この小説読むの初見っていう方もいるはずなので、できれば楽しみはとっておいてください。
今回のターゲットはアイルーの群です。可愛いよねアイルー(笑)
10/31:文章修正(段落付け・文章一部改定など)
2014/6/26:誤字修正。ご指摘ありがとうございました!
もふもふの毛皮、可愛らしい猫耳、二本足で立つ小さな体躯、ぷにぷにの肉球。
そう、我らハンターが愛する頼もしいマスコット、獣人族のアイルーである。
彼らは人間並の賢い知能を持ち、集落を築き、互いにコミュニケーションを取ることができる。
同じくメラルーという種族もいるが、彼らも正確にはアイルー科に属しており、つまりはアイルーに違い無い。
その証拠に、彼らも人間同様の器用さと賢さを持ち、集団行動で生き延びてきた種族だ。
だが若干の血筋の違いか、悪戯好きな性格が災いし、常に迷惑な行動を起こすようになったというわけだ。
モンスターが蔓延る自然に集落を築いて生きてきた辺り、彼らは人間以上に逞しいのかもしれない。
可愛らしい外見をしていても、彼らも自然の世界に生きるモンスターには違いない、ということだろうか。
さて、そんなアイルー達の行動範囲は広い。草木が生える森ならともかく、彼らは驚くべきことに砂漠にすら生息している。
というのも、砂漠周辺に住むようになったのは、実は人間という存在が現れるようになってからである。
元々アイルー達には人間に近い言語がある程度発達しており、話し合いには困らなかった。
―そんなアイルー達と人間との関連性……それは簡単に言えば売り手と買い手という間柄だ。
人間達は砂漠に眠る化石や鉱石などを求めており、それをアイルー達が採取し、対価として食料や生活品を渡す。
小さな村に住む人々にとって、ある意味でハンター以上に自然の脅威を知っているアイルー達は頼りになる存在だ。
アイルー達にとっても、自分達には出来ない調理方法で作った食料は魅力的で、それに見合った対価を払うのは当然だと思っている。
ハンターのようにモンスターは追い出せないが、物々交換という点に置いてはハンター並の活躍を見せている。
人間とアイルーの間柄は、こんな昔から築かれていた、ということです。
そんな砂漠出身のアイルー達の今日の主なターゲットは、サボテン。
だが、ただのサボテンだと思う無かれ。サボテンは保水性が高い植物で、水が豊富に含まれている。
砂漠では水こそが命。村人もアイルーも、水の確保にサボテンを利用することは多いのだ。
アイルー達は棘に注意しながらサボテンを根元から折り、水が漏れないように布で縛る。
取り過ぎて生えなくなることがないよう、確保する量は一定数に留めておくのが礼儀だ。
一匹だけドジなアイルーが刺さった棘で泣き叫んでいるが、皆して大方終わったようだ。
ちょっと茶色が混ざったアイルーが他のアイルー達に指示を送り、移動する。
どうやら彼が今日のリーダーのようで、サボテンを背中に抱えた他の5匹が彼の後を追う。
―丁度いいから、あそこで休憩するニャー。
まだアイルーが人語を完全にマスターしていない頃なのか、猫語(?)で告げる茶アイルー。
やっと休めると思ったのか、隊員達(ドジアイルーだけは未だ棘が抜けず困っている)は溜息を零す。
砂に半分だけ埋もれている頭蓋骨に出来た影の下に集まり、アイルー達は座り込む。
皆が休憩する中、茶アイルーだけは、警戒の為か頭蓋骨の上に陣取って周囲を見渡していた。
お昼休みのようにのんびりしているアイルー達がいる中、異変は起きた。
グラグラと地面が揺れ出したではないか。アイルー達は揺れ出した地震に慌てるが、それを茶アイルーが制した。
―心配しニャくていいニャ。これはきっと……。
茶アイルーはその地震の正体を知っているのか、しっかりと頭蓋骨にしがみ付いた。
そしてその頭蓋骨がゆっくりと浮かび上がり、ある姿が地中から現れた。
その正体を知った途端、アイルー達は、なーんだ、と安堵したではないか。(ドジアイルーは砂を被ってしまった)
その正体は、アイルーでもご存知のアラムシャザザミであった。
なるほど、ボルボロスの頭蓋骨にしては大きいと思ったら、彼の物だったか。
アイルー達は起き上がったアラムシャザザミを見ても逃げ出すそぶりは無い。
というのも、この鎧蟹は砂漠周辺に住まうアイルー達にはお馴染みで、危害さえ加えなければ安全だと理解していた。
いやむしろ、賢いアイルー達にとって、アラムシャザザミは便利な存在だったりするのだ。
起き上がったアラムシャザザミは、食事時だったのか、その大きな足を動かしてゆっくりと歩き出す。
それを見計らった茶アイルーは、皆乗るニャ、と手を振って登ってくるように部下に伝える。
隊員アイルー達は躊躇せずに頭蓋骨に跳び移る(ドジアイルーは不運にも足にしがみ付いてしまった)。
そのまま各々が頭蓋骨の上で寛ぎ始め、茶アイルーに至っては頭蓋骨の頂でデルクス釣りを始めている。
このアラムシャザザミ、お昼頃になると食事所であるオアシスへと向かう事が多い。
それをアイルー達は利用して、アラムシャザザミに乗ることで移動を楽にしたのである。
まるで馬車のような扱い方だが、そんな些細なことを気にするようなアラムシャザザミではない。
一匹の鎧蟹と7匹のアイルー達(ドジアイルーはデルクスに襲われている)の旅路は、ゆっくりだが安全なのだ。
やっと辿り着いた砂漠のオアシス。日の光を避けたこの地は、休憩するにはもってこいだ。
アラムシャザザミが好物のキノコを食しているのをいいことに、アイルー達はヤドから跳び降りて地面に着地。
水分補給も兼ねて再度休憩に入ることにした(ドジアイルーは疲れて倒れこんでしまった)。
しかし休んでいるのも束の間。襲撃者は突如として現れた。
アイルー達の野生の勘が働き、すぐさま大きな岩の陰へと避難する(疲れていたドジアイルーも必死に着いてきた)。
大きな影を作って、それはアラムシャザザミの頭上から舞い降りてきた。
その正体は雌火竜リオレイアで、ゆっくりと地面に着地した後、威嚇を込めた咆哮を挙げる。
だがアラムシャザザミは食事に忙しく、リオレイアの相手をする気が無いらしい。
黙々とキノコを食べ続けるアラムシャザザミを前に、無視されたリオレイアは軽く怒りを露にした。
そっちがその気ならばと、すうっと息を吸い込み、その息に火炎を加えて吐き出す。
リオレイアが得意とする爆撃ブレスが、アラムシャザザミごと放射状に広がっていく。
アイルー達は物陰に隠れているからよかったものの(ドジアイルーの尻に火の粉が飛んだ)、アラムシャザザミは避けようとしない。
―いや、一応は効果があったようだ。
いくら熱に強くとも、鉄で出来た身体に高熱の炎を当てれば急激に熱くなり、驚きもするだろう。
アラムシャザザミはびっくりしたようにその場で暴れ出し、熱した身体をオアシスに飛び込ませて冷やす。
じゅうっという嫌な音を立てて落ち着いたアラムシャザザミを前に、リオレイアは更なる追い討ちを掛ける。
ドスドスと陸の女王に相応しい力強い脚で地面を蹴り、その巨体で体当たりを仕掛けてきたのだ。
しかしこのアラムシャザザミは、妙に好戦的なボルボロスの突進を何度も受けてきた。いくらリオレイアの方が大きいとはいえ、その程度の体当たりではびくともしない。
むしろ当たり所が悪かったのか、突進してきたリオレイアが痛そうに悶え出したではないか。
ここでアラムシャザザミの反撃。倒れていることをいい事に、大きな鋏を両方とも振り上げ、一気にリオレイアに叩きつける!
叩きつける音と骨が軋む音が響いた中、リオレイアは気絶。どうやら頭を強く打ったらしい。
ぴくりとも動かないリオレイアを前に、アラムシャザザミは終わったと悟ったのか、ゆっくりと移動を開始する。
隠れていたアイルー達は拍手喝采を送りながらその後を追う(ドジアイルーは倒れたと同時にアイルー達に踏まれてしまった)。
さすがはアラムシャザザミだニャ、と茶アイルーは賞賛の言葉を呟いた。
そして夕暮れ時。腹いっぱいになったのか、あちこちを食べ歩いていたアラムシャザザミは地中へと潜り出す。
その様子を眺めてから、夕日色に染まったアイルー達は自分達への集落へと帰っていく。
収穫も十分取れ、安全に一日を送れ、今日もこうして無事に過ごせた(タンカで運ばれているドジアイルー以外は)。
明日も頑張って働こう。それが茶アイルーの、既に居ないアラムシャザザミを見て思ったことだった。
アイルー達は賢く、人間以上に野生を知っている。そんなアイルー達にとって、アラムシャザザミは便利な用心棒兼乗り物として重宝していた。
野生の草食種も、人の手が加われば車を引く便利な家畜として生まれ変わることができる。
将来ハンターの敵になりかねないアラムシャザザミも、今後によっては人々から様々な扱い方をされるかもしれない。
だが、未だハンターに詳しい生態を知られていないアラムシャザザミにとって、今は関係なかった。
とりあえず、アイルー達がどう扱おうとも、彼はただ日々をいつも通り過ごすだけ。
それだけが、彼の、いや全てのモンスターに言える野生の知恵なのだ。
ちなみに、リオレイアは気絶していただけで、ちゃんと生きてました。
―完―
ごめんよアイルー君。可愛い子にはついつい意地悪したくなっちゃうんだ(苦笑)
ついにアイルー達に乗り物扱いされてしまったアラムシャザザミ。
こう見えて結構強いんですよ?暴れたりもするんですよ?モンスターなんですよ?
……ハンター相手に出来るか不安になってきました(苦笑)