東方吸血王   作:龍夜 蓮@不定期投稿

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はい、という訳で二十三話です。またこんなに投稿が遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。遅ればせながら投稿させていただきます。


狂気の権化と黄泉の支配者

 世界とは残酷だ、例えそれが一瞬の邂逅とはいえ三人の神達にとって嘗て居た世界で同じ場所で同じ姿をした者達と言葉を交わすだけでこれほどまでに辛い筈だ。なのに神として生み出され世界に対する役目を背負った身である以上その意に反する

者がいるならば対峙をしなければいけない。

 

―――吸血鬼の少女の狂気から生み出され、違う道を歩まんが為に幸せを捨てた者

 

―――人として生きていた時から霊魂達を鎮め未練を断ち切り続け、その才を認められ神になった者

 

―――世界そのものに生み出され全ての世界を創り統治し、人に憧れ、人を憎み、人を愛し、人となり、人として生きた自分を憎みながらも本来の役目に戻り永劫の時を生きる者

 

 ただ彼らは抗う事しかできない、この世界を守る為に同じ姿をした彼女達を守らんが為に世界の『歪み』その物と・・・その為に彼女達から憎まれようと、ただその剣を振い続ける。その先に待つ結果が望まぬ物でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の獲物がぶつかり火花が散る、ただ普段妖力で生成した槍を使うレミリアは今は自前の槍で眼前の神王と殺りあっていた。生前の父親から渡された代物だ、そのまま使えばすぐに先が折れ使い物にならないが親友の魔女がかけた軽減の魔法がその槍の寿命を僅かながらに伸ばしていた。

 

 お互いに押し切れないと悟り、一度飛び退く。お互いの攻め手はあくまで自前の獲物だけ『弾幕ごっこ (スペルカードルール)』などというお遊びではない。お互い強者として殺す相手としてその隙を探らないといけない。だが、レミリアの内心は先ほどの奇襲をかけた時とは違い弱気な思考が頭を埋め尽くしていた。

 

(正直、実戦での戦いなんていつ以来か分からない。体の震えを誤魔化す為に狂化の魔法をかけているだけで一歩間違えればその事に気づかれてしまう)

 

 レミリアは神王であるアイと同じ土俵に立つ為態々狂化の魔法を自分でかけた。だがこれは気休め程度、正直これであの化け物に勝とうなど思ってない。だから動きを止める、その事だけに集中する、そうでなければ一瞬で喉元にあの刀の切っ先が飛んでくる。

 

(何も考るな、ただ動きを止める事だけに重点を置け!)

 

 一瞬で距離を詰める、狙いは刀の柄。弾き飛ばせば勝てると確信し柄に向けて槍を振った。キイィンと音が響きアイの手から妖神刀が離れ、遠くに弾き飛ばされる。

 

「ッ!」

 

 今しかチャンスはないと考え一気に槍を利き手である左に持ち替え、アイの心臓に突き刺す。狙い通りにいった・・・がすぐに心臓から獲物を引き抜き間合いを取った。この程度でやられる程目の前の少女は甘くない。

 

「痛いなぁ~もう、手加減しているとはいえ心臓に直で槍突き刺すって流石に趣味悪いよ全く・・・」

「普通なら即死なのにそれで死なない貴女を見ていると神とは何なのかと自問自答したくなるけどね・・・」

 

 頬に付いた返り血を手で拭うアイ、神王であり吸血鬼という二面性を持つ彼女は神王の中でもかなりの強者だ。だがそれ以上に自分より弱い相手には決して本気にはならない、妖神刀の真名を解放したのも只の脅しでしかないのだ。そうこれはあくまでレンと極夜の試練を終わらせる為の時間稼ぎ、だがそれ以上に自分の脳内を侵食するかの如く狂気の感情が自身の中で蠢いていた。

 

(殺しちゃ駄目と分かっていても私の中にある本来の狂気が・・・フランが殺せ殺せって煩く囁いてくるんだよね)

 

無視してもいいがこれ以上長引かせると二人の試練に邪魔者が入る、それならば・・・

 

(いっその事任せてみようかな、狂狼も真名も解放したしそこまで被害は出ないでしょ)

 

 

 

(止まった?それにしては、何かがおかし・・・)

 

 レミリアが感じた違和感、さっきまで自身が浴びていた殺気が急に無くなったがそう考えた瞬間さっき弾き飛ばした筈の獲物が自身の腕を貫いた。

 

「ッ!?何が」

「アハハハハハハハ!ナニガ起コッタカモワカラナイナンテ、鈍イオ姉様。オカエリ、『狂牙紅闇狼(相棒)』不意打チゴ苦労様、イイ仕事ダッタヨ」

 

 アイの手にはさっきレミリアが弾き飛ばした刀が握られ、そして傍らには黒の体毛で覆われ紅い瞳の狼が彼女を守る様に寄り添っていた。

 

『何を言ってるんだか、契約している身で俺を働かせるな。主の命で力を貸しているだけでまだお前を認めた訳ではない』

「ソレヨリ刀二モドッテ。サッキノデ大体ウォーミングアップハ終ワッタシ、ココカラハ私ガ遊ブ番ダカラ!」

『人使い、いや狼使いが荒い契約者だな・・・これなら主のほうがまだマシだ』

 

そう呟くと狼の姿が粒子となり刀に吸収される。

 

「貴女・・・一体何を?」

「相棒ニチョットシタ奇襲ヲシテ貰ッタダケ、別ニ可笑シイ事ジャナイヨ。ソレヨリモットアソボウヨ・・・オタガイ満足スルマデサ!」

 

 再び切りかかる、だがレミリアがそれをギリギリで受け止める。お互いの獲物が火花を散らし金属音だけがその場に響き渡る。

 

(本当に私と同じ吸血鬼だったのかと疑いたくなる、そこらの大妖怪や神の比じゃない・・・!)

 

 見た目は自分と変わらない少女だが、底が見えない化け物と表現するに相応しい威圧感。自分の弟が狂気に染まった時に似た物はあるが全くの別物だ。

 

 槍を握っていた左手を離し、腹部に拳を叩き込む。だがまるで効いてないようにニヤリと口の口角を上げると左腕を掴まれ地面に叩きつけられた。叩きつけられたレミリアの視界一杯にアイの顔が迫っていた。今レミリアの感情を支配しているのは圧倒的な力の差と『恐怖』の感情。

 

―――怖い

 

 拳が襲い掛かる、それを受け止めようと身構えたがアイの拳は胴体ではなくレミリアの脚部に強烈な一撃が叩き込まれる。右足が折れるのを感じレミリアは顔を歪めた。折れていないほうの足を狙らい彼女は再度振りかぶり拳を落とした。だが、それは何もない地面を捕える事となる。

 

「成程・・・ソノ姿ニナレルノスッカリ忘レテイタヨ」

 

 空を飛ぶ一匹の蝙蝠を睨みつけながら呟いた。嘗て自分の姉が得意としていた戦いに置ける緊急離脱方。だが逃げる為にやったという訳ではないというのはアイも分かっていた。

 蝙蝠の変身が解かれレミリアが姿を現した。呼吸は荒く、折れていないほうの足でなんとか立ってはいたがもう虫の息も同然だ。

 

 アイは心の底から怒っていた。弱かったからではない、自分に良いようにされる嘗ての姉の姿が滑稽で仕方なかったからという訳でもない。

 

レミリアの眼だ。

 

 まるで自分がこの世で一番不幸だと言わんばかりの濁った眼、その眼に映っているのは眼前に立ち塞がる自分を捉えていない。まるで幻影を追っている様だった、その瞬間アイは理解してしまった極夜に対してレミリアがどんな感情を向けていたのか。

 

 理解してしまえば自分が取る行動も早かった。フランの狂気を奥底に閉じ込め狂化を解除し刀も消した。レミリアは呆気にとられた表情で見ていたがアイにとってはどうでもよかった。

 

そう・・・もうどうでもいい、興味もない・・・

 

視線を外そうとしたがレミリアの怒号がそれを許さなかった。

 

「待ちなさい!まだ・・・私は、戦える・・・!」

「目の前の敵も見えていない相手と戦って何が面白いの?ふざけるのもいい加減にしてくれるかな」

「眼前に立ち塞がる私も見ないで居ない家族の影を追いかけて、求めて・・・悲しくないの?私だったら恥ずかしくて表も歩けないよ」

 

 姉だった彼女と戦いたかった。例え別人であろうと平行世界での存在であろうと少しでも自分の姿を見てくれるなら敵としてでもよかった。

 だが彼女は何処も見ていない、居ない家族の影を極夜に重ねているだけの哀れな存在、自分の『』が死んだ事も認められず駄々をこねている子供。これだけ痛めつけられればもうレミリアには極夜と彼女の試練を邪魔するだけの力も気力も残っていないだろう。

 

視線を外した、レミリアが何かを言っているがアイはもう聞こうとも思わなかった。

 

(あの二人なら私をちゃんと見てくれたんだけど、高望みしすぎた私も大概馬鹿だった訳か・・・)

 

 もう居ない筈の二人の吸血鬼(家族)を思い浮かべ、彼女は小さく息を吐く。その視線の先で終わろうとしている戦いを羨ましそうに見ながら。

「ハァ・・・ハァ・・・」

「君は私を侮りすぎたね、実戦経験はレンやアイ程積んではいないが・・・『慣れてないとは言っていない』あの修行の時も言った筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハデスは四つん這いで這いつくばり荒い呼吸を繰り返す彼女の姿を見て。解放した魂狼こと『魂牙天輪狼(そうがてんりんろう)』・・・その能力で妖夢の半霊を喰らった。修行の段階で妖夢の弱点を知ったハデスは天輪狼の能力が一番彼女に刺さると思ってはいた。

 

 だが少しの期間とはいえ教えを説いた弟子である彼女の前で悪役を演じ叩き潰すのは些か後味が悪かった。ハデスはレンやアイの様に悪役を演じられる程器用ではない。現に妖夢の攻撃に対しては反撃をせずただ受け身を取り、時には攻撃を相殺する為に天輪狼を振うだけに留めていた。レンが見たら私情を挟んでいるのを見抜かれ二時間説教コース確定だがハデスなりに善処した結果が現在の状況だ。

 

「なんで・・・ハデス様は・・・こんな事を・・・」

「神として行動したまでに過ぎないよ、確かに君たちからしたら家族を・・・仲間を奪おうとする『悪人』に見えるかもしれない」

「だが私達からすれば『歪み』を促進させこの世界が壊れていく原因を作る君達が『悪』だ。私情を挟んで彼を・・・『星屑極夜』をこのままにはできない」

「でもそれでも、幽々子様の・・・大切な人を・・・殺させる・・・訳にはッ!」

「あー・・・何を勘違いしているかは知らないが、別に殺す為に彼をここまで運んだ訳ではないよ?」

 

 その言葉に妖夢は鳩が鉄砲を喰らったかの如く固まった、何も分かっていない彼女にハデスは頭を掻きながら言葉を続けた。

 

「彼が現在受けている『試練(テスト)』を受けて貰っている、彼が力を受け継ぎレンの代役に相応しいかどうかの・・・ね」

「だから妖夢が考えている様な事ではないよ。まぁ、言わなかった私にも非があるが話を聞いてくれる様な精神状態じゃなかったから抑える為に強引に拘束して話を聞いて貰ったという訳だ」

「じゃあ・・・私のした事は・・・」

「無駄・・・という訳ではないが早とちりだったね。鍛錬の際に『冷静に物事を見て状況把握する』という事を常に口煩く言っていたのに肝心な所で頭からその教えが抜け落ちるなんて師として少し悲しいよ」

「まぁ、そういう訳でそろそろ君の半霊を戻しておくよ。すまなかったね」

 

 

そう言うとハデスは天輪狼が喰らったであろう半霊を妖夢へ戻し、天輪狼を消した。

 

 

「もう動けるかい?」

「あ、はい。大丈夫です・・・ちゃんと動けます。すいませんでした、話も聞かず刀を向けてしまって」

「私としても賢者や紅魔館の関係者と交渉を進めようとも思ったんだが、歪みの進行が予想以上に早くて強行な手段を取らざるを得なかった。改めて謝罪させてもらうよ」

「あの結界の中で戦っているのは極夜様と・・・博麗の巫女ですか?」

「あぁ、そうだよ」

「殺し合いではないんですよね・・・」

「まぁ、最悪レンが止めるよ。私達としてもそんな結末は望まない」

 

(こっちは終わった。『試練』の監視役は頼んだよ、レン)

 

 

 

 

―――to be continued

 

 

 




後書き

という訳で第二十三話でした。また投稿がこんなに遅くなってしまい本当に申し訳ありません、時間を見て書いてはいるのですが仕事が忙しい上に書いて消しての繰り返しでこんなに遅くなってしまいました。吸血王のほうですが後二話かそこらで完結となります。思いつきで始めた長編でもあり見切り発車で始めたこの作品ですが完結できるまで失踪はしないつもりです(不定期投稿なので次に投稿できるのがいつかは分かりませんが)。
そんな訳で今年の投稿はこれで終わりです、皆様よいお年を!

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