隻眼の猛将、恋姫無双の世界へ   作:恭也

6 / 25
夏候恩の真名は前の物と変わりません。
字は本来成人して自分でつける物ですがこの世界では真名と同時に受けとる事にしました。

では訂正四話をどうぞ。


第四話 研鑽の日々、明かされる事実、字と真名

過去の自分を超える事を決めた猛将の魂。

喋る事や書や竹簡を読む事が出来る様になり、街に出ては身体を動かして今の身体に馴染んでいく。

今日も夏候恩は街中を駆け抜け新たな知識を得る努力を続ける。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺が曹操と出会い、この時代での自分の進む道を決めてから早い物で既に二年が経過している。

この二年、俺は出来る事に手当たり次第に手を出して糧としている。

這っての移動しか出来なかったから早くから立つ練習を始め、長く立てるようになれば壁を伝って歩く練習をして、半年程で普通に歩ける様になった。

歩ける様になれば屋敷の中を歩き回り、庭にも出て兎に角あちこち歩き回った。侍女や使用人には心配されていたが、転んでも泣かずに立ち上がりまた歩き回る姿に母は静観しており、次第に侍女達も遠目から見守る程度になった。

屋敷には書や竹管もそれなりに所蔵されていて直ぐにでも読もうかと思ったが流石に字を習ってすらいないのに読んでいては不審がられると思い、先に母や字を書ける侍女と使用人に頼み半年程字を習い、それから読み漁り始めた。

始めの内は適当に取っては読むを繰り返していたが娯楽や兵法に関係無い物は読んでいても面白くも無かった為、直ぐに兵法書や学問書を選んで読む様になった。

一年程で屋敷に所蔵されている兵法書や学問書は読んでしまい、母に他には無いのかを尋ねたら街で私塾を営んでいる先生を紹介されて直ぐに訪ねて兵法を学びたいと願い出た。

先生は兵法よりも字の読み書きや学問を教えているらしく兵法を教える事は出来ないが私塾や個人で所有している物は好きに読んでくれて構わないと申し出てくれて、最近は時間を見つけては私塾に出向いて書を読み漁っている。

先生は時折他所の街にも出向いて字を教えており、私塾が閉まる時があった。そんな時は体力と持久力をつける為に街の中を走り廻ったり、市場を覗いて物流や価格の変動を確認している。

本当なら直ぐにでも武芸の鍛練をしたかったが今の俺は三歳の子供、今鍛練の為の武器をねだっても断られるだろうと思いそこまではしていない。

しかし街を警備、防衛するための兵士の詰所兼修練所があるので時折そこを覗いて鍛練の様子を眺めたり、武器を使わない鍛練を真似たりしている。

この街の兵士は鍛練に積極的で、俺の記憶の軍の兵と比較すると精鋭兵と比べれば流石に劣るが、雑兵や一般兵と比べればかなり優秀だろう。稀に小規模の賊が街に来るらしいが毎度返り討ちにしているらしいから練度も高いのだろう。

 

そんな風に毎日を過ごしていたある日、今日も私塾に向かおうと支度をしていたら侍女から母が呼んでいるから部屋に向かう様にと言われて母の部屋に向かっている。

母の部屋に入るとどうやら執務中らしく、近くにある来客用の椅子に座り母が執務の手を止めるのを待っていた。

母は直ぐに手を止めると既に用意されていた茶を飲んでから俺の方に向き直った。しかし何か言うのを躊躇っている様で中々話が始まらない。

仕方無く俺から話を振る事にした。

 

「母上、何か話があると呼ばれて来ました、大事な話だと言う事でしたが…?」

 

俺から話を切り出したがそれでも母は中々話を始めない。ここまで来れば俺も母が何を話したいのかは察したので更に踏み込んでみる。

 

「母上、話とは父の事ではありませんか?話しづらいのであれば時間を置いても構いませんが?」

 

俺がそう言うと母は驚いた表情になる。それはそうだろう、今まで隠していた事を問われれば驚くのが当然だ。

だが俺は父が既に死んでいるのをもう知っている。侍女や使用人が話していた内容を断片的に聞いており、それを繋ぎ合わせていって出た結論で全てを知った訳では無いが、父は夏候恩の身体が産まれる数日前に死んだ事が分かったのだ。

 

母は俺が既に父の事を知っていると分かると意を決して事の顛末を話してくれた。

 

父はこの街の兵を取り纏める立場で、この身体が産まれる数日前に街道で商人を襲う山賊の討伐を命じられて出撃したそうだ。

山賊討伐には周辺の街からも兵が出ていて、山賊の拠点がある山を包囲して徐々に殲滅していく作戦だったらしいが、連携が密になっておらず、更に他の街の兵に内通者もいた様で図らずも乱戦になってしまったそうだ。

その乱戦の最中、兵を指揮するために最前線に立っていた父はなんとか山賊の長を討ち取ったそうだが敵の矢を背中に受け、その隙を突かれて山賊に斬られたとの事だ。

 

顛末を話してくれた母の目には涙が光っており、俺もいたたまれない気持ちになった。顔も知らないし俺とは直接は何の関係も無いが夏候恩の父であり、乱戦となった戦場の前線で指揮を取り山賊の長を討ち取ったのだ、素晴らしい人物だったのだろう。

 

「ありがとうございます母上、父の事を話してくれて…私も父の様な素晴らしい人物になれる様精進していきます」

 

俺は母に頭を下げて礼を言った。本当なら話したくない、思い出したくない事だった筈。それを話してくれた事に素直に感謝の気持ちを示した。

 

「…ええ、頑張るのですよ恩、貴方は強くて立派な父の子なのですから、それともう一つ、貴方に話す事があります」

 

そう言って母は改めて姿勢を正した。俺も頭を上げて母と向き合う。

 

「恩、貴方に字と真名を授けます、いいですね?」

「字と…真名?」

 

母から字と真名を授けると言われ俺はまた考える。

まずは字だ、本来字は成長して成人した時に自分で考える物だった筈、この時代では字の使い方も違う様だ。

次に真名だ、これは全く知らん。俺が生きた時代にはそんな風習は無かったし聞いた事も無い。

俺がそんな事を考えていると母が咳払いをしたので意識を母の方に向ける。

 

「恩、貴方の字は子雲、真名は冬椿です。字は亡き父が貴方に遺してくれた物、父の思いを無下にしないよう励むのですよ?」

「…はい、夏候恩、字を子雲、真名は冬椿、受け取らせていただきます」

 

そして母は真名について教えてくれた。

何でも字より神聖な名らしく、真に信じられる者にのみ預ける事を許し、預けられていない者が真名を呼んだら首を斬られても致し方無い程の物らしい。

どうやら母が以前に誰かに度々呼んでいた名は真名だった様だ、しかし打ち首も致し方無しな名を知らぬ者がいる場所で軽々しく使うのはどうなのかと思うがな。

 

さて、父の事も知れて新たに字と真名も得た、急いで先生の所に行くとするか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

字と真名を得て、知識の吸収と自己の鍛練に励む夏候恩。

しかし夏候恩はまだ知らない。

時代はゆっくりと、しかし確実に乱れ始めている事を。

そしてそれは自身の足元にも迫ってきている事を。




設定やら時代背景やらにはオリジナル要素を含んだりしますのでご了承ください。
一応恋姫ベースに無双の要素も少し取り入れればなと思っています。

次話、夏候恩に悲劇が迫る…かもしれません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。