艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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キス島撤退作戦をクリアしたら投稿すると言ったな。アレは嘘だ。
タービン欲しくて開発続けていたら資材がなくなったので続きを書くことにしました。
今更だけどバウル基地じゃなくてラバウル基地だということに気づいた。ていうか、ラバウル基地って俺提督の着任先じゃないですかー


着任八日目:叢雲大先生の熱血指導

 

 吹雪型駆逐艦五番艦『叢雲』の朝は早い。

 

 朝日が昇る前に起床し、まず始めに自身の武装のチェックを行う。整備班が整備した自身の武装を一つずつ手に取り、整備不良や汚れがないかを一時間ほどかけて丁寧に確認する。もしそういった類のものが見つかれば朝一から整備班に小一時間ほど説教をするところだが、今日は整備に不満が無かったのか、武装を装備した叢雲は満足げな表情で整備ドックを後にした。

 そしてそのまま食堂へと向かった叢雲は、水平線の彼方から昇る朝日を眺めながら朝食を取る。好きな料理は『美味い』料理、嫌いな料理は『不味い』料理と、好き嫌いに関してはかなり極端な叢雲だが、基本的には出されたものは完食する主義である。今日の朝食は『焼き魚定食』のようだ。「味付けが濃い」だの「白米がやわらかすぎる」だの、ぶつぶつと文句を言いながらもきっちりと完食した叢雲は、自分の提督である青年がいる司令室へと向かった。

 司令室の扉を開け、ちゃんと青年が机にいることを確認した叢雲。彼女と青年は毎日必ずここで今日一日のスケジュールの確認を行うのだ。

 

 

「というわけで、今日の出撃は無しだ。変わりに、今日一日を深海棲艦たちの教育にあてる」

「はあ……何か釈然としないけれど、仕方ないわね。その代わり、アンタも協力しなさいよ?あのル級を私一人の力でどうにかするのはちょっとキツいわ。……認めたくないけど」

 

 

 青年は叢雲に今日一日かけて深海棲艦たちを教育するよう命令した。例によって資材不足が続いているため、これ以上の出撃は不可能と判断したためだ。

 深海棲艦の教育に関しては叢雲の頭を悩ませていた。チ級とヌ級は素直に言うことを聞いてくれるようになったが、残りの三艦に関してはまだ教育を一度も行っていない。元々大人しめなヲ級はどうにかなりそうだが、問題は残りのリ級とル級だ。よく言えばマイペース、悪く言えば自己中心的な二艦が、素直に叢雲の言うことを聞くとは考えにくい。しかも、その二艦は火と油の関係にある。長時間一緒にいれば、いつか必ず引火するだろう。その辺をどのようにして回避していくかは、叢雲の手腕にかかっている。

 自分の威厳を見せ付けるいい機会だ、と普段の出撃よりも気合が入った叢雲は、青年と共に深海棲艦たちによって占拠された旧解体ドックへと向かった。

 

 旧解体ドックの扉を勢いよく開け、ずかずかと中へ入った叢雲は大声でドック内にいる深海棲艦たちに向かって召集の号令を掛けた。号令に反応して姿を現したのは教育済みであるチ級とヌ級だった。ヌ級は駆け足で、チ級はゆっくりとした足取りで叢雲の元へと向かい、叢雲の目の前で横一列に並んだ。次に反応を示したのはヲ級だった。彼女は叢雲の呼びかけに答えたというより、チ級とヌ級につられて動いたような形ではあったが、それでもちゃんと叢雲の目の前までやってきた。残るは問題のリ級とル級だ。

 叢雲は大きな声で何度もリ級とル級に向かって呼びかけるが、二艦は一向に姿を見せないうえに返事も返さない。旧解体ドックに叢雲の叫び声だけがむなしく響いた。自分の言うことを聞かない二艦に対して徐々に叢雲の怒りが蓄積していく。最初の威厳はどこへやら、今の叢雲の姿は物事が思い通りに行かずに拗ねる子供のようだ。

 その様子を隣で見ていた青年は小さくため息を吐いた。ある程度予想はしていたが、こうも見事に無反応とは恐れ入る。呆れを通り越して関心する青年だったが、このままでは叢雲の機嫌が悪くなる一方だ。下手をすれば、このままドック内で砲撃戦が始まってしまうかもしれない。

 しかし、こうなることをあらかじめ予期して連れてこられたのが青年だ。今この時こそ、彼の真価が発揮されるときである。予想通りの展開にため息をついた青年は、この後の展開を予想して身構えると、ドックの隅々まで響き渡る程の大きな声でこう叫んだ。

 

 

「どこだール級ー!俺が来たぞー!」

 

 

 青年の声がドックに響いた次の瞬間、廃材置き場へと続く扉が勢いよく開いた。姿を現したのはル級だ。ル級はそのまま走り出し、整列する三艦と仁王立ちする叢雲を無視して青年に飛びついた。正面から思い切り突っ込まれた衝撃で青年の腹部に鈍痛が走るが、鍛えらえた軍人の肉体は伊達ではない。痛みを何とか堪えた青年は少し咳き込みながらル級を優しく抱きとめた。

 これで残るはリ級だけとなったが、ル級が叢雲側にいるなら呼び出すのは簡単だ。

 

 

「残るはアンタだけよ!まったく、同じ相手に二回連続で負けるなんて、アンタにはプライドってモンが無いのかしら!?そんなんじゃ一生コイツに勝てないわね!」

 

 

 さっきまでの無反応が嘘のように、叢雲の言葉を聞いたリ級はすぐさま叢雲の目の前へと現れた。現れたと同時にギャーギャーと反論するリ級だったが、叢雲はそれを無視して外の港へと向かった。叢雲に文句を言い足りないリ級は叢雲の後を追いかけ、集まったチ級、ヌ級、ヲ級の三艦もその後に続き、旧解体ドックに残っているのは青年とル級のみとなった。

 青年は何とか移動しようとル級を説得するが、言葉がうまく通じていないのか、青年にへばりついたル級はその場から動こうとしない。力ずくで動かせいなこともないが、巨大な鉄の塊(主砲)を二つも装備しているル級を引きずって移動するのは骨が折れる。何とか自分の意思で動いてもらおうと、青年はあらゆる手段を使って必死に説得を続けた。

 

 十分後、待ちくたびれた叢雲たちは必死の形相でル級を引きずる青年を目撃する。

 

 

 

 ひと悶着あったが無事開始することが出来た叢雲大先生の教育指導。しかし、授業の進行は困難を極めた。

 その理由は例の二艦、リ級とル級だ。教育済みのチ級とヌ級の行動を見よう見真似で行うヲ級とは打って変わって、リ級とル級は叢雲の言うことをまったく聞かなかった。リ級は「サシズスルナ」と授業への参加を拒否し、ル級にいたっては青年に夢中になりすぎて叢雲の存在自体を忘れかけている。

 こうなることは予想済みだったためいつもより怒りを抑えることが出来た叢雲だが、それでも腹が立つものは腹が立つ。我慢の限界を超えた叢雲は、授業に参加せずに港をうろうろと歩き回るリ級に向かってローリングソバットをぶちかました。

 しかし、さすがは重巡洋艦と言ったところか。リ級はその一撃に耐えた。コンクリートで舗装された地面を滑りながら十メートルほど後ろへ下がったリ級は、好戦的な目つきで叢雲をにらみつけた。両腕の装甲を叢雲へ突き出し、装甲から主砲の砲身を展開したリ級。その照準は彼女の目の前で悠然と佇む叢雲へと合わせてある。

 

 

「ふん!たかが重巡洋艦如きが、私に勝てると本気で思っているのかしら?いいわ、かかってきなさい!」

 

 

 お忘れかもしれないが、叢雲も元々は好戦的な性格だ。そこへ怒りブーストが加わり自制の効かなくなってしまった結果、世にも珍しい艦艇による陸上での砲撃戦が開戦してしまったのだ。

 周囲の事情などお構いないに、リ級は両腕の砲身から砲弾を連続で撃ち出した。迫り来る砲弾を難なくかわし、叢雲は背中の副砲と右手の主砲でリ級へと反撃する。叢雲の放った砲弾はリ級の足を捉え、リ級は体勢をわずかに崩した。その隙を見逃さなかった叢雲は、すかさずリ級へ追撃しようとする。しかし、すぐに片付けて授業を再開しようと考えていた叢雲のわずかな焦りが、リ級に反撃の機会を与えてしまった。

 リ級は体勢を崩しながらも照準を叢雲にあわせ、主砲の砲撃を叢雲に直撃させた。リ級の砲撃を受けた叢雲の体は、はじき出されたピンポン球のようにコンクリートの地面を跳ねる。左手の魚雷発射管をコンクリートの地面に押し当て何とか勢いを殺した叢雲だったが、その間にリ級は体勢を立て直していた。

 二艦はどちらからともなく笑みを浮かべた。最初は険悪なムードで始まった戦いだったが、時が経つにつれてヒートアップした二艦はすでに最初の事など忘れてただ純粋に今の砲撃戦を楽しんでいた。

 

 

「なかなかやるじゃない!」

「リ!」

 

 

 まるでライバル同士のように互いを認め合う叢雲とリ級。醜い争いの中で、美しい友情が生まれた瞬間だった。

 

 ガムシャラな砲撃を続けるリ級と、ここが司令部であるということも忘れてひたすら砲撃を繰り返す叢雲。そこから少しはなれたところでは、ル級と青年が追いかけっこをしていた。二人の姿は、まるで一昔前によく見た砂浜を走る恋人同士のようだ。ただし、幸せそうな笑顔を浮かべているのは追いかけているル級だけで、追いかけられている青年のほうはかなり切羽詰った表情である。

 残りの三艦、チ級とヌ級とヲ級は叢雲に命令された敬礼の動作を何度も繰り返していた。チ級とヌ級がびしっと敬礼をするたびにヲ級も慌てて敬礼をし、チ級とヌ級が腕を下ろすとヲ級もアワアワしながら腕を下ろす。傍から見ればとてもほほえましい光景なのだが、降り注ぐ砲弾の雨のせいで台無しになっている感が否めない。

 開校数分で学級崩壊をおこした青空教室は瞬く間に混沌渦巻く空間へと変貌していった。この悲惨な現状は収集されないまま、ただ時間だけが過ぎていく。東の空にあった太陽はいつの間にか西へと進み、そして色を変えて水平線へと迫る頃になってようやく状況は動いた。

 

 

「はあ……はあ……。まったく……世話の……かかる……奴なんだから」

 

 

 リ級に辛くも勝利した叢雲が、大破したリ級を引きずって戻ってきたのだ。

 満身創痍の叢雲は完全に様になっている敬礼の動作を未だに続けているチ級、ヌ級、ヲ級に授業終了の号令を掛け、大破したリ級を入渠ドックへ連れて行くように指示を出した。

 四艦の後姿を見送り、しばらくその場に立ち尽くしていた叢雲は小さくため息をつくと、視線を左側へと向けた。そこには、未だに飽きることなく青年を抱き枕にしているル級がいた。抱きつかれている青年にはもう動く気力は残っていない。太陽から照りつける日差しと、日照りで熱を持った主砲の暑さのダブルパンチを受けて蒸し焼き状態となっているからだ。

 叢雲はゆっくりとした足取りで青年とル級に近づいた。目の前まで近づき一人と一艦を見下すように見つめるが、どちらも叢雲に対して反応を示さない。その態度に再び叢雲の怒りが大きく燃え上がった。叢雲は気づいているのだ。ただの屍寸前である青年とは違い、ル級が意図的に自分を無視しているということに。

 無言で副砲を構えた叢雲は、至近距離からル級の背中へ向かって砲弾を放った。青年も一緒にいるのに砲撃するのは危険ではないか、と思うかもしれないが、しかしこれくらいやらなければ今のル級から青年を引っぺがすことは出来ないのだ。それに、今の砲撃もただ何も考えずに放ったわけではない。自分の砲撃ではル級の装甲は貫けないということも踏まえて、叢雲はわざわざル級の背後から主砲よりも威力の劣る副砲で砲撃を行っているのだ。背中から撃てば青年に多少衝撃は行くが致命傷にはならないだろうと予想していた叢雲だが、その予想は見事に的中した。

 砲弾が直撃したル級の体は宙を舞う。それと同時に、衝撃の余波を受けた青年はコンクリートの地面を二、三メートル滑った。あまりの衝撃にたまらず咳き込む青年。そんな彼の元へと近寄った叢雲は、無言で青年を抱き上げた。自分よりも頭二つ分程小さい細身の少女にお姫様抱っこをされるというのは、男としては勘弁願いたいところではあるが、精神的にも肉体的にも疲れた今の青年に抵抗する気力は残っていない。自分の全体重を叢雲に預けた青年は、咳き込みながらも口を開いた。

 

 

「ゴホッ……おまっ、少しは……ゴホッ……加減しろ……」

「そう、悪かったわね」

「ったく……ケホッ……あー、咳き込むたびにアバラが痛む……」

 

 

 文句を言う元気があるなら大丈夫だろう、と顔をゆがませ咳き込む青年の顔を見た叢雲は安堵の表情を見せた。しかし、その安堵の表情はすぐに消え去る。

 

 

「……」

 

 

 数メートル先で夕日を背に佇むル級の姿が見えたからだ。

 主砲を構えてはいないが、ル級は明らかに叢雲を敵視するような目で睨み付けている。それに対し、叢雲は沈黙を返した。成人男性をお姫様抱っこする細身の少女と、長身の半機械美女のにらみ合いはしばらくの間続いた。

 どちらも一歩も動くことなく、一言もしゃべることなく、ただじっとにらみ合う。たったそれだけの行動で、二艦の間には通じ合う『何かが』確かにあった。

 

 

「……ルー」

 

 

 ル級は叢雲に背を向け、一艦で司令部へ向かって歩き出した。司令部に来て以来青年にぞっこんだったル級が、初めて自分から青年の元を去ったのだ。

 歩きながら、ル級はさっき自分が見た光景を思い出していた。自分の愛する者が、どこの誰かも分からない奴に抱きとめられている。その光景は見るに耐えない、許しがたい光景なのだろうと、今の今まで思っていたル級。しかし、そんな彼女が真っ先に抱いた感情は『絶望』だった。

 自分の愛する者がどこの誰かも分からない奴に向かって、自分には一度も見せたことのない、心の底から安堵した表情を浮かべている。そして、愛する者を抱えている奴も同じような表情を見せている。

 その光景を見て、ル級は理解してしまったのだ。あのどこの誰かも分からない奴は、自分よりも愛する者に近いところにいる。あの一人と一艦の間には、得体の知れない硬い繋がりがあるのだと。

 この日から、ル級の中で叢雲の存在は『どこの誰かも分からない奴』から『最強の障害』へと変貌を遂げた。

 

 

「『負けない』……ね。望むところだわ」

 

 

 安らかな表情で眠る青年の寝顔を見つめながら叢雲もゆっくりと司令部へ向けて歩き始めた。今まで誰にも見せたことのない、とてもご機嫌な笑顔を浮かべながら。

 

 




次回・・・結成、第二艦隊!

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