艦隊これくしょん 奇天烈艦隊チリヌルヲ   作:お暇

21 / 43
この小説ではかませ犬だった扶桑お姉様も、リアルのイベントでは大活躍。天津風ゲットだぜ!


着任十九日目:旗艦 其のニ

 その日、叢雲はやる気に満ち溢れていた。

 ブイン基地総司令部から送られてきた伝令によると、深海棲艦の大艦隊がブイン基地に接近中で、その大艦隊を相手にブイン基地は総力を結集して戦いを挑むというのだ。

 敵の規模からして、今回の戦いはこれまで経験した戦いの中で一番激しいものになるだろう。元々武人気質だった叢雲はその伝令を聞いて闘志を燃え上がらせた。

 

 

(フフッ、いよいよ私の真価を見せる時が来たようね……!)

 

 

 戦場を颯爽と駆け抜け敵を倒す自身の姿を想像し思わず笑みを浮かべる叢雲。声を大にして言えることではないが、叢雲は深海棲艦の大艦隊が来るのを待ちわびていた。

 そして今日、その大艦隊はブイン基地の正面海域に姿を現した。待ちに待った大戦がついに始まる。叢雲は一週間前から自身の体調、装備、身だしなみ、全てを整えた万全の状態で待ち構えていた。

 

 

「なのに……なのに何で!私たちだけが『待機』なのよっ!!」

 

 

 しかし、叢雲が配置されたのは前線から遠く離れた後方。もっと詳しく言えば司令部の港であった。せっかく準備を整え気合も十分だった叢雲が何故このようなところに配置されたのか。それは、彼女と同じ艦隊に所属している娘たちが原因だった。

 叢雲が率いる艦隊の構成は駆逐艦(叢雲)、重雷装巡洋艦、重巡洋艦、軽空母、戦艦、正規空母の六艦だ。一見、十分な戦力がそろっているように見える艦隊だが、それは艦艇の種類で判別した場合のみの話。パッケージに書かれた絵とパッケージの中身が同じモノとは決して言い切れないのだ。

 

 

「チ……」

「リ!」

「ヌゥ」

「ルー」

「ヲっ」

 

 

 そう、叢雲が率いる艦隊は『艦娘』の艦隊ではなく『深海棲艦』の艦隊。艦娘たちと敵対し、艦娘たちと日夜衝突している『敵』なのだ。

 そして、その『敵』が今眼前に押し寄せてきているわけで。とどのつまり、何が言いたいのかと言うと。

 

 

「もうっ!何でアンタたちはそんな紛らわしい格好してるわけ!?」

 

 

 この一言に尽きる。紛らわしいのだ。何百と押し寄せてくる深海棲艦の中に叢雲の艦隊が混ざれば区別がつかなくなってしまう。一応左肩に赤い丸印をつけてはいるが、それも戦場の中に入れば無きに等しい。

 味方の艦隊の中に敵が紛れていては余計な混乱と騒ぎを引き起こす可能性があるという理由から、叢雲たちの艦隊は後方での待機を命じられたのだ。

 

 

「リ!」

「はぁ、どうしていつもこう……って、ちょっと!?アンタどこに行こうとしてるのよ!アンタたち、アイツを取り押さえなさい!」

「チ……」

「ヌゥ」

「まったく……はいそこ!無駄に資材を消費しない!」

「ヲっ」

「ダメなものはダメなのよ!」

「ルー」

「何自分は関係ないみたいな顔してるのよ!アンタも手伝いなさい!」

 

 

 結局、叢雲がやることはいつもと変わらない。あれこれ勝手な行動を取る深海棲艦たちの保護者役として、今日も彼女は苦労するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拮抗は崩れた。鬼型、姫型の深海棲艦たちが本格的に動き始めたことにより苦戦を強いられることとなった艦娘艦隊。攻勢だった中央の戦線も瞬く間に押し返され、艦娘艦隊の最終防衛ラインはじわりじわりと後方へ下がってゆく。

 気力だけで何とかなるほど戦いは甘くない。数差を埋めていた艦娘たちの『絆』の力も、決して万能ではないのだ。戦闘による肉体的疲労と精神的疲労、そして、敗北と轟沈に対する不安と恐怖は艦娘たちの身を少しずつ蝕んだ。

 『心』を持っているが故に起こってしまった戦闘力の低下は艦娘艦隊の士気にも大きく影響した。一度取り付いた恐怖はそう簡単に拭えはしない。瞳に涙を浮かべながら震えた手で放つ攻撃はまったく命中せず、何とか敵に接近されまいと狙いを定めぬ我武者羅な砲撃を行い無駄に弾薬を消費し、勇敢と無謀を履き違えて突撃し被弾する。元々不利だった戦況は、更に不利な方向へと進んでいった。

 そんな中、今の現状を何とか打破しようと抗う一艦の艦娘がいた。

 

 

「勝手は榛名が許しません!」

 

 

 猛威を振るう南方組の三艦と相対するのは金剛型三番艦の高速戦艦『榛名』。今の戦況を生み出した原因は鬼型、姫型の深海棲艦にあると踏んだ榛名は近くで暴れていた南方棲鬼、南方棲戦鬼、南方棲戦姫に戦いを挑んだ。

 鬼型、姫型の装甲を貫くには戦艦級の火力が必要だ。周囲の重巡洋艦、軽巡洋艦ではいささか火力に欠ける。そのため、後からその場に駆けつけた榛名の存在は戦っていた艦娘たちにとってまさに救世主と呼べる存在だった。

 周囲の期待を背に、榛名は奮闘した。この三艦を倒せるのは自分しかない。この三艦を倒せば戦況は必ず変わる。仲間たちに少しでも希望を与えようと、榛名は一心不乱に戦い続けた。

 

 

「チョロイッ!」

「甘イ」

「チョロ甘ネ」

 

 

 しかし、それでも敵には届かない。

 周囲の重巡洋艦、軽巡洋艦が榛名を援護するが、その援護も南方組の前ではまったくの無意味。反撃を受けた周囲の艦娘たちは一艦、また一艦と数を減らしていった。

 このままではいけない。何とかしないといけない。榛名は満身創痍の身に鞭打ち立ち向かう。高速戦艦特有のスピードを生かした立ち回りで敵を翻弄し、南方組の注意を自分にひきつけてから至近距離で主砲を相手に叩き込んだ。

 もう何度目か分からない敵の被弾。次こそは、今度こそは。榛名は敵の撃沈を願う。

 

 

「残念ネ」

「……っ!」

 

 

 余裕の表情を見せる南方組とは対照的に苦しげな表情を浮かべる榛名。敗北の足音は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、荒れ狂う南方組とは違い静かに、そして確実に歩みを進める深海棲艦がいた。

 

 

「マッタク、忌々シイ艦娘共メ……」

「……」

 

 

 目に付く艦娘を片っ端から攻撃する泊地棲姫と泊地棲鬼の泊地組。他を寄せ付けぬ火力で周囲を圧倒する泊地棲姫と、静かに追従する泊地棲鬼の姿は艦娘たちに深い絶望を与えた。

 艦娘が接近しようとすれば艦載機で牽制し射程外へと追いやり、手も足も出せなくなったところで一方的に砲撃する。ただ主砲をぶっ放す南方組とは違う、自身の性能と装備を十二分に発揮した攻撃で敵を封殺していく泊地棲姫。そして、それに付き従うように動く泊地棲鬼はひたすら援護に徹している。その動きは、仲間を気遣い助け合う艦娘たちの動きとよく似ていた。

 艦娘たちが戦いの中で培ってきた力を『絆』と呼ぶなら、泊地組の見せる強さは『信頼』と呼ぶべきだろう。互いに絶対の信頼を置く主従の関係が生み出す力。長い戦いの中で成長していたのは艦娘だけではなかった。

 悠然と戦場を進む泊地組。そんな泊地組の前に一組の艦娘が立ちはだかる。

 

 

「長門型一番艦、戦艦『長門』が相手だ!」

「同じく長門型のニ番艦、戦艦『陸奥』よ。よろしくね」

 

 

 他の艦娘より強い『絆』で結ばれた姉妹艦であり、かつて世界最強と謳われた七つの抑止力に名を連ねる戦艦。長門型戦艦姉妹が泊地組に戦いを挑んだ。

 戦艦の中でも最高の火力を誇る長門型の攻撃は鬼型、姫型深海棲艦にとって十分脅威となり得る。長門の攻撃を一目見た瞬間、泊地棲姫は相手が一筋縄ではいかない事を悟った。

 長門と陸奥の攻撃を警戒しつつ、艦載機でニ艦をかく乱しながら泊地棲鬼に敵を狙わせる泊地棲姫。対する長門は、持ち前の高い対空能力を生かし泊地棲姫の艦載機を確実に落とし、そして、長門に狙いを定めた泊地棲鬼を陸奥が狙い撃つ。泊地組の『信頼』と長門型姉妹の『絆』の戦いは五分五分だった。

 両軍一歩も引かない戦いは熾烈を極めた。巻き込まれた他の深海棲艦は次々と沈み、巻き込まれることを恐れた他の艦娘たちはその場から離れてゆく。その結果、泊地組と長門型姉妹の周囲には大きな空間が広がっていた。

 横槍が一切入らない一騎打ちの状況に長門は闘志を滾らせる。たとえ相手が姫型の深海棲艦だろうと、一騎打ちの殴り合いなら絶対に負けない。目の前の敵に集中し始めた長門は凄まじい勢いで泊地組を攻め立てる。

 そして、ついに長門は泊地棲姫の艦載機を全て打ち落とした。既に敵本隊は射程内、このまま一気に勝負を決めてやる。周囲を見渡し敵が泊地組だけだということを確認した長門は、すぐさま主砲の砲頭を泊地棲姫へと向けた。

 

 

「終わりだ!」

「ソレハコチラノ台詞ダ」

 

 

 長門が勝利を確信した瞬間、泊地棲姫の口元が大きく歪んだ。

次の瞬間、長門の足元で何が炸裂。体勢を崩した長門の砲撃は大きく逸れ、混戦続く戦場へと消えていった。

 一体何が起こったのかまったく理解できていない長門は慌てて体制を立て直す。長門は再び周囲を見渡すが、やはり周囲に泊地組以外の敵艦艇の姿は無い。続けて艦載機から攻撃を受けた可能性を考える長門だが、その考えはすぐに切り捨てる。泊地棲姫から艦載機で牽制を受けていた長門は艦載機の攻撃に対して細心の注意を払っていた。見落とすはずなどあり得ない。

 

 

「長門、潜水艦よ!」

 

 

 陸奥の言葉でハッ、とした長門は揺らめく水面へと視線を向けた。すると、少し離れた海中で敵潜水艦が怪しい光を放ち鎮座しているのが見えた。

 長門は己の注意不足に顔を歪ませる。今まで泊地棲姫の牽制を気にしていたばかりで水中への注意を怠っていた上に、周囲に敵の姿が無いから一騎打ちだと勝手に思い込んでいた長門の落ち度だ。

 罠にかかった長門に対し歪な笑みを浮かべる泊地棲姫は冷たく言い放った。

 

 

「イツカラ他ノ敵ハイナイト錯覚シテイタ?私ハオ前タチトマトモニ戦ウツモリナド毛頭ナイ。ドンナ手段ヲ使ッテデモ、オ前タチ艦娘ヲ倒ス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘航空部隊の主力であるニ航戦『蒼龍』と『飛龍』は事態の対処に追われていた。

 開戦直後の先制攻撃から序盤の戦闘まで大いに活躍し、その後敵艦隊よりも先に制空権を確保することに成功した艦娘航空部隊。海上の敵艦艇はもちろん、海中に潜む敵潜水艦まで寄せ付けない圧倒的な戦力を持って戦場を支配していた。

 

 彼女が現れるまでは。

 

 

「墜チテ」

 

 

 動き出した飛行場姫が艦娘たちの確保した制空権を徐々に奪い返し始めた。

 制空権を確保しながら敵艦載機を攻撃するのは至難の業だ。深海棲艦の空母たちが所有する艦載機の性能はそこまで高くはないが、いかんせん数が多い。制空権確保を最優先とした艦娘航空部隊は海上の敵艦艇への攻撃を一時中断し、迫り来る敵艦載機を迎え撃った。

 多数の敵空母から放たれた敵艦載機の数は大量発生したイナゴの如く空を飛ぶ。その敵艦載機の中に紛れ、飛行場姫の艦載機は艦娘たちの放った艦載機を立て続けに撃ち落していった。

 

 

「ちょっとちょっとぉ!あの艦載機動きが良すぎでしょっ!」

「多分、鬼型か姫型の深海棲艦が放ったものでしょうけど……これじゃあ制空権が」

 

 

 蒼龍と飛龍は焦っていた。圧倒的な数を誇る敵艦載機を『艦載機の性能』と『絆』の力で何とか抑え込んできたが、飛行場姫の艦載機が現れたことによりその抑えが利かなくなり始めている。

 制空権が奪われることを危惧する飛龍は迫り来る敵艦載機を撃ち落しながら願った。誰でもいい、あの艦載機を放つ深海棲艦を早く倒して欲しい、と。

 

 

「ダカラ無理ナノニ……」

 

 

 飛龍の願いを踏みにじるかのように、飛行場姫は接近してきた艦娘たちを吹き飛ばした。

 もし飛行場姫が普通の空母だったのならば艦娘たちにも付け入る隙はあったのかもしれない。しかし、飛行場姫はただの空母ではない。艦載機を搭載した戦艦『航空戦艦』なのだ。名前に『飛行場』と入っているにも関わらず、その実彼女は戦艦なのだ。

 接近してきた艦娘は漏れなく砲撃の餌食となる。戦艦級の、しかも深海棲艦の中でも最上位の姫型の砲撃を受ければひとたまりもないだろう。

 艦娘たちの艦載機は刻一刻と数を減らしてゆく。艦娘側の制空権は、もう半分以上が飛行場姫の手によって奪い返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……」

「マズいな」

「でも、やるしかないわ!」

「ほ、本当に勝てるのですか……?」

 

 

 妙高型重巡洋艦の四姉妹『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』は窮地に陥っていた。周囲の艦娘たちが苦戦を強いられている今、自分たちの勝利が状況を打開する大きなきっかけになる。妙高四姉妹は自身に課せられた重要な役目を果たそうと、全身全霊をかけて戦いに望んでいた。

 

 

「今……私ヲ笑ッタワネ?」

 

 

 妙高四姉妹が相手を任されたのは完全に独立した砲台型の深海棲艦を従えるニ艦で一艦の深海棲艦『戦艦棲姫』だった。深海棲艦の中でも特に攻撃力の秀でた戦艦棲姫の砲撃はまさに一撃必殺。被弾すれば敗北必死の一発勝負に挑む妙高四姉妹は、奇跡的な回避によって戦艦棲姫と互角の戦いを見せていた。

 

 

「あれは……!」

「浮遊要塞だと!?」

 

 

 しかし、戦艦棲姫の上空に深海棲艦『浮遊要塞』が現れた時より状況は一変した。戦艦棲姫の砲撃にばかり警戒していると空から浮遊要塞の砲撃を受け、逆に浮遊要塞を標的にすれば戦艦棲姫に隙を見せてしまうことになる。

 一撃必殺である戦艦棲姫の砲撃だけは絶対に受けてはならない。となれば、妙高四姉妹が進むべき道は一つしかない。肉を切らせて骨を絶つ。妙高四姉妹は浮遊要塞の攻撃を受け続けながら戦艦棲姫と戦う覚悟を決めた。

 浮遊要塞の砲撃が被弾しても決して怯むことなく、臆さず、勇敢に、妙高四姉妹は戦い続けた。周囲には目もくれず、鬼気迫るまでの気迫で戦艦棲姫を倒すことだけに全力を注ぐ。その攻撃は少しずつではあるが、確実に戦艦棲姫の装甲を削っていた。

 

 

「最低ノ敗北ヲ味ワイナサイ」

 

 

 戦艦棲姫がつぶやくと同時に、妙高四姉妹の怒涛の攻撃が止まった。

 那智、足柄、羽黒は視線を空へと向けていた。三艦の顔からは鬼気迫る表情は消え、ただ呆然と空を眺めている。三艦の目に映るのは徐々に姿を消してゆく太陽と不自然に形を変えてゆく真っ白な雲。そして、赤みがかった巨大な物体。

 

 

「浮遊……要塞……」

 

 

 雲を裂きゆっくりと降下してきたニ艦の浮遊要塞。最初に現れた一艦とあわせて三艦の浮遊要塞が戦場の空を覆った。

 那智、足柄、羽黒は自軍の敗北を悟る。既に艦娘艦隊は限界ギリギリの状態だった。これまでは背水の陣による士気の向上と『絆』の力で何とか戦ってこれたが、疲労による戦闘能力の低下、鬼型姫型の台頭により一気に劣勢へと転じた艦娘艦隊に敵援軍を跳ね除けるだけの力はもう残っていない。

 自分たちは負ける。今、辛うじて繋がっていた自分たちの希望が完全に断ち切られたと、戦場にいる艦娘の誰もが思った。

 

 ただ一艦を除いては。

 

 

「敗北?いいえ、違います」

 

 

 戦艦棲姫のつぶやきに言葉を返したのは妙高四姉妹の長女『妙高』。周囲が絶望の表情を浮かべる中、彼女だけが笑みを浮かべていた。

 

 

「この戦い、我々の勝利です!」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。