艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

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最近、デイリー建造(30,30,30,30)でよく夕張が出てくるんですが。

追記:細かいところをちょっと修正。過去に投稿した分も、ちょくちょく修正入れていきます。

追記2:感想に返信しました。スペシャルヒロインのタグを追加しました。


着任二十日目:旗艦 其の三

 ブイン基地総司令部。そのとある一室に、ブイン基地を束ねる五人の元帥が一堂に会していた。そして、現在ブイン基地に向かって進行中の深海棲艦の大艦隊を相手にどう対処すべきかを話し合っていた。

 敵勢力がブイン基地の総力を大きく上回っているという報告を聞き、元帥たちはこれまでの経験から答えを導き出す。おそらく、真っ向から立ち向かってもブイン基地に勝利はない。元帥たちは皆同じ結論に至った。

 敗北を免れるためにはそれ相応の策を講じる必要がある。大きな戦力差を覆す最高の一手。元帥たちの意見はまたしても一致した。

 

 

「呼ぶか、援軍」

 

 

 元帥たちは軍の通信回線を用いて各鎮守府に支援の要請を行った。

 各鎮守府も既に情報を掴んでいたのか、支援の要請はあっさり通る。最高の支援を見せてやる、という自信満々の返答にはブイン基地の元帥たちも思わず笑みをこぼした。

 そして今日、各鎮守府から集められた支援艦隊がマルゴマルマル時にブイン基地に到着した。となる予定だったのだが、ここにきて予想外の事態が発生した。

 

 

「申し上げます。支援艦隊到着予定時刻はマルナナマルマル前後との事です」

「マルナナマルマルって、遅くなってんじゃねえか!」

 

 

 何故か、支援艦隊の到着が予定よりも二時間以上も遅れているのだ。敵艦隊到着予定時刻はマルロクマルマル時前後。どう見積もっても、支援艦隊よりも先に敵艦隊が到着してしまう。

 戦闘を予定していた海域を鎮守府正面海域まで下げ限界ギリギリまで支援艦隊の到着を待ったが、マルロクマルナナ時、ついに敵艦隊が水平線の彼方から姿を現した。

 これ以上の後退は出来ない。となれば、やるべきことはただ一つ。元帥たちは交戦を決断した。そして、当初の見立てどおり艦娘艦隊は劣勢を強いられる。

 最終防衛ラインは徐々に後退。元帥たちの艦娘を鬼型姫型の抑えに向かわせたが、少数の艦娘で鬼型姫型をいつまでも押さえ込めるわけがない。抑えの誰かが敗北する前に状況が好転しなければ、ブイン基地に勝利はない。元帥たちは皆机に向かい険しい表情を浮かべていた。

 しかし、その不安は今まさに消し飛ばされた。待ちに待った一報がついに届いたのだ。

 

 

「やれやれ、何とか間に合ったか」

 

 

 そう言って、元帥たちはそれぞれ大きなため息をついた。おもむろに立ち上がった一人の元帥が、双眼鏡を手に取り部屋の窓から海上を観察。支援艦隊の様子をうかがった。

 

 

「あー……そりゃ遅くなるわけだ」

 

 

 海上を眺める元帥は支援艦隊が敵の後方より押し寄せてきているのを確認すると同時に、支援艦隊が遅れてきた理由を察知した。後方から聞こえてくる補佐官の報告を聞きながら、海上を眺める元帥は思った。

 

 

「支援艦隊、総数二百が戦線に加わるとのことです」

(『元帥』が所有する艦隊のオンパレードとか、援軍にしちゃ豪華すぎるぜ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ……うぅっ……」

「アラアラ、モウ終ワリ?」

 

 

 榛名は全力を尽くした。南方棲鬼、南方棲戦鬼、南方棲戦姫の三艦を一気に相手取り、勝利を信じて戦い続けた。

 しかし、現状が覆ることはなかった。南方組は榛名の全身全霊をかけた攻撃をまるで飛びかかってきた虫を払うかのように簡単にあしららい、そして虫をなぶり殺すかのように榛名を蹂躙した。

 少しずつ損傷していく榛名を見て満面の笑みを浮かべる南方組。彼女たちからすれば最高の『おもてなし』をしているつもりだが、艦娘から見れば彼女たち南方組の行為は極悪非道の残虐行為でしかない。徐々に弱っていく榛名。損傷もひどく、燃料と弾薬の消費も激しい。誰が見ても、榛名の敗北は明らかだった。

 しかし、それでも榛名は戦う事をやめなかった。

 

 

「マダヤルノ?」

「ぐぅっ!……っ、はぁああ!!」

「芸ガナイノネ」

「きゃっ……まだまだぁ!」

「ソロソロ飽キタナ」

「きゃああぁああーっ!!」

 

 

 服が焼け焦げ、装備がボロボロになりながらも榛名は立ち上がる。虚ろな目で南方組を睨みつけ、自分はまだ戦えると必死にアピールした。

 そんな榛名に対し、南方組は素朴な疑問を抱く。何故、彼女はそこまでして立ち向かおうとするのか。既に戦える状態ではない、満身創痍の体で何故そこまで戦えるのか。南方棲戦姫は自分の思いをそのまま口にした。

 

 

「……やる……しか……ない……です」

「ソレハ何故?」

「私は……元帥様の艦……娘……皆が……進むべき……道……切り開く……」

「チョット、聞コエナインダケド?」

「私が……やるしか……ないんです!」

「ダカラナンデ?」

 

 

 大きく息を吸った榛名は、凛とした力強い声で答えた。

 

 

「私は!ここではお姉さんなんです!この戦場にいる誰よりも先に『艦娘』として生まれたんです!姉が妹を守るのに理由はいりません!!」

 

 

 榛名はかつて自分が見ていた『姉』の背中を思い出す。多くの戦場を共に潜り抜け、艦隊の窮地を何度も救ってくれた自慢の姉。いつかあんな風になりたいと何度も思った憧れの存在。

 元いた鎮守府からブイン基地へ異動となった後、榛名はブイン基地に着任する艦娘たちと出会った。生まれたばかりで戦いを知らない娘たち。彼女たちとの触れ合いを経て、榛名はある思いを抱いた。

 このブイン基地で、自分が憧れた姉のような存在になりたい。まだ右も左も分からない彼女たちを導く存在になろう、彼女たちに頼られる立派なお姉さんになろう。いつか憧れた姉の背中に追いつくために、自分も新たな一歩を踏み出そう。

 榛名は自身に新たな誓いを立てた。

 

 

「イミワカンナイ」

「モウ十分デショ」

「ソロソロ閉幕トイキマショウ」

 

 

 皆が少しでも安心して戦えるように自分が率先して前に出よう。自分が一艦でも多く敵を倒して皆に希望を与えよう。深海棲艦の大艦隊がブイン基地に向かっていると聞いた時、榛名は密かに決意した。

 かつて自分が見ていた頼れる姉の背中を、今度は自分が見せるんだ。そう意気込んで、榛名は戦いに臨んだ。

 

 

「今、楽ニシテアゲルワ」

「う……ぅあ……」

 

 

 榛名の思いは届かなかった。敵の圧倒的な力に押しつぶされ、攻撃どころか動くことすらままらない榛名は、目の前で主砲を構える南方棲戦姫から逃げることもできない。

 榛名はぼんやりとした意識の中、遠く離れた鎮守府にいる姉妹たちの顔を思い浮かべた。そして、先逝く不幸を許して欲しいと謝罪する。心の底から尊敬していた長女、なんだかんだで世話を焼いた次女、密かに対抗意識を燃やしていた四女。

 それぞれに別れの言葉を告げた榛名は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

「待ちなさぁああああーい!!!」

 

 

 突如響き渡る甲高い叫び声と砲撃音。次の瞬間、榛名の近辺で爆風が巻き起こった。

 ありえない、その声がここで聞けるはずがない。その声の主はここから遠く離れた鎮守府にいるはずだ。聞き覚えのある声を耳にした榛名はすぐに目を開く。目を開いた次の瞬間、榛名の視界に衝撃的な光景が飛び込んできた。

 

 

「私の妹に、これ以上手出しはさせませんっ!」

 

 

 上下斜め四方に伸びた主砲を構え、敵に向かって吼える次女、金剛型二番艦『比叡』。

 

 

「まったく、榛名はいつも一人で頑張ろうとするんだから」

 

 

 やれやれ、といった様子で眼鏡を掛け直す四女、金剛型四番艦『霧島』。

 

 

「よく頑張ったヨ榛名!もう大丈夫ネ、後は私たちに任せて頂戴!」

 

 

 そして、榛名の横を通り過ぎ南方組との間に割って入った長女、金剛型一番艦『金剛』。

 榛名の目に映るのは、榛名が憧れた姉の心強い後姿。夢ではないかと思ってしまうほどの信じられない光景だった。そこへ二つの背中が加わり、敵対する南方組との間に立ちふさがる。

 これ以上にないほどの頼もしい援軍の登場に、榛名は思わず涙をこぼした。

 

 

「ここからは、私たち金剛シスターズが相手をするネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽傷の長門は再び泊地棲姫に向かっていった。

 長門は陸奥の援護を受け泊地棲姫と一対一の殴り合いに持ち込もうとするが、それを阻止するかのように海中の潜水艦が長門を狙う。その後も何度か攻撃を試みたが、結局長門は思うように攻めることか出来ず足踏みを余儀なくされた。

 しかし、今戦っているのは長門だけではない。次の攻撃も届かなかった、と内心焦っていた長門の隣を陸奥が一気に駆け抜けた。

 敵潜水艦の攻撃タイミングを見計らって飛び出した陸奥は、敵潜水艦の攻撃をうまく回避し泊地棲姫に向かって攻撃を仕掛ける。泊地棲鬼もろとも泊地棲姫を吹き飛ばしてやろう。そう意気込んで、陸奥は主砲を放った。

 

 

「クッ……マッタク忌々シイ」

「……ッ」

 

 

 砲撃は泊地組に見事命中。装甲を削り大きなダメージを与えた。事がうまい具合に進んだ陸奥は、してやったりという笑みを浮かべる。

 敵が怯んだ今がチャンス。ここで一気に攻め落とそうと考えた陸奥はそのまま長門へと視線を向けた。姉妹艦であるが故に目と目で意図が通じ合う。陸奥の意図をすぐに理解した長門は、敵潜水艦に注意を払いつつ泊地組へと主砲を向けた。

 これから行う攻撃にタイミングも糞もない。ただありったけぶっ放して、敵に一発でも多くの砲弾を叩き込み、長門型特有の秀でた火力で圧倒する。攻撃力に絶対の自信を持っている長門型だからこそ出来る荒業だ。

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

 陸奥も自身の主砲を掲げ、泊地組に向かって照準を合わせた。

 

 

「終ワルノハオ前タチダ」

 

 

 陸奥の照準の先には、先ほどと同様に口元を歪め笑っている泊地棲姫の顔があった。

 

 

「えっ、きゃあっ!?」

「何っ!?ぐぁああっ!!」

 

 

 砲撃の瞬間、長門と陸奥の足元で大きな爆発が起こった。最初に長門が受けた爆発よりも更に大きな爆発だ。破壊力も凄まじく、最初に攻撃を受けた長門はもちろん、小破程度のダメージしか負っていなかった陸奥までもが戦闘不能状態にまで追いやられた。

 陸奥は混乱した。海中で待機している敵潜水艦に動きはなかったはず。なのに何故攻撃を受けたのか。体勢を立て直し、再び周囲を索敵する陸奥。しかし、索敵に新たに引っかかった敵はいない。

 正体不明の攻撃にますます混乱した陸奥だったが、その攻撃の正体はすぐに明らかとなった。

 

 

「阿呆共メ。ドンナ手段ヲ使ッテデモオ前タチヲ倒スト言ッタダロウ」

「……なんですって?」

「ワザワザ敵ノ索敵範囲内デ行動スル必要モナカロウ?格上ノ敵ヲ前ニ姿ヲ晒ス必要ナドナイ。格下ニハ格下ナリノ戦イ方ガアル」

「貴様、まさか……」

「ありえないわ!索敵外からの攻撃がそう都合よく当たる訳……」

「出来ルノダヨ。コチラニハ優秀ナ補助ガイルノデナ」

「…………」

 

 

 泊地棲姫は背後の泊地棲鬼の姿を長門と陸奥に見せ付ける。

 

 

「くっ……」

「私ノトッテオキヲ使ワセタノダ。海ノ底デ存分ニ誇ルガイイ」

 

 

 基本的には自分の力で艦娘たちを沈めてゆく予定ではあるが、中には対処が面倒な艦娘もいる。そんな時に備え、泊地棲姫は初めから潜水艦を引き連れていたのだ。

 泊地棲姫自身をデコイとして利用し、敵の隙を作ったところで泊地棲鬼が潜水艦部隊に指示を伝達し、不意打ちを相手に食らわせる。それが泊地棲姫の編み出した策だった。

 今まで互角だと思っていた戦いは、全て相手の掌の上だった。その衝撃的事実が長門と陸奥の体を硬直させる。今こうしている間にも、敵潜水艦は長門たちを虎視眈々と狙っているのだ。長門と陸奥はいつ襲ってくるか分からない敵の魚雷攻撃を警戒しながら泊地組を睨みつけた。

 しかし、その睨みをまるで他人事のように受け流す泊地棲姫。既に相手は追い詰めた。これ以上無駄に時間をかける必要も無いだろう。冷静に、そして謙虚にふるまう泊地棲姫はとどめを刺そうと、自身の主砲を長門たちに向けた。

 

 

「…………!」

「……ドウシタ?」

 

 

 泊地棲姫がトドメを刺そうとした瞬間、泊地棲姫の背後にいた泊地棲鬼が奇妙な反応を示した。

 泊地棲鬼の表情を見た泊地棲姫はただならぬ異変を感じ取った。余程の事がない限り動じることのない泊地棲鬼が表情を崩した。それはつまり、泊地棲鬼が動じるほどの事態が発生したということ。泊地棲姫は事態を把握すべく泊地棲鬼に問いかけた。一体何が起きたのか、と。

 

 

「……センスイカン……イナイ」

「何ダト?」

「ミンナイナイ」

 

 

 ありえない、と泊地棲姫は泊地棲鬼の言葉を否定する。潜水艦たちは泊地棲姫の艦隊に加わり、泊地棲姫の命令を忠実に実行する手足となった。潜水艦たちが旗艦である泊地棲姫の指示を無視して勝手な行動を取るはずがない。

 潜水艦たちが近くを通り過ぎた他の艦隊に勝手についていったという可能性もあるが、四方八方に配置した潜水艦がタイミングよく同時に他の艦隊についていくような事が、果たしてあり得るだろうか。泊地棲姫に一抹の不安がよぎる。

 一応、見える位置に潜水艦が一艦残っている。アレを引き連れてすぐにこの場を離れなければ。このまま戦いを長引かせるのはマズいと直感した泊地棲姫はすぐさま長門と陸奥に止めを刺そうと砲身を掲げた。

 次の瞬間、泊地棲姫と泊地棲鬼の背後で大きな爆発が起こった。

 

 

「何ダ?」

「…………!」

 

 

 今爆発したのは泊地棲姫が引き連れていくはずだった潜水艦、長門たちが発見した潜水艦が鎮座している場所だった。

 泊地組は爆発した地点を凝視した。何かがいる。爆発によってできた大きな水柱の向こうに、脅威となり得る存在がいる。重力に引かれゆっくりと開いてく海水の幕を、泊地組はただひたすら睨み続けた。

 

 

「苦戦しているようだなビッグ7」

 

 

 泊地棲姫の不安は的中していた。

 水柱の向こうにいたのは、長門と陸奥が驚愕するほどの艦娘。小麦色の頭髪に褐色の肌、サラシにミニスカートという刺激的な格好、そして背中の超弩級連装砲。艦娘ならば誰もが知っている超大型戦艦の登場に、その場にいた全艦が息を呑んだ。

 

 

「大和型戦艦二番艦『武蔵』。これより貴君らを援護する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘航空部隊はついに限界を迎えた。飛行場姫の手によって艦載機が次々と撃ち落され、敵の圧倒的物量を押さえ込むほどの戦力を確保できなくなった。

 深海棲艦の艦載機は艦娘航空部隊の包囲網を突破し爆弾を次々と投下。艦娘航空部隊を爆撃の雨が襲う。

 

 

「私が受けます!」

「あぶないっ!」

 

 

 しかしここで、艦娘たちの『絆』の力が発動。艦載機を破壊され戦線離脱を余儀なくされた艦娘たちが、まだ戦っている艦娘たちを『かばう』ことで損害を最小限にとどめる。

 だが、いくら被害を最小限に抑えたところで現状は変わらない。艦娘側の不利は覆らない。

 

 

「やばいって!ホントやばいって!」

「いくらなんでも数が……きゃっ!?」

 

 

 飛龍と蒼龍は悪化し続ける状況を何とか打破しようと奮闘していた。

 事態が既に手遅れだということは分かっている。正規空母ニ艦の力で覆せる領分でないことは分かっている。しかし、ここで自分たちが折れるわけにはいかない。ニ航戦の名にかけて、自分たちを旗艦として慕いついて来てくれている周囲の艦娘たちの期待を裏切るような真似はできない。飛龍と蒼龍は自分を奮い立たせ、迫り来る数多の敵艦載機を見据えた。

 次の瞬間、見据えていた敵艦載機が一気に爆散した。

 

 

「ぅええっ!?」

「何事!?」

 

 

 空中に漂う爆煙を凝視する飛龍と蒼龍。ニ艦はまだ艦載機を発艦させていない。ならば周囲の艦娘の誰かが攻撃を行ったのか、と思った飛龍と蒼龍は周囲を見渡す。しかし、周囲の艦娘たちも突然の事態についていけていないのか、飛龍たちと同じように周囲をキョロキョロと見渡していた。

 一体何が起こったのかまったく理解できない艦娘航空部隊を他所に、空中では更なる爆発が巻き起こった。そして、その爆煙を切り裂くように、右から左へと『何か』がいくつも駆け抜けた。

 

 

「嘘……あれって」

「まさか……」

 

 

 飛龍と蒼龍の目は駆け抜けた『何か』の正体をはっきりと見た。艦載機だ。艦娘の空母たちが所有する艦載機が、敵艦載機を一斉に攻撃したのだ。

 飛龍たちには心当たりがあった。開戦前、彼女たちの提督である元帥から支援艦隊がブイン基地に向かっている事は聞いていた。そして、その進行が予想よりも遥かに遅い事も聞かされていた。しかし、まさかこの部隊が援軍として駆けつけてこようとは、飛龍も蒼龍も思ってもみなかった。

 

 

「何とか間に合いましたね」

「この程度で音を上げるなんて、少したるんでいるんじゃないかしら?」

「赤城さん!加賀さん!」

 

 

 背後から聞こえてきた声に飛龍は歓喜する。飛龍たちを救ったのは支援艦隊の航空部隊。そして、その航空部隊を率いてやってきたのは正規空母の『赤城』と『加賀』だ。

 赤城と加賀を筆頭に、援軍の空母たちは一斉に艦載機を発艦させる。その戦力は先ほどまで圧倒的物量で押し寄せてきた敵艦載機の大群を一気に押し返した。そこへ再び飛行場姫の艦載機が現れ、艦娘たちの艦載機を撃ち落し始める。

 

 

「気をつけて!あの艦載機はおそらく鬼型か姫型が放ったものです!」

「はやく倒さないと!」

 

 

 援軍の放つ艦載機を相手に引けを取らない飛行場姫の艦載機。このままでは自分達の二の舞になってしまうかもしれない。飛龍と蒼龍は赤城と加賀に警戒するよう呼びかける。

 しかし、赤城はその警告に対して余裕交じりの言葉を返した。

 

 

「問題ありません。あの艦載機はもうすぐ戦場を去ります」

 

 

 赤城の言葉の意味を理解できない飛龍と蒼龍は頭に疑問符を浮かべた。

 赤城が何故このような言葉を返したのか。その理由は赤城たちの率いる部隊の構成にあった。一見、航空部隊を引き連れて飛龍たちの前に姿を現した赤城と加賀のどちらかが旗艦のように見えるが、それは間違いだ。赤城と加賀は『ある艦娘』の命令を受けて飛龍たちの援護に駆けつけたのだ。

 その『ある艦娘』の存在こそが、赤城の言葉の自信に繋がっている。

 

 

「……アナタ、誰?」

「困ったわね。いくら装甲が厚いといっても、姫クラスの砲撃を受けたらひとたまりもないわ」

 

 

 そして、『その艦娘』は今まさに飛行場姫と対面していた。

 

 

「でも、任されたからには全力でやりましょう。装甲空母『大鳳』、参ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙高が勝利を宣言した次の瞬間、戦艦棲姫の上方で大きな爆発音が三つ鳴り響いた。

 戦艦棲姫はすぐさま上空を見上げた。戦場を覆っていた影は徐々に晴れ、隠れていた太陽が姿を現す。戦艦棲姫の視界に映るのは、爆煙にまみれ一斉に海へと落ちてゆく三艦の浮遊要塞だった。

 

 

「やれやれ、ずいぶんと遅い到着だな」

「本当は私達の力だけで倒したかったんだけど」

「た、助かりました……」

 

 

 まるで見計らったかのように現れた援軍に色々と思うところはあるが、何はともあれ助かった。那智、足柄、羽黒は安堵の溜息を洩らす。

 だが、安心するのはまだ早い。眼前の強敵は未だ健在。本当に安堵するのはこいつを退けてからだ。目に光を取り戻した那智、足柄、羽黒は沈みゆく浮遊要塞を呆然と眺めている戦艦棲姫に向かって再び主砲を構えた。

 しかし、現実は甘くはない。援軍の登場で精神的には力を取り戻したが、それで中破した船体が修復されたりはしないのだ。今の妙高四姉妹がどれだけ頑張ろうと、戦艦棲姫を倒せる確率は万に一つもない。

 

 

「待ちなさい。それはもう我々の役目ではありません」

 

 

 妙高は妹たちに停止を呼びかけた。姉の口から出てきた言葉の意味を理解できない那智、足柄、羽黒。中でも一番闘志を燃え上がらせていた足柄は妙高の後ろ向きな言葉に怒りを覚えた。

 援軍が来たからとって、全てを援軍に任せていいわけない。自分たちも最後まで戦場で戦い続けるべきだ。足柄は妙高に対し抗議の声を上げようとした。

 

 

「ごめんなさい。だいぶ遅れてしまいましたね」

 

 

 足柄の口から抗議の言葉が出ることはなかった。足柄は自分の耳を疑った。今聞こえたのは妙高四姉妹の誰とも合致しない声。しかし、足柄はその声に聞き覚えがあった。

 以前着任していた鎮守府で初めて顔を合わせ、そして何度も言葉を交わした戦友とも呼べる艦娘。自身の提督と同じ『元帥』の座(ざ)に座る提督の元で旗艦を務めている最強の戦艦。

 

 

「大和!?」

 

 

 赤いミニスカートと赤い襟が特徴的なセーラー服を身に纏い、長い茶髪を後ろで一括りにした超弩級戦艦。大和型一番艦『大和』が、友の危機を救うために現れた。

 

 

「久しぶりね足柄。那智、羽黒も」

「すみません。我々の力が及ばないばかりに」

「謝るのは私のほうよ妙高。私たちがもっと早く到着していれば、あなたたちがこれほどの苦戦を強いられることもなかったはず……」

「お二方、今は一刻を争う事態だ。目の前の敵に集中してくれ」

「て、敵がこっちを見ましたよ!?」

 

 

 那智と羽黒の言葉で敵へと向き直った妙高と大和。那智の言うとおり、今は再開を喜んだり感傷に浸っている場合ではない。今彼女たちがすべきことは、目の前にいる強敵を打破することだ。ゆっくりと前へ出た大和は、静かに睨む戦艦棲姫と対面した。

 未だに忘れられない戦艦棲姫の悪夢。戦艦棲姫の幸せを根こそぎ奪っていった鉄底海峡の戦い。その戦いで、自身に致命的な一撃を与えた艦娘の姿を、戦艦棲姫ははっきりと覚えていた。

 

 

「あなたと会うのはこれで二度目ですね」

「貴様……ヤハリアノ時ノ……!」

 

 

 そして、因縁の二艦が再び相まみえた。

 彼女の復讐の炎を体現するかのように、戦艦棲姫の全身から赤黒いオーラが吹き出す。それに共鳴して戦艦棲姫に付き従う砲台型の深海棲艦もまた、赤黒いオーラと共に口から砲身をむき出しにした。

 ただならぬ気配を察知した大和は連装砲を構え、妙高四姉妹は大和を援護すべく周囲に散開した。

 

 

「笑ッタ?今私ヲ笑ッタカシラ?」

 

 

 狂気を振りまく戦艦棲姫。彼女の瞳にはもう大和の姿しか映っていない。

 私の幸福を破壊していったくせに、破壊した当の本人は未だなお幸福を享受し続けている。なんて身勝手な艦娘だ。なんて憎たらしい艦娘だ。憎悪が更なる憎悪を呼び、戦艦棲姫の怒りの炎を更に激しく燃え上がらせる。

 

 

「復讐に囚われた深海棲艦『戦艦棲姫』。あなたの憎悪、私が断ち切ります!」

 

 

 戦いは最終局面を迎えようとしていた。

 




次回・・・旗艦 其の四

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