僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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 前回、投稿が遅くなると言いましたが、何とか時間が作れたので投稿できました


因縁

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」

(コイツだ。コイツのせいで姉さんは…!)

 明久の心の中に熱い煮えあがるようなモノがあった。

 そう、それは怒りと憎しみだった----。

 この男を殺して、その怒りや憎しみが消えるとも思ってはいない。しかし、この感情を自分の心の中で留めることは出来なかった。

 黒い剣は真っ直ぐ高城に向かっていく。しかし、高城は表情を変えることなく…。

「この程度ですか?」

 高城は明久の黒い剣を人差し指の指先で止める。

「……ぐ…っ…?」

 刃を押し通そうとしていても刃は動かない。高城の指先の力がどれほどのものなのか…。想像を超える。普通の人間では有り得ない。

「…クソッ!」

 これ以上は刃を押し通そうとしても無駄と思った明久は一端、高城から距離をとる。そして凄まじい速度で高城の後ろへと回りこむ。

(ここだ…!ここを全力で斬る!)

「…オオオオオオォッ!」

 黒い刃は禍々しい闘気を纏い、高城に凄まじい斬撃を浴びせる。

「今のは良い斬撃でしたね…。僕の後ろに回りこむときの動きも中々でしたよ。」

 高城はまたも表情を変えることなく、手の甲で明久の斬撃を受け止める。しかし、先程よりも斬撃が強かったせいか、指先で止めることは出来なかったようだ。

 そして、明久は黒い剣から発せられる闘気を足に纏い、強い蹴りを浴びせる。

「おっと…。」

 高城はヒョイとジャンプをして躱す。しかし、躱したところでわずかに隙が出来る。明久はその一瞬のすきを見逃さなかった。容赦なく、黒い剣で斬りかかる。

 当然、ジャンプをして躱した為、高城は空中にいる。しかし、足が地面に突く前に明久の斬撃が先に来る。高城はその状態では受け身をとれない。

 しかし、高城はニヤリと不気味な微笑みを浮かべる。

 すると、彼の体から金色の光が発せられる。

「なっ…!」

 金色の光を足に纏わせ明久に蹴りを喰らわせる。明久はそれ躱すために、後退する。

 地面についた高城は「試験召喚(サモン)」と静かな声で武器を召喚した。

 その武器は金色の光を帯びていた。しかし、それは何処か明久の黒い剣と似て禍々しさを放っていた。

「…竜殺しの剣(バルムンク)…!」

 その武器の正体は『ニーベルンゲンの歌』の主人公、ジークフリートの名剣だった。

「終わりですよ…。」

 黄金の剣は高城の冷酷な声と共に振り落される。その斬撃は真っ直ぐ明久に向かってくる。

「ぐあああああああああああああああああああああっ!」

 教会中に明久の叫び声が響き渡る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「陛下、このままでは吉井明久がやられるのも時間の問題です。どうするんだ、この野郎!」

 敬語と私語が混ざった独特な喋り方をする竹原。その顔には焦りを募らせていた。

「…ッ~~!」

 カヲール二世は先程以上に表情を険しくさせた。

 その場にいた翔子と優子も不安なのは同じだった。明久がやられれば、間違いなく高城は王都に向かって来るだろう…。そうなったら、王都の人々は全員殺される。王都は終わりを迎える。

 しかし、優子の不安はそれだけではない。

「…吉井君…」

 そう明久の無事を何よりも心配していた。

 高城は明久の姉を殺した相手だ。明久にとっては憎い仇である。しかし、いくら明久でも高城との位からの差は歴然である。

 そんな中、ふと脳内に記憶が甦る。以前の根本の事件で優子が不安を募らせていた時だった。

 

『木下さんは僕が守るよ』

 そう言い、明久は優子の手をギュッと握った。それは、とても優しく温かいものだった。

 そして、彼は本当に優子を守ってくれた。

 あの言葉は明久から優子への誓いだったのかもしれない。

 しかし、今は明久が窮地に陥っている。優子は無意識にではあったが、心の中でこう思った。

(今度は私がアナタを守る番…。)

 優子は小さな拳をギュッと握る。彼女なりの覚悟であった。

 昔の自分だったら、きっと、こんな考えは浮かばなかった。それくらいに明久が大切になっていた。

「…陛下…」

 優子はゆっくり口を開ける。カヲール二世は険しい表情のまま優子を見る。

「…何だい?」

「私、教会に行ってきます」

 すると、カヲール二世は大きく目を見開く。

「何をバカなことを言っている!?」

 優子に怒鳴りつける。カヲール二世はどうしても六年前の二の舞は起こしたくはなかった。いくら優子でも高城には叶わないと分かっていたから…。

「でも、私はそれでも行きます。このまま王都が無くなるよりはいいから…。」

 そう言い残し、優子は王宮を立ち去った。

 彼女の意見は確かに正しかった。いくらカヲール二世が六年前の二の舞を起こしたくないからと言って、何もしないまま王都が滅びるよりはきっとマシなのだろう。

 しかし、優子が行けば…。

 カヲール二世はそれ以上は考えなかった。

「クソォッ!!」

 カヲール二世は机を強く叩く。その机にはわずかに皹が入る。

「どうしてこうなっちまった…!」

 国を代表する王だからこそ、この出来事が余計に許せなかった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おや、もう終わりですか?」

 高城は倒れて動けない明久を見て言う。

 明久は先程のバルムンクの斬撃でかなりのダメージを受けている。特に右腕は全体的に出血がひどく、剣を握るのも困難である。

「ッ…ガハッ!」

 明久は咳き込む。喘息患者がするような咳で、かなり苦しそうである。

「…!」

 咳をするために口を覆った左手には血がべっとり付いていた。これを見るに、先程の斬撃で内臓部分もダメージを負っているようだ。

 それでも、何とか生きているのは、バルムンクの斬撃の際に、明久は黒の剣から発せられる闘気で身を守った。その防御で命だけは助かったものの、体のあらゆる部分は重傷である。

 つまり、黒い剣よりもバルムンクの方が一段階上手に立っているということだ。それだけではない。持ち主の高城も術士とはいえ、剣士としての力も圧倒的だ。

 しかし、それでも明久の心が自分自身に訴えていた。「ここで負けてはいけない」と。その心の訴えのせいだろう、限界で動けないはずの体を無理やり起こす。

「おや、まだ戦えるのですか…」

 高城は「ホゥ…」と感心したように言う。

「僕はお前を殺す…!」

 明久の目には殺意が籠っていた。体が悲鳴を上げている。しかし、彼の瞳は復讐に満ちていた。

 明久は再び黒い剣を握る。しかし、その剣を握る力は弱々しく、今にも地面に落ちそうな状態だった。それだけではない。足も体をズルズルと引きずらせながら歩いていた。とても戦える状況とは思えない。

「そんな剣で、何を斬れるというのです?不愉快です。死んでください。」

 高城の剣は真っ直ぐ明久を狙う。もう、明久には躱す力も残っていない。

「明久…ッ!」

 その場に倒れていた雄二も危険を感じ、叫ぶが、体が動かない。それにもう間に合わない。

 そしてザシュッと肉を避けるような音だけが残る。


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