そしてその魔の手がカメハウスに!? その一方で……、
大小の岩山が聳える殺風景。申し訳程度に草が疎らに生えている程度だ。
「全くですじゃ!」
戦車の上でふんぞり返る隊長は「フン」と鼻息を漏らす。
貴族出身か、カールをかけた後ろ髪。でかい顔面に左右と跳ねたヒゲ。軍服に勲章が飾り付けられている。だがガタイのいい上半身とは裏腹に短足はアンバランスな体型だった。
「すみません……。ネクスト大佐様」
側で項垂れている指揮官。彼は前回、扉を壊して異世界を制圧して昇進を目論んでいた人だ。
鬼の少年に蹴散らされて作戦は失敗。王様からこっぴどく干された上に降格されたのだ。
「浮き足立って背伸びすると碌でもないですぞ。元大尉ナウ、私のやり方を見るですじゃ」
ビシッと特撮ヒーローのようなポーズを決めてネクスト大佐は一人で酔いしれる。
周囲には隊列を組んだ戦車と兵士が沈黙を保っていた。
彼らが取り囲むは一回り大きい岩山。そのふもとに闇を覗かせる異世界への穴が開いている。
その付近に扉の破片が散乱している。
ナウは穴を見て「さっきより大きくなっているような……」と不安げな顔を見せる。
ズン!!! 途端に衝撃音と共に穴から蜘蛛の巣状にヒビが走った。
揺れた振動に兵士達は萎縮した。
ネクスト大佐も部下のナウも一筋の汗を垂らし穴の方へと視線を注ぐ。
「だっ、誰か来るぞ……!」
穴の方から人影が蠢き、日が差し込む地上へと足を踏み入れた。
それを目の辺りに、ネクスト大佐は目をおっぴろげた。
白日の下で照らされたその奇妙な人間は黄色の肌に艶を見せていた。
髪の毛はなく、代わりに突起を複数生やした頭。額には太陽を模した紋章が浮かんでいる。
肩と胸に及ぶ部位と前腕を覆う部位と腰を巻く部位に鎧が装着されている。申し訳程度に簡易な破けたシャツをその下に着込んでいる。
引き締まった筋肉。百戦錬磨を醸し出す戦士の目。
「ここが地上界か……」
辺りの殺風景な荒野を見渡し呟く。
恐ろしげな気を放っているような気がして兵隊達は尻込みしていた。
「バッカモーン!! 何を怯んでいるのですじゃ!? さっさと攻撃を――」
拳を振り上げて兵隊達に号令をかけようとした瞬間、そいつは見透かしたように四股を踏んだ。
まるで天地がひっくり返ったように辺り一面の大地が砕け散って舞い上がった。
それに煽られ、戦車と兵隊達は宙を舞い悲鳴が劈いた。
煙幕が立ち込め――、戦車群は使用不可能にまでひしゃげ、車体底を空に晒していた。
謎の男は上空へ真っ直ぐに上昇すると、オーラを纏って飛び去ってしまった。
「な、な、なんなんですぞ……?」
呆然とネクスト大佐は目を丸くしたままナウの上で仰向けになっていた。
山岳に囲まれた小さな都市。冷たい風が吹き、厳しい環境を感じさせる所だ。
曲線を描く建造物が並び、平和に暮らす人々が変わらない日常の中でノンビリ暮らしていた。
道路をスレスレと駆け抜ける車が次々と通り過ぎていく。
「18号。あのハゲと結婚しちまうなんてな……」
歩道の上でロンゲをした黒髪の青年は金髪の凛とした女性へ顔を向けた。
「17号、クリリンは剥げてないよ! それに今は髪の毛生やしているしさ!」
不機嫌そうに睨みつける18号に、17号は「悪い悪い」と制止の手を向けた。
「しかし久しぶりに会いに来るなんて珍しいな」
「フン、一生会わない方が良かった?」
「……いや」
17号は笑みを見せ、首を振った。
「セルの件が終わった後、こっちも色々あったからさ。17号だって人気のない所で猟師やっていくって最初は驚いたよ」
「ひっそりしているのが性に合っていたんだ」
キザっぽく笑んで見せる。相変わらずと鼻息をつく18号。
するとその二人の眼前に奇妙な人間がストンと降り立った。
「なっ!?」
突然の事に人造人間17号と18号は怯み、サッと身構えた。周囲の人々が騒がしくなる。
(な、なんだ……コイツ! 気配も感じなかったぞ……)
二人の顔に冷や汗が伝う。
「ほう! こんな所にカスタードプリンス様の生け贄に相応しい人間がいたか」
不敵に笑むその男は無防備のまま突っ立っている。
「な、なんだ! てめぇは……!?」
「オレか? オレは……光の魔王"ラムネス"だ。大人しく来てもらおうか?」
戦慄を感じさせる言葉に18号は後退りする。だが17号は不敵に笑む。
「どっかのバカが俺達の事をよく知らないらしいな……」
腰を低く落とし、戦闘態勢に構える。それに対してラムネスは突っ立ったままだ。
それにカチンと来たか、「舐めるのも大概にしろッ!!」と17号は飛び掛った。
しかしラムネスの膝が17号の腹を鋭く抉った。目にも映らぬ速度と重い一撃に目を見開いた。
「ぐあ……っ!」
「17号ッ!!」
咄嗟に18号は駆け出した。ラムネスは瞬時に18号の後ろへと回りこみ襟首へと肘打ちを見舞う。
「っぐ!」
顔を強張らせ前屈みに倒れ込むが、事前に手首を掴まれた。
人々が騒然とする最中、ラムネスは左腕で17号を腰に抱えつつ右手で18号を吊るし上げた。
「まずは二匹……。他愛もないな」
ぐったりしている二人を眺め不敵に笑んだ。
久しぶりの人造人間兄妹。だが謎の魔王ラムネスによって捕らえられた……。
しかも本気を出していないようで真の実力は未知数。
そして超魔王への生け贄に捧げるべき、実力者を探索する敵の動き……。
一体どうなってしまうのか!!?