『星符『スターダスト・メテオ』!』
「紅符『スカーレット・シュート』!」
レミリアとフラン両者の弾幕がぶつかり合い、激しい衝撃波が起こる。レミリアはこの展開を予想していなかった。本来ならこの館に乗り込んでくる博麗の巫女と戦い負ける運命だった。本来この異変でフランが関わる筈がないのだ、それにここで負けてしまえばフランに本当の事が知られてしまう事をレミリアは何より恐れていた。
『ヒャハハハハハ!どうした、姉さんまだまだ遊び足りないぜェ、俺達の憎しみその身で体験しろやァ!!』
「ッ!?」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
レミリアに向かってフランは右足で蹴りを放つ、レミリアは咄嗟にガードしようと結界を張るがフランはその先を読んでいたかの様に突如張られた防御結界の一番脆い部分に蹴りを放ち砕く。そしてレーヴァテインを作りだし、レミリアの左腕に向かって一閃した。切られた腕から夥しい程の血が流れ出る。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・くっ、神槍・・・」
『おっと、やらせねえよ』
フランはレミリアの元まで一瞬で移動し、レミリアの首を掴む。掴んだ腕に力を入れると・・・メキメキと首の骨が嫌な音を立てる、それはレミリアの体力を一瞬で削り取る程の力が籠っていた。
「あ・・・ぁぁぁ・・・」
『アハハハハハハハハハハハ、いい様だな・・・今まで俺達を閉じ込めてきた恨みだ。ここでテメェを殺してやる「そこまでだ、フラン!」アァン?』
「レミリアを放せ、レミリアはお前を守る為に今迄頑張ってきたんだ・・・『頑張ってきただ・・・?今更そんな言い訳が通じるとでも思ってんのか!!』フラン・・・」
フランの裏の人格の最大の目的はレミリアを殺すこと、だがそれだけが目的ではない。本当はフランに自由になってほしいだけだった・・・この館の住民は皆フランの事を避け、決して向き合おうとしない。その結果自分という存在が生まれフランを苦しめてしまっている・・・だから自分を生み出した元凶を殺す事がフランの幸せに繋がる、それだけが自分ができる唯一の罪滅ぼしのつもりだ・・・それを今更殺すのはやめろ?ふざけるな・・・
『ふざけるな!!部外者が俺達姉弟の家庭事情にズケズケと上り込んでくんじゃねーよ!フランの事を何も知らない癖に・・・知ったような事を言うんじゃねェ!!』
「あぁ・・そうさ、確かに私は今初めてフランに会ってアイツがどんな悲しい人生を歩んできたかなんてこれっぽっちも知りもしないさ!だけど・・・血が繋がったたった一人の家族なのに本当の事も知らないままお別れだなんて悲しすぎるだろッ!!」
『本当の事・・・だと・・・?』
(それって・・・一体・・・?)
「レミリアは脅迫されていたんだ・・・パチュリーやあのメイドが来る少し前にこの館は一人の男に襲撃された・・・」
え・・・?
「その男は尋常じゃない程の強さでレミリアを圧倒したらしい・・・あのレミリアがその男に傷一つも負わせる事もできず敗北する程その男の強さは底無しだった・・・・・・」
あの姉さんが負けた・・・?
「レミリアはお前やほかの従者達を助ける為にその男に頭を下げた。私の命をやる・・・その代わりにフランやほかの者達の命だけは助けてくれ・・・そう言って土下座までして頼み込んだらしい」
「そしてその男は見逃す代わりにある条件を出した・・・それはフラン、お前を幽閉しその後一切の干渉を禁ずる・・・だったんだ・・・」
じゃあ・・・姉さんは約束を破った訳じゃなくて・・・僕を守る為に・・・?
「だから・・・もうやめろ・・・これ以上やったら本当に死んじまう・・・」
あ・・・あぁ・・・
『・・・・・・』
裏の人格は手に籠めていた力を抜き、レミリアを解放する。レミリアは既に意識が無かった、血を流し過ぎたのが原因だが、蓄積されたダメージが大きかったのもあるだろう・・・・・・
(早く、僕と変わってくれ!早くしないと姉さんが・・・姉さんが・・・!!)
『分かった・・・』
そう言って裏の人格はフランと入れ替わる。フランはレミリアを抱きかかえ、必死に治療魔法を掛ける。
「姉さん・・・お願いだ、死なないで・・・姉さんまでいなくなったら・・・僕は・・・僕は・・・」
フランはそう呟きながら必死に治療魔法を掛け続ける・・・暫くしてなんとか腕の血が止まった。だが、フランの目から生気が完全に消えていた・・・目から涙が止めどなく流れ決して止まる事は無かった。
なんて・・・僕は取り返しのつかない事をしてしまったんだろう・・・姉さんは僕を助ける為にずっと、ずっと頑張っていただけ、それを僕は・・・咲夜やパチュリーや美鈴がその事を話さなかったのも姉さんが口止めしていたんだろう・・・皆、皆僕を守る為に・・・。僕ハ、僕ハ何デコノ世界二生マレテ来タノ?何デココニ居ルノ?ナンデ・・・ナンデ・・・
ソウカ・・・最初カラコウスレバヨカッタノカ・・・
フランは手に大量の魔力を籠めレーヴァテインを作った。そして作ったレーヴァテインを腹に突き立て、一気に貫く。
「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「何やっているんだ!?止めるんだ、フラン!!」
魔理沙はフランの手からレーヴァテインを離させようとフランの手を掴むが人間の魔理沙が吸血鬼のフランに力で勝てる訳が無い。フランの腹から夥しい程の血が流れ出ていく・・・
僕が居なくなれば・・・姉さん達もきっと幸せに暮らせる・・・だから、僕が消える事が・・・正しい運命なん『ハァ!!』・・・ガハッ!?
首に手刀が叩き込まれ、フランの意識は刈り取られる。手刀を叩き込んだのはフランと同じ容姿をした少年・・・だが、フランと違い髪の色は黒く瞳は金色だった。
少年はフランが倒れ、レーヴァテインが消えるのを確認するとフランに治癒魔法を掛け始める。魔理沙は突然の事に動揺していたがその少年の魔力がフランと同等の物だと分かる、そして今目の前に居るのが大図書館で会話したフランの裏の人格だと無意識に悟った。
「もしかして、裏のフランか?」
『あぁ・・・そうだよ。たっく、本当は出てきたくはなかったんだがな・・・』
フラン(闇)は治療を終えると、魔理沙に視線を合わせず口を開いた。
『後は、俺が何とかしておく・・・もうお前は帰んな』
「え・・・でも・・・」
『今回の事は俺達が全面的に悪い、それにこれ以上迷惑を掛けるのは嫌なんでな・・・』
「分かった、霊夢には私から伝えておくよ・・・もう異変は終わったって」
『恩に着るよ』
そしてレミリア・スカーレットが引き起こした紅霧異変は本来の歴史とは違った形で幕を閉じた・・・そしてこの日をきっかけに運命の歯車は狂い始める・・・・・・
どちらを向いても黒い空間が広がるだけ
真っ暗で何も見えない
暫く歩く、そして見えたのは生まれたばかりの僕を抱く姉さんの姿
手を伸ばす・・・でも、その手は決して届かない・・・どれだけ手を伸ばそうがあの日々はもう戻って来ない・・・
もう二度とその笑顔を見る事はできない・・・だって・・・
僕ガ壊シテシマッタノダカラ・・・・・・
僕ハ・・・なんデここ二居ルの・・・?僕ハ・・・僕は・・・
目が覚めると全身から汗を掻いていた・・・周りを見渡すと、幽閉されていた地下ではなく嘗て自分が使っていた部屋だった。机の上には姉さんから貰った熊のぬいぐるみがあった、ベットから降り机の上にあるぬいぐるみに手を伸ばす・・・だが、伸ばした瞬間僕の脳内にある光景がフラッシュバックし、伸ばした手を反射的に引っ込めた。昔、父さんを殺してしまったあの時の光景だ。地面に倒れ、切り裂かれた腹から夥しい血を流して倒れどんどん冷たくなっていく父さん・・・僕の手は父さんの鮮血で真っ赤に染まっていた。
『・・・い・・・大・・・夫・・・の・・・。大丈夫なのか?』
「ッ!?あぁ・・・大丈夫だよ」
『・・・フラン、なんでレミリアに会おうとしない?』
「僕は・・・疫病神だから・・・僕と関わると皆、皆不幸になってしまう・・・。だから、僕はここから出ないほうがいいんだよ・・・」
僕はあの日以来、部屋から一歩も出なくなった。姉さん、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔・・・皆は心配して何度も僕の部屋を訪ねてきた・・・だけど、僕は決して姉さん達を部屋に入れようとはしなかった。僕と関わった人は皆死んでしまうから。僕は・・・疫病神だから・・・
『・・・いつまでもそんな調子じゃ、この状況が変わる訳がないだろ。いい加減、レミリア達と会え・・・会って向き合え。このままじゃ、またお前はまた失うぞ・・・父親を殺したあの時の様に・・・』
そう言って裏の人格は僕の中に帰って行った・・・会って、向き合う・・・今の僕にそんな勇気がある訳ないじゃないか・・・こんな僕に・・・
「何ができるっていうんだよ!!」
フランの悲痛な叫びが部屋に木霊する・・・それを部屋の外でこっそり聞いていた咲夜は部屋の前にフランの為に作った夕食を置き静かにその場を後にする。その目からは涙が溢れていた。
あれから一週間が過ぎた、僕は机の上に積まれていた本を整理している。あの日からこんな作業をずっと続けていた。地下に入って以来片づけるのを忘れた魔導書と小説が山のように積まれ、今にも雪崩を起こしそうだったので今はそれを片づけている所だ。粗方片づけ終わった所で僕は椅子に座り、少し休憩する。そして暫くしてから今度は本の整理している所だ。
「『魔導の基礎』これはもう読んだしいいか・・・『吸血鬼の起源』これも読み終わっているし・・・ん?これは・・・」
読み終わっている本が大量に出てくる中、一冊だけ見覚えのない本が出てきた。僕は整理するのを止め、その本のタイトルを静かに読む。
「『死者が逝く道』・・・こんな本あったけ・・・」
僕はそう言いながらその本を開き読み始める。そこに記されていたのは死んでしまった者が死後、どの様な所へ逝く事が記載してあった。善行を積んだ者は『天国』へ、悪行を重ねた者は地獄へ逝くという事が書かれていた。僕はどの道天国へは逝けそうにないな・・・そう思いながら次のページを捲った時僕の手は止まった。そこに載っていたのは『黄泉の国』と呼ばれる世界ついての記述だった。『黄泉の国』それは間違いで死んでしまった者や前世で偉大な功績を成し遂げた者、輪廻転生を望まない者が逝ける世界・・・その記述を見た瞬間僕の中にある一つの考えが浮かぶ、この世界へ逝けば・・・!
「黄泉の国の逝き方は・・・あった」
そして僕は本に記されてあった通りに事を進めた。黄泉の国へ逝く魔法陣を描く為に必要な物は自身の血を使うだけでそれ以外は何もいらないらしい。僕は自分の手の甲に歯を突き立て一気に噛み千切る。
――――ッ!
痛みが襲うが僕はそれを堪え、流れ出した自分の血で床に黄泉の国への逝く為に必要な魔法陣を書き始める。そして暫くして床に魔法陣を書き終える。
魔法陣の中心に立ち、僕は全身から魔力を放出させ詠唱を始める。
「我、罪を犯し大罪人・・・許されざる罪を犯した者。もし、我の願いを聞き入れてくれるのなら我を偉業を成し遂げし者達が住まう楽園『黄泉の国』へ我『フランドール・スカーレット』を導きたまえ!!」
詠唱が終わるとその部屋を光が包み・・・光が晴れるとそこにはフランの姿は無かった。
「ここは・・・?」
目を覚ますと知らない天井が広がっていた。突然の事態にフランは戸惑い、冷静に考えを纏める事ができなかったが、取り敢えず部屋を見渡す。置いてある家具は明らかに自分の屋敷の物と同じで豪華な物だった。
そうして部屋を見渡していると突然ノックの音が響き、ドアを開けて入って来たのは、黒髪の男性。特徴的なその蒼の瞳・・・フランは一瞬引き込まれそうになるが、なんとか自分の意識を保ち目の前の男を見据える。そしてその男は口を開いた。
「目が覚めたようだね、侵入者・・・にしては何か訳有りの様だね。私の執務室に転移してきた所を見る限りあの禁術を使ったみたいだが・・・」
「あの・・・貴方は?」
「おっと、まだ自己紹介をしていなかったね。私は『ハデス』この世界『黄泉の国』を管理する神でもあり、最高神ゼウスの補佐をしている」
「僕は・・・」
「言わなくても君の素性は把握している、悪魔の弟『フランドール・スカーレット』だろ?正直君の様な実力者がこんな世界に来るとは私としても未だに信じられないがね・・・」
その言葉に僕は何も言えなくなる。姉さん達を危険な目に遭わせない為に僕はここに来た、でもハデスさんは僕の素性を知っていた。この様子だと僕を元居た世界に送り返すつもりなのだろう。
ここでも・・・僕は・・・誰にも受け入れて貰えないのかな・・・
「まぁ、君の様な子は沢山居るしここに住む事を許可しよう」
・・・え?
「え、ちょっ・・・そんなに簡単に決めていいんですか!?僕は・・・」
「別に君の様な子が一人や二人増えようが構わない。只、この国で暮らす以上ここのルールには従って貰うけどね」
こんなにあっさり受け入れて貰えるなんて・・・緊張していた僕が馬鹿みたいだな・・・
「まず君にはその肉体を捨てて新しい肉体へと移って貰う、君の能力はこの世界の住民に悪影響を及ぼしかねないからね」
「はい・・・分かりました」
「住む場所は私の部下が案内をしてくれる。別の肉体へと転生して貰うのはその後だ、幻水!」
ハデスが大声で叫ぶと空間が切り裂かれ、一人の男が部屋へ入ってきた。ハデスと同じ黒髪だが、特徴的なのはその金色の瞳だ。それは全てを見透かしてしまう様なオーラを放っていた。
「なんだハデス?今、会議中だったんだが・・・」
「忙しい所、来て貰ってすまないがその子を案内してやってくれないか?」
「たっく・・・また新しい住民か。何でお前はそう簡単に受け入れるんだか・・・おい」
「は、はい!」
「案内するからとっとと付いて来い!こちとら、あんまり暇じゃないんだよ!!」
「わ、分かりました!」
こうして僕の新たな生活は始まった。
後に僕はこの肉体を捨て、新たな肉体へと転生する事になる。
僕は自分が犯した罪から逃げているだけで・・・あの頃と何も変わってなんかいない・・・
だから、僕はある誓いを立てた・・・僕の所為で命を無くす人が増えない様に僕自身が強くなると・・・
僕はそう心に誓いを立てた・・・
『星屑 極夜』さん・・・僕は貴方に辛い事を押し付けてしまった・・・でも、貴方は僕の代わりに姉さんを・・・皆を守ってくれている・・・・・・
だから、僕もこの国を守る存在として頑張ります・・・だから、これからも姉さん達の事を守ってあげて下さいね・・・・・・
一人の男によって人生を狂わされ、家族との絆すらも失った一人の吸血鬼・・・彼は自身が犯した罪から逃げ、今もその罪を背負って生きている・・・しかし、彼の心は決して闇に閉ざされてはいない。二度と、あの様な悲劇を繰り返させないと心に誓い、彼は・・・誰も知らない世界で生きている・・・・・・
龍夜「という訳で今回は前回予告していた通り、フランの過去話でした。二次創作という事もあり、吸血王上のフランの過去を考えるに当たって一番大変だったのは原作と違うフランを描く上で彼がどんな人生を歩んだか、でした。それでは今回も解説を交えながら話していきたいと思います」
Q:原作のフランと違いすぎない?
龍夜「これに関しては自分の見解も交えて書いているので違くなってしまうのは仕方のない事でした。原作のフランは『気がふれている』『自分から進んで外に出ようとしない』とありますが、ここ(東方吸血王)のフランは最初から気はふれていない何処にでも居る普通の少年でした。しかし、フランの生きていた時代はまだスペルカードルールという非殺傷の戦いはまだ無く、彼は家族を守る為に無謀ともいえる修行法で自身の体を傷つけながら修行をしていました。そして発芽させた能力が後に他の吸血鬼の一族を死に至らしめる『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』です。フランはその能力の危険性を理解しないまま修行時や、スカーレット家と関わりがあった他の吸血鬼の一族との会合やパーティの余興で行われた模擬戦でその能力を使い続け、無意識の内に殺しに快楽を得る様になりました。そして、結果的にフランは原作と同じ感じになった訳です」
Q:何で裏の人格とか出したし・・・
龍夜「幽閉されていたフランの憎しみが具現化した存在があの裏人格という設定です。当初は出す予定はなかったのですが、『東方祖龍録』の『アイ・スカーレット』と似た感じの存在を出したかったというのもあり、出しました」
Q:吸血鬼異変って起こったの?
龍夜「起こってません。そもそも起こす前にフランは父親を含め、スカーレット家と繋がりのあった吸血鬼の一族全員を能力で殺してしまいました。そういう所で原作をぶっ壊す辺り極夜とフランは似ていますね、ハイ・・・」
龍夜「という訳で今回はここまで。投稿ペースが遅くなってしまい本当に申し訳ありません・・・次回はなるべく早く投稿できるよう頑張りたいです・・・」
フラン(極夜)「そんな訳で今回もこんな駄文を見てくれて有難うございます」
龍夜&フラン(極夜)「「それではまた次回お会いしましょう」」