もしも騎士王の直感スキルがEXだったら   作:貫咲賢希

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 本編というよりもエピローグその1ですね。


第十二話 契約

 ある日、雲ひとつない青空の下、士郎はセイバーと共にとある墓前と立っていた。

 和風墓地には二人以外誰もいなく、余計に静かな空気が流れていた。そして、セイバーは士郎より二三歩下がった場所で墓石を眺める。そこには士郎の養父であり、自分の元マスターである切嗣が眠っている。

 もっとも、遺骨はなく、彼を燃やした時に残っていた灰を入れたものがあるだけの墓だとのことだが、それでも切嗣の墓であることには変わりない。

 本来ならイリヤも同行する予定だったが、彼女は何かを察してか士郎とセイバーの二人で向かわせた。

 

「───という訳で、爺さん、聖杯戦争終ったよ。

 滅茶苦茶な形だけど、結構無事に済んだ。

 遠坂はカレンとギルガメッシュの財を共有し、サーヴァント達を使いぱしりにして色々としてるようだけど、そのお陰でアインツベルンを脅して、イリヤを再調整して人並の寿命にしてもらったから俺たちも良かったと思うよ。

 調子に乗った遠坂がいつうっかりするとか心配だけど、あそこにはもう一人の俺と桜もいるから大丈夫だと思うぜ。

 んじゃあ、今度はイリヤと一緒に来るから、またな」

 

 そうやって立ち上がった士郎にセイバーが声をかける。

 

「もう良いのですが?」

「ああ、大体は報告したしな。それよりもアルトリアはいいのか?」

「いえ、墓前でも、彼と何を語ればいいのか、未だ整理がつかないです。そうですね、今度、イリヤと来た時には、ちゃんと向きあうようにします」

「そうか────」

 

 セイバーと切嗣の話は彼女の言葉から聞いている。

 その時の彼女には、今の様な直感は存在せず、結局最後まで確執を生んだまま切嗣とは別れたそうだ。

 全てが終わった今でも、しこりは残っているのだろう。

 だが、いつか、落ち着いたときでも話せることを願う。

 もう二人が互いに顔を合わせて話すことは叶わないけど、気持ちだけでも理解し合えたら良いと思う。

 そう考えながら士郎は墓参りの片づけをセイバーと共にした。

 

「そう言えば、シロウはこれからどうするつもりですか?」

「? ん、とりあえず帰りに夕飯の買い物をするつもりだ。イリヤがドイツ料理をリクエストしてきたから、それに答えないと」

「いえ、そうではなく今後のことです。シロウはこれからどうやって生きるつもりですか?」

「なんか漠然とした質問だな」

「あ、すみません」

「いや、別にいいよ」

 

 士郎はうーん、と頭の中を巡らせて、彼女の質問に対する答えを選ぶ。

 

「まずは普通に学校は高校を卒業するまでは通う。その頃までに魔術協会が存命(、、)していたらそこで修行するかな」

 

 濁った言い廻しだが、自分の魔術の師となった凛は色々と企てている。それがロクでもないことかそうでもないことなのか知らないが、大それたことは間違いない。

 もしかしたら、時計塔を牛耳るかもしれない。

 幾らサーヴァントが存在しようが簡単にはいかないだろう、と思うものの、時計塔の総戦力を知らない士郎にとっては簡単に捨てきれない可能性である。

 

「まぁ、どうなろうと魔術の修行は続けるよ。いつかは宝石に頼らず固有結界を使いたいしな」

「何のためにです? 戦いはもうないのに」

「今はな。でも、いつ何があるか分からないだろ? だから、もっと強くならないと。アルトリアに守ってばかりじゃカッコ悪いしな」

「そ、そんな、士郎は十分今でもカッコいい、です」

「ははは、ありがとう」

 

 頬を染めながら告げる彼女の言葉を、士郎は照れ臭そうに受け止めた。

 そうやって雑談をしながらゆっくりと片づけていたが、それも既に終了していた。

 後は帰るだけ、と、後を去ろうとした時、士郎は何か重要なことを思い出したのか慌てて立ち上がった。

 

「まずい、アルトリア! 大事なことを言い忘れてた!」

「はい?」

 

 突然の出来事に、何のことか首を傾げるセイバーに対して、士郎は言った。

 

「セイバー、俺との契約を破棄してくれ」

「え────」

 

 時が凍りついたような気がした。

 

 数秒の静寂の後、ポロポロと、セイバーの翡翠の瞳から涙が溢れ出だ。

 その様子に自分が失言した事に気づいた士郎は更に慌てふためく。

 

「ち、違うんだそう言う意味じゃなくて」

「う、えぐ、な、ならどういうことですかぁ?」

 

 余程ショックだったのか情けない声を上げるセイバーを見て、オロオロと士郎は必死に宥めようと模索する。

 

「つまり、あれだ、そのマスターとサーヴァントという関係をなしにしてだな──」

「そ、そんな、私に何か到らぬ事が──」

「違う! アルトリアは何も問題ない! 俺はつまり新しい関係を──」

「新しい、関係?」

 

 セイバーは士郎の言葉の意味を良く理解できないでいた。

 普段の彼女ならいざ知らず、事前のショックが強すぎたのか、ランクEXの直感がうまく機能していないのだ。

 自分がやらかしてしまったせいで、いつものなら色々と察してくれる彼女が訳の分からなそうに不安げな顔をするのを見て、士郎の覚悟は決まった。

 

「アルトリア────」

「はい・・・・・・・・・・・・」

「俺と結婚してくれ」

 

 再び時が止まった。

 石像の様に何も反応を示さないセイバーを見ながら、士郎はしどろもどろになりながら、必死に説明する。

 

「その、主と使い魔との関係というか、対等な関係で向き合いたいとか、俺の言葉足らずでアルトリアを悲しませたのは本当にごめん。でも、こんな俺だけど、アルトリアの味方になるから、幸せにするから、だから────」

「シロウ」

 

 ふっと、少女の顔が青年の顔に近づき、唇が重なった。

 

「!」

 

 目を見開く士郎に対して、セイバーはゆくりと離れながら、頬を染めた笑みを見せる。

 

「私の答えなんて、貴方にお会いしたときに伝えました・・・・・・・・・・・・」

「アル、トリア」

「愛してます」

「俺もだ」

 

 士郎のその言葉を聴いて、セイバーは首を横に振った。

 

「それでは嫌です。直感で分かっていても、貴方の口から、貴方の声で聞きたい。貴方の想いを」

「アルトリア・・・・・・・・・・・・」

 

 ぎゅっと、優しく、されど強く包み込むように士郎はセイバーの体を抱きしめた。

 そして、耳元に囁く様に、はっきりと自身の気持ちを伝える。

 

「好きだ、アルトリア。ずっと一緒にいてくれ」

「────はい。ずっと居ます。貴方が望む限り、貴方の傍に居ます」




 残り、一話。19時に。
 エピローグその2。
 最終話『理想郷』

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