そして馬鹿が出ます。
恩さんは意外とモテます
夏侯恩として生きる様になって8年。
俺は今洛陽にいる。
父が洛陽に赴任する事になり、無理を言って付いてきた。理由は修行の時間が欲しかったからだ。
孟徳、元譲、妙才の3人を相手にする為に修行の時間が減ってしまったので、1人になれる時間が欲しかった。
それと、3人が俺に依存し過ぎているのだ。何かあれば直ぐに俺を頼り、自分で解決しようとしない。3人の親は甘やかし過ぎだ、俺がいるからいいだろうとでも思っているのだろう。
だから3人には何も告げずに町を出た。時折母から届く手紙には3人の事が書いてあるのだが、最初の頃は悲惨だった様だ。
俺がいなくなったを知るや否や泣きながら町中を探し回ったらしい、しかも1日中。
次の日から孟徳は我が侭を言い続け、元譲は暴れまわり、妙才は引き籠ったそうだ。
俺はそうなる事を見越して、3日経ったら3人に手紙を渡してくれる様に母に頼んでおいた。
内容は言い回しは違えど、お前達が周りに迷惑をかけない様にならないと俺は町には戻らない。と言う内容だ。
勿論父と共に町に帰るつもりだが、手紙が効いたのか3人は俺がいた時と同じ様になったそうだ。
只やはり寂しいのか、夜になって手紙を見ながら泣いてるらしい。
それを手紙で見ると心苦しくなるが、これも3人の為だ。
さて、洛陽にいるのだが既に十常侍共が蔓延っていた。まだ目立った事はしていない様だが、いずれは専横に走るだろう。それを止められる奴は洛陽にはいない、十常寺に逆らおうとする奴すらいないのが現状だ。
唯一対抗出来る力を持っているのが袁家と曹家なのだが、どちらも地方に飛ばされている。まあ袁家はあまり頼りには出来ないだろう、どうせ袁家には馬鹿な奴等しかいないのだからな。
さて、洛陽で俺は何をしているのかと言うと、いつも通り剣の修行と学を学んでいる。
剣の修行だが、ようやく本物の剣を使って修行が出来るようになった。俺と父の住む屋敷の護衛の兵士を相手に修行をしている。
いくら長い事独自に修行をしたとは言え、あくまでも子供がした修行だ、訓練をしている兵士に敵うとは思ってはいない。しかし体力をしっかり付けた為、こっちが疲れる事は無い。むしろ兵士がバテて終わる事が多い位だ。
だが1人で行ってきた修行よりもずっと効率よく修行が出来るようになった。
学の方も洛陽には見たこともない書が沢山あり、とても有意義だ。
あいつに会わなければ・・・。
「おーっほっほっほっ」
また五月蝿い奴が来たか・・・。
「ちょっと夏侯恩さん、気付いているのでしょう?」
彼奴さえいなければもっと有意義に過ごせるんだが・・・。
「ちょっと!!無視ですの!?袁家の跡取りであるこの私を無視ですの!?」
五月蝿い・・・俺の邪魔をするな・・・集中してるんだ。
「キィー!!私が話しかけているのですから私を優先しなさい!!」
そう言って五月蝿い馬鹿が俺の読んでいた書を取り上げる。
「おい・・・俺の邪魔をするなと何時も言っているだろう・・・」
「そんなの知りませんわ!!私を無視する夏侯恩さんが悪いんですわ!!」
「お前に付き合う暇は無いんだ・・・学の邪魔をするな。」
「私は袁家の跡取りですわ!!地位の低い夏侯家の貴方には私に付き合う義務がありますわ!!」
「それはお前の勝手な言い分だろう・・・話にならん・・・」
俺は立ち上がると外に向かって歩き出す。
「ちょっと!!話はまだ終わっていませんわ!!」
後ろから馬鹿が声を張り上げながら付いてくる。
「話にならんと言っているんだ、付いてくるな。」
俺は書庫を出ると全力で走って馬鹿から遠ざかる。
「ちょっ!?今日こそは逃がしませんわ!!」
馬鹿も走り出すが俺に追い付ける筈がない。
馬鹿を撒くと俺は兵士の訓練所に向かう事にした。
兵士訓練所に来ると何人かの兵士が訓練をしていた。俺は洛陽に来てから毎日の様にここで修行しているので、ここの兵士達とは顔馴染みだ。
俺は何時もの様に訓練用の剣を取ると軽く振ってからかつての動きを真似る。やはりかつての俺の動きは体にピッタリ合う。
半刻ほどしてから並んでいる人形相手に打ち込む。これを1刻続ける。
それから1刻ほど剣を持って訓練所内を走る。
最後にもう一度かつての動きを真似て修行を終える、これが最近の修行の手順になっている。
訓練用の剣を戻し、訓練所を後にする頃には日は沈み暗くなっている。
俺はあちこちに蝋燭の火が灯る表通りを家に向かって歩いていると、何処からか泣く声がする。
泣く声がする方に行ってみると、あの馬鹿が泣いていた。恐らくは俺を捜している内に暗くなってしまい、帰るに帰れなくなったのだろう。
俺は無視して帰ろうと思ったが、反対側から粗暴の悪い酔っ払いが歩いてきた。酔っ払いは馬鹿に気付くと話しかけ始めたが、その眼は下心が見え見えだ。
俺はその酔っ払いの後ろに回り込み、手刀を食らわせて気絶させると馬鹿に声をかける。
「何時まで泣いているつもりだ、さっさと帰れ。」
「か・・・夏侯恩さん・・・グスッ・・・でも・・・暗くて・・・道が解らないんですわ・・・グスッ・・・。」
「お前の家なら俺が知ってる、送ってやるから早く立て、置いていくぞ。」
「グスッ・・・ま・・・待ってください・・・。」
やっと立ち上がった馬鹿を見ると、こいつの家に向かって歩く。馬鹿はまだ泣きながら付いてくる。
ちなみにこの馬鹿は袁家の跡取りである袁紹だ。かつての袁紹も家柄と血筋に傲った馬鹿だったが、場所が変わっても馬鹿は馬鹿だった様だ。
「・・・あの・・・夏侯恩さん・・・。」
「なんだ?くだらない事を言ったらお前を置いていくぞ。」
「・・・あの・・・心細いので・・・手を繋いで戴けますか・・・。」
「・・・ほらよ。」
おずおずと俺が差し出した手を握ってくる、手が冷たいな・・・今日は冷えたからな。
手を繋いで歩いていく俺と袁紹。その袁紹の顔がとても幸せそうだったのを俺は見ていなかった。
袁家の家の近くまで来ると、袁家の奴等が袁紹を捜していた。
「ほら、袁家の人間が捜してる、早く行ってやれ。」
最後まで送る必要は無さそうだと思い、繋いでいた手を離して袁紹に行く様に言う。
「あ・・・ありがとうございました・・・。」
袁紹も俺に頭を下げると走っていった。
・・・俺も帰るか・・・しかし寒いな・・・。
次の日俺は風邪を引いて寝込んでしまい、家の前で喚く馬鹿の声を無視し続ける事に追われた。
恋姫っぽくさせるために夏侯恩さんにはフラグを立てまくって貰ってます。
回収するかへし折るかは追々考えますが、恩さん自身は無自覚かつ無意識です。