私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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絶対やべー少女②

「だから、こっちに残りなよ、もこっち!」

「いや、だから、残らないってもう何度も言って・・・」

「いやいや、聞いてないな。まだ間に合うから残ろう!な!」

「いやいやいや、何度も言ってんじゃねーか、しつこいぞ!?」

 

出発寸前になってもこんな不毛なコントを続けているとは我ながら頭が痛くなる。

ほんの数日前までノホホンとしていたのに本当にどうしてこうなった!?

 

のちに“人類史上最大最悪の絶望的事件”と呼ばれる日から数日後の今日、

シェルター化を目前に迫った希望ヶ峰学園前で、

私はクラスメイト兼“相方”である“むくろちゃん”こと超高校級の“軍人”戦場むくろと

相も変わらぬコントのような問答を続けていた。

 

「ここに残ろうよ!今まで楽しくやってきたじゃん!」

 

むくろちゃんの言葉に今までの思い出が蘇る。

とりあえず隣のコミュ障にマウントをとってやろうと誓った出会いの日。

超ド級の馬鹿だと発覚し、翻弄され続ける日々。

天才だが変人だらけのクラスメイトは意外といい奴らで

なんだかんだで楽しい日々が続き、いつのまにか最高のクラスとなっていた。

 

(うん・・・そうだね)

 

心の中で同意する。

何年後も誰に聞かれても“楽しかった”そう胸を張って言える。

 

でも・・・

 

「ごめんね、どうしても家族が心配なんだ」

 

少し顔を伏せながら少し悲しそうに私は答えた。

この混乱の中、家族の安否が定かではなかった。

“絶望”と呼ばれるテロリスト達の活動が激化しており、何の罪もない多くの人々が殺されていた。

優しかった先輩達の面々を思い出す。

なぜ彼らはこんな酷いことをしているのかまるでわからない。

ただ、その勢力は同時多発的に世界中で勢いを増しており、

政府は混乱し、全ての社会システムは完全に麻痺していた。

巨大な権限を持ち、もはや小国家といえる希望ヶ峰学園はこの事態に対して、

“希望”達を守るために学園の要塞化を決断。

今日がその決行日であり、もうすぐ学園は内側からシェルター化を開始する。

学園長は私達に希望ヶ峰学園の残留するように要請し、多くはそれに従った・・・私を除いて。

クラスは楽しかった。

確かにここにいたら安全だろう。

だが、家族はどうなるのだろうか?もしかしたら、もう会えないなんてことも・・・。

それに・・・うん、もう正直に言おう。

やはり私にはここにいるのは場違いなのだ。

クラスは楽しかった。

でも、どこか偽者としての自覚。

凡人としての後ろめたさがずっと付き纏っていた。

私にはなんの才能もない。喪女?なんすかそれ?

そんな中、いよいよ“人類の希望”などとさらに大それた話が飛び込んできた。

いつの日かシェルターが開かれ、光輝く希望達の中に喪女が紛れて・・・耐えられるか!

これ以上、私を辱める気か!いっそ殺せ!

そんな後ろめたい本心を隠しながら、私は家族の安否を理由に学園長からの打診を断った。

 

「あ、うん」

 

学園長の了承は軽かった。

なんというかチャレンジ企画で創出した失敗マスコットをようやく処分できるような・・・

いろいろ社会人としての労いと激励の言葉があったが、

まとめると上述の言葉で収まってしまった。

なにはともあれ、私は家族の安否のために学園を去ることになった。

あれ、こうして見るとなんか、今の私・・・ヒロインぽい?

 

 

「もこっちを心配してる人なんて誰もいないよ!」

 

「やめろ!コラァアアアアーーーーッ!!」

 

 

まさかの全否定。

完全に雰囲気ぶち壊しである。

 

「やめろ!思いついてもそれは口にするな!泣くぞ!普通の人は泣くぞ!」

 

まあ、私も涙目なんだけどな。

馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまでとは。

もはや片足くらい人の道踏み外してるじゃねーか!

 

「もこっち、弟とあまり仲良くないって言ってたじゃない!」

「憎まれるほど悪くねーぞ!?心配くらいしてくれるもん!たぶん・・・」

 

そうですよね?期待してますよ、智貴氏。

あちらの方では、引率役の雪染先生がこちらを見ている。

ニコニコしているが、“さっさと決めろ、オラ!”的なオーラを感じる。

もう猶予はないようだ。

 

「もう行くから。落ち着いたら連絡す・・・」

「行かせない」

 

むくろちゃんが私の手を掴んだ。

 

「行っちゃダメだ!お願いだから行かないで!」

「ちょっと、むくろちゃん。う、腕が痛い!」

 

掴まれた腕はピクリとも動かないどころか、メキメキと音を立ていた。

 

「やめろよ!私はもう―――――」

「行くなって・・・言ってんだよ!」

 

一瞬、全身を大蛇に締め付けられたような錯覚に陥った。

目の前にいるのは、私が初めて会うむくろちゃん。

本来の超高校級の“軍人”である戦場むくろであった。

 

「あ、ご、ゴメン!」

 

ハッしてむくろちゃんは手を離す。

私の腕にはゴリラに掴まれた赤い跡がはっきりと残っていた。

 

「どうしてそこまで・・・?」

 

暴力に対するクレームよりも私はその理由が気になり始めていた。

いくら私と離れてボッチに戻るのが嫌だからといっても、

むくろちゃんの態度はあまりにも必死すぎた。

それはまるで私は死地に行くのを止めるかのように。

 

「そ、それはね・・・」

「お姉ちゃん、ここにいたんだ」

 

その声に私達は振り返る。

むくろちゃんは、闇夜に映る月ならば、この人は闇すら焼き尽くす太陽なのだろう。

超高校級の“ギャル”江ノ島盾子が私達の目の前にいた。

 

「まーだそんなことやってたんだ、マジありえねーし、ホント残姉ちゃんだわ」

 

江ノ島さんは“キャハハ”と陽気に笑った。

 

「盾、盾子ちゃん・・・」

 

彼女を前にむくろちゃんは汗を流し、声を震わせた。

戦場と江ノ島。

複雑な家庭の事情により今に至る2人は、双子の姉妹。

同じ身長に同じ顔(まあ、メイクと髪型と胸の大きさは違うが・・・)

だが、決定的に違うのはその才能。

ギャルと軍人。

ギャルのカリスマである江ノ島さんは陽キャの王であり、

残念ながら我が友は陰キャの女王であった。

朝と夜。太陽と闇。陽キャと陰キャ。

必然的に姉であるはずのむくろちゃんが主導権を握れるはずもなく・・・

先ほどまで大蛇だったむくろちゃんは、

今では、蛇に睨まれたカエルのように額に汗を垂らしていた。

 

「えっとなんだ黒・・・クロ?まあ、どうでもいいか」

 

江ノ島さんはなんとなく失礼なことを呟いた後、私を見る。

 

「もこっちにはもこっちの考えがあるんだよ、ねえ、もこっち?」

「う、うん・・・」

 

もこっちの連呼は若干ウザいが、頷いてしまう。

眩しい。白を黒と言ってしまいそうな誘惑に駆られる。そんな雰囲気が彼女にはあった。

やっぱり苦手だな、この人。

 

「で、でも・・・」

 

何か言おうとしたむくろちゃんは、江ノ島さんの視線に言葉を止めたように感じた。

 

「もこっち、今まで一緒にいれて楽しかった。ありがとね」

 

むくろちゃんは私の手を握った。

今度は優しかった。

 

「あっちに行っても元気でね!」

「うん・・・むくろちゃんも」

 

いつもとは違うシリアスなむくろちゃん。

でも、茶化す気にはなれない。

その言葉はきっと本心なのだろうと思えたから。

 

 

    “バイバイ、もこっち”

 

 

江ノ島さんは、私に“あの笑顔”を向けながら小さく手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

XXX地区避難所

 

 

「とりあえず黒木さんには班長をやってもらいましょう!」

 

雪染先生はニコニコ笑いながら死刑宣告を下した。

 

「反論は許しません。希望ヶ峰学園の外でもあなたは希望の一人。

それにふさわしい責務を担ってもらいます!」

 

取り付く島もなかった。

雪染先生は私の抗議を見こし、一気にまくし立てる。

目をクルクル回しながら。

 

「そこまで難しい仕事ではないわ。

数人の高校生の取りまとめをするだけ。お願いね、黒木さん」

 

そう言って雪染先生は他の地区に行ってしまった。

絶望と希望の戦いは激化の一途を辿っており、

個人的な甘えを許されないのは重々承知しているつもりだ。

希望の一人としてその自覚はある。

だが・・・

 

「プッあれが例の・・・」

「マジかよ、あれが希望・・・」

 

完全に珍獣扱いじゃねーか!

絶望に堕ちない方が不思議なくらいだぞ!

まあ、ようやく周りも私の存在に慣れ(飽きて)きたらしいし・・・

雪染先生の負担を軽減すべく、私はその役を受けることにした。

 

 

 

・吉田 茉咲

・田村 ゆり

・田中 真子 → 内 笑美莉

 

 

結果として、上述が私の班のメンバーだ。

含みを持たしているのは、理由があり、それをおいおい説明していく。

 

XXX地区避難所は現在、街を要塞化しており、

住人、特に大人達が未来機関の指揮の元に絶望の攻撃からの防衛の任についている。

私達、高校生はそのサポート役として食事、洗濯、防壁の見回りなど雑務をこなす。

連携を取るため、班に分かれ、同じ部屋に住んでいる。

緊急時以外、自由時間は確保されており、私もそれを利用し家族と会っている。

そんな状況で、私は班長としてスタートを切った。

なんかバンドみたいだが、メンバーを紹介しよう。

 

吉田 茉咲

一言で言えば、ヤンキーだ。

自由時間は、だいたい不良仲間といる。

きっと盗んだタバコでもすっているのだろう。

性格は極めて凶暴だ。

朝、私が起こしてやった時に、

間違って乳○を摘んだことを根に持っているようだ。

その凶暴さを買われて、なにやら未来機関の戦闘を手伝ったらしい。

 

 

田村 ゆり

一言でいうと地味だ。

だから、私は地味子と呼んでいる(私の中で)

何を勘違いしたのか、

私の世話を焼くことで私にマウントを仕掛けてくる。

どうやら、私をバカか何かだと思っているようだ。

 

 

田中 真子

一言でいうと・・・レズかな。

田村さんの親友で、いつも世話を焼いてる。

彼女の目を見ているとたぶんあっちかな・・・と私が勝手に思っている。

コミュ力が意外に高い。

誰からも好かれていて、あの吉田さんとも仲がいい。

 

 

なんだかんだで私を含め、当初この4人では上手く回っていた。

一番問題がないと思われていた田中さんが別の班に行くまでは。

田村さんは、この件を裏切りと思っているようで、終始機嫌が悪かった。

 

「・・・別に」

 

何か話題を振ってもそんな感じだ。

 

内 笑美莉

代わりに入ってきたのが、コイツ。

一言でいえば、絵文字だ。うん絵文字以外の何者でもない。

 

「喪女、キモい・・・!」

 

そんな奴の呟きを聞いてから、報復してやろうと

寝言で何か言わないかと見張ったり、シャワーを覗こうとしたり、

ある意味ストーカーみたいなことをしてたら、

案の定、距離を置かれて現在に至る。

 

もはや空中分解している我が班ではあるが、私としてはもはやどうしようもないのが現状だ。

 

「あ、黒木さんだ!」

 

あちらでネモ・・・じゃないや、根元さんが手を振っている。

 

 

根元陽菜

一言で言えば陽キャだ。

私は覚えていないが、どうやら希望ヶ峰学園に移る前の高校で同じクラスだったようだ。

当初からよく話しかけてくれて正直すごく助かっている。

時々鋭いこと言ってくる時があるけどね。

 

なにはともあれ、班長は大変である。

今日は防壁の点検の予定・・・だが、絵文字の奴がいない。

しょうがないので3人で行くか。

女子高生3人で、か弱い女子高生で。

何かあっても何もできるはずはないが、今までなにもなかった。

この日もどこかそんな気持ちだった。

 

「この前、黒木さんが作った料理不味かったよね」

「え、そ、そう?」

 

最近、気を使わなくなってきた田村さんとそんな会話をしながら、壁伝いに道中を進む。

雰囲気は漫画の進○の巨人の1話みたいだな。

この緩みきった時に大巨人が現れて壁を・・・

 

  ガッ!

 

(え・・・?)

 

その音の方を見ると壁の一部が崩れ、モノクマの仮面が顔を出していた。

アレは絶望の一味がつけている仮面。

よりにもよってこんな時に襲撃を!?

お、落ち着け、私!

ここは、超高校級である私が仲間を!

 

「オりゃアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

吉田さんが雄叫び共に、まさに這い出ようとするモノクマ仮面にライダーキックを叩き込む。

 

「舐めてんじゃねーぞ、コラァアアアアアアア!!」

 

そのまま踏み付けを連打する吉田さん。

す、すげえ!さすがヤンキー!未来機関に見込まれるだけのことは・・・

見ると私の横の壁が崩れ、モノクマ仮面が田村さんの足を掴んでいる。

 

(NOooooooooooooooooooooo------------ッ!!)

 

このままでは田村さんが危ない。

吉田さんの助力は期待できない。

私が・・・やるしかない!

超高校級の私が・・・!うぉおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!!

 

私は落ちている石を掴み、モノクマ仮面にーーー

 

ドン!

 

周囲に異音が響く。

 

(え、私はまだ何も・・・)

 

ドン!

 

それは空手で言えば拳槌という技だった。

 

ドン!

 

引き抜かれた小さな拳の下にはヒビが入ったモノクマ仮面があった。

 

「え、ちょ、ちょっと田村さん!?」

 

ドン!

 

「あ、あの、ゆ・・・」

 

ドン!!

 

「ゆ、ゆ・・・」

 

 

    ゆりドン!!

 

 

マスクが半壊して完全にKOされたモノクマ仮面は

壁の外の仲間が慌てて引っ張り回収していった。

辺りを静寂が包む。

 

「・・・怖かった」

 

無表情で田村さんはそう呟いた。

 

(絶対嘘だろう・・・ッ!?)

 

私は心の中でツッコミを入れる。

 

「おお!お前ら、やるじゃねーか!!」

 

吉田さんが満面の笑顔で走ってきた。

 

え、この人達・・・

 

 

 

 

      強い・・・!?

 

 

   

   




【あとがき】

リハビリ中です。
書かないではなく、書けなかったのですが、
たまたま1話書けたので投稿することにしました。
本来なら(ゆり/ネモ視点)も入れたかったのですが、
いつ書けるか未定のため投稿を優先しました。
まだ読んでくれる方がいましたら、
暇つぶしにでも読んで頂けたら幸いです。


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