ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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当作品は「ヤオザミ成長記」とありますが、ここんとこハンターや周りの話が中心になってます。
一応その中心には蟹がいるのですが……いつかタイトルどおりの状態に戻したい所です。
まぁ今すぐ変えられるわけじゃないんですがね(汗)しばらく我慢してください。

1/20:誤字修正


第29話「朗報」

 噂とは浸透しやすく、そして広まりやすい。

 人混みというネットワークは、下手をすれば正規の情報公開よりも伝達力に優れ、瞬く間に人々に伝えられていく。

 特に、世界中を回り、多くの人々と交流し情報を交換する、ハンター達のネットワークは凄まじい。

 

 故に、沼地にオニムシャザザミが出現したという噂が、行商人や調査隊に広まるのはそう長くない。

 オニムシャザザミがショウグンギザミ特異個体を沼地から追い出したという事実は、情報として逸早くドンドルマに伝えられた。

 ついでに言えば、オニムシャザザミのヤドに奇妙なナリの奇面族が居るという噂を、面白おかしく伝えている。

 

 そして極めつけの特ダネは―――オニムシャザザミが負傷しているということ。

 その情報はハンターギルドだけに留まらず、キャラバンや商人、そしてハンター全てに伝えられ……いや『漏れてしまった』。

 本来なら優先されるべき真偽を置いても、モンスターの素材を糧としている商人やハンターにとって、その情報は宝を掘り当てることよりも貴重だった。

 

 ここで誤解を招かないよう言っておくが、この情報を求めている彼らは討伐を目的としていない。

 実はアラムシャザザミとして新大陸に生息していた頃から、ハンターギルドはさほど危機感を感じておらず、大きな対処はとっていなかった。

 ある意味で知名度の高いモンスターでありながら何故軽視しているのかといえば……そのモンスターの性質を考えれば当然だろう。

 

 食欲はイビルジョー級で雑食性――されど生態系を狂わすようなことはしない。

 

 寒冷地帯を除くあらゆるフィールドに出没する――されど縄張り意識も敵意も持ち合わせていない。

 

 防御力は恐らく全モンスター中トップクラス――だからこそ並大抵の攻撃は通用せず、攻撃されても無視する。

 

 極めつけはその性格――食いしん坊で暢気な、よほどの事でもない限り攻撃してこない大人しい奴。

 

 上記の特性がある以上、実力の高いモンスターでありながら、危険度はランポスよりも低いとされている。

 もはやモンスターのようでモンスターでない変わった奴だが、それでも迷惑をかけるときがあるので、撃退依頼もいくつかは出ている。

 むしろ行商人の間では、他のモンスターに襲われた時にオニムシャザザミを盾にする事で難を逃れられるとして、ありがたい存在と伝えられている。

 オニムシャザザミ撃退クエストがあるが、それは楽土の調査や恵みが目的だからだ。そもそも「撃退」であって「討伐」ではないし。

 強いて言えば、キノコ菜園や農村に近づく彼を追い返す簡単なクエストぐらいならある。受けるのは熟練ハンターぐらいだが。

 

 それでもハンター達は、こぞってオニムシャザザミに関するクエストを受けようと、常に目を光らせている。

 その理由は、有名なモンスターを倒したという名誉や征服感ではなく……素材そのものにあった。

 

 非常に頑丈な甲殻種として知られているオニムシャザザミだが、その素材が広く出回っていることはない。

 上記でも申し上げたように、その甲殻はとてつもなく頑丈で、加工どころか剝ぎ取りですら困難とされている。

 過去二度に渡り大量の殻を手に入れているが、一度目は研究資材としてギルドが、二度目は討伐したハンター四人が大半を独占している。

 現在は職人達の苦労が結ばれオニムシャザザミの素材を用いた武器が作られており、よりその貴重度が増している。

 

 そんな貴重な素材ではあるが、手に入れる方法は討伐だけでなく、なんと採掘でも出来る。

 甲殻にヒビがあった場合、そこへピッケルを打ち込めばヒビが広まり、甲殻の一部を採取する事が出来る。

 オニムシャザザミを遠ざける仕事を完遂するのはもちろんのこと、運がよければ採取しようと狙うハンターが多いのだ。

 

 

―さて、勘の鋭い方もそうでない方も、もうお気づきだろう。

 

 

 情報によるとショウグンギザミ特異個体との戦闘が激しく、元気であるものの、至る箇所にひび割れが生じているらしい。

 このひび割れというところがポイントだ。甲殻を割るほどの強敵への脅威ではなく、幸運を掴んだようなチャンスとして。

 その情報を逸早く手に入れ、チャンスに変えようとしているのが、意外なことに商人だ。

 モンスターの素材は武器や防具だけでなく、商売としても使われる。硬い素材が必要となることもあるのだ。

 防御力の高さに定評のあるオニムシャザザミの甲殻となれば、その硬度は太鼓判物間違いなし。

 研究し終わった故にギルドからの規制もなく、上手くすれば宝の山に変えることも夢ではない。

 

 

 

―故に、ドンドルマやメゼポルタでは、オニムシャザザミの依頼と噂で溢れかえっていた。

 

 

「おら!そこどけチビ!」

 

「ひぇっ!?」

 

 後方から慌しく走ってくるグラビドDシリーズで覆われた男の声を聞き、慌てて其の場を離れる小柄な少年。

 チビと呼ばれるには充分な背丈である彼を跳ね除けると、我先にとクエストボードに向けて走り去っていった。

 周囲を見渡せば先ほどの男のように急いでいるハンター達が大勢いる為、それらから逃げるようにして其の場を離れる。

 

「ひゃ~……やっぱ都会はおっかねぇとこだベな」

 

 妙な訛りを口走る、頭以外をゲリョスSシリーズで覆った、一般の男性よりこぢんまりとしたこの男。

 先ほどチビと言われても仕方ないほどに背丈が低く、下手をすれば14~15歳ほどに見えるが、これでも22歳だ。

 スポーツ刈りされた黒い髪に丸顔といった体力系な顔をしているが、その表情には落ち着きが無い。

 

「ガラダ、こっちだよ」

 

 ふと背丈の低い少年―ガラダの名を、聞き慣れた声が呼んできた。

 その声を頼りに視線を彷徨わせれば、横長のカウンター席に座っている二名のハンターの姿があった。

 

 オウビートSシリーズとハピメルSシリーズを装備している男女だが、頭部は外して脇に置いてある為、素顔は遠くからでも解かる。

 一人は何故かチョンマゲをしている黒髪の若い男で、もう一人は紫の豊かな髪をした妙齢の女性だ。

 ガラダは仲間であり友人である彼らを見てほっと息を撫で下ろすと、せこせこと逃げるようにしてそちらへと向かう。

 二人はガラダよりも背丈が高いが、20代としては普通の背丈に分類できるので、ガラダが低いだけと判断できる。

 

「まだドンドルマには慣れませんか?」

 

 柔らかな微笑を浮かべて女性が尋ねるが、ガラダは恐縮しているように首を素早く振る。

 

「やっぱ、おらのような田舎もんには合わねぇみてぇだ」

 

 しょんぼりと下を向くガラダを見て、青年は首を傾げる。

 

「最初ここで会った時に比べたら随分マシになったと思うけどねぇ…?」

 

 そんなことはねぇですだ、とガラダは慌てて青年の言葉を否定する。

 ここまで来ると病気だな、と青年が軽く笑うが、女性が軽く膝で小突いて忠告したのでやめた。

 もう一人の仲間が居ればそんなガラダを叱咤して励ましていただろうが、今はとある理由で居ない。

 こんな時こそ彼が居て欲しかったのになぁ、と青年は頬を掻く。

 

 青年フィジクと女性ラメイラがガラダと出会ったのは、丁度一ヶ月前の事か。

 メゼポルタを中心に、フィジクはヘヴィボウガン、ラメイラは片手剣を持ってそれなりの活躍をしていた。

 そこそこの依頼を受注できるようになり、斬撃だけでは苦戦するからとハンマー使いを探していた。

 そこで出会ったのが……田舎者だからとガラの悪いハンターに絡まれたガラダと――もう一人の少年だった。

 

 その少年はとても喧嘩っ早い上に負けん気が強いので、絡まれていて困っていたガラダを助けようとして暴れた。

 複数の不良ハンターを圧勝し、ガラダを叱咤しつつも励まし、お互い田舎モンだからと仲良くなった。

 そんな二人を暖かい目で見ていた所、背中に背負っている狩猟笛とハンマーを目撃し、二人をスカウト。

 

 

 そして今に至る―――ちなみにその少年はといえば。

 

 

「うぉーい!」

 

 周囲が迷惑しそうな大声をあげ、ぶんぶんと豪快に手を振る、ギザミSシリーズを纏う少年が現れた。

 ツンツンした赤髪に、喧嘩慣れしているのか、整った顔つきには数多くの古傷が残っている。

 背には狩猟笛を背負っており、もう片方の手には紙束を丸めたようなものを握り締めていた。

 

 そんな少年の怒号のような呼び声にびくりと身を震わせるガラダと、またかよ…と言わんばかりに首を振るフィジクとラメイラ。

 狩猟笛を背負っている彼こそが、ガラダと共に仲間になったハンター・バルデトである。

 

「バ、バルデトさ」

 

「さん付けはよせよガラダ!そーナヨナヨしてんなって!」

 

 ハンマーを背負っているということを考慮していないかのように、ガラダの背中をバシバシと叩くバルデト。

 豪快に笑いながら強めに叩いている彼にとっては励ましなのだが、相変わらず慣れないのか、ガラダは焦り気味だ。

 そのやり取りは四人で組む頃から変わっていないので、傍観しているフィジクとラメイラは苦笑いするしかない。

 それでいてパーティとして成り立っている上、険悪にならずむしろ仲良しなのだから、不思議なものだ。

 

 そんな中、ところで、とバルデトは二人組みに視線を向ける。

 

「それよりよ、三人ともこれ見ろよ、コレ!」

 

 脇にガラドの頭を挟んだままテーブルに向かう(ガラダはキツそうだが加減はされているようだ…)。

 なんだなんだと二人は席を寄せ、ガラダはなんとか解放してもらい席に座る。

 バルデトがバンと音を立てて紙を卓上に広げると、三人はそれを見てみる―――どうやら受注内容が記された用紙のようだ。

 

「どれどれ、次はどんなクエストを……っ!?」

 

「チョ、バルデト、これ……!」

 

「ふふん、驚いただろ?」

 

 驚愕するフィジクとラメイラを見て首を傾げるガラダを余所に、バルテドは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

 

―そのクエスト内容自体は簡単なものだが、注目すべきは、主なモンスターの一覧である。

 

 

―その中でも、特に注目を集めるモンスターとは……。

 

 

 

 

「とうとう手に入れたぜ!オニムシャザザミが出てくるクエストをよ!」

 

 

 

 

―完―




ピクシブ版よりも年齢を上げました。若すぎたので(汗)
そういえば漫画「モンスターハンターエピック」の主人公といい、ハンターって何歳ぐらいがメジャーなんでしょうかね?
設定とかよく見ていないから言えることなんでしょうが(汗)

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