ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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なんやかんやありまして、ドンドルマは無事です。


第82話「終わりの先」

 嵐と蟹が去ってから数日間、ドンドルマは大騒ぎだった。

 

 まず、【巨龍砲】の前に放置されたクシャルダオラの死骸の処理。

 

 リリトと筆頭ハンターの話によると、クシャルダオラは見知らぬ古龍種らしきモンスターに倒され、その古龍種は超高速で空へ飛び去ったそうだ。

 【巨龍砲】のダメージで弱っていた所を、超高空からの超高速のダイナミック叩きつけで仕留めたそうだ。何それ怖い。【我らの団】団長らの証言もあって、虚言ではないと確証される。

 幸いにも外的特徴は捉えたし、同格の競争相手を討ち取った事で安堵したのか、古龍種はドンドルマを攻撃することなく飛び去った。もし連続で戦う事になるなら間違いなく退避を命じていた。

 

 しかもその古龍種は帰り際にツジギリギザミまで討ち取ったという。何それ強すぎね?

 

 攻撃力の高いツジギリギザミも、防御力が疎かだった事、古龍種が超スピードを持っていた事、その超スピードで全身全霊の体当たりを食らった事により一撃必殺。

 もう色々とぶちまけてグロテスクな死骸になっているツジギリギザミの処理にも、ギルドは手を回している。極限状態であった事もあって、色々と取り扱いが難しいのだ。

 しかし多くのハンターや鍛冶職人の強い希望により、ツジギリギザミの素材は自然還元分と研究用を除き流出が決定。大老殿の管理下、特定の依頼を達成した者に褒賞として与えられるようだ。なお、依頼内容はどれも難易度激高なので、挑む時は相当のランクと覚悟が必要。

 因みに研究用素材は最先端の技術が集うメゼポルタに搬送されるとのこと。量も褒賞分より多い為に優れた武器が出来そうだが、鍛冶職人は太刀・大剣・双剣で意見が分かれて混沌としているらしい。気の早い連中だ。

 

 それにしても皮肉な話である。古龍種によって訪れた危機が、突如として現れた古龍種によって解決するなどとは。

 

 因みに高速で飛行する古龍種は筆頭ハンターの師匠によると「天彗龍」と呼ばれる個体らしい。古い文献で見た姿をたまたま思い出したとか。加えてリリトが拾った、高速飛行の際に甲殻が剥がれ落ちて焼けた物を分析した結果、「天彗龍」なる古龍種の存在は確実といえた。

 これを聞いた【我らの団】、特に団長に至っては拾い物である『灼けた甲殻』を強引に貰い受け、新たな冒険だと張り切っていた。流石は団長、浪漫を追い求める漢である。

 こうして【我らの団】一行は復興作業を一通り終えた後、新たな目標である「天彗龍」の更なる情報を得ようと、ツテがあるという龍歴院へとイサナ船を発進させるのだった。忙しない連中であるが、彼ららしいと言えよう。

 

 尚、オウショウザザミを呼び出したメラルーとアイルーには拳骨をお見舞いしてやったらしい。

 

 結果的にオウショウザザミがツジギリギザミの進行を阻止したとはいえ、下手をすれば二匹の甲殻種がドンドルマ内に侵入し大惨事を引き起こす可能性があった。

 善かれと思ってした事でも事態の悪化に繋がり兼ねなかったとして、ギルドのお偉いさんはリーダー格である青毛メラルーを筆頭とした三匹にキツ~いお説教をお見舞いしてやることに。だが青毛メラルーは頭に出来たタンコブを擦りながら「俺はやったぜ」と満足気だし、こげ茶アイルーは無事なお店を見て非常に喜んでいた。黒メラルーはとばっちりを受けたようなものだが。

 何にしても「終わりよければ全て良し」。無事に生き延びられたし、三匹は仲間を呼んで張り切って街の修繕作業に勤しむのだった。 

 

 お仕置きとドンドルマと言えば、【我らの団】によってお縄になった密猟ハンター達についてだが……唐突に何を言うのかと思うだろうが、これには理由がある。

 ツジギリギザミをドンドルマに近づけないよう刑罰を兼ねて依頼したというのに、よりにもよってドンドルマに近づけさせてしまったのだ。逃げたくなるのも仕方ないだろうが、未知の樹海内に留めておけよって話である。

 当然ながら、レガッダ・ギギレ・ガラン・ドドの4名は罰としてドンドルマ復興の為に強制労働、後に牢獄入りである。ギルドナイトに始末されなかっただけでもありがたいと思いなさい。

 しかしながら死ぬような目にあった事もあってか、思い出し泣きするドドは勿論の事、レガッダ達極悪人達も流石に懲りて従順に働いている……「生きているんだな俺達」と感動しながら。

 この先は牢屋で暮らす羽目になるだろうが、密猟ハンター4人は悔い改めるようにせっせと資材を運ぶのだった。

 

 そしてオウショウザザミはといえば……平常運転である。

 

 ツジギリギザミと対峙し天彗龍から逃げ出した後、ギルドがその行方を追ってみた所あっさりと見つかった。

 遺跡平原で雌のダイミョウザザミ亜種と並んで歩く姿は、ザザミ種に詳しい調査員の観察結果によるとダイミョウザザミの番として成立しているとの事。傷跡まみれになったことでオウショウザザミの生存本能が刺激され、子孫を残そうとしたのだろうか?

 なんにしても種の繁栄は生き物の務め。むしろ食欲と睡眠欲しかないと思われていたオウショウザザミにも性欲があったんだなぁと、報告書を読むギルド職員達はある意味で納得したらしい。

 クシャルダオラも天彗龍も去った今、オウショウザザミはダイミョウザザミ亜種が生息できる地域を転々と回っていくことだろう。防御力の高い特殊ザザミが傍に居ればザザミ亜種も安泰だろうし。

 鬼面族のオトモを携えた二匹の甲殻種は、奇妙な生態系を見せつつ平凡を満喫することだろう。暫くギルドは二匹の観測を続行するとのこと。

 

 

―ここまで聞けば良い話ばかりだろうが、一番の問題はイリーダにあった。

 

 

―――

 

 ハンター・クカルは、ガーグァが引く荷台車の上で頭を抱えていた。

 

 原因は隣で恍惚の表情を浮かべている若き男・イリーダにある。晴天の下、ある物を天に掲げては溜息を零している。

 大型モンスターも通らない道端を進む荷台の上で揺られる二人のハンターと一匹のアイルー、という平凡な光景ではあるが……イリーダが天に掲げている物に問題があった。

 

「なぁイリーダ……それどないすんねん?」

 

「家宝にします」

 

「いや家宝て」

 

 クカルが問いかけるも、視線を逸らすことなく真っ直ぐ見つめているイリーダに呆れたような溜息を零す。

 どうするねんなー、と言っているように頭をガシガシと掻いた後、クカルは意を決したようにイリーダの頬を両手で挟み、無理やりこっちに向けさせる。イリーダは抵抗の素振りもなかった。

 

「あのな、確かにそれ(・・)の価値は計り知れん。うちらハンターにとっちゃ宝も当然や。せやかてな……」

 

 危ない光を宿しているイリーダの目を真っ直ぐと見て話すクカルが、チラリと視線を逸らしてそれ(・・)を見る。

 

 イリーダが両手で挟んで持ち上げている物は、小振りな大剣のようにも見える、刃物の破片だった。

 妖しい光沢を放つそれは研ぎ澄まされた刃であり、まるで巨大な刃物が割れて出来た断片のようである。実際の所これは断片であり、あるモンスターの素材でもある。

 

 その素材の元であるモンスターの名は……。

 

 

 

「いくらなんでもツジギリギザミの刃を盗み取るのはアカンやろ!」

 

 

 

 クカルは叫ぶように怒鳴るが、イリーダは何処吹く風と言わんばかりに手に持った刃―『刀蟹の刃片』を掲げ、太陽の光を反射させながら見つめる。

 

 天彗龍によって粉砕されたツジギリギザミ。その死亡時に最も近くに居た人物は【我らの団】と密漁者達、そしてクカルとイリーダの二人だ。獣人族は除外。

 その死骸を間近で見た彼らの目を盗み、イリーダは近場にあった刀蟹の刃の破片をコッソリと特殊な布で包んで隠し持っていたのだ。布は剥ぎ取りナイフですら破けない、モンスターの素材を包む為の物である。

 さも普通の素材のように振る舞い、ドンドルマの無事を祝う宴の中で平然を装い、用が終わったから別の地方へ向かうと何食わぬ顔でドンドルマを後にしたのだ。

 クカルが気づいたのは今さっき……イリーダが怪しい笑みを浮かべながら布から取り出した物を眺めていたのを見た時だ。

 

 ツジギリギザミの死骸を処理するギルドは、関係者以外がツジギリギザミから剥ぎ取る事を固く禁じた。何せ世界で一匹しかいない特殊な甲殻種だ。殻一枚でも素材としての価値は勿論の事、好事家に売りつければ高値で売れるだろう。

 特に切れ味バツグンの刀のような鋏は、強さを求めるハンター(特に太刀使い)からすれば喉から手が出る程に欲しい貴重品である。その稀少性故に鋏の大半はギルドの管理下に置かれ、メゼポルタに送られる事になるのだが。

 

 そんなツジギリギザミの鋏―――『刀蟹の刀爪』の破片である『刀蟹の刃片』を、掌サイズの切っ先とはいえ手に入れたのだ。イリーダは。

 

「せやからな?ギルドに大人しく報告しぃや。素直に報告すればもしかしてもありえるで?」

 

 そうクカルはイリーダに優しく声をかける。もしかして、とは何を差すかは本人も解らない。口から出まかせだし。

 

 もしこの事がギルドにバレれば、(イリーダ)に重い処罰を下すだろう。ギルドの管理下で素材を手に入れたのではなく勝手に、しかも最重要部位である刃先を黙って持ちだしたのだから。

 例えギルドが手掛ける前に手に入れた極僅かな物だからといっても、希少だからこそ勝手に持ち出す事は許されない。最低でも周囲のハンターの不興を買って暴動が起きるだろう。そしてそうなれば、真っ先に巻き添えを食らうは彼と同伴していた自分(クカル)だ。

 だからこそクカルは「今からでも遅くないから」と言っているように肩に手をかけ、さっさと自白してギルドに返還することを薦めた。欲しいのは痛いほど解るが、持っているだけで何かしらの災いを呼びそうなのに加工しようとすれば絶対にバレる。

 

 そんなクカルの必死さが伝わる眼差しを目の当たりにしたイリーダはといえば……。

 

「バレなきゃいいんですよ」

 

―眩しいまでの清々しい笑顔を浮かべて、平然と応えるのだった。

 

(ダメや、完全に頭がそっちに行っとる……!)

 

 話は終えたとばかりに刀爪の切っ先を様々な角度で見つめるイリーダ。そんな彼を見て頭痛を起こしたように頭を抱えるクカル。

 オウショウザザミVSツジギリギザミの激戦―正確にはツジギリギザミの技―に当てられた事もあったのか、イリーダは狂人ハンターの一歩手前にまで足を踏み込もうとしている。

 話を傍から聞いていた手綱を握るアイルーも、事の重大さを肌で感じてしまったのか、柔らかな毛の下から冷や汗を流している。送り届けたらすぐに退散しようと心に決めながら。

 

 とりあえず彼とは次の街で別れよう。そう決めたクカルであった。

 

 

 

―そんなクカルなど気にも止めずに、イリーダは美しい物を眺めるように刀爪を見つめ続けていた。

 

 

 

 




今回のまとめ

・クシャルダオラフルボッコ
・ツジギリギザミの素材はギルドが管理(欲しければG級★4クエ達成してね)
・我らの団「俺たちの冒険はこれからだ!」
・ドンドル守り隊、拳骨一発でお咎めなしに。
・オウショウザザミまさかの求愛!お相手はダイミョウザザミ亜種。
・イリーダ、刀蟹の素材を密輸

次回、ヤオザミ成長記・完結(の予定)

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