ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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今回もかなり煮詰めました。勢いって大事(苦笑)


第81話「天より落ちし彗星」

―ギュリリリリリィィィィ!

 

「「「ぎにゃぁ~!」」」

 

 オウショウザザミが傷だらけの鋏を交差させるように擦りつけ、不協和音が周囲に轟き、アイルーとメラルー2匹に襲い掛かる。

 思わず耳を塞いでしまった獣人族3匹(ブッチャーは耳栓を装備してたので平気)はポロリと落下、ツジギリギザミが様子見しているのが最大の幸運、と言わんばかりに一目散に逃げだす。

 

「今だニャ~!」

 

「に~げるんだニャ~!」

 

「アタチのお店~!」

 

 スタコラサッサと四つ足でドンドルマに向けてダッシュ!ちなみにブッチャーはオウショウザザミの背に乗ったまま、彼らに向けて手を振って見送っていた。

 そんな獣人族達の事など気にも止めない程、オウショウザザミは焦っていた。数多の鉱石を合成した甲殻にこれ程の傷がついた経験など無かったからだ。

 

 不協和音が鳴りやめばツジギリギザミは再び刀のような鋏を……振り回す事なく、砥石の粉まみれの口に近づけ研ぎ始める。

 焦るオウショウザザミに対し、ツジギリギザミは苛立ちを隠せないでいた。何度斬りつけても倒れない上、幾多もの斬撃で刃が潰れてきたからだ。

 ツジギリギザミは念入りに油と砥石粉で刀を研ぐ。この動作にだけは時間を多く費やしてしまうのが、ツジギリギザミの大きな弱点だった。

 

 オウショウザザミは好機と言わんばかりに鋏を地面に打ち付け、足を高く上げて背面である王冠のような背殻を掲げ、ゆっさゆっさと揺さぶり出した。

 すると王冠のような背殻―ここでは王冠殻と呼ぶ―に生えていた幾多もの棘がツジギリギザミに向かって飛んでいく。これは鉱石に交じって出た護石の塊だ。

 人の頭ほどもある護石棘が霰のようにツジギリギザミに降り注がれるが、コツコツと音を立てて付着するだけで大したダメージにはならない。ツジギリギザミも気にせず、もう片方の研ぎに集中していた。

 

 しかしこの行為はオウショウザザミ特有の物であると、老人ハンター・ジグエがこの場に居れば間違いなく語っていたであろう。

 何故ならこの護石棘は、相手に様々なスキル補正を付与させるのだから。被害者はジグエ・クックラブトリオの計4名。

 

 この世界は未だ謎に包まれており、モンスターの素材から造られる防具や各地で採れるお守りには、ハンターに不思議な力を宿らせる。

 オウショウザザミは様々な鉱石を食しては甲殻に反映させる特異体質を持つ。中でもお守り関連は王冠殻に集中し、装飾のように表面に棘として浮き出る性質があった。

 オウショウザザミはお守りの性質を知ってか知らないでか、護石棘を投擲武器のように体を揺すって発射、敵に付着させランダムにスキル補正を発生させる。

 

 ツジギリギザミに宿ったスキル補正は何か―――それは研ぎ終えた直後に知る事となる。

 

 一通り護石棘をバラ撒いたオウショウザザミは地面に打ち付けていた鋏を抜き、鋏を振り上げたまま突進。時に防御、時に攻撃と臨機応変に対応できる態勢だ。

 ツジギリギザミは研ぎ終えてピカリと光る刀を横一文字に広げ、一の字を描くように鋏を伸ばした状態で再び回転。オウショウザザミは突進を続けたまま鋏を前方に構えガードの態勢に入る。

 横薙ぎに刀が打ち付けられ、空いた方の刀で鋏を正面から突き、動きが止まらないと解ればさらにもう片方の鋏を振り上げ打ち付ける。

 打つ。打つ。打つ。前進していたはずのオウショウザザミが後退る程にツジギリギザミの連続攻撃は凄まじく―――盾としている鋏に更に深く、多く傷が入っていく。

 

 

―――よりにもよって【連撃】かぁーい!

 

 

 なお、上記の台詞はイメージです。モンスターがスキル名と効果を知る由がありませんし。

 

 場合によっては新たなスキルを付与することもある護石棘。それが裏目に、それも最悪な方向に出てしまったようだ。

 攻撃する度に会心率が上がるという【連撃】のスキルがツジギリギザミに付与されてしまったようだ!これはアンラッキィー!

 元より攻撃的で連続攻撃を好んでいたツジギリギザミは知ってか知らずか、前方をカバーするような広範囲の斬撃を次々と繰り出す。

 

 防ぐ手段は鋏だけではない。閉じていた鋏同士に少しだけ隙間を開け、そこから大量の水が線を描くように放たれる。

 水ブレスを真正面から受けてしまったツジギリギザミは顔面(?)に直撃。水の押す力の方が強かったからか、仰向けに転倒してしまう。

 ツジギリギザミの背殻は、グラビモスやバサルモスの甲殻を剥ぎ取り継ぎ合わせた物なのでデコボコしており、横転しやすいからか直に体勢を立て直す事ができる。

 

 だがオウショウザザミはそれを逃さない!幅広い鋏を転倒したツジギリギザミの下に潜り込ませ、そのまま押し出す!

 ゴロンと転倒するツジギリギザミ。すぐさま接近し、また鋏で押し出すオウショウザザミ。また転倒する。押し出す。転ぶ。押す。転ぶ。押す。転ぶ。

 ツジギリギザミはオウショウザザミと違って防御力、ひいては重心を重視しなかった故に意外と軽い。オウショウザザミのパワーも合わさってゴロゴロと転がっていく。

 

「……一方的な展開になりましたね」

 

「かなりアホな展開やけどな」

 

 さー上がってきー、と垂らしたロープを伝って登ってくるアイルー・メラルー達を励ますクカル。

 先程までの攻防がウソのようにオウショウザザミが一方的にツジギリギザミを押し転がしているのを眺めているイリーダは、安心したような不安のような複雑な心情だった。

 

「しかしあのままではいかんぞ。いつ狂竜ウィルスを克服するか解らん」

 

 仁王立ちして腕を組んで見守っている【我らの団】団長は、浮かない顔をして甲殻種らを見下ろしている。その言葉に【我らの団】加工屋も無言で頷く。

 忘れがちだが、ツジギリギザミは未だ狂竜ウィルスに侵されている状態だ。まだ(・・)克服はしていない今のうちに叩かなければ手遅れになる。

 そもそも、ツジギリギザミを遠ざけようとギルドが目論んでいたのは、万が一極限状態になってしまった場合を考慮してからだ。極限状態は抗竜石で対処可能とはいえ、ドンドルマに向かわせるわけにはいかない。

 

 いつ極限状態になるかとハラハラする2人と、甲殻種の決着がつくのかとハラハラするイリーダ、そしてアイルー達が無事に登って来れるかハラハラするクカル。ついでにこの先どうなるんだろうとハラハラしている密猟ハンター4人。

 

 そんな7人(+3匹)を驚愕させる出来事が起こる。

 

 

―ドオオオォォォォン!

 

 

 ドンドルマ中央に響き渡る轟音。そして赤い稲妻。広大な龍属性エネルギーの放出。

 ドンドルマの外を向いていた人達は後ろからの轟音と豪風に目を見開くほどの驚愕を受けるが、即座に団長が振り向いて中央部を見やる。

 

「あいつら……やりやがったな!」

 

 歯を向き出して笑う団長―――リリト達はクシャルダオラに【巨龍砲】をお見舞いすることが出来たのだ!

 いつしか嵐も収まっている。クシャルダオラに大ダメージを与えた影響だろうか?そう考えていた矢先。

 

「……なんだありゃあ?」

 

 ふと上を見上げれば、暗雲から赤い光が降りてくる。それは真っ直ぐと下方向に落ちてくるらしく、近づいているのか徐々に大きくなっていき―――。

 

「ああ!ツジギリギザミが!」

 

「どうしたっ!?」

 

 降りてくる赤い光を他所に、イリーダの叫びを聞いた団長は思わず振り向く。

 ニャーニャーと怯えてくっつくアイルー・メラルーを抱きしめて見下ろしているイリーダと、同じ方向を見下ろしている青ざめたクカル。

 その視線に合わせて団長も下を見れば―――ドンドルマの門前で、ツジギリギザミが両の刀を振り上げオウショウザザミに威嚇しているではないか。

 

 見れば転がしていたはずのオウショウザザミはオロオロと慌てている。どうやら【巨龍砲】の衝撃が響いて驚かせてしまったようだ。

 しかし注目すべきはそこではない。注目すべきは門前のツジギリギザミの容態―――全身に纏う紫色のオーラにあった。

 

「いかん!完全に極限状態になっとる!」

 

 よりにもよってこの段階で極限状態になってしまうとは。

 狂竜ウィルスを完全に克服したツジギリギザミはドス黒いオーラを全身からあふれ出し、いつにも増して禍々しい切れ味を醸し出す刀を振り上げている。

 その迫力たるや、同じく狂竜ウィルスに感染し克服したことのあるオウショウザザミから見ても、久々に恐怖を覚えさせるほどであった。既に逃げ腰だし。

 

 ツジギリギザミは今度こそオウショウザザミを斬り殺そうと刀を交差させ、大きく飛び上がる。

 そのまま刀をオウショウザザミに向けて振り下ろさんと、刀を振り上げ一気に―――。

 

 

 

―――刹那、団長達の真上を高速で飛行する何かが横切り、遅れて暴風が巻き起こる。

 

 

 

 団長らが高速で何かが通り過ぎたと察知し振り向いた頃には、飛びかかろうと高所に跳び上がったツジギリギザミと衝突する音が響いた。

 団長らが衝突音の正体を知るべく振り返れば、既にツジギリギザミは遠くへ吹っ飛んで転げ落ちていた。またしても正体を見失ってしまったようだ。

 

「―――上!」

 

 優れた感覚を持つイリーダが直感的に上を見上げ、遅れて団長らも見上げる。

 暗雲が広がる上空では、先程団長が見た赤い光の筋が弧を描いて伸び、それが起き上がろうとしていたツジギリギザミに向かっているように近づいていく……もしかしなくても直撃コースだった。

 

―ドゴォンッ!

 

 再び訪れる衝突音―ただし重くて鈍い嫌な音―と同時に、ツジギリギザミの身体は地中にめり込み、それどころかあまりの運動エネルギーにより地面を抉りつつ前進していった。

 元々防御力に優れているわけでないが、極限状態により異常に強化された甲殻が仇となり、延々と土色の線を描きつつある。

 勢いが止まる頃にはモウモウと土煙が立ち込めるも、突如として煙から飛び出た存在により瞬時に吹き飛び、地面に埋もれ無残な死骸と化したツジギリギザミが露わになる。

 

 しかし彼ら人間が注目したのは、ツジギリギザミの死ではない―――天空へと昇る古龍種(・・・)の姿だった。

 

 まさに彗星のように現れ彗星のように天へ行くその姿を最も目に焼き付けたのは、【我らの団】の団長であった。

 銀の甲殻。矢尻のようなフォルム。奇妙な形状をした翼。尾を引く紅いエネルギー。みるみる内に遠ざかる圧倒的スピード。

 

 

 

 後に彼は、古龍種【天彗龍バルファルク】の存在を知ることになる―――この時はまだ、新たな冒険の始まりを予感するだけだったが。

 

 

 

 ちなみにオウショウザザミは、その彗星から逃げるように何処かへ走っていた。




バルファルクさん「さらに混乱を呼ぶと思った?助けてやったんだよ文句あっか?」

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