蒼く澄み切った大空。のどかな好天気にカモメものびのびと飛び交う。
地平線にまで及ぶ青海原。その中でポツンと小さな島と一軒の家。カメハウスと呼ばれていた。
小波の音を聞きながら砂浜でウミガメがノンビリと這う。
「ふうむ……。魔界とはのう……」
サングラスをかけたアロハシャツを着込んだお爺さんは顎鬚をさすりながら唸る。
家の中でテーブルを取り囲むソファーに孫悟空、クリリン、チョコットが腰を下ろしていた。
「チョコットって奴は悪ぃ奴じゃねぇしな。誰も殺さなかったみてぇだし」
呑気に孫悟空は腰に拳を当てながら付け加えた。
話題になっている当の本人のチョコットはムスッと顔を逸らしていた。
どうやら一撃で負けたのが悔しかったのだろう。
「いやはやピッコロ大魔王と戦ってた頃が思い出されるわい。だが悟空の言った通り邪気は感じられんのう」
物珍しそうにチョコットを見定めていた。
「……ピッコロ大魔王ってなんだよ。魔王ダーブラ様の他にも何人かいるの知ってるけどそいつ知らねぇぞ」
ぶすくれたまま顔を上げる。
「だ、ダーブラ!? 知ってんのか!?」
声を上げたのは孫悟空とクリリンだ。ブウと戦ってた頃にバビディの手下として一戦を交えた事があるからだ。
セルゲーム開始時のセルと同等の実力者で不思議な魔術を駆使してきた強敵だった。
だが彼が消えたのは誰も知らない。
「数十年前に何の前触れもなく忽然と消えたからなー。魔王ダーブラ様」
腕を後頭部に回しソファーへふんぞり返る。
「ははは」
孫悟空は苦笑いを浮かべた。
そのダーブラがバビディに支配されていた事を知っていたからだ。
「して、チョコットとやら……そのダーブラとどんな関係にあるのじゃ?」
「どうもこうも、一国の王として普通に国を治めてた。奴にはコテンパンにされた恨みしかねぇしな」
バツが悪そうにそっぽを向く。
「そのわりにお前、呑気そうだよな」とクリリン。
「……それがどうでもよくなるくらい、魔界でとんでもねぇ事が起ころうとしているんだ」
神妙に曇った顔で俯く。膝の上で拳を握り締めた。孫悟空とクリリンはその話に食い入る。
「超魔王カスタードプリンス……。恐ろしい魔女が作り出した究極生命体さ。いつ動き出すかしらねーが、どのみち魔界はオシマイだ」
身を震わせていた少年に、クリリンは目を丸くし畏怖しておののく。
「魔界に魔王はダーブラの他にもたくさんいるんだろ……? 何とかしないのかよ?」
「真っ先に超魔王に食われたって噂で持ちきり。音沙汰ないんだもん。そら各国は混乱さ。人々は出来るだけ遠く逃げようと大騒ぎだよ」
「それでお前さんはここに……?」
亀仙人に問いかけられ、チョコットはコクリと頷く。
「ひょえー、たまげた……。そんな強ぇえ奴なら戦ってみてぇな」
鬼気迫る空気なのに孫悟空だけは呑気にそんな事を口にする。
「え? こ、怖くないのか??」
チョコットは汗を垂らしながら孫悟空へ見上げた。
「ダーブラって奴より強いかも知んないけど、もっと強ぇえ敵と戦ったし最近平和だから退屈でしょうがないんだよな~~」
後頭部を掻きながら言う孫悟空にチョコットは唖然とした。
しかしなんだか頼もしい雰囲気を醸し出す彼に心惹かれるものを感じた。
「それにさ、おめぇも基礎から鍛え直せばもっともっと強くなれっぞ。一緒に修行でもすっか?」
颯爽とした笑みで言われ、チョコットは呆然と口を開けていく。
自分の左右の掌を交互と見やる。まだ伸びしろがあるのかと自身も俄かに信じられなかった。
ほどなくして、孫悟空へ向けてビシッと指差す。
「てめーを追い越しちゃってもしらねーぞ?」
「ああ、その方がオラも楽しみだ」
不敵に笑う孫悟空の返しに、調子者のチョコットも呆気に取られた。
その二人を唖然と眺める亀千人、クリリン。
その時、カメハウスの外側にブンッと人影が姿を現した。トンと砂浜に靴を着けた。その黒いシルエットは一見すれば三角帽子にヒラヒラしたマントという魔女っぽい形だ。
「チョコット、ここにいるのね……」
苛立ち気に呟かれた。
その気配か、チョコットは身を竦ませた。あわわ、と身を震わせていく。
「お、おっそろしい奴が来ちまったぞ!!」
「な、なにっ!!?」
孫悟空、クリリン、亀仙人は揃って気配の感じる方へ顔を向けた。冷や汗が頬を伝う。
チョコットが震え上がる謎の人物とは一体誰なのだろうか?
あるいはいきなりラスボス登場か!?
次回を楽しみにw (^^;