない。

「…ぐ…ウ…ッ」

 それに、義手の付け根の部分に痛みが走る。

「み、美春ッ!?」

 美波は美春の異変に気づき、振り向く。しかし、それは完全に隙を作ってしまった。骸骨の兵はその隙を見逃さなかった。

「「ァアアアアアアアアアアアアッッ」」

 骸骨の兵は美波に刃傷を与える。

「…っぁ…!」

 美波は苦痛にゆがむ表情を浮かべる。

「お、お姉様…」

 美春は痛みを堪えながらその名を呼ぶ。

 先ほどまで二人は有利な状況に立っていたはずだったが、美春の義手が動かなくなったことで一気に形勢逆転となる。

 終わりだ…。

 ここで二人は死ぬ…。そう思った。それ以外の道はないと、そう思った。

「…『鋭利な投槍』(シューラ・ヴァラ)…ッ!」

 鋭い刃先を持った槍が骸骨の兵達を貫通していく。

「大丈夫かい?清水さん、島田さん」

「あ、アナタは…」

 そこに立っていたのは久保利光。第四国家騎士だ。

「これはどういう状況下は分からないが、取りあえずこの髑髏は殺さなきゃいけないみたいだね」

 久保はそう言い、次々と骸骨の兵士たちを薙ぎ払っていく。

 その助けを借り、美波と美春も痛みを堪え、再び迎撃していく。

 そして…。

「何とか、片付いたね。」

 久保は「ふぅ」と息をつき、言う。

「ありがとうございます。助かりました」

 美春は素直に礼を言う。久保が来なければ間違いなく殺されていた。

「いいや、それはいいけど…。これは一体…」

 久保は形の崩れた骸骨兵達を見て言う。

「ウチにもそれは…」

 美波も困惑したように言う。この骸骨たちは一体何なのか。後ろで誰か操っているのか…?

 そのときジャリ…と砂場を踏みにじったような音が耳に入る。

 三人はすぐにその音がする方へと振り向く。

「な…っ!?」

 三人とも驚愕する表情を浮かべた。それだけの者がそこにいたから…。

 腰まで届く薄い茶色い長い髪に紅い刀身を持った刀。そして、瞳も刀身と同じ真紅。そして、白いドレスを着ている。そんな少女。

「…さようなら…」

 少女は紅色の斬撃を放つ。その斬撃は三人を一斉に襲う。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

雄二は従者であるムッツリーニ、そして秀吉と共に巡回任務をしていた。

「ハァ…。ったく。全然異常なんてないな。」

「同感。」

 雄二の言葉にムッツリーニは頷く。

「しかし、根本は何故あの脱獄不能と言われた『無間』を脱獄出来たのじゃろう?」

「ああ、それか。」

 秀吉の質問に雄二は答える。

「実はオレ、その根本が脱獄したって言う『無間』を調べてきたんだよ」

「で、どうだったのじゃ?」

「いや、何もなかった。」

「…? どういうことじゃ?」

 雄二の意味不明な言葉に秀吉は戸惑う。

「ああ、つまりだな。脱走したとされる痕跡が一つも残ってなかったんだよ。」

「ム…?」

「何と!?」

 二人は雄二の言葉に驚いたように目を丸くする。

「まあ、あの牢獄は脱獄不可。牢獄を破るのは不可能だが、その痕跡もない。脱走に使われただろう道具も一切使われていない、どう考えてもおかしいだろう。」

 雄二は疲れたように息を吐く。

 神童と言われるほどの頭を活かし、色々と考えてはいたのだが結局それは分からなかった。

「ま、今は巡回任務に集中するしかねぇな。」

「…同感」

「そうじゃな」

 三人は巡回を続ける。そして、気付けば、フミヅキの中でも一切人が通らないような場所に三人は居た。この場所はフミヅキの中でも廃墟となっている部分で人など一切いない。華やかな賑わいを持つフミヅキにしては珍しい光景である。

「アレ?何か変なところに来ちゃったな。帰るか」

「うむ。」

 そう言い、王都の商店街へ戻ろうとする。

 だが、一歩足を踏み出した途端、冷たいほどの寒気が押し寄せてきた。

 いや、寒気というのは相応しくない。殺気と言う方が正確だろう。

「…少し、此処で話なんてどうでしょう…?」

 男の声だった。

 蔑んだ声。全てを見下すように冷めた声。

「久しぶりですね。坂本雄二」

 その声の主は高城雅春。彼の姿は二年前と何一つ変わらない姿。ただ少しだけ顔色が悪いように感じるが…。

「何しに来た?外道」

「ハハッ。その言われ用は心外ですね。」

 高城は雄二の言葉に笑う。言葉で心外と言うものの、自分でもそれは認識しているのだろう。

「簡単に言えば宣戦布告…とだけ言っておきましょう。」

「宣戦布告?」

 雄二は聞き返す。そして、高城は告げる。最悪の予告だ。

「一週間以内でフミヅキは滅びます。」

「「なっ…?」」

 声を上げたのは雄二だけでない従者であるムッツリーニ、そして秀吉もだ。

 確かに、高城の強さは知っている。国家騎士を数人相手にしても顔色一つ変えない化け物だ。だが、この王都全て敵に回して勝てる保証はない。

「おい、何の冗談だ?」

「冗談?そんなものを口にするほど馬鹿じゃないですよ」

 高城は断言する。

 だが、フミヅキを滅ぼすとは言え、それをするための証拠がない。

 いくら何でも彼一人の力では不可能。対個人で馬鹿強くても複数人相手ではどうにもならない。

「ああ、もちろん、僕だけの力じゃ滅ぼすことは出来ない。そこで『死霊兵』(しりょうへい)を使います。彼らなら僕の足りない力も補える。」

「…死霊兵?」

 聞きなれない言葉に雄二は眉を顰める。

「僕が死霊術士なのは知ってますよね?死霊の魂に再び命を与えた兵士。分かりやすく言えば、死んだ人間を生き返らせるって言った方が分かりやすいですかねぇ…。それが死霊兵。とは言っても100%の完全な形に復活させるのは不可能だったので、外見は骸骨なのですが…。」

 高城は楽しそうに言う。つまり、彼らさえ居れば戦力を補える、そういうことなのだろう。

「だが、そんなもの作ってもせいぜい…」

 すると高城は雄二の言葉を遮るように、

「せいぜい一万人…くらいですかね」

「…は…っ…!?」

 驚くべき数だった。せいぜい作っても三桁を超えることはないと判断していた雄二。だが、その予想はかなり大きく上回っていた。

「…終わりですよ。フミヅキは…。」

 高城はあざ笑う。

「…嘘だろ…!」

 そう思いたい雄二だが、正直そうも思えない。この男なら本当にやりかねない。

 だとすれば、これは本当に最悪の予告となる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 空が再び雨雲に包まれる。今にも雨が降り出しそうな、そんな予感をさせる。

「…何か…」

 明久がポツリ呟く。そんな明久を見て優衣は、

「どうかしましたか?明久さん」

「いや、何か良くないことが起きそうな…」

 そう言いながら商店街を歩いていく。だが、明久の言葉は間違ってはいなかった。それはその後すぐに分かった。

「グ…ァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 叫び声が上がる。声からして男性の叫びだろう。その叫び声が町を沈黙させる。

 だが、特に体に異変はない。そう明久、いや、その場にいた全員も思った筈。だが、その異変はすぐに起きる。

 男の首はボトッと地面に転げ落ちる。そして、首の根本からは鮮血が噴きあげる。

「きゃああああああああああああああああああッッ!」

「うわぁアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

 悲鳴が上がる。そしてそこに居た全員が血相を変えて逃げる。

「優衣ちゃん、王族兵と協力して町の人を安全なところに。」

「分かりました。でも、明久さんは…」

「僕は犯人を捜す」

 優衣はそれを聞き、少し不安げに見る。しかし…。

「ではお気をつけて」

 優衣はそう言い、去る。

 そこで明久の耳には足音が入ってくる。その足音は町の人々の逃げ足から生まれた音ではない。その足音には少しの不安も焦りもない。

 それも建物の上から聞こえる音。明久はその音の方に振り向く。

「…な…っ…!?」

 それは驚くべき光景だった。白いドレス、薄い茶色の腰まで届く長い髪。そして、見覚えのある紅色の妖刀。

 その少女を明久は知っている。それは二年前明久に「ありがとう」と告げ、逝ってしまった彼女。

 その少女はもうこの世にいないはずだった。だが、今こうしてここに存在している。

「…木下さん…」

 その少女は薄く微笑む。

 

 

 

 

 

 


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