艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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艦これアニメ3話視聴後の俺提督「どうせみんないなくなる(絶望)」


着任二十九日目:ご注文は潜水艦ですか?

 

 某日、ブイン基地上層部での定期報告を終えた青年。山場を乗り越え一安心と言った様子で司令部に到着した彼の前には一人の少女が佇んでいた。

 

「…………」

 

 青年の秘書官である叢雲だ。叢雲は眉間にしわを寄せ、これまでにないほどの鋭い目つきで青年を睨んでいる。司令部に到着して早々無言の睨みを受けた青年は、たじろぎながらも叢雲に声をかけた。

 

「……な、何をそんなに睨んでるんだ?」

 

 叢雲は青年の問いに答えることなく、早足で青年の目の前へとやってきた。そして、彼女は右手に持っていた資料を思い切り青年へと突き出した。

 

「これ!一体どういうことなのよ!?」

 

 突き出された資料は青年がブイン基地上層部に向かう前、叢雲に作成するよう頼んでおいたものだった。資料の名前は『月間資材消費報告資料』。青年の頭痛の種である。

 一体これがどうしたというのか。青年が叢雲に問いかけると、叢雲は鬼気迫る表情で青年を罵倒し始めた。

 

「どうしたですって!?ふざけんじゃないわよ!ダメな奴だと分かっていたけど、まさか不正を働くほど落ちぶれていたなんて思ってもみなかったわ!」

 

 いわれのない罵倒に青年は顔をしかめる。叢雲は青年が不正を働いたと言ったが、もちろん青年はそんなことをした覚えがない。そもそも、この資料を見て不正を働いたというのが分かるものなのか。要領を得ない青年は叢雲から資料を受け取り、じっくりと目を通した。

 

「……ッ!?」

 

 青年の体を驚愕が駆け抜ける。青年は一度目を擦り再度資料を見るが、やはり見間違いなどではなかった。青年は頬をつねる。頬に痛みが走る。夢ではない。青年は再度資料の表題へと目を向ける。資料の表題は『月間資材消費報告資料』となっている。

 まるで幽霊を見たかのような、恐怖と困惑が入り混じった表情を浮かべる青年。彼は今、信じられないものを目にしていた。

 

「資材が……増えてる……?」

 

 これまで右肩下がりだった資材の数値が、急激に上昇しているのだ。しかも、今月だけではない。二枚目、三枚目とめくり、少なくとも三ヶ月前から資材の増加が始まっている事が見て取れる。

 これまでにも何度か資材が増えることはあったが、その後は必ずと言っていいほど大幅な資材消費が起こっていた。たまに月締めで増えることがあっても、その量は微々たるもの。月締めの資材消費報告資料には殆どマイナス数値の数量が記されていた。

 しかし、今回はプラスの数値が連続で続いている。これは青年が司令部に着任して以来、初めての出来事。叢雲が不正と言ったのはこのことだった。本来なら運がいいと手放しで喜ぶところだが、今の青年の反応は真逆。形容しがたい恐怖に青年の手は震えていた。

 青年も叢雲の何故これほどまで取り乱すのか。理由は簡単だ。誰しも一度は経験したことがあるだろう。

 お気に入りのネットゲームやソーシャルゲームで、運営側の不備によるお詫びの品として高ランク武器やガチャチケットが突然舞い込んでくるのはラッキーと思うが、それがある日を境に大盤振る舞いされれば逆に不振に思ってしまう。何か只ならぬ事情があるのではないか、と。

 つまり、資材の減少が日常と化していた青年と叢雲は、急に上昇しだした資材に疑念を抱いたのだ。この資材は一体どこから湧いて出たものなのか、と。そして叢雲が行き着いたのが、青年が不正をしているという謎の結論だったのだ。

 

「一体どんな不正を働いたのかしら?洗いざらい吐いてもらうわよ!」

「ハァ!?俺は不正なんてしてねえぞ!お前が数え間違えたんじゃねえのか!?」

「はぁっ!?私がそんな凡ミスするわけないでしょ!?」

 

 ぎゃあぎゃあとその場で言い争うこと数分、ある程度感情を吐き出した一人と一艦は一旦落ち着くことにした。

 

「ハァ……ハァ……もうやめましょう……ここで言い争っても無意味だわ」

「そ……そうだな……。まずは……出来るところから……手を付けていこう」

 

 執務室に向かった青年と叢雲は資料の見直しから始めることにした。計算ミスがないかどうか入念にチェックしながら再度資料を作成。しかし、資材の数値は前の資料と殆ど変わらなかった。

 次に青年と叢雲が向かったのは旧解体ドック。深海棲艦たちの寝床だった。計算間違いでなければ、単純に資材の消費量が減っているのではないか。そう考えた青年と叢雲は、資材消費の一番の原因である深海棲艦たちの下へと向かったのだ。

 中でも一番資材の消費が激しいリ級、ル級、ヲ級に焦点を当て、彼女たちの食事風景を遠くから観察することにした。

 

「ル級はまだ遠征から戻ってきていないか」

 

 ル級はイ級遠征部隊を引き連れて遠征に出てたまま、まだ戻ってきていないようだ。

 次に青年が目を向けたのはヲ級だった。

 

「ヲっ」

 

 ドックの隅でちんまりと座るヲ級は、ボーキサイトの塊を両手で持ちながら少しずつ食べている。青年の指導により『ウチでは少量、他所では大量』というタカり根性が完全に染み付いてしまったヲ級は、青年の司令部では借りてきた猫のようにおとなしかった。

 最後に青年はリ級へと目を向けた。

 

「リ!」

 

 リ級は相変わらず容赦がない。自ら資材置き場に足を運び、保管されている資材に直接口をつけている。その姿は餌茶碗に顔を突っ込む犬のようだった。

 青年の姿に気付いたリ級は鋼材を抱えて青年の元へと駆け寄った。そして、青年の目の前で両腕に抱えた鋼材を放り投げる。地面に跳ね返った鋼材が足に直撃した青年はその場でもだえた。

 

「っ痛~……またやれってか。欲しがりだなホント!」

 

 青年は床に転がっていた鋼材を掴み、リ級に向かって思い切り投げつけた。

 

「イ”(リ)!」

 

 リ級は勢いよく飛んでくる鋼材を空中でガチンッ、と噛み砕いた。青年は床に転がった鋼材を何度もリ級に投げつけ、リ級はそれを一つたりとも逃さず捕食。

 

「ほら、これで最後だ!」

 

 最後の鋼材を勢いよく遠くへと放り投げる青年。リ級はその鋼材めがけて全速力でかけていった。その姿は飼い主の投げたボールを全力で取りに行く犬のようだった。

 念のためチ級、ヌ級の食事の様子も観察するが、やはり二艦の消費量にも変化はない。結果として、この場にいた深海棲艦の資材消費量に変化が無い事がわかった。

 ならば、他の原因は何だ?残された原因はル級の資材消費量とブイン基地総司令部から支給される資材の増加、後はイ級遠征部隊が持ち帰る資材の量だ。

 総司令部から支給される資材の量に変化はないため、残された原因はル級とイ級遠征部隊のどちらかということになる。ル級の資材消費が減ったのか、イ級遠征部隊の資材獲得量が増えたのか、もしくはその両方か。

 全ては、ル級が帰ってきたときに明らかとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 港にてル級の帰投を待っていた青年と叢雲の前方に黒い集団が見えた。集団を先導するのはル級。その後方には黒い塊となったイ級の群れ。傍から見れば深海棲艦の大艦隊であるが、これは正真正銘列記とした提督である青年の持つ艦隊である。

 港に到着したル級は上陸して早々青年に抱きついた。磯の香りを全身から漂わせるながら、潮風で冷えた鋼鉄の両腕で青年を強く抱きしめるル級。全身から冷や汗が噴き出す青年はがっちりと固定された両腕で必死にル級のふとももをを叩いていた。

 その間、叢雲はイ級が口から吐き出す資材に目を向けていた。港には海中に沈められたチタン製の籠があり、イ級たちがそこに資材を落としていく仕組みになっている。

 えさに群がる鯉のように、ギチギチと籠へ密集するイ級の姿に鳥肌が立つ叢雲だが、ここでしっかりと確認しておかなければいつまで経っても原因が分からない。なるべく籠の方に視線を向けつつ、叢雲はイ級たちの様子を観察した。

 その時だった。

 

「ッ!!?」

 

 イ級たちの蠢く隙間から、海中で光る何かを見た叢雲。今以上に籠を注視し、叢雲は海中にいる何かの正体を掴もうとする。そして、彼女の瞳が決定的な瞬間を捉えた。

 

(手が……!)

 

 海中に沈む籠に向かって、『何か』を落とす青白い手が見えたのだ。それも一本ではない。何本もの青白い手が籠に捕まっては、中に『何か』を投げ入れている。

 叢雲は資材増加の原因をついに見つけた。司令部の資材増加の原因。それは、海中に潜む青白い手を持つ彼女たちがいたからなのだと。

 

「せ、潜水艦……」

 

 海中に潜んでいたのは『潜水艦カ級』と『潜水艦ヨ級』だった。

 主に鎮守府海域近辺で活動を続けているイ級遠征部隊だが、そこに何故潜水艦であるカ級とヨ級が混じっているのか。

 実は最近になって、鎮守府海域近辺に潜水艦の大部隊が潜んでいることが分かったのだ。彼女たちがいつから存在してたのか正確な時期は不明だが、彼女たちの存在が公のものとなったのはつい最近の話である。

 その情報が『偶然』にも青年の司令部に伝達されず、潜水艦の存在を知らないままいつものように鎮守府正面海域に遠征部隊を出した結果、深海棲艦の習性である『近くの艦艇に勝手に群がる』が発動し、いつの間にかイ級遠征部隊に潜水艦であるカ級、ヨ級が加わっていたのだ。

 

(でも、何で潜水艦だけなのかしら?)

 

 ふと、叢雲の頭に一つの疑問が浮かんだ。イ級遠征部隊の主な活動拠点は鎮守府海域近辺だが、そこで出現する深海棲艦の艦級は複数存在する。遠征の際に、他の深海棲艦がイ級遠征部隊に勝手にくっついてきてもおかしくはないはずだ。

 にも関わらず、ル級がこれまで引き連れていたのはイ級のみで、他の深海棲艦の姿は一切見られない。一体何故なのか。

 答えはル級の遠征中の行動にあった。なんとル級は、自分が引き連れる艦隊に近づいてきた深海棲艦を一艦残らず撃沈していたのだ。

 青年が深海棲艦の数が増える事を嫌がっていると愛の力で感じ取ったル級は、これ以上数を増やすまいと日々努力を続けていた。数の暴力で近づく敵を圧倒、たまに味方のイ級ごと敵を沈めることもあったが、それでも艦隊の数が増えないようル級なりに気を配っていたのだ。

 そんなル級が、撃沈することなく艦隊に取り入れた初めての深海棲艦がカ級とヨ級である。これまで頑なに深海棲艦を退けてきた彼女が、何故今になって新たな深海棲艦を艦隊に加えたのか。

 そのきっかけとなったのは、ル級が執務室の前まで訪れたときに聞いた青年と叢雲の会話だった。

 

「最新式の艦艇だぞ!?しかも潜水艦だ!」

「何?アンタそんなに潜水艦が欲しいわけ?」

「だってさぁ、普通の艦艇とは一味違う感じがするじゃん。ちょっと特別って言うか、真新しいって言うか」

「要は物珍しいから欲しいってだけの話ね。アンタ、まともに部隊運営するつもりあるの?」

 

 ドア越しに聞いた青年の声。それは深海棲艦であるル級には解読不能の言語。しかし、艦娘である叢雲の言葉なら理解が可能だ。ル級は叢雲の言葉を通して青年の願いを聞いた。

 

 潜水艦が欲しい。

 

 このときより、ル級は潜水艦と出会う日を待っていた。そして、出会ったら必ず仲間にしようと心に決めていた。

 全ては愛する青年を想っての行動。愛する青年に喜んでもらうために。愛する青年に褒めてもらうために。ル級の粋な計らいによって、青年の願いは実現されたのだ。青年のご注文どおり、ル級は潜水艦を連れて司令部に戻って来ることに成功したのだ。

 

「何だこれは!まるで意味がわからんぞ!」

 

 五分後、真実を知った青年は錯乱状態に陥ったのだった。

 




次回・・・強襲、離島棲鬼

最終章突入なんだぜ。

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