隻眼の猛将、恋姫無双の世界へ   作:恭也

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修正、訂正の二話です。
何処かで書いたかもしれませんが夏候惇の魂の設定を改めて載せておきます。
真・三國無双7の魏正史ルートの夏候惇です。
曹操が欲した関羽と散々苦汁を舐めさせられた諸葛亮にはかなり思う所があり、研鑽の理由のそれなりの割合をその二人に負けない為にと思っています。
勝つ為ではなく負けない為にというのが五十~六十年を生きた全ての経験を知る壮年の精神による物です。


第二話 整理、思考、そして出会う

 

目が覚めたら状況が変わっているとの願いは儚く打ち砕かれ赤子のまま乳を飲むという苦行を繰り返し味わう事になった夏候惇の魂。

しかしそこは何十年と生きてきた猛将の魂、そんな苦行も一月も経てば動じる事もなく心を無にして腹が満たされるのを待つ様になった。

そして時が経つにつれて少しづつ情報も得られそれを整理する事も出来てくる。

そして猛将の魂は幾つかの仮説を導き出していく。 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

死んだ筈の俺が赤子として目覚めてからもうすぐ半年になる。

この半年、目覚めている時は乳を飲む事に耐えながら様々な考えを巡らせてきた、そして少しづつながら今の俺がどんな状況に置かれているのかの情報も得られてきた。

 

まず一つ、それはこの赤子の身体が本当の俺の身体では無いという事だ。

 

最近俺が目覚めから半年が経過した、それは間違いないのだが、この身体はどうやら産まれてから一年が経っているらしいのだ。

と言うのも最近になって床を這って移動することが出来る様になってきたのだが、普通は産まれてから半年で這って移動なんか出来る筈が無い。

もう一つ決定的なのが部屋の外から聞こえてきた会話にご子息が一年無事に過ごせた、と言っているのが聞こえたのだ。

俺の意識からしたら半年、しかし身体からしたら一年、この食い違いに俺は一つの考えに行き着いた。

 

 

俺の魂は本来入る筈の身体では無く違う身体に入ってしまったのではないのか?

だから意識の目覚めが身体が産まれた時と誤差が出たのではないのか?

 

 

そう考えると俺がこれまでに集めた情報にも説明がつけられる様になる。

俺に乳を飲ませていた女がこの身体の母である事、この身体の産まれた家が夏候家である事、そしてこの身体の名前が恩と言う名である事だ

女は俺をあやす時によく恩、恩と言っていた、最初は意味が分からなかったがこの家が夏候家であるならこの身体は夏候恩と言う名になる。

夏候恩と言うと俺には殆ど接点が無かったが一族には確かに名があった、そして荊州での劉備軍追撃の際に劉備配下の趙雲に斬られ孟徳所有の宝剣の一振りであった青紅剣を奪われた者だ。

つまり今の俺は夏候惇の魂が夏候恩の身体に宿ってしまったのだと考えられる。

 

そう考えれば他に得られた情報にまた説明がつけられる様になる。

ここが死後の世界では無く俺が生きてきた時代と大差が余り無い時代である事だ。

俺の意識が目覚めてから半年、俺はこの部屋から出る事は殆ど無かったが稀に女に抱かれて部屋の外に出る事があった、その際にこの屋敷の様子や僅かに見える外の様子を見ていたが俺が幼少期に育った地と殆ど変わらない事に気付いた、屋敷の構えや外から僅かに聞こえる喧騒も変わりが無いのだ。

幾つか違う物もあったが衣服が少し贅沢な物になっていたり、調度品に見知らぬ物がある程度なのを考えれば大差は無いと言えるだろう

 

しかし俺の知る時代と大差無い時代に夏候恩の身体に俺が宿ってしまったと考えるなら幾つかの疑問も浮かび上がってきた。

この時代に孟徳や淵が産まれる、既に産まれていたとしたらどうなっているのか?

夏候恩が俺と歳が近かったのか遠かったのかは知らないが、俺の魂が宿る筈だった俺の身体はどうなっているのか?

俺の知る過去と大差無い時代ならこの先また乱世になるのか、その発端たる黄巾の乱が起こるのか?

 

色々と考えが巡るが産まれて一年の身体では何か出来る訳も無く、また言葉もろくに話せない以上誰かに聞く事も出来ない。

今は流れに身を任せるしか無いと考え、俺は部屋の中を這って動き回り、時には部屋の外に出て屋敷の中を探って回っている。

しかし這っての移動では対した所まで行けないうちに身体の母である女や屋敷の使用人や侍女に見つかって抱き上げられては部屋に戻されるを繰り返していてまだ屋敷の全容は把握出来ずにいるが少しづつ行動範囲を広げている。

 

そんな生活が続いているが最近になって新たな疑問が出てきた。

この屋敷にはこの身体の母に数人の侍女と使用人がいるが、俺はこの身体の父とあった事が無いのだ。

屋敷にいない事は別に不自然でも無いがこれ程までに父の痕跡が見当たらない事や侍女や使用人の話に出てこないのは流石に不自然だ、それに息子が産まれて一年経ったのに屋敷に戻らないばかりか文や書簡すらも来ないのはおかしい、誰かに聞きたいがまだろくに話せないので聞く事も出来ない。

 

そんな疑問を抱きながら今日も屋敷の中を探ろうと部屋の戸を開けて廊下を這っていくと今日は何時もより屋敷の中が騒がしい、廊下を侍女や使用人が急ぐ様に往き来しているが誰も俺を抱き上げようともしない、何時もなら見つかったら直ぐに抱き上げられるのだが俺に気付いている筈なのにそれがない。

何かあったのだろうかと這って進むのをやめて往き来する者らを眺めていたらこっちに母が来るのが見える、母も俺を見つけると寄ってきて抱き上げる、部屋に戻されるかと思ったが何故か部屋とは違う方へ歩いていくのでやはり何かあったのだろうと結論付けていたら母に話しかけられた。

 

 

「ごめんなさいね、これから大事な用があるの、譙の曹家に跡取りが産まれたからこれから挨拶に往くの、恩の従妹になるから一緒に挨拶に往きましょうね?」

 

それを聞いて俺は冷静に考えていた。

譙の曹家の跡取り、もしかしたら孟徳の可能性が高い、俺がこんな状態になっているから確証がある訳では無いし全然違う可能性だってあるが、これで俺が考えている事の確かな裏付けがとれる事になるからだ。

 

母に抱かれまま初めて屋敷の外に出ると既に門の前には馬車が用意されていて数人の兵士が護衛に着いている、母が馬車に乗り側に控える侍女と共に座るとゆっくり馬車が動き出す。

荷台の周囲は天幕が張られていて外は分からないが正面だけは僅かに開いていて街の様子が見える、やはり俺の知る時代と大差無いし規模も中規模とまではいかないがそれなりの規模だし人にも活気がある、どうやら治安もいいらしい。

しばらくすると城壁の門を潜り街の外に出る、その先は見える限りの広野で整備された道が続くだけの様だったが俺は何か見落としが無い様にと僅かな隙間からずっと外を眺めていた。

 

 

ゆっくり進む馬車の荷台で揺られながら外を眺めていたら次第に城壁が見えてくる。

殆ど真っ直ぐに進んでいた馬車と前を歩く兵士の影の動きから予測すると三刻ほどだろうか、明らかに俺達が出た街の城壁よりもでかい城壁と門から中規模の中でも大きな部類に入る街に馬車が入る。

そこは俺がさっき知った街よりも遥かに人が多く活気に溢れていた。

おそらくこの街の領主であろう曹家に跡取りが産まれた事が知れて賑わっているのだろう、善政を敷いている領主や支配者の跡取りが産まれたら祭になるのは良く知っている、過去でもそうだったからな。

そう考えていたら馬車が一際大きな屋敷の前で止まり前の幕が開かれて母が俺を抱いたまま荷台を降りて門を潜り屋敷の中に入る。

中は俺が住む屋敷とは比べ物にならない程に広く内装もかなり綺麗にされている、侍女や使用人の数も多くやはり領主の屋敷という感じだ。

母と侍女は一旦客間らしき部屋に通される、どうやら他にも祝いの挨拶をしに親戚や縁戚が集まっている様で屋敷の中はかなり賑わっている、母にも挨拶に来る者もいて俺の事も祝われている。

そんな挨拶が続いていたら母がこの屋敷の侍女に呼ばれて部屋を出る、当然俺も抱かれているのだがまだ赤子の俺を大事な挨拶の場に連れていっていいものなのかと考えていたが、辿り着いたのは屋敷の一つの部屋の前だった。

他の部屋に比べて戸や飾りが少し豪勢なのを見ると恐らく領主の寝室なのだろう、広間や大勢の前で無いのなら俺がいても問題は無いだろうなと考えていたら母は部屋の中に入っていく。

部屋の中はやはり多少は飾り付けられているが質素な感じを残してあり、部屋の奥に置かれた床に赤子を抱えた女が座っている。

恐らく領主の妻か妾だろうと思っていたが、その考えは母の言葉でひっくり返された。

 

「曹嵩様、跡取りの誕生おめでとう御座います、我が子恩共々御祝い申し上げます。」

 

その言葉を聞いて俺は驚いたが曹嵩と呼ばれた女の言葉に俺は更に驚かされる。

 

「やめてください姉上、確かに私は曹家の養子になり今は当主ですがここは公の場では無いのです、今は姉上の妹、清華として産まれた子を祝ってください、その為にこちらに呼んだのですから」

「そう…分かったわ清華、無事に子を産む事が出来て本当に良かったわ、もう名は決まったの?」

「はい、名は操と決めました、姉上が抱いているのは姉上の子ですよね?名は恩と聞きましたが」

「そうよ、毎日部屋を抜け出して活発な子なの、それに全然泣かないのよ、きっと強い男になって清華の子も守ってくれるわ」

 

俺は二人の会話から得られた情報に驚いて必死に頭の中で纏めていた、譙の曹家当主が曹嵩、その曹嵩が女、女の曹嵩と母が姉妹、曹嵩の子が曹操…しかしそんな物を頭の中から吹っ飛ばす程の言葉を俺は想定していなかった。

 

「そうですね、女尊男卑の時代ですがその子には何かを感じますね、操も女ですが共に並び立って欲しいですね」

 

これが俺と孟徳とのこの時代での最初の出会いだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

しかし猛将の魂は未だ知らない。

この時代が自分の知る時代とはかけ離れて違う事を。

そしてこの先出会う英傑の悉くが女として産まれてくる時代だということを。




魂やら身体やら書いてますがこの時代の儒学の死生観が魂は元の身体に戻るということみたいなのでこんな感じにしました。
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