僕と騎士と武器召喚   作:ウェスト3世

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監視

 ズズズズズズズズズズッ

 

 カヲール二世はラーメンを食べながら優子に、

「実はお前に頼みたいことがあるんだ。」

 顔はとても真剣だが、ラーメンを食べるという場違いな光景はふざけているようにしか見えない。

「その、頼みごとって何ですか?」

「ああ、それは…。」

 カヲール二世は一枚の写真を優子に手渡す。

「あの、これは…。」

「吉井明久だ。」

「いえ、そうじゃなくて…。」

 その手渡された写真の人物は吉井明久。王都を代表するバカである。先程優子を散々煩わせた問題児だ。

 しかし、優子が聞きたいのはそんなことではない。

「あの、この男に何をしろと?」

「勘がいいね。今回はその男に関する任務だよ。」

 優子は引きつったような顔をする。このバカに関わる任務は碌な任務じゃないだろうな、というような表情だ。

「コイツのせいで、この王都、フミヅキは毎日のように問題が起きている。流石にコレをこのまま見逃すわけにはいかなくてね。そこでアンタに頼みごとをしたくてね」

「いいですから、その頼みごとの内容を言ってください。」

 いつまでも話が本題に入らず、優子はだんだんイライラし始める。

「国家第三騎士、木下優子に命ずる。今日より吉井明久の監視役の任務に就いてもらう。」

 その命令の後、暫く沈黙の時間が訪れる。

「……ハ……?」

 優子は何が起きたか分からないような表情をする。

「バカ…じゃない、吉井明久のか、監視!?」

「ああ、そうだ。アイツはどれだけ注意してもコチラの言うことなんて全く聞かないからね。アンタみたいなしっかりとした娘が監視でもしてないと、あのバカは問題を起こし続けるだろう。」

 優子はさらに引きつけたような表情で、

「その、監視の任務って何をすれば…。」

「朝昼夜、一日中アイツの隣で問題を起こしてないか確認するのさ。もちろん問題を起こした時は粛清を許可するよ。」

「あの、その監視の任務って、どれくらいで外れますか?」

「あ~…。アイツが真面になるまで。」

 優子はガッカリした表情で下を俯く。

(あのバカに真面がやって来る日なんて永遠に来るわけないじゃない。)

 優子はブツブツと下を向いたままグチを言う。

「いいか、優子。これはあのバカが問題を起こすか起こさないかを左右する超重要任務だ!よって、この任務はAランク任務とする。」

 Aランクは任務のランクとしても段階的に二番目の中々高度な任務だ。

 バカの監視がAランク任務というのも馬鹿馬鹿しいが、確かにあのバカを真面にさせるにはランクの高い任務というのも否定できない。

 優子はフミヅキを代表する国家騎士の一人。それに対し、明久はフミヅキを代表するバカ。

 プライドの高い優子にとってこれ程屈辱的な任務はない。しかし、それでも陛下の言うことには従わなければならない。

「ハ……イ。分かり…ました。」

 優子は声をブルブルと震わせて返事をする。

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「今日もひどい目にあった…。」

 明久は溜め息をつきながら家のドアを開ける。明久の住む家は一人暮らし用のアパート。

 しかし、アパートとはいっても、西洋風で何処かオシャレだ。

「ただいま~…。」

 明久は一人暮らしなので「ただいま」と誰かが迎えてくれるわけでもない。だが、何となく声にしてみる。

 すると、玄関には一人の少女が立っていた。異様に殺気めいた顔で明久を睨んでいた。

「…ッ…!」

 明久は急いで家から出て、ドアの扉を強く締めた。

 そして、落ち着いて呼吸をし、冷静に思考を巡らす。

(間違いない。アレが不法侵入というヤツだ。)

 明久はサッと携帯を取り出し、警察に電話をしようとしたその瞬間―――。

 

 ドギャッ!

 

 ドアが激しい音を立て壊れる。

「……ッ…!?」

 明久は何が起きたんだ!?と真剣に驚いた表情をする。その余りの突然の出来事に心臓が飛び出るのではないかと思うほどだった。

「逃げようとか思っても、逃げられないわよ。」

 少女は上からの目線で言う。その目線だけで、殺されそうなほど息苦しい状況だ。

 明久は少女の瞳を直視できなかった。視線だけで呪い殺されそうなその勢いに息が詰まりそうだった。

 しかし、次の瞬間、状況が一変する。

 

 ゴオオオオッ

 

 強い風が吹く。すると、彼女のスカートがフワリと舞う。

「……ッ!」

 先ほどまで殺気溢れていた表情がカアアアッと赤面した表情へと変わる。

 彼女はバッとスカートを押さえつけ、

「み、見た…?」

 と小声で明久に聞く。

 明久は戸惑ったような表情で、

「あ~、うん。ピ…ピンクか…。」

 と答える。

 だが、内心その発言は失言だとも思った。だが、咄嗟に出る言葉はこれくらいしかないというのもまた事実だった。

 少女は赤面した表情で目をつり上げ、明久を思いっきり殴る。

「ぐはァッ…!」

 明久はグッタリと倒れ、意識を失う。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 優子に殴られた明久は暫く意識を失っていたが、やがて目を覚ます。

「んで、話というのは?」

 明久は顔が腫れた状態で優子に質問する。殴られて大分時間は経ったはずだが、腫れが治る傾向はない。今日はもう時間も遅いので、明日、病院で検査を受けた方が良いかもしれない。

「その前に自己紹介。私は国家第三騎士の木下優子。よろしくね。」

「あ、えーと、僕は…」

 続いて明久が自己紹介をしようとする。すると、

「知ってるわよ。フミヅキを代表する天才的馬鹿の吉井明久くんよね?よろしくね。」

 と、ニコニコした表情で言う。明久は物凄くバカにされた感じがした。実際に自分でもその自覚はあったが、直接的に言われると少し腹立たしくも感じる。

「ちょっと、違うからね!?イヤ、違くないけど、僕にだってちゃんと取柄はあるからねッ!?」

 明久は少し涙目で言う。言われてばかりでは自分は短所しかない人間と思われてしまう。

「へえ、どんな?」

「か、肩もみが得意です…。」

 すると、何故か沈黙の空気が訪れる。

「あの、吉井君…。私はどうリアクションすればいいのかしら?」

 優子は真剣に困った表情をする。

「アレ?そこは褒めるトコじゃないの?」

 明久はキョトンとした表情で言う。

「……。」

 優子は明久の発言を聞かなかったことにする。そして、「ケホンッ」と可愛らしい咳払いをし、話を切り替えようとする。

「まあ、肩もみはともかく、私がここに居るのは陛下の命令でね。」

「へ?あのババアの?」

 明久は呆けたような顔をする。

 しかし、すぐに表情が変わり、

(ババアめ、木下さんに一体どんな命令下したんだ!?ババアのことだ、良くない命令に違いない。)

 と、何か良くないことが起こるのだろうと考える。

「その命令は吉井明久の監視よ。」

「……」

(…え?何て言ったんだ彼女は…?え…と、k…A…N…S……HI。KANSHI!?か…監視っ!?)

「嫌だアアアアアアアアアアッ!」

 明久は急に人が変わったように声を上げる。

 すると、優子も真剣に嫌そうな表情で、

「…私だって、こんなの嫌よ…。そもそもアナタが町で問題さえ起こさなければ、こんなことには…。」

 と、ボソボソと言う。

 明久も下を向きながら、

(ま、間違いない。あのババアは監視とか言って、僕の個人的な恥ずかしい情報を取り上げて、皆に公開する気だ、クソオオオオッ!何て汚いマネをッ!それでもフミヅキを代表するババアなのかっ!?) 

 しかし、カヲール二世が優子に命じた任務は確かに『吉井明久の監視』だが、恥ずかしい情報を公開することが任務ではない。明久が問題を起こさない様、『監視』することが彼女の任務。

 どうやら、明久は監視任務の内容を誤解してしまったらしい。

「それよりも、私の布団はあるかしら?」

 明久は何を言ってるんだ、この娘はという表情で、

「え?何で?」と質問する。

「監視なんだから、アナタの家で生活するのは当たり前でしょ!?」

 当然かのように言う。よく見ると彼女の隣には大きな旅行用のカバンが置いてある。

「不幸だぁアアアアアアアアッ!」

 これからずっと監視されなきゃいけないのか…。明久は今にも泣きだしそうな表情だった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 翌日―――――。

 今日から優子の明久監視任務が始まる。優子は朝6時にセットした目覚ましで起床する。

「ハア…。」

 普段、前髪をピンで分けている彼女だが寝るときはとっているらしい。ピンをとった状態もまた一段と可愛らしい。何処か実年齢よりも幼さを感じる。

 そして隣には…。

「スピー、スピー」

 妙に鼻息がうるさいイビキを掻きながら吉井明久が寝ていた。優子はハアとため息をつく。

 そして、明久の睡眠を邪魔するように優子は、

「吉井君、起きなさい」

 と、起こそうとするが、

「昨日は豚骨だったから今日は味噌だな…。ハハハ」

 どうやらラーメンの夢を見てるらしいが…。

「成程、思ったより手ごわいバカね…」

 すると、明久の耳元に近づき、

「吉井君ッ!起きなさいッ」

 大声を出して起こしてみる。

「う、うわああああああああああッ!?」

 明久は驚いたせいか、勢いよく飛び起きる。

「やっと、起きたわね…」

 

 明久の監視初日がスタートする。

 

 


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