もしも騎士王の直感スキルがEXだったら   作:貫咲賢希

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元々は短編でしたが、要望が多かったので2014・2・1に長編へ進化(話数少なけど)進化しました。
基本ギャグなので注意しください。


第一話 邂逅

 

「問おう、貴方が私のマスターか――いえ、将来の伴侶ですね!!」

「はっ?」

 

 自分の目の前、月を背にしながら、金髪で翡翠の瞳の少女が、頬を赤らめて訳のわからない事を言った。

 衛宮士郎は混乱している。

 夜の学校で、赤い服の男と青い服の男が、時代錯誤の決闘をしているのを目撃し、その青い男が自分のことに気付くと、口封じのために襲ってきた。

 そして、逃げまどい、学校の廊下で青い服の男持つ禍々しい赤い槍で心臓を貫かれた。

 が、途絶えた意識が再び浮上すると、確かに貫かれた心臓は元どおりだ。

 夢かと思ったが、胸にこびりついた血痕がそれを許さない。

 意識がはっきりしないまま、とりあえず帰宅するものの、再度、青い服の男が自分の家に来襲してきた。

 

 事前に察知した士郎はなんとか抵抗しようとする。この身は魔術師。半人前だが、自衛の手段は多少心得ている。

 しかし、所詮は半人前。最初とは違い、すぐに殺されなかったが、一方的な攻防で士郎は為すすべがなかった。

 

 命からがら、なにか武器はないかと家の中にある土蔵に逃げ込む。

 そして、青い服の男が自分の眉間目掛けて、槍を突きたてようとした、その瞬間、左手が焼けるような激痛が襲い、青い光が全てを包んだ。

 

 光が収まった瞬間、士郎の目の前に美しい少女がいた。

 青い衣装の上から銀色の鎧を身に纏い、黄金の髪を持つ少女はその凛とした翡翠の瞳を士郎に向けて、先ほどの言葉を述べた。

 

 問おう、貴方が私のマスターか――いえ、将来の伴侶ですね!!

 

 呆気にとれられるのは仕方ない。

 

「むっ!」

 

 凛とした空気から一転し、潤んだ目で士郎を見つめていた少女がきりっと後ろを振り返り、土蔵から飛び出した。

そこで、ようやく士郎の麻痺した思考が再び正常に戻る。

 外には自分を襲った男がいる。少女が危ないと、本能的に土蔵に出た瞬間、信じられないものを目にした。

 

 少女と男が戦っていた。

 火花が散る。地面が抉れる。常人ではありえない跳躍を双方が為し、月を背に二つの影が交差する。

 しかし、それは、すこし前に見た赤い男と青い男の戦闘に近かったが、あろうことか少女のほうが男を圧倒していた。

 男は忌々しげに少女を睨みつける。

 

 少女の得物はなかった。いや、見えないだけで、そこにたしかにある。

 見えない武器という武器は厄介なもので、間合いが掴めない。

 

「卑怯者め! 自らの武器を隠すとは何事か!」

「貴様こそ、不躾者が! 私と彼の運命的な出逢いを邪魔するなど、馬に蹴られて死んでしまえ!」

「はっ? なに言って――うお!?」

 

 駿足で踏み込み、少女は見えない剣を凪ぐ。男は何とか槍を盾に防ぐも、後方に吹き飛ばされた。

 

「どうした、ランサー? 止まっていては槍兵の名が泣かこう。そちらが来ないなら私が行こう」

 

 どうやら自分を襲ってきた男はランサーと呼ぶらしいと士郎は理解する。

 ランサーは少女を忌々しげに睨みつける。

 

「その前に一つ聞かせろ。貴様の宝具――それは剣か?」

「さぁ、どうだろう? 斧、槍、いや、もしや弓ということもあるやも知れぬ」

「ぬかせ、セイバー」

 

 少女はセイバーと呼ぶらしい。

 しかし、次に彼女、セイバーが発した言葉が事態を急変させる。

 

「そちらこそ、覚悟してもらおう。クランの猛犬」

「な!」

 

 そのセイバーの一言でランサーの顔が強張った。

士郎には理解できなかったが、その言葉はランサーにとって衝撃的なものだったようだ。

そして、その様子を嘲笑するように口を歪めながら、セイバーはスラスラと続きを言う。

 

「その槍捌き。思い当たるのは一人しかいない。ケルトの大英雄、光の御子クー・フーリン。そして、貴様の宝具はゲイ・ボルク。因果逆転の呪いにより、真名解放すると「心臓に槍が命中した」という結果を作ってから「槍を放つ」という原因を作りだすことで間違いないな」

「おいおい! 出会ったばかりの奴に真名以外にも宝具まで知られるなんてどういうことだ! てめぇ、なんで分かった!?」

「女の勘だ」

「それで分かってたまるか!!!」

 

 思わず大きなリアクションをするランサー。その隙を、セイバーは見逃さなかった。

 

「隙あり――風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

「しま――」

 

 隙をつかれたランサーはセイバーが放った突風に為すすべなく直撃し、遥か彼方まで飛んで行った。

 

「た、倒したのか?」

 

 困惑気味に士郎が近づくと、セイバーは申し訳なさそうな顔で首を横に振った。

 

「いえ――。一気に倒そうと思いましたが、風を逆に利用されて逃げられました。すみません、軽率な行動です」

「いや、いいって! その、助けてくれたんだよな。ありがとう」

「マスターを助けるのは当然です」

 

 言葉は澄ました言い方だが、セイバーの顔は誇らしげで、とても嬉しそうだった。

 

「その、マスターってなんだ?」

「…………どうやら、貴方は正規のマスターではないようだ。そうですね、ここではなんですし、屋敷の中で詳しく説明しましょう。かまいませんか、マスター?」

「あ、ああ。というか、そのマスターっていうのは止めてくれないか?」

「しかし、貴方の名前を私は知りません」

「ああ、そういえば名乗ってないな。士郎、衛宮士郎。それが俺の名前だよ」

「エミヤ、シロウ――ああ、そういうことですか」

「?」

「いえ、なんでもないです。シロウ、ええ、私にはこの発音が好ましい。私はセイバーとお呼びください」

「それが君の名前か?」

 

 そう尋ねて、セイバーは少し悩んだ顔になり、僅かに戸惑いながらも次の言葉を告げた。

 

「いえ。正確な名ではありません。しかし、その、シロウがよろしければ、二人きりの時にだけ、アルトリアと呼んでもらえませんか?」

「アルトリア?」

 

 士郎が彼女の本名らしき名を口にすると、セイバーは一瞬だけ呆けるようになると、擽ったそうに頬を緩めながら頷く。

 

「はい。本来はサーヴァントの真名は明かすものではなく、失礼ですが貴方のような未熟なマスターでは情報が漏れる危険もあるので明かすべきではないのかもしれません。しかし、私のこの名は一般的な通り名ではないので構いませんでしょう。それでも、二人きりのときに呼んでもらえるのが幸いです。人前ではセイバーとお願いします」

「よくわからないけど、分かった。とりあえず、よろしくかな、セイバー」

「アルトリア」

「え?」

「いまは、二人なので、先ほどのようにアルトリアです。その……貴方が嫌なら構いませんが」

 

 さっきほどまで覇気に満ちた顔で男と対峙していたセイバーの、どこか拗ねたような表情を見て士郎の心臓が高鳴った。

 

「いや、分かった。じゃあ、改めてよろしくな、アルトリア」

「はい、シロウ!」

 

 嬉しそうにセイバーが笑う。

 じっと見つめてくる視線に気恥かしくなった士郎は一番気になることを思わずセイバーに一番気になっていることを尋ねる。

 

「あ、あのさ、アルトリア。そのさっきの土蔵で、マスター以外にも伴侶とか言ったけど、あれは?」

 

 そういうとセイバーの顔がいっきにゆでタコのように赤くなる。

 清澄な静かな少女と思ったが、ころころ変わる彼女の顔を眺めて、遠いと思った存在が近くに感じる気がした。

 

 そして意を決したように、セイバーは士郎を見て

 

「シロウ――――貴方を愛しています」

 

 いきなり愛の告白をしてきた。

 

「なんでさ」

 

 士郎は正直に言ってしまうと、嬉しくないわけがなかった。こんな綺麗な子に告白されて嬉しくないわけがないのだ。

だが、士郎はそれよりも困惑の念が感情をしめていた。彼女と自分は先ほど出逢ったばかりだ。それなのになぜ彼女は自分の事を好いているのか? その疑問を解決するようにセイバーは理由を告げる。

 

「貴方を一目見たときに、こう私の直感スキルがキュピ―――ンと来たのです。もう聖杯よりも貴方が欲しい。そんな感じです」

「は、はぁ」

 

 なんとも言えない理由に士郎は呆れ半分戸惑い半分というところだが、セイバーは真剣に士郎を見つめている。

 

「私は剣を振るうしか取り柄がないですので、貴方に気に入られるとは思っていませんが、盾となって貴方を護ります。寄り添うことは叶わなくとも、最後まで貴方と共にします」

 

 その言葉はどこまでも誠実で胸にくるものだった。

 

「…………」

「すみません。いきなりこのようなはしたないことを言ってしまって。ご迷惑でしたよね」

 

 暗い顔で俯くセイバーを見て、士郎は慌てて首を振った。

 

「い、いや、アルトリアみたいな綺麗な子にそう言われて俺も嬉しいよ。ぜんぜん迷惑じゃない」

「シロウ――」

「お前の気持ちはすぐに答えられないけど、これからお互いのことを知って、それから言うのは駄目かな?」

「い、いえ! 構いません! ずっとお待ちしていますね!」

「そうか。じゃあ、三度目になるけど、よろしくな!」

「はい!」

 

 かくして、二人の恋物語は始まった。

 聖杯戦争? なにそれ美味しいの?

 


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