隻眼の猛将、恋姫無双の世界へ   作:恭也

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どこかに載せていたかもしれませんが改めてこの小説の主役、夏候惇の設定を。
真・三國無双7の魏伝正史ルートを進んだ設定で樊城への救援に出向き自らの手で関羽を討ち取ってはいますが真の決着をつけたとは思っていません。
また博望坡で諸葛亮の策に敗れてから諸葛亮にも思う所があり、赤壁での敗北も周瑜や龐統の策というよりは諸葛亮の策にやられたと考えています。


第一話 気が付いたら赤子、そして苦行

貂蝉と卑弥呼によって異質へと変化した外史に送り込まれた夏候惇の魂は新たな宿主として今正に産まれようとしている夏候家の赤子へ取り込まれて目覚めの準備をゆっくり進めていく。

転生された今の魂にとっては前世と言ってもいい過去の経験や蓄えた知識の全てが新たな身体に定着するのに半年の時間を有し、眠っていた赤子が目覚めるのと同時に魂も眠りから目覚めるのだった。

 

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(ここは…何処だ?俺は寝室の床で死んだのでは無いのか?)

 

目が覚めて最初に目に入ったのは寝室の天井とは違う天井だった。

自分は死んだ筈では無いのかとはっきりしている記憶を辿ってみる、確かに心臓の動きが弱まっていくのを、身体の力が抜けていくのを、意識が闇の奥底へと沈んでいく感覚をはっきりと覚えている。

ならばここが死後の世界なのだろうかと俺は寝ているであろう身体を起こそうと試みたが身体が全く言うことを聞いてくれない、手足は僅かながら動かせる様だが身体を起こす事が出来ないし頭すら重くて起こせない。

顔も僅かながら左右に動かす事が出来たので自分の周囲の状況を確かめようと思ったら視界に映る物に違和感を覚える、それを認識するのにそれほど時間はかからなかった。

 

(これは…まさか俺の手なのか?どういうことだ、死後の世界では赤子に戻されるとでも言うのか?しかし身体が赤子に戻されているとなると自力では動く事が出来ん、それに…ここは何処なんだ?室内なのは間違いない様だが造りが役人階級の屋敷と同じだ、どうなっているんだ?)

 

周囲の状況や自分の状況にしばらく考えを巡らせているとこの部屋の外に気配を感じて微かに足音も聞こえてきた、どうやら誰かがこちらに向かって歩いてきているのに気付く。

 

 

(誰かが近付いてくる、この屋敷の持ち主か番人か?とにかく今の状況を正しく理解するためにも誰かに出会わなければ…しかし赤子になった俺に会話が出来るか?)

 

 

俺は近付いてくる気配に気付いてもらおうと声を出そうとした、しかし赤子の口から出るのはあーやうーといった言葉にならない声だけで俺は軽く絶望を感じた、しかしそんな声でも充分だった様で微かに聞こえていた足音が速度を上げてこちらに近付いてくるのが分かる。

そして引き戸が開かれ部屋に入ってきたのは女だった、しかも雰囲気が昔死んだ母に何処と無く似ていた。

その女は寝かされている俺の側に来ると俺の身体を容易く持ち上げて抱きかかえてきた、今の俺の身体は赤子になっているのだから女でも簡単に持ち上げられる事は理解しているが、いきなりされては流石に驚いてしまい女の着ている服にしがみついてしまう。

すると女は俺をあやすかの様に背中を軽く叩きながら抱き上げた俺を揺する、そんなことをして欲しかった訳では無いのだか不思議と不快には思わなかった、それに自分の母も幼かった俺をこんな風にあやしてくれたのだろうかと殆ど忘れかけている幼少期の自分を省みていた。

 

(身体の感覚から行動までしっかり赤子という事なのか…これからどうなるのだ?死後の世界で赤子からやり直すとでも言うのだろうか?それに死後の世界ならば孟徳や淵はどうなっているんだ?何とか探しだしたいがどうすればいいのか)

 

 

女に抱かれながら俺はこれからの事に意識を向けていた、しかし次に女が言った言葉に俺は耳を疑った。

 

 

「そういえばそろそろご飯の時間ね、だから起きていたのね、ちょっと待っててね…今お乳をあげますからね」

 

 

その言葉に俺の思考は一気に引き戻されこれまでに無いほどに混乱した。

 

 

(乳?今乳と言ったか!?ま…待て、待て待て待て!?確かに身体は赤子だが俺はもう何十年と生きてきたんだぞ!?やめろ、そんなもの飲ませなくていい、離してくれ!?)

 

 

乳を飲ませようとする女に俺はやめてくれと叫ぼうとするがそんな声が出る筈も無く、赤子が女とはいえ成人に力が勝る筈も無く逃げることも出来ずに女が服をはだけさせ乳房を片方出して俺の口に近付ける事を防ぐ事も出来無い、しかも俺の思考とは裏腹に身体は与えられた乳を飲み始めてしまう。

 

 

(ちょっと待て!?これは何の拷問だ!?やめろ、誰か、誰か助けてくれ!?)

 

 

死んで早々まさかこんな羞恥や屈辱にまみれる事になるとは思っても見なかったが身体が自由に動かせない今は只耐えるしかなく、自然に身体が乳から離れるまで目を閉じてせめて見ない様にしていた。

そして口が乳から離れ女が服を直すのを待ってから目を開き再び周囲を見回しながら考える。

ここは本当に死後の世界なのか、そうだとしたら何故ここまで俺が生きてきた時代と代わり映えが無いのか、ここまで現実的な物なのか。

様々な事が頭の中を巡っては消えていくが次第にその思考も鈍くなってくる、それもそうだ、今の俺の身体は赤子、赤子は腹が減ったら目覚め、満たされたら眠る、つまり乳を飲まされ腹が満たされた身体は眠りにつく準備を始めたのだろう。

このまま考えていても埒が明かない、それにもしかしたらこれは死んだ俺の夢かもしれない、死者が夢を見るのかどうかは分からないが目覚めたら本当の死後の世界で身体も元に戻っているかもしれない、そう考えて取りあえずはこのまま身を任せて眠ろうと決めてゆっくり瞼を閉じていく、目覚めたら今度こそ孟徳や淵に会える事を願って…。

 

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しかしその願いが叶わぬ願いだという事を夏候惇の魂はまだ知らない。

そして…。

 

「ふふ、お腹が満たされて眠くなったのね…強く大きく育つのよ、恩…」

 

自分が違う世界に転生させられ夏候の名を持つ別人へと変えられてしまった事を。




感想ありがとうございます。
3年もほったらかしていたのに待ってましたとの感想をいただいて感謝しかありません。
しばらくは修正、訂正が続きますが待っていてくれる方の為にも頑張っていきます。

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