ヤオザミ成長記   作:ヤトラ

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 そういえばモンハン4でゲネル・セルタスに会いました・・・あれこそ、私が求めていた重厚モンスターなんだ!

 11/2:文章修正(段落付け・文章一部改定など
2014:11/2:文章修正。ご指摘ありがとうございました。


第16話「鬼ヶ島への挑戦・後編」

―たかが護石、されど護石。

 

 ハンター達の間で伝えられている言葉だ。ただのお守りと思って侮るな、という教えである。

 その価値の高さは、高い効能を及ぼす貴重なお守りを狙って世界中のハンターが炭鉱夫と成り果てるほど。

 故に人々はお守りの価値観に差が出てしまい、効能が低いからという理由で捨てるハンターが続出している。

 

―だが、忘れてはいけない。例え低くても、確かな効能を引き出すのがお守りというものだ。

 

 そんな護石の効果を最大限に生かすモンスターが存在していると、近年研究者によって明らかになった。

 それこそが、楽土に君臨する鬼こと、鬼鉄蟹オニムシャザザミ。彼はアラムシャ期の頃から火山地帯にも足を運んでおり、鉱石を食らって甲殻の硬度を上げていた。

 もちろんその中には護石も含まれており、これが溶けてザザメタルとして甲殻に混ざり合うことがある。

 

 その溶けて混ざり合った護石が、オニムシャザザミの戦闘状態に応じた効能を発揮する。

 

 大人しいオニムシャザザミが攻撃を受け、追い払ってやろうと興奮すれば攻撃的な性能を発揮する。

 その相手が強い存在だと知れば、防衛本能も働いて毒物を扱うようになり、状態異常攻撃の効能を上昇させる。

 さらに強い存在だと認識すれば、防衛本能がさらに高まって防御体勢を取る為、防御能力が大幅にアップする。

 

 このように、自身の戦闘意欲や生存本能に過敏に反応し、それに似合った護石の効能を引き出す。

 世界広しといえども、護石をこのような事に使うのは、モンスターの中ではオニムシャザザミただ一匹だけだろう。

 

―そして最後に。

 

 オニムシャザザミは命の危機を感じた場合にのみ発動する形態がある。

 それこそが彼を倒せる時が近づいてきた証拠でもあり、鬼の怒りを意味する。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

―バギャン!

 

 アザナのハンマー攻撃がオニムシャザザミの鋏に命中。防御形態で身構えていた為に弾かれると思っていたのだが、今はそうではない。

 部位破壊のダメージが蓄積されたこともあり、鋏の強度に限界が生じたのだろう。

 スキルの発動や溜め攻撃が合わさったことにより、その大きくて分厚い鋏に深い割れ目を与えることに成功したのだ。

 先ほども片方の鋏に大きなヒビを入れることに成功した為、これで足と鋏を全て破壊したことになる。

 

 

―ここまでくれば、鬼が激昂するのに充分だった。

 

 

―ギュイイイイィィィィ!!

 

 

 またしてもオニムシャザザミが鋏を擦り合わせ、金属音を上げる。

 前もってグエンガから聴覚保護の旋律を受けたから軽減されたものの、剣士一同は警戒のために距離を取る。

 至近距離ではその図体故に全貌が明らかにできなかったが、距離を取ることでその全貌が明らかになる。

 そして3人は、オニムシャザザミの最大の変化に気づく。

 

 

―鬼は鉛色に変色し、口から泡を吹き、怒りに震え甲殻から湯気を放っていた。

 

 

「まさか、怒っている……?」

 

 アラムシャ期から観察と視察を繰り返してきたカリガでも、この反応は驚きだった。

 ダイミョウザザミにも、怒り状態になると口から泡を吹きだすことがあるので、それに酷似していた。

 かつてオニムシャザザミを仕留めたというハンターですら、怒り状態を見せなかったと聞いていたのに。

 グエンガもラクサジーも怒り状態であることを理解した以上、警戒を強めなくてはならない。そう思った。

 

 しかし、アザナが何よりも目につけたのは……その甲殻の色。皮肉なことに、その鉛色は、アラムシャ期の頃と色合いがそっくりではないか。

 かつて自分が果敢に挑んだにも関わらず、全く相手にされなかったあの頃。

 そんな日々を思い返していたからこそ、何故か動きが止まり、オニムシャザザミの鋏が振り上げられていることに気づけなかった。

 

「アザナさんっ!」

 

 そんなアザナに向けてカリガが叫ぶ。

 しかし、心配は無用。アザナは鋏が振り下ろされるよりも早く横へ移動。

 巨大な鋏が地面に打ち付けられて深くまで食い込む。それをアザナは逃さず、ハンマーの一撃を加える。

 まるで流れるような動きで鋏の動きに合わせて避け、毒攻撃をかわし、一撃を加える。

 

 しかしオニムシャザザミもただ黙っているわけにはいかない。

 怒り状態故にその行動速度は速く、護石の加護か、いくら動いても疲れている様子がない。

 さらに今までの攻撃パターンが全て混ざっており、鋏攻撃にいたっては地割れを起こし地盤を叩き起こす程。

 何よりも一撃のスピードが増しており、素早く避けるアザナを的確に狙いつめるほどだ。

 

 アザナが避け、オニムシャが打ち付け、そこを狙ってアザナのハンマーが叩き付ける。

 重量感を思わせないような動きを鬼が見せ、強力で振り回しているとは思えない動きを狩人が見せる。

 一撃でも食らえば即死級のはずのその攻撃を、アザナは紙一重でかわし、攻撃を加える。

 甲殻にヒビが入り、確かに攻撃を受けているにも関わらず、オニムシャザザミはなおも怒り状態を保って攻撃してくる。荒々しく激しい攻防が尚も繰り広がれていた。

 

 

 

「すげぇじゃねぇか……」

 

「いやぁ、強く美しい女性っていいよねぇ」

 

 そんなアザナとオニムシャの戦闘を目の当たりにしていたグエンガとラクサジーの一言。

 もはやサポート要らなくね?と思えるほどの動きに魅了すら覚えてしまう。

 さすがに毒といった状態異常に陥った時はラクサジーがサポートするが、その凄まじさ故に、援護したくてもできない。

 

「アザナさんの夢でしたからね」

 

 呆気に取られている二人とは違い、カリガはいたく冷静だった。

 長年彼女とコンビを組んでいるからだろうが、それにしたって落ち着いている。

 

―いや、戦闘経験が豊富なグエンガは察していた。

 

 カリガは疼いている。そわそわとしており、しかし其の場でじっとして戦う様子を見ていた。

 すぐに入らないのは割り込む隙を見つける為であり、動きを見極めようと見続けている。

 

「アザナさんは常に上を目指す人なんです。戦い抜くしかできない不器用な方なんですけど、そこがかっこいいんです。そんなアザナさんを見ていると……なんていうか……」

 

 ぎゅっと拳を握るカリガ。しかし、多くの危機に直面し、轟竜のような気迫を見続けてきたグエンガは、カリガからある気配を感じていた。

 

「血が騒ぐんですよ」

 

 闘志。溢れんばかりの闘志がカリガの全身から滲み出していた。

 今は防具で身を包んでいてわからないが、カリガは確か中性的なあどけない顔が特徴の青年のはずだ。

 そんな彼が、ティガレックスのような気迫を醸し出していることに、グエンガは驚いていた。

 

「カリガ!手伝え!」

 

「今行きますっ!」

 

 アザナからの命をうけ、カリガは走り出す。

 先ほどまで混ざる隙も無かったはずが、カリガは難なく入り込み、アザナと同じような動きで攻撃を加えていく。

 流れるようなチームプレイ。そして2人から醸し出す闘争心。獣のような掛け声。

 

 

―似た者カップル……。

 

 

 遠くから二人を眺めていたグエンガとラクサジーは、そう思わざるを得なかったという。

 また、その動きの速さや気迫に負けたのか、グエンガは戦闘に参加したくても出来なかったという。

 もはやこの場は主軸2人に攻撃を任せて、2人はせっせとサポートに徹するのだった。

 

 

 

 

 

―そして太陽が水平線に傾き始め、世界をオレンジ色で染める頃。

 

 人間とモンスター。男女2人と蟹1匹。両者とも体力とスタミナの限界だった。

 攻撃を避け続けたアザナとカリガだが、やはり一撃を受けてしまい、ついに回復アイテムと砥石が切れ、息切れしている。

 対するオニムシャザザミは、長期戦故か、動きが鈍くなり、甲殻全体にヒビが入っていた。

 ちなみに、グエンガはほどほどに参戦、ラクサジーは結局手出しできず、回復とサポートに専念。

 アイテム量も制限時間も残り僅か……ここで勝たなければ。

 

 まずはオニムシャザザミが鋏を振り上げ、振り落とす。当初とは比べ物にならないほどに遅くなってしまったが、それでも威力は充分。

 体力切れを起こした2人だがなんとか避け、動きが遅いことを理由に各々の武器に力を込める。

 

「これで……!」

 

「終わらせる!」

 

 最大パワーを込めた大剣とハンマーが鋏に激突。

 痛々しい音を立てて鋏と大剣がひび割れた甲殻に食い込み、体液が流れ込む。

 

―そしてついに、苦しそうにもがくオニムシャザザミにある変化が起こった。

 

 武器が鋏の甲殻に食い込んだのを合図に、全身の甲殻のひび割れが大きくなっていく。

 ビキビキとまるで地割れのように甲殻が割れていき、崩れ落ちる。

 そしてオニムシャザザミが苦しそうに鋏を振り上げて下ろした直後、それは起こった。

 

 

―なんと割れた甲殻を脱ぎ捨て、大きく後方へと跳んでいったのだ。

 

 

 これがユクモ村の村長が話していた、オニムシャザザミの生き残る術。長き戦いで割れていった甲殻を脱ぎ捨て、逃げる技……俗に言えば空蝉の術である。

 脱いで新品となった甲殻をさらけ出したオニムシャザザミは、追求の暇も与えずに地中へ避難。

 ハンター達を恐れるようにしてその姿を消していったのである。

 

 

 

 

 ようやくオニムシャが自分達から逃げたと知った頃になって、皆が騒ぎ出した。

 念願を叶え感極まる者、仲間の仇を討てて満足する者、ザザメタルを頂こうと剥ぎ取る者。

 中でもアザナは心の底から感動を覚え、しばらく動けなかったりしたほどだ。

 この脱皮の殻から回収することのできる4つの宝石をギルドに届ければクエストはクリア。さっそく剝ぎ取るべく各々が行動を開始する。

 

 

 

「あった!ありましたーっ!」

 

 既に皆が達成の証である宝石―ザザジュエル―を回収し終えたところで、カリガが声を荒げる。

 その手に掲げられているものは、黒い真珠のような球体。しかし片手では収められないほどに大きい。

 グエンガもアザナもそれを見て首を傾げるが、ラクサジーは驚愕のあまり目を見開いた。

 

「そ、それはまさか……『黒き鬼のナミダ』!?」

 

 ラクサジーの言葉に頷くカリガ。

 

 黒き鬼のナミダ――碧玉や紅玉に勝るとも劣らないという希少価値の高い素材。

 かつてオニムシャザザミを討ち取ったハンターは、この真珠を手に入れたからこそ島の支配者となったのだ。

 この真珠を大型モンスターの前に掲げると、なんとモンスターが警戒して近寄ってこないのだ。

 一説では、この黒い真珠はオニムシャザザミの魂が込められているのか、楽土に限り島中のモンスターが警戒するという。

 これによって楽土の安全は保たれる為、この黒き鬼のナミダを所有したものは、楽土の所有権を手に入れるといわれている。

 楽土の自然は豊かであるため、その島の恵みを分けてもらおうと訪れる者や、地域探索の為に訪れる者は多い。

 つまり、楽土を所有することができれば、1年間は豊かな生活を送ることができるという脅威の素材なのだ。

 

 

―それをカリガが手に入れた。

 

 

 ラクサジーにとっては涎が垂れるが、金より勝利や達成感を欲していたアザナとグエンガにとっては無縁な話だ。

 カリガもアザナと同様……というか同一人物のはずだ。信頼の関係上、契約金などには五月蝿いが。

 それなのに何故欲していたのか。新しい武器でも作るつもりなのだろうか?

 

 そんなことを考えていてだんまりとしていたアザナの前に、カリガが立ち止まった。

 身長差故にアザナはカリガを見上げる。どういうことか、カリガがヘルムを脱ぎ捨て始めた。

 あどけない表情が紅く染まっており、何故か緊張で震えている。もしや緊張がほぐれた所為で風邪でも引いたのだろうか。アザナは少し心配してしまう。

 

 

 

 

 

 

―その後、カリガは想いを伝えることに成功したが、男2人の爆弾攻撃を受けて吹っ飛ばされたことをここに記す。

 

 

 

―完―




 ●今日の素材紹介
 ・黒き鬼のナミダ
 オニムシャザザミが生成した巨大な真珠。それをかざせば楽土の者達は平伏し、楽土の栄光を得られるという。

 ●オニムシャザザミ最終形態のスキル
 力の解放+2・火事場+2・スタミナ回復遅延

 激レアアイテムをプロポーズに使うとか贅沢すぎる。

 実はまだ続きます。

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