ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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昨日、コツコツ頑張って書いた第61話を間違えて消去してしまった。凄いショックだった。
おかげで今日は急ピッチで書き上げる羽目になってしまいました……いつも通りだ(汗)

ちなみにオウショウザザミはオスです。

2/8:誤字修正


第61話「繁殖期の脅威」

 繁殖期。それはモンスターと生態系を最も警戒視しなければならない期間。

 人間でも言えることだが、恋の季節とはいつ訪れるか解らない上に複雑な事情が絡んでくる。

 経験を重ねたハンターなら一度か二度は繁殖期の恐ろしさと狙い目を理解している事だろう。

 

 まずモンスターが繁殖するという事は、モンスターの数が増えるということ。

 増えるといっても子を宿すのではなく、雌と雄が番いとなるべく同種の生物が勢揃いするのだ。繁殖はその後。

 小型モンスターなら生態系のバランスからして大した問題ではないが、問題は大型モンスターにある。

 

 単純に人間の脅威が増えるから―――というだけならどれだけ簡単な話で終われるだろうか。

 

 まず1つとして、繁殖期の大型モンスターは揃って気が立っている。

 発情期とも言えるこの時期は同種の縄張り争いや恋争いの事もあって精神的にイラついており、大人しい種でも攻撃的になることもある。

 特に旧砂漠の夜間に出没するディアブロス達は解りやすい程に怒りやすくなっており、他種処か同種ですら容易く攻撃を仕掛ける事も。

 己の力量を測りきった熟練のハンター程それを知っているが故に、繁殖期だけはクエストを受注しない者も多い。

 

 気が立っているのは性欲だけではない。食欲にも起因している。

 大型モンスターは大抵が大食いだ。繁殖しようと集まりに集まった彼ら―それも同種―が一箇所に集まればどうなる?当然、食べ物は減っていくだろう。

 食性が同じであるが故にそればかりが減っていき、やがて食糧不足となってさらにイライラが募っていくという悪循環。

 ディアブロスなんかサボテンのみだ。縄張り争いに恋争いに食物争いの三つが繰り広げられるのは必然。

 おかげでディアブロスの連続狩猟クエストは上位以上でなければ受注できない程に危険性が高まっている。

 

 逆に日中の旧砂漠に関するクエストは多く発注され、それに比例するかのように受注するハンターも増えている。

 ドンドルマが不足していたG級ハンターを、ロックラックからやって来たG級ハンター・クカルと商人ランボルの伝手で補強したからだと思われる。

 

 その日中に多く発注されているクエストが……ダイミョウザザミ原種と亜種を多く狩る連続狩猟クエスト【ザザミ大集結!】だ。

 これは危険度がディアブロスよりも低いというのもそうだが、もう1つ理由がある。

 環境不安定と書かれているが、かの噂の甲殻種が日中に多数目撃されているからであった。

 

 

 

―――

 

 旧砂漠の日中は甲殻種が犇き合っていた。

 

 砂地には魚竜種の代わりにヤオザミがウジャウジャおり、至るエリアで2匹以上のダイミョウザザミが争いあっている。

 あるザザミは求愛行動を、あるザザミは縄張りを主張するように鋏を広げ、あるザザミらは餌を求めて体をぶつけ合う。

 幸いなのはザザミ種が雑食性である為に、餌の奪い合いが比較的少ない事か。摘める物なら何でも食べるその食性が羨ましい。

 

 そんな中、異色を放つ蟹が1匹居た―――オウショウザザミである。

 

 太陽光をギラギラと反射する虹色の甲殻に身を纏う、通常種より一回りも二回りも大きな盾蟹の変異種。

 その巨大さと光具合は甲殻種でありながら別種であるかのよう。盾蟹の殆どはオウショウザザミから遠ざけていく。

 それは雌も同様。一応オウショウザザミは雄で、大きさだけで見れば求愛を受け入れる事間違いないだろうが、悲しき事に彼女らは別種と捉えたようだった。

 

 大抵のザザミから遠ざけられている当人、いや当蟹はといえば。

 今しがたアプケロスを鈍器と化した鋏で殴り飛ばし、その死骸を鋏で引きちぎって食べている最中だった。

 

 現状のオウショウザザミは絶賛肉食フィーバー中である。

 鋏で摘めるような大抵の食物は他のザザミに取られてしまった為、こうして自ら狩りをすることが増えた。

 むしろ日中はザザミばかり増えている為か、大型の肉食モンスターに襲われることなくゆっくり食べられるのはオウショウザザミにとっての利点である。

 相変わらずの食い気だが、オウショウザザミは夜襲ってくるディアブロスから身を守る為にも栄養の摂取は必要不可欠だ。

 

 隣ではチャチャブーことブッチャーが生肉を引きちぎり、いつ作ったか解らないお手製の肉焼き器で肉を焼いている。

 ブッチャーもヤオザミやダイミョウザザミに食物を食われた立場らしく、最近はこんがり肉がマイブームのよう。

 以前なら匂いに釣られてガレオスやドスゲネポスに襲われる事もあったが、今は気軽に鼻歌まで歌って焼ける程。

 

「キ~♪」

 

―上手に焼けましたー!

 

 どっからかノリの良い声が聞こえたようだが、気のせいということにしておいて欲しい。

 焼きあがったこんがり肉を食べようと仮面をチョイと上げて(もちろん中は見えない)食べようとし―――。

 

 

―ドッゴォン!

 

 

 地中から出てきた1対の角に吹き飛ばされていきましたとさ。

 

 こんがり肉を持ったまま天高くブッチャーが舞う中、ブッチャーを突き飛ばした何かがゆっくりと地中から這い出てくる。

 それはディアブロスの頭蓋骨……それを背負っているダイミョウザザミ亜種であった。

 通常よりも鮮やかな青紫色をしているダイミョウザザミ亜種は、オウショウザザミには及ばないが通常よりは大きかった。

 

 そんなザザミ亜種は地中から緩慢とした動きで這い出てくる。すぐそこにはオウショウザザミが居るが、彼は気にせず餌を食べている。

 対するザザミ亜種もオウショウザザミを気にしている様子は無い―――他のザザミ種と違って。

 そしてザザミ亜種はそのままノンビリとした足取りで日陰へ向かい、壁を背に向け昼寝を始めてしまった。

 

 どうやらこのザザミ亜種は食事よりも睡眠を多くとることでエネルギーを節約しているらしい。

 何せこの大きさだ。餌が十分に取れない以上は食欲を満たすのは難しいだろうし、無駄に体力を消費するわけにいかないのだろう。

 とはいえ、先ほどの緩慢な動きを見る限り、元からノンビリ屋なのかもしれないが……まぁ良いとしよう。

 

 スヤスヤと木陰で眠っているダイミョウザザミ亜種をチラリと見た後、オウショウザザミは再び鋏を動かして食べ続ける。

 縄張り意識の薄いオウショウザザミとしては、攻撃を仕掛けず大人しくしているのであればどうでもいい話だ。

 

 

 

―――

 

 そんな2匹の甲殻種を遠くの物陰から観察している人物が居た。

 

「あのダイミョウザザミ亜種は?」

 

「どうやらメスみたいだね」

 

「結構デカいサイズだな……」

 

「このまま放っておいた方が良くない?」

 

「ようやくオウショウザザミを見つけたんだ。放っておくのは惜しい」

 

「……なぁ、空から何かが降ってきているんだが」

 

「あ?」

 

 

 複数の人影は空を見上げ―――絶句した。彼らの上空からチャチャブーが降ってくるのだから。

 

 

 

 この後、地面に向かって落ちて来たチャチャブーに混乱した彼らは声を上げ、2匹の甲殻種の注意を寄せてしまう事になる。

 

 

 

―続―




果たして人影はハンターか。それとも密猟者か。それとも別の何かか。次回を待て!

そしてブッチャーをどうやったら空気にならずに済むのだろうか?(汗)

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