艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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最終回です。

戦いを乗り越えた青年と叢雲の新しい日常が始まります。


着任最終日:彼と彼女の新しい日常

 順風満帆に航路を行く輸送船。その甲板の上で、青年は潮風を浴びながら煌く水面を眺めていた。

 

「……………………はぁ」

 

 長い間入院していたせいで悪化した司令部の寂しい懐事情が不安だ。厄介払い(えんせい)中のチリヌルヲたちが問題を起こしていないか、それも不安ではある。だが、それ以上に不安なのは今の状況だった。輸送船の上で、あの時と同じ任務を受けているという嫌なシチュエーション。前例があるだけに、その不安はより現実味を帯びていた。

 

「なんで俺じゃないといけないんだ……」

 

 青年は上着の内ポケットからウイスキースキットルを取り出し、喉奥から溢れそうな不安をごまかすように中身を胃へと流し込んだ。中身は相変わらず麦茶である。

 病院のベッドから開放されて早半年。ようやく戦場(しれいぶ)生活の勘が戻ってきた矢先、青年の司令部に一通の書状が届いた。書状の中身は任務の依頼書。それはブイン基地上層部から直々に、青年個人への勅命であり、約一年前に見た書状を焼き増ししたかのような内容だった。

 

『その鎮守府を長年放置していたのは我々の責任だ。だが我々は謝らない。君ならばその困難を乗り越えられると信じているからだ』

 

 青年は一年前に聞いたお偉いさん方の言葉をふと思い出し深いため息をついた。

 青年に課せられた任務。それは、長年放置された鎮守府の視察であった。そこはいずれ青年が着任する予定の場所であり、今回の視察では鎮守府がどういった状況なのか、何が足りていないかを調査することになっている。本来この任務は一年前に行われるはずだったのだが、例の拉致事件があったせいで今日まで先延ばしとなっていた。

 一年も間があいたのだから代役を立ててもよかったのでは、と訝しむ青年だったが、裏では深海棲艦の実験や観察等の利己的な目的もあるのだから代役など立てられるわけもない。青年の遠まわしの拒否は見事にスルーされ現在に至るという訳だ。

 船端にもたれかかり両腕をだらりと垂れ下げた青年。そんな彼の背後に一つの影が迫った。

 

「また背中丸まってるわよ」

 

 影の正体は叢雲だった。秘書官である彼女も当然、今回の任務に同行している。叢雲は青年の背中をバシン、強くと叩いた。

 

「ていうか、まだそれ持ってたわけ?縁起悪いから捨てなさいって言ったでしょ」

「いやーだってまだ片手で数えるくらいしか使ってないし、高かったし……なんかもったいないし」

「捨てなさい!!」

 

 一喝する叢雲だったが、青年はハハハと渇いた笑みを浮かべてすぐに俯いてしまう。不安がぬぐえていないのは明らかだった。

 叢雲はむすっとした顔を見せた。確かに一度不覚を取り、その結果青年は生死の境をさまよった。その事実は覆らない。だが、あの時の二の舞にならないよう今回の視察は万全の準備を整えた。その証拠に、青年と叢雲を乗せた輸送船の周囲には護衛任務にあたる艦隊に加え索敵、哨戒を行う別動艦隊も同行している。

 この護衛艦隊は叢雲が上層部に対し青年を守るためだけに必死に頭を下げて手配したのだ。青年だって当然そのことをは知っている。なのに青年の態度はいつまで経っても怯えたまま。

 これだけ準備を整えたのだからもう少し信用してくれてもいいじゃないか。いつまでも不安な態度だと自分が信用されていないような気がしてならない、と叢雲は小さな不満を抱く。

 

「ん? あっ……」

 

 やけに静かだな、と青年は叢雲へ目を向けたが時すでに遅し。叢雲の顔は普通の表情を装った不満顔となっていた。本人は隠しているつもりだが、下がった口角が露骨に不機嫌さを表している。

 

「んな顔すんなよ」

「別に普通よ」

「信用してないわけじゃないって」

「なんとでも言えばいいじゃない」

「何拗ねてんだよ。悪かったよ。これも捨てっから」

「そう。だったら私なんかに構ってないで、さっさと捨てて来なさいよ」

 

 一度不貞腐れてしまった叢雲の機嫌を直すのは至難の業。それは青年が一番よくわかっていた。そして、こんな時にどうすればいいかも一番よくわかっていた。

 青年は叢雲の肩を掴んだ。

 

「よし行くぞー」

「なによ。ゴミくらい一人で捨ててきなさいよ」

「また攫われるかもしれねえだろ。一人じゃ不安なんだよ」

「そう。誰か安心できる奴にでも守ってもらえば?」

「ならお前だ。ほら行くぞー」

「ちょっ、やめなさい! こんなので誤魔化されないわよ!」

 

 誤魔化せました。

 

 

 

 

 

 

 

 輸送船停泊後、青年と叢雲は目的地である軍の支援支部へと向かった。

 支援支部は最前線に鎮守府を構える提督への供給や、長距離航行中の艦隊への補給や休憩といった、実働部隊を支援をするために作られた施設である。最前線の鎮守府へ着任する予定の青年は、視察をする前に最寄りの施設との打合せをしに来たのだ。

 

「……」

「……」

 

 正門に掛けられた表札を確認した後、青年と叢雲は自然な動作で門の外壁へ背中を付け、そのままゆっくりと覗き込むように敷地内を確認した。窓の割れや壁の穴など、近くに隠れられる場所はない。荷物を片手に歩く人、敷地の隅に置かれた喫煙コーナーに屯する人はいるが、こちらに狙いを澄ます者はいない。

 ひとまず大丈夫、と身を乗り出したところで青年と叢雲は思わず顔を見合わせた。果たして、ただの訪問でこんなことをする必要があったのか。

 

「なにやってんだ俺たちは」

「落ち着きましょう。ここは平和。平和よ。切り替えていきましょう」

 

 答えはすぐに出た。青年と叢雲は自分たちが毒されているのだと自覚し、小さくため息をついた。

 気を取り直した青年たちは門を通りエントランスへと向かった。だが、その間も周囲を無意識に警戒してしまう。闇夜を歩く不審者の如き怪しさだ。

 

「だから、やめようぜこれ」

「なに勝手にキレてんのよ。私は普通にしてるじゃない。あんたこそお上りさんみたいにキョロキョロするのやめたらどうなの?」

「はぁ!? お前だってチラチラ横目で見てただろうが! 傍から見りゃ十分挙動不審なんだよ!」

「そんなことしてないわよ!」

 

 入り口前でぎゃあぎゃあとみっともない言い合いが始まった。ブイン基地の面々からすれば「ああ、いつもの夫婦漫才か」で済むが、他所の人たちが見れば唐突に始まったガチ喧嘩だ。物々しい態度で周囲が仲介に入り、赤っ恥をかいた青年たちはようやくおとなしくなった。もう二度とこんな真似はしないという誓いを胸に、一人と一艦は建物の中へと入っていった。

 のだが……ガタン!!

 

「ッ!?」

「伏せろ!」

「えッ、ええ?」

 

 入って早々、背後の大きな物音に反応して即座に床へ伏せるという奇行をやらかし恥を上塗りすることとなった。

 

「き、緊張されてるんですか? もっと楽になさって結構ですよ」

「やっ、すみません! 違うんです! 本当にこれは違うんです!」

「失礼しました! 大変失礼いたしました!」

 

 受付の気遣いにひたすら低頭平身で接すること数分。応接室に通された青年たちは挨拶もそこそこに、早速鎮守府と支援施設の運用形態について説明を受けた。

 件の鎮守府はここから南東へ十キロ程。専用の小型船があり、それを使って行き来するという。

 

「この海域の深海棲艦はどれほどの強さなのでしょうか」

「それが、数年前くらいから何故かこの近辺で深海棲艦が出なくなったんですよ。なので激しい戦闘は起こらないと思います」

 

 完全に陸の孤島。色々隠れてするなら好都合だな、と青年は上層部の本気ぶりに内心ドン引きした。そして、現地職員から語られる労働事情を聴いてさらに引いた。

 

「そしたら上が『貴重な戦力を余らせとく訳にはいかん!』とか言って戦力が引き抜かれて、そしたら今度は『この規模の戦力にこんなに金は要らんだろ』と言い出して、それでどんどん予算とかが削られていって。まったく、また深海棲艦が現れたらどうやって対処したらいいんですかねえ。いや、他所も苛烈な状況だってのはわかるんですけどせめて満足に自衛できる戦力くらい……」

 

 世知辛い事情により色々なモノが減らされた結果、不自由な労働環境になってしまったそうだ。どことなく親近感を覚えた青年たちは現地職員の愚痴に付き合いつつ状況を聞き出した。

 昔は鎮守府の状況確認を年に一回実施していたのだが、予算や人員が減ったことでここ数年は全く確認できておらず、今の鎮守府の状況は完全に不明。ブラックボックス状態だという。

 常駐する艦娘は届いた物資の検収や各鎮守府から届く書類の処理等、連携を維持するための仕事で手一杯。視察も本当なら支援支部の方である程度確認をしてから青年に来てもらう予定だったのだが、時間も人手も足りないので顔合わせや事情説明も兼ねてこうして青年たちに一から視察をしてもらうことになったのだ。

 

「建物に損傷とかはあるんですか?」

「多少ありましたが奪還後に修復しています。ただ雑草は生い茂ってるでしょうね。ここ数年ずっと手を付けてませんでしたから」

 

 打ち合わせは続いた。

 

「日用品とかもこの町で買うんですよね?」

「ええ。前任者の方はよく艦娘に買い物を任せていました」

「今いる連中じゃ話にならないわ。何とか新しい艦娘を建造するしかないわね」

 

 現状でできること、できないことを洗い出し、ある程度話もまとまった所で今日の打ち合わせはお開きとなった。

 明日は朝早くから視察だし今日は店じまいして明日に備えよう。そう考えた青年は早速観光へ向かおうと踵を返した。が、やる気に満ち溢れた叢雲がそれを許さない。

 

「なに勝手に帰ろうとしてるのよ」

 

 初めの一歩を踏み出したところで、青年は叢雲に襟首をつかまれ、共に件の鎮守府の様子を見に行くことになった。

 建物の裏手にある船着き場には年季の入った小型船が数台停泊していた。青年たちが使うのはその中の一台、一番右奥にポツンとある小型船だった。

 

「あぁ、これならわかる。ちょっと待ってろ」

 

 青年は船に乗り込み設備を点検した。整備は行き届いているようで、青年は小型船を操舵し船着き場から少し離れた所で軽く旋回してみせた。

 

「意外。アンタ船の操舵ができるのね」

「提督なるために色々勉強したんだよ」

「ふーん。そんなに提督になりたかったの?」

「ああ、うん、まあ……そうだな」

 

 青年は言葉を濁した。それも仕方がない事だ。彼の知識は全てかわいい艦娘とイチャラブしたいという邪な願いを叶えるために身に着けたものなのだから。当然、叢雲に言えるはずもない。

 だが、なんとなく察したのだろう。青年を見る叢雲の視線が露骨に鋭くなった。

 

「よーし出航だぁー! 念のため叢雲は外で護衛をしてくれ!」

 

 雰囲気の変化からマズい、と悟った青年は追及される前に叢雲を船の外へと追いやった。

 それから穏やかな海を進むこと数十分。進路の先に小島が見えてきた。青年は目を凝らす。正面に見える白っぽい建物がおそらく件の鎮守府だろうとあたりをつけた青年は船の進路を小島へと向けた。

 小型船は何事もなく船着き場に到着した。船着き場へ船を止め、外門の前までやってきた青年は仁王立ちでまじまじと鎮守府の外観を眺めた。

 

「ここが入口でいいんだよな?」

「門扉の片方が倒れてるわ。修繕したんじゃなかったの?」

「多分経年劣化だろうな。ずっと放置してたっつってたけど、流石にこれはなぁ」

 

 鎮守府の荒れ具合はとてもひどかった。建物自体はよくある平屋建てでパッと見た感じでは外観に異常は見られないが、外壁の砂汚れがひどい。

 正面玄関は開け広げられたままとなっており外の汚れが入り放題だ。

 そして極めつけは青年の胸元に届くほどの雑草だ。敷地内に疎らに生い茂っているそれを全て除草するのはかなりの労力だ必要となるだろう。

 

「どこから手を付けたらいいのよ」

「いや、どうせすぐ荒れるんだからこのままでも……」

「ッ! ………………バカ言ってんじゃないわよ」

 

 かなりの間をおいて、叢雲は青年の言葉を否定した。圧倒的閃きっ……! と青年の言葉に感心したのは叢雲だけの秘密である。

 開きっぱなしの玄関をくぐると、古めかしいエントランスが出迎えた。壁の所々には大小の傷があり、床に敷かれた絨毯は中途半端にめくれており複数の汚れ跡が付いている。まるでドラマに出てくるベタな空き巣現場のような状況だった。

 

「なにこれ。いくら出入口が開きっぱなしだったからって、これはさすがに汚れすぎよ」

「大きい損傷だけ修繕したのか? 掃除してるとも言ってなかったしここは当時のままだったりしてな」

「いったいどうなってるのよ全く。後で問いただしてやりましょう」

 

 ご機嫌ななめな叢雲と呑気な青年は室内の探索を始めた。

 まずはエントランスの奥にある通路から。青年たちはそのまま奥まで進み突き当りを右に曲がる。曲がった先にあったのは入渠・補給用のドックがあった。現在の司令部にあるドックと同等の広さはある。

 

「近くに他の司令部とかないし水門開けっ広げにしておけるな。あいつらもストレスが減って暴れる回数も減るかもしれねえ」

「バカ。民間の船や軍の輸送船は近くを通るじゃない。放し飼いにしてたら騒ぎになるわ」

「それもそうか。ちっとは楽できると思ったんだけどなあ」

 

 通路を戻り、今度は突き当りを左に進むと艦娘の建造と艦装を開発する工廠があった。どちらも使われた形跡があり、綺麗に清掃されたまま放置されていた。

 

「ここは綺麗だな」

「設備が少し古いわね。動かし方分かるかしら」

「まかせろ。これは研修で触ったのと同じだ」

 

 設備も問題なく稼働することが確認できた。青年たちは一度エントランスへ戻り、今度は入口から見て左手にある通路へと進む。その先にあったのは長机が並ぶ部屋だった。どうやら食堂代わりの部屋だったようで、食器がいくつか入っている棚や年季の入った業務用冷蔵庫が置かれていた。

 

「前任者のかこれ。ずいぶんでかいなぁ」

「コンセントはここね……よし。ちゃんと使えるわ」

「おいおいこの冷蔵庫使うのかよ。新しいの買おうぜ」

「予算は限られてるのよ。使える物は再利用しないと」

 

 あーだこーだと言い合いながら再びエントランスへと戻った青年たち。まだ見ていないのは正面入口から見て右手にある部屋のみとなった。

 工廠や食堂の扉とは違う、どこか高級感を漂わせる両開きの扉。青年はその扉に見覚えがあった。

 

「あれ執務室だよな」

「恐らくそうね。ていうかあの扉半開きじゃない。締まらないわね全く」

「えッ。なんで急にオヤジギャグ(閉まらない)を」

「そういう意味で言ったんじゃないわよバカ!まったく、あの時から全然成長しないんだから」

「あの時ってなんだよ」

「私が着任した時よ。あの時も扉半開きだったじゃない」

「そういえば……」

 

 叢雲の言葉を聞いた青年は思い出した。それは着任して間もない頃。初めて手に入れた自分の城で、今後自分の定位置となるであろう高級感溢れる事務椅子に座ってはしゃいでいた。その日が秘書官着任の日だという事も忘れて。あの時も執務室の扉は半開きだった。

 

「あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい」

 

 出会い頭にそう言われたときは礼儀知らずの太々しい奴だと思った。

 

「扉くらいちゃんと閉めときなさい。子供じゃないんだから」

 

 去り際にそう言われた時はいちいち説教臭い奴だと不貞腐れた。正直言ってハズレだと思った。

 

「落ち着きがないのねぇ……大丈夫?」

 

 でも、付き合いが長くなるにつれてそれは間違いだと気づいた。

 

「悪くないわ」

 

 こいつは出来の悪い奴を見捨てない面倒見がいい奴なのだと。

 

「ほんっと仕方がない。今年もアンタに付き合ってあげるわ」

 

 こいつは口が悪いだけで、根はクソが付くほど真面目ないのだと。

 思いを馳せる青年は隣の叢雲へと目を向けた。彼女の見た目は出会った頃から何一つ変わっていない。青年はそれを感慨深く思うと同時に不甲斐なく思った。改造、近代化改修など強化が可能であるにも関わらず、それらを満足に実行できていないのだから。

 

「……なによ」

 

 視線に気づいた叢雲は横目で青年を見た。何とも言えない表情で「いや」と短く返す青年に対し叢雲はフン、と鼻を鳴らした。

 

「いつまでも後ろを向いてたってしょうがないでしょ。いい加減前向きなさい」

「な、なんだよ急に」

「どうぜ俺はダメ提督だーとか暗いこと考えてたんでしょ?見ればわかるんだから」

 

 青年は顔をこわばらせた。まるで心を覗かれたかのように心情をピタリと言い当てられたのだから驚くのも無理はないだろう。

 だが、叢雲からすればこの程度のことはできて当たり前。青年が叢雲を見ていたように、叢雲もまた青年のことを見ていたのだ。職場の上司として、同じ苦労を背負う運命共同体として、気になる想い人として、じっくりと青年の事を観察してきたのだ。

 心情を察し、気遣いを察する。彼らに余計な言葉は必要ない。揺らぐことのない信頼と途切れることのない想いが織りなし紡ぎあげた目に見えない確かな繋がりが、絆が彼らの間にはあるのだから。

 

「……そうだな。とりあえず明日から頑張るわ」

「今日から頑張りなさい。行くわよ」

 

 叢雲は青年の手を取り速足で執務室へと向かい、勢いよく半開きの扉を開けた。

 

「アラ」

「誰?」

「ナニ?」

 

 そこにいたのは絶世の美女たち、いや、美女のような姿をした艦艇たちがいた。

 それぞれ赤みがかった長い白髪をツインテールにし、前髪で右目を隠すという似通った容姿をしていた。

 本来提督の座るべき場所でふんぞり返っている艦艇は、黒いビキニの上から黒いショート丈のレザージャケットを着て、両手がゴツいクローアームになっている。

 壁に空いた巨大な穴の傍に鎮座している艦艇は、膝から下が巨大な深海棲艦と連結しており、ギリシア神話に登場する『ケンタウロス』を連想させる姿をしている。

 窓際のソファに寝転んでいる艦艇は、ローライズの紐パン以外に何も身に付けず胸部にある二つのタンクをツインテールで隠す痴女スタイル。

 青年は彼女たちと会ったことはない。だが、見覚えがあった。その白い肌。その黒い装甲。青年たちが日常的に見ている存在と容姿が酷似していた。

 青年が引き連れる奇天烈艦隊のメンバーたち『深海棲艦』と。

 

「……マジか?」

 

 目の前に広がるのはありえない光景。だが、彼は深海棲艦を率いる提督だ。深海棲艦絡みのハプニング処理には一日の長がある。

 これまでに見聞きしてきた情報を瞬時に分析。結果、彼の中でばらばらの情報が一斉に集まり一つの答えを形作った。

 ここ数年この海域で深海棲艦が出なくなったのは何故か。下級深海棲艦を自在に操れる上級深海棲艦なら数の増減は自由自在。鎮守府が放置されている間に彼女たちがここに居付き、気まぐれか何かでこの海域の深海棲艦の数を減らしたのだとしたら。

 正面の門が片方だけ倒れていたのは何故か。経年劣化などではなく、人間離れした怪力を持つ深海棲艦が無理やりこじ開けたのだとしたら。

 エントランスが空き巣現場だったのは何故か。人間の常識を知らない深海棲艦の彼女たちが室内を歩き回ったのだとしたら。

 

「マジで?」

 

 青年は叢雲へ目を向けた。彼女の表情も青年と同じ驚愕に染まっていた。

 

「アナタタチ、ダァレ?」

「アラ、アナタ中々素敵ジャナイ。モット顔ヲ見セテ頂戴」

「……イイ」

 

 青年たちのことなどお構いなしに、深海棲艦たちは各々好意的な態度を見せた。わらわらと群がる深海棲艦たち。

 青年は思わず自分の頬を摘む。ちゃんと痛みがあることを確認した青年は力なく腕を下ろした。

 

「マジだ」

 

 青年と叢雲の苦難はまだまだ続く。




青年と叢雲の戦いはこれからだ・・・!

ここまで見てくださった方々。感想を書いてくださった方々。本当にありがとうございました。

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