翔子から電話を受け、優子は急いで病院へと向かう。
「霧島さん…」
「優子…」
翔子の顔色が良くない。それも当然だろう。国を代表する国家騎士の内の一人が襲撃されたのだ。この状況下で平気でいられる方がおかしい。
「小山さんは…。」
「うん、今は手術中。」
状況は深刻なものとなった。今まで、国家騎士が襲撃されたなんて例は過去にない。それほどまでの強さを持つ国家騎士の内の一人が生死に関わるような傷を受けている。
そんな状況の中、一人の男性が訪れる。
「やあ…。」
彼の名前は久保利光(くぼ・としみつ)。優子と翔子と同じく国家騎士の人物だ。位は第四国家騎士だ。
「一応、事情は理解したけど信じられないな…。小山さんがやられるなんて…。」
久保は冷静さを何とか保っているが、今回の事態は彼にとっても予想外らしい。
「それで、犯人はまだ分かってないのかしら?」
「今、警務部隊隊長の清水さんが現場を調べてるよ…。」
「犯人の特徴なら小山さんから聞けるんだろうけど…。彼女に聞くことは出来ないし…。」
国家騎士が一人やられ、犯人は未だに分からない。起きたのは昨夜のことではあるが、この事件は王都中の騎士達を恐怖、不安に包んでいる。当然、国家騎士達もだ。
そして久保はとんでもないことを口に出した。
「今回、真っ先に狙われたのは国家騎士である小山さんだ。犯人の目的は知らないし、まだ、真相は全く分からないが、もしかしたら、犯人は僕ら国家騎士を狙ってるんじゃないかな…?」
「えっ…!?」
久保の言葉に優子と翔子は驚いてしまう。彼が何故そんなことを言えるのか二人にはまったく分からない。
「イヤ、そんな顔をしないでくれよ。ちょっとそう思ってみただけだよ。」
翔子はその言葉で硬い表情が少しだけ柔らかくなるが、優子は逆に顔色が一層険しくなる。
久保の言ってることが理解できなかった優子だが、国家騎士を襲うモノには心当たりがあった。以前、優子はある男に襲撃を受けた。そう、あの『黒尽くめの男』に…。
しかし、今回も彼が関係してるのだろうか?優子は少しずつ黒尽くめの男に疑いを向けてく。
―――――――――――――――――――――
事件現場…。
そこには主に小山友香の血の跡、そしてわずかだが武器の破片が落ちている。その武器の破片は主に二種類だ。
一つは小山友香の召喚武器『不滅の聖剣』(デュランダル)という鑑定が出る。しかし、もう一つは未だに鑑定できていない。おそらく敵の武器だろうという話にはなってるが…。
この事件の現場の責任者は警務部隊隊長の清水美春である。隊員を引き連れ、現場の取り調べを行う。そんな彼女がある一点に目が向いていた。
『N・K』
小山が自分の血で書いたと思われるアルファベットの血痕である。
「N・K…ですか…。」
清水はこのイニシャルが犯行に使われた『召喚武器』なのかもしくは、犯人の名前に関係したものなのか、考えていた。
彼女にはこの一務には責任感があった。彼女は警務部隊隊長であると共に第五国家騎士の位についている。国を代表する国家騎士として、王都を守る警務部隊としても気を抜くわけにもいかない。
すると後ろから…
「しーみーずさーん」
全くやる気のなさそうな声が聞こえる。
「…沖田…」
沖田総悟(おきた・そうご)。彼は下級騎士だが剣の腕が上級騎士レベルな上に感も鋭いとのことで清水に選ばれた警務部隊副隊長でもある。つまり下級騎士の中でも扱いが他の騎士と違う。
当然、親友の近藤、土方、山崎と共に訓練所にも通ってる訓練兵でもある。
「しーみーずさん、特にこれと言って証拠となるモノは見つからないです。」
「アナタの目は節穴ですか?そんなハズはありません。ちゃんと探してください!」
「めんどくさい」
一瞬、沈黙の空気が訪れる。
「よく聞こえませんでしたが…」
清水はとっさに銃を向ける。
「やだなァ…。オレさっきまでアソコの屋根で昼寝してたんで。」
「アナタはもう少し副隊長の自覚というものを…」
その瞬間だった。
「アレ?美春?」
200m先に立っていたのは美波だった。
「お姉様ァアアアッ!私に会いに来てくれたのですかー!?」
清水の目は警務部隊隊長である責任感ある目から美波を愛するハートの目に変わっていた。
「ちょっ!美春、や…やめ…!」
清水は美波に思いっきり抱き付く。…その時…。
パシャッパシャッ。
カメラのシャッター音が聞こえる。
「はーい、隊長。笑って~。」
沖田はカメラで美波に抱き付く清水を一枚、二枚と次々撮っていく。
「おーきーたー」
清水の目は沖田に殺意を向けるかのような目に変わる。
「みんな~。見てくれ。隊長が仕事さぼってるぞー」
沖田は他の隊員に先程撮った写真を見せびらかす。
「ぎゃあああああっ!沖田、それは…」
そして、沖田はニヤリと笑い、
「隊長、ちゃんと仕事やってくだせぇ…」
それは先程清水が沖田に言ったことだった。流石の清水もそれには何も言い返せず、
「…はい…」
そう頷くしかなかった。
沖田はニヤリと笑う。そう彼はドSだった。
事件の真相は当分は解明されそうにない。
――――――――――――――――――――
「来たかい…」
「よう、ババア」
「口には気をつけな、ガキ」
カヲール二世の王宮にやって来たのは雄二だった。
「今回の事件のことはもう知ってるかい?」
「ああ、まあ…。」
曖昧に返事をする雄二。
「んで、オレを呼び出してどうするつもりだ?」
カヲール二世はニヤと笑い、
「アンタにもこの事件の解決には協力して欲しくてね。『第六国家騎士』…。」
「……。やめてくれ、今のオレには国家騎士と呼ばれる程の力はない。」
坂本雄二。彼は正真正銘の下級騎士である。だが、それは今の話である。
「スマナイね…。アンタをそうさせちまったのは私の責任さ。」
「気にすんな、過ぎたことだ。」
坂本雄二…。まだ、吉井明久という少年と出会う前の話だ。彼は6年前、最年少で国家騎士に就任した。たった10歳で国家騎士に就任した騎士は過去の一度もない。王族の者からもフミヅキが出来て以来の天才、もしくは『神童』とも言われた。
就任した1年後、彼はS級犯罪者討伐の任務に当たっていた。しかし、討伐に失敗した彼はその犯罪者に自身の『召喚武器』を奪われた上、敵に呪いをかけられた。その呪いは雄二の身体に激痛を与え、呪いをかけられた雄二の体はとても国家騎士としてやっていける体ではなかった。肉体がまるで老化するみたく、徐々に朽ちつつあったのだ。この呪いを解くにはその犯罪者を殺す以外に方法はない。
そして、全てを失った彼はもう一度下級騎士からやり直すこととなる。
彼が国家騎士であった期間は短く、彼が国家騎士であったことは王族の者しか知らない。
「何も、アンタにその『黒尽くめの男』と戦えって言ってるんじゃない。犯人をただ探す、推理して欲しい。アンタが『神童』と呼ばれたのは何も最年少で国家騎士に就任しただけじゃないだろ?」
…そう、彼が『神童』と呼ばれる本当の理由は彼の思考力にあった。
「まあ、討伐任務じゃないなら協力しよう。」
「当然だ、下級騎士の今のお前に討伐なんて無茶なことは言わないさ。」
雄二は犯人捜しに協力することになる。
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夜―――――。既に深夜0時を過ぎている。
再び、黒い影が訪れる。
ちなみに今回「N・K」と出てきましたが、仮に分かったとしても、コメント欄には名前を出さないようお願いします。
あと、雄二の国家騎士から下級騎士になった話は先になりますが、「国家騎士消失編」後にもう少し詳しく説明していきたいと思います。この説明だけでは疑問だらけだと思うので。
いろいろ話を難しくさせて、すみません。
今回、明久は出てませんが、一応「国家騎士消失編」では明久も一応活躍させるつもりです。