お気に入り件数は徐々に増え、皆様から毎度の如く感想や評価を頂く日々……感動しまくりです(涙)
皆様、こんな蟹が主役の小説を読んでくれてありがとうございます!これからも頑張ります!
とりあえず、今回も楽しんでいただければ幸いです。どうぞ。
オニムシャザザミとハンター三人組が激突しようとしている頃、オニムシャザザミのヤドの中では、ある珍騒動が幕を降ろそうとしていた。
「……ふ、貴様なかなかやるの」
「キ、キィ……」
土埃でボロボロになった王女と、奇面族のブッチャーが倒れている。王女の顔はボロボロで、しかし満足そうに笑みを浮かべ、隣で倒れているブッチャーを横目で見る。
ブッチャーのイャンクックの嘴で出来たお面も少々ヒビが入っているが、今はすっかり大人しくなっている。
物の奪い合いと争奪戦を繰り返し、ついにお互い体力が尽きてしまったからだ。
それでも二人は満身創痍と言った感じでデコボコする床に突っ伏し、小さく笑っていた。
「貴様の右パンチ、中々効いたぞ」
「キキー、キィキキキ(姐さんのドロップキックもな)」
王女は大層ブッチャーを気に入り、ブッチャーに至っては王女を『姐さん』と呼ぶ程。
言葉を交わせぬと解かっていても、互いに語るのをやめなかった。
「しかたあるまい。貴様に免じてモノを漁るのをやめてやるか」
「キー(これ、返すでヤンス)」
そしてついに、あのワガママの代名詞とも言われた王女が諦め、奇面族相手とはいえ自分から物を返すという行動に移した。
ブッチャーも手に持っていた片手剣の盾を王女に手渡す他、奪ったガレオスイカや、被っていた替えの下着など、王女の物と思われるものは全て返品する。
そして王女は其の場で座り込むとブッチャーと目線を合わせ、互いにじっと見つめあう。ブッチャーの目は解らないが、王女は真剣に相手を見つめていた。
「……貴様とはよい友になれそうじゃな」
「キキィ(人間、お前悪い奴じゃなさそうでヤンスね)」
そう言って、二人は小さな手を差し出し、きゅっと握手を交わす。
―今ここに、奇面族と人間の壁を越えた友情が誕生したのであった……。
「さて、そんなこんなで色々とあったが」
ところ変わって、王女とブッチャーは頭蓋骨のとある穴から顔を出し、周囲を見渡していた。
ズシン、ズシンと震動が体と鼓膜を襲うが、それでも景色を目の当たりにすることは容易い。
「一体どこへ向かっておるのかのぉ?」
「キィ」
オニムシャザザミの左右を谷が囲んでいるが、それだけではわからない。自分が砂漠に向かっていたルートとも違うようだ。
二人が今顔を出しているのは頭蓋骨で言う目の部分なので、オニムシャザザミの前を見ようにも見えづらいのだ。
すると王女は、なんと穴から身を乗り出し、ロープを命綱にしてヤドに登り出したではないか。
小さい身体をしている王女がそんな大胆な行動に出るとは予想しなかったのか、ブッチャーが驚いている。
それでも王女は、幼少の頃より遊びと家出を繰り返したが故の体力を以って、するすると上へと登っていく。
「ほぉ、絶景かな、絶景かな!ちょっと怖いが……」
「キキィ~(危ないでヤンスよ~)」
ブッチャーが慌ててよじ登る中、王女はヤドの天辺にまでたどり着くことに成功。
ロープを身体とヤドの尖った部分に巻きつけ、体を固定。サバイバル知識が成す技である。
「む……おお、あそこに見えるは我が王国ではないか!」
「キ?」
ようやっと隣にたどり着いたブッチャーが何事かと首を傾げる。
王女が何を見つけたのかといえば、オニムシャザザミの行く先にある物……それは彼女の住処である王国だったのだ。
もっとよく見えるようにと王女は背負っていたリュックから双眼鏡を取り出し、その先を見る。
ふと双眼鏡で見つけたのは、巨大なタルを道の真ん中に置く三人の影。彼らの装備や武器を見る限り……。
「あれは……ハンター!?うおぉぉぉ!生のハンターを見たのは始めてじゃ!」
双眼鏡を目につけたまま王女は大はしゃぎ。その様子にブッチャーはビクっと驚くが、それでも王女は歓喜を抑えられなかった。
実は王女は王国を出てからオニムシャザザミに出会うまで、一度たりともモンスターにもハンターにも、王国で働く人間ですら遭遇していない。
王女のとんでもない程の豪運と狡賢さが為す技なのか、王国から忍び出て街へ降り、行き着けの店から旅の支度を買い、まんまと脱走したのである。
そして道中は危険なモンスターと遭遇しておらず、捜索隊にもガレオス討伐中のハンター達にも見つかることなく、オニムシャザザミの所へ辿り着いた。
―ゲネポスが近づけばガレオスに襲われ、ガレオスが近づけばディアブロスに襲われるという謎の不運があったが、彼女が知ることはない。
そんな彼女の幸運や知恵を持ってしても、一度たりとも本物のハンターに出会ったことは無い。精々、絵や写生でしかその姿を見たことが無いのだ。
故に、絵で見たような装備を着込んでいるハンターを生で見るのはこれが初めてで、王女にとって衝撃的だった。オニムシャザザミに出会った時よりも嬉しい。
きっとわらわの為に爺がクエストを依頼してくれたのだと信じて止まない彼女は、彼らに向けて大きく手を振る。
届くはずがないとわかっていても、せめて少しでも解かりやすいようにと声を張り、手を振る。
それを横から見ていたブッチャーは、何で手を振っているのだろうと首を傾げているのだった。
その頃、ダリー、ドドル、ミラージャのハンター三人組はといえば。
「……ねぇ、あんな所に女の子がいるんだけど」
高い視力が自慢のミラージャが、遠くに見えるオニムシャザザミのヤドにいる、大きく手を振って存在感をアピールしてくれた王女を目撃する。
それを聞いたドドルとダリーは大タル爆弾を置いた後、呆然とミラージャを見詰めていた。目を丸くしている様子からして、信じられない、と言っているようだ。
「……ねぇ、確か第三王女の特徴って、金髪ロールが入っていたわよね?後、デコが広いって」
「ついでに言えばつるぺたらしい」
「あ、確かに彼女つるぺたっぽい」
ドドルの指摘に、そういえばと呟いてミラージャが言葉を繋ぐ。
そしてしばしの沈黙。その間にもオニムシャザザミ接近の証拠である地鳴りは近づきつつある。
やがてダリーが沈黙を破るようにしてポツリと呟く。
「おふざけ無しな?」
「「もち」」
それは悪ふざけ&ネタ大好きなクック馬鹿ップルへの忠告だった。
「やべーよ!なんであんな所に居るんだよ!?」
「セバスさんの言っていたまさかの展開ってありえないと思ってたけど、マジだったの!?」
「第三王女の偉業は噂で聞いていたが、あそこまで行くと馬鹿にできんな……」
事前にセバスという依頼主から王女の特徴を聞いていたとはいえ、まさか本当にオニムシャザザミと共に行動していたとは。
驚愕の事実を前に、普段はおちゃらけている二人ですら驚愕し、ダリーは逆に第三王女に感服すらしている。
だが、そこはベテランハンター。今の状況を打開すべく落ち着きを取り戻す。
「……で、マジでどーするよ?もうタル爆弾置いちまったし……」
ドドルは道の真ん中に置かれた大タル爆弾G×6を指差して二人に問い掛ける。
脅しのつもりで置いた大タル爆弾Gだが、万が一でも王女が爆発に巻き込まれてしまっては一大事になる。
だからといってオニムシャザザミ足止めの任を解くわけにも行かない。さてどうすべきか、と考えていた所へ。
「とりあえず、この中の誰かがセバスさんに報告しに行かないか?王女の情報が手に入り次第、伝えて欲しいとも言われていたし」
「あ、それもそうね」
「そういやそっか」
ダリーの提案に、先ほどの困惑っぷりが嘘のように納得するミラージャとドドル。思わず手ポムしてしまったほど。
この三人組の中で一番の常識人、というダリーの立場は伊達ではなかった。いや、狩猟中なら三人とも真面目なのだが。
しかし、ここで新たな問題が発生する。
「……で、誰がセバスさんに報告に行って、誰と誰がオニムシャザザミの相手をすんの?」
「「「……」」
ミラージャの何気ない指摘を基点に、一気に三人の空気が固く重苦しいものとなり、静寂が襲い掛かる。
その静かさは、遠くで歩いているオニムシャザザミの地鳴りがやけに五月蝿く感じるほど。
―この後、三人の迫力と気力溢れるジャンケン(三回勝負)が始まる。
当然のことながら、オニムシャザザミは三人の死活問題を掛けた小さな戦いを知る由も無く、平然と先を進んでいる。
ついでにいえば王女とブッチャーはといえば。
「……調合成功!クーラーミートの完成じゃ!」
「キー、キー!」
「慌てるでない。ほら、お前の分だぞー」
「キー♪」
アカムトルムの頭蓋骨の中で、調合書を開きながらクーラーミートを作成し、それを分け与える王女と、その分け与えられたクーラーミートを大層美味そうに頬張るブッチャー。
蟹と王女と奇面族は、ハンター同士の争いが起こったことなど知らず、暢気に時を過ごすのであった。
―完―
書いておいてなんですが、子供とはいえチャチャブーと引き分ける子供って凄いことですね。
けどそこは第三王女だと思って納得してください。だってあの第三王女なんだから……無理か。(当たり前だ)
とにかく徐々にハンターに接近中。気をつけてね王女様、ハンター諸君。
…………あれ?この小説のメインって蟹さんだよね……まぁいいか。気にしてないし。