孫堅がある思いを胸に秘めます。
そして若虎はすぐ分かります。
孫堅の剣を弾き飛ばし、朴刀を孫堅の喉に突きつける。孫堅は苦々しげに俺を見上げてくるが、やがて大の字に寝転がるといきなり叫んだ。
「ああああああーーーっ!!負けたああーーーーっ!!」
大声で叫ばれて近くにいた俺は思わず怯んだ。叫び声で怯むとは俺もまだまだだな、と考えていると孫堅は上体だけを起こす。
「あー参った参った、まさか私が負けるとはねぇ。」
そう言いながら立ち上がる孫堅。負けたのに随分清々しい顔をしているな。
「坊や……夏侯恩だったね、中々やるじゃないか。祭はどう思う?」
「……正直堅殿に勝つとは思わなかったですな、儂や策殿では相手にならないでしょうな。」
「俺は誰にも負けない、大陸一になるからな。」
「あわわ……カッコイイでしゅ……。」
「ハッハッハ!!お嬢ちゃんは夏侯恩にお熱かい!!」
「……雛里……お前……。」
「あわっ!?……あわわ……。」
雛里が顔を真っ赤にして慌てている。あまり雛里を弄ってやるな、黄蓋も笑ってるぞ。
「おや、小さいお嬢ちゃんは夏侯恩に惚れ込んでるみたいだねぇ、夏侯恩は小さい女が好みなのかい?」
「……何故そうなるんだ、雛里は軍師になるんだ、俺達の軍のな。」
「小さいお嬢ちゃんが軍師かい、祭はどう思う?」
「うちの冥琳や穏も若いですが、このお嬢ちゃんは若すぎる気がしますな。」
「雛里は優秀な軍師だ、俺以上に、大陸一になれる才能を持ってる。」
「あわわ……言い過ぎでしゅよ……。」
雛里は謙遜しているが俺は本気で雛里は大陸一になれると思っている。それだけの才能を有しているんだ。その才能を開花させられるかどうかは雛里次第だが雛里なら出来ると俺は信じている。
「これからは若い奴等の時代なのかねぇ……私もそろそろ引き際なのかねぇ……。」
「何を仰います堅殿!!我らにはまだまだ堅殿の力が必要ですぞ!!」
孫堅がいきなりしんみりした顔で弱気な事を言い出した。俺や雛里を見て気持ちが老いたんだろうな。
「いきなり何を言ってるんだ、あんたは娘とは違うだろう、あんたにはあんたにしか出来ない事があるだろう。」
「夏侯恩……私にしか出来ない事ねぇ……。」
孫堅は何か考えている様だな。だが俺達には目的がある、長居は出来ないからな。
「孫堅、俺達はもう行くぞ。」
「ん?そんなに急がなくてもいいじゃないか、私らの城に来な、もてなし位するよ?」
「……しかしな……。」
「袁術の領地を自由に動ける手形も用意させるよ?」
「……世話になる……。」
「そうこなくちゃね、祭、雪蓮と冥琳に城に来るように早馬を出しな。」
「了解じゃ、今日は宴会じゃな、堅殿。」
「あっはっは、そうだね、盛大にやろうじゃないか!!」
……何故だかとてつもなく嫌な予感がするな……手形に釣られたのは間違いだったか……。
雪蓮視点
「雪蓮、そんなに急ぐ必要は無いだろう!?」
私の後ろから馬を飛ばしながら冥琳が叫ぶけど私は構わずむしろ馬の速度を上げる。速く、もっと速くと私の勘が訴える。けどこれ以上速度を上げたら馬が潰れちゃうから今の速度が限界、これでも最大限に急いでるのよ。
「いったい何だと言うんだ、祭殿からの早馬の報告を聞くなり飛び出して行くなんて!?」
「会いたいの!!速く会いたいのよ!!」
「別に急がなくても何時でも会えるだろう!?」
「母様じゃないわ!!小さい頃に会って憧れた人よ!!」
ちらっと振り向いて冥琳を見ると唖然としてるわね。
当然よね今まで冥琳にも妹の蓮花や小蓮にも話した事は無かったわ。幼いながらも感じた強さ、纏う覇気、それでいて歳は私と変わらないのに揺るがぬ芯を持ってた。母様と同じかそれ以上に憧れた人に会えるのに急がないなんてあり得ないわ。
「やっと……やっと話が出来るわ……夏侯恩……。」
私はボソッと呟いた。憧れの人の名を、私が目指す人の名を。
孫堅の秘めたる思いが何なのかは後々分かりますが鋭い人はあっさり看破されると思います。
そしてここにも夏侯恩に憧れを抱く人がいました。こんな感じのキャラはもう何人かいますがあくまでも夏侯恩の強さや人柄に憧れたので恋愛対象ではありません。(会ってどうなるかはわかりません)
次回は宴の模様をお送りします。