カメハウスの瓦礫をバックに驚愕したまま固まるチョコット、キャディー、ウミガメ。
事前にそれを読んでいた亀仙人は「はあッ!!」と三人を海へ突き飛ばした。
それはあまりにも一瞬の出来事だった……。
孫悟空とクリリンが見ている間に、奔流は亀仙人もろとも砂浜を飲み込み、キノコ雲を巻き上げた。
孫悟空は唖然とそれを眺める。目の辺りにした亀仙人の衝撃的な死。
幼い頃に亀仙人との厳しい修行をつけてもらった事、天下一武道会へ初めて参加する切っ掛けとなった事、色々世話になった武天老師との思い出が走馬灯となって脳裏を流れた。
孫悟空は怒りで体が震え上がる。
「おめぇ……ッ! チョコットもろとも消し飛ばす気だったのか!」
「はーっはっはっは!! お前らを見ていれば実に良く分かる。他人を庇う甘さは想定内だ」
背中を向けている孫悟空に向けて、ラムネスは嬉々と嘲った。
孫悟空は額に血管を浮かばせる。迸っている電撃は更に激しく荒れ狂う。遥か下の海面が波紋を立てて津波に広がっていく。
徐々に世界が震え上がり、孫悟空は拳を握り締め、前屈みに上半身を曲げる。
「かあ……ああああああ……!!!」
ズズズ……と、背中へと金髪が伸びていく。
ラムネスは次第に見開き、急激に膨れ上がる気に青ざめていく。
「な……なに……! こ、コイツッ……!!」
これまでの容姿とは打って変わって眉が消えており、前髪も一本だけが垂れ、後方に伸びる金髪。発光する孫悟空の周囲を激しい電撃が暴れまわる。
荒れ狂う凄まじいオーラが台風のように吹き荒び、ラムネスは腕で顔を庇う。
「そんなに何故怒る? ドラゴンボールとやらで生き返れるんだろ? 大した問題じゃないだろうが」
それでも嘲りを止めないラムネス。
プチンと切れた音を立てて、孫悟空は憤怒の表情を露わにした。
瞬時に間合いを詰め、怒りを滾らせたオーラで纏った拳を叩き込む。
鋭く突き刺すような拳がラムネスの頬を深く穿ち、頬骨が砕ける音が響き渡る。
「ぎ……!!!」
思い切って振り抜かれた拳は弧を描いた。
血飛沫と共に盛大に吹っ飛ぶラムネス。海面を数度バウンド。それでも勢いは止まらず数十キロもの距離を渡り、やがて陸地へとその身は飛ぶ。
そのまま森を突き抜け、いくつかある岩山を打ち砕き、尚も勢いは衰えない。
「ぎ……はッ! が……」
全身がくまなく打ち付けられ、骨が砕け散って四肢のいくつかが変に曲がり、意識が霞む。
山脈へと激突し、衝撃波の噴火と共に破片が四散した。
「ぐ……が、がはっ!」
クレーターの中心でズダボロにひしゃげた体が横たわる。激痛に呻くラムネス。嫌な汗を掻き、恐怖が顔に表れていた。
いつの間にか眼前に孫悟空が歩み寄ってきていた。
凄まじいオーラ、そして迸る電撃。怒りの形相がこちらを射抜いている。
(ば……バカな! 潜在力が……こんなはずでは……! これでは東エリアのパオズ山とサタンシティを往復する……人物以上ではないか!! 話が……違うぞっ!!!)
いくつか手はあった。もしもスーパーサイヤ人2と称した以上の変身がなされても万が一の技を取っておいていた。
だが想像以上のパワー上昇が見受けられた。
孫悟空の歩みよりはまるで死神の歩み。寒気が全身を支配し怖気が走る。
「……ドラゴンボールで生き返ればいいと言う問題じゃねぇ!! 貴様は、貴様は……やっちゃいけない事をやっちまった」
ラムネスは片手だけが無事に動ける事を確認し、全ての気をそこに集中させた。握り締める拳。
「だあっ!!! ホワイトホール・バーニングァァァアッ!!!」
掌を向け、瞬時に閃光が広がった。
突っ立っている孫悟空をも覆い、直径数十キロもの超巨大な光の柱が陸地を焼き、天高く伸びていった。
吹き荒れる衝撃波。薙ぎ散らされる木々、海は荒れ狂い波高の高い津波が暴れまわる。
その震撼によって地球は震えた。
「な……なに! この気は……ッ!!!」
東エリアのオレンジハイスクールが振動に揺れ、孫悟飯は冷や汗を掻き、感じてくる気に険しい表情を見せた。
西の都で都市が大きく揺れているのをベジータとトランクスは汗を掻き、戸惑った様子で見渡す。
神の神殿にも空震が伝わり、デンデとピッコロは困惑を露わに地上を眺めていた。
立ち上る光の柱は数秒の間、地上を明るく照らした。
ラムネスの差し出している掌の向こうは底の見えない巨大な穴がぽっかりと開いていた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ!! く……くははははは!!! オレは光の魔王だ!! 恒星などの光を膨大に吸収して解き放つ最高の技だ!! これを喰らえばっ……」
哄笑を繰り返していたラムネスの顔に恐怖が広がっていく。
なんと穴から孫悟空が悠々と現れ、後ろに伸びる髪が揺れる。
ガタガタとラムネスは恐慌に震え上がった。
孫悟空は静かな怒りの面持ちのまま、両手を腰へ引いていく。
「か―――――め――――」
両手の間に光球が生まれ、孫悟空自身を呑み込むほどに膨張した。超巨大なオーラの塊から凄まじい電撃を撒き散らす。
「は―――――め――――……」
轟音と共に更に塊は大きく膨れ上がり、周囲に衝撃波が広がり、木々や岩飛礫を吹き飛ばす。
ラムネスは心底恐怖に震え上がり、逆鱗に触れてしまった事を後悔した。
「波あああぁぁぁぁあ!!!」
怒りの咆哮と共に両手を素早く繰り出した。獰猛に荒れ狂うオーラの塊がラムネスもろとも飲み込み、白光で全てを覆い尽くした。
「ご……悟空…………」
チョコット、キャディーと共にクリリンは孫悟空の元へ降り立ったのだが、彼は黒髪に戻っており背中を向けたまま突っ立っていた。
周囲には破壊された後が散乱されていて、壮絶さを物語っていた。
クリリンの目には彼の背中が泣いているように見えて、力なく項垂れた。
しばらくすると雫が降りだし、止む事のない雨が彼らを包み込んでいった。
師である亀仙人の突然の死……。勝つには勝ったけど、それで生き返る訳じゃないもんなぁ。
ドラゴンボールで生き返れる事実はあるけど、守れなかった事実もまたある。悟空にとっては一番悔しい事だろうと思う。
しかし、この序盤で人造人間と亀仙人が犠牲になってしまった。
もっと多くの犠牲者を出さねばいいが……。