バカと魔王と澱の神   作:アマガキ

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第二十六話 雷、再び

現在、僕は車の中からムッツリーニとともに前方をバイクで走るリア充のようなものを見ていた。

 

「で、これはどこに向かっているの?」

 

「・・・・・・関東機関本部」

 

「ほんとにおまえまでついてくる必要はなかったんだぞ、吉井」

 

「乗りかかった船ですよ」

 

「・・・・・・それにしても明久が記憶喪失だったとは」

 

「いったのはカッコぐらいだよ。それとこの前の一件の関係者」

 

「だが、協力者が多いに越したことがないんだが・・・・・」

 

「やっぱり戦いづらいですか?」

 

「まあな。あいつらの気持ちは俺もわかるからな」

 

「・・・・・・俺はわからないが。それでも平和が優先」

 

「頼りにさせてもらうぞ、吉井」

 

「はい」

 

 

 

 

 

人里離れたさびしい山奥。

そこに研究所のような施設があった。

 

「あれー?おっかしーわね?」

 

「何がだ?」

 

「・・・・・・本来なら侵入者が来れば警報が鳴る」

 

「え?!じゃあもうみんなどこかに行っちゃったってことじゃ?!」

 

「そうじゃない」

 

「・・・・・・おそらく地下だ」

 

「「地下?」」

 

「そ、本当の関東機関本部はは有事の際には霞が関まで一直線に行ける直通通路がある地下施設なの」

 

 

 

 

 

 

十トントラックが入るような大型エレベーターに今みんなで乗っている。

 

「日本軍ってね、本土決戦に備えての砦をいくつか用意したんだって、これはその一つを改装して作られたの」

 

「へーそうなんですか」

 

「ちょっと待てよ当時の日本にそんな技術ないだろ?」

 

「第二世界までではな」

 

「分かるでしょ第三世界の力ならできるの。長谷部君だってその気になれば魔法で穴を掘るくらいできるでしょ?」

 

「まあやろうとは思わないけどな」

 

そういうことか。

確かに魔法を使えれば一発なのだろう。

 

「そういうことを宣戦に送れるほどじゃなく、サンプルする価値もない合成魔人(キメラ)が強制させられていたのよ」

 

ひどい話だ。

 

「ねえ、長谷部君死ぬ覚悟ってしたことある?」

 

「そんなもん勇者になってから山ほどしてきたさ。今だってそうさ」

 

「そう・・・・・・」

 

「お前はどうなんだ真琴?なんならお前だけ引き返したっていいんだぞ?」

 

「誰がいなくても私は残るわ。なりたくてなった局長だもの。あたしにはなんの力もないけど。だからってなにもしないってのは嫌なのよ」

 

「お前ってホントにすごいやつだよな」

 

「何が?」

 

「そうやって自分の弱さを認められるとこだよ。俺だったら悔しくて・・・・」

 

「何よ?嫌味?」

 

「褒めてんだよ。自分の強さを受け入れられるのも強さだよ」

 

「まあそういうことにしておいてあげるわ。言っとくけどこれで惚れたりしないからね」

 

「ばっ・・・・何でそう普段は素直じゃないかな。もうちょっと素直だったら・・・・」

 

「何?長谷部君が惚れてくれるの?」

 

「っ・・・・・」

 

なんだろう見てる僕らにも配慮してくれないかな?

 

「ねえ康太ちょっと言いたいことがあるんだけど言っていい?」

 

「・・・・・・たぶん俺と同じことだからやめとけ」

 

いやほんとリア充っぽい空気出すのををやめてください。

 

 

 

 

「よくぞ帰ってきた関東機関局長飛騨真琴。そしてようこそ勇者長谷部翔希と正体不明(アンノウン)吉井明久、ついでにE3と鉄人も」

 

エレベーターを降りるとその言葉と同時にライトのまぶしさで前が見えなくなった。

目が慣れて最初に気づいた。

天井が地上五階くらいにある。

どんだけ地下なんだ?!

でも状況はそんなこと気にしている場合じゃなくなった。

関東機関の局員がこちらに銃を向けている。

 

「予想はしてたけどここまであらかさまだとはな」

 

「ま・・・・当然よね。エレベーターだけは動いてたんだから」

 

そういういことなら教えておいてほしかった。

 

「魔王候補がいないようだが、いいだろう。本当に帰ってきた局長に免じてひとつゲームをしてやろう」

 

おそらくあの人がベルロンドなのだろう。

 

「オセロくらいならできるけどな」

 

「テレビゲームなら負けないんですけどね」

 

「もっと単純なことだ。ここにいる全員をそこの勇者が倒す。ただそれだけだ」

 

「ずいぶん余裕だな。クーデターまで残り二時間もないだろう?」

 

「だがこれも必要なことでね。総長から龍撃手(ドラグーン)の実践テストをやるように言われていてね」

 

なんか中間管理職って感じで大変そうだ。

 

「君は今何か失礼なことを考えただろう」

 

避けた直後火球が飛んできた。

 

「実践テストに耐えられそうなのが勇者だけだと思ってね。その子たちを労を使わず倒すぐらいでないとね。私はその間その正体不明(アンノウン)と遊ぶとしよう」

 

つまりあのイケメンの相手は僕か。

 

「長谷部先輩頼みました」

 

そういって僕は駆け出す。

 

 

 

 

 

「苦戦してるな」

 

「誰のこと?」

 

菊人が局長に言う。

現在俺たちは銃を突き付けられ動くことを許されていない。

関東機関最速たる俺や多彩な技を持つ鉄人ならこの状況を突破できるが局長にも銃を突き付けられたこの状況では動けない。

 

「あんたが連れてきた勇者のことだよ」

 

あの勇者はきっと人を殺せないタイプの人間だろう。

一方明久は少し離れたところで戦っているのでよくわからない。

まだ粘っているのが不思議でならない。

 

 

 

 

「ここまで攻撃をかわすとは君はほんとに何者なのだろうな?」

 

「そんなことは!・・・・・僕が知りたい!・・・・・です!」

 

現状ベルロンドとの戦いは一進一退だ。

ドクターの武器の性能をもってしても龍の鱗を破るには至っていない。

まあみんなには言わなかったが、もともと人間を傷つけずに制圧するためのものなのだからしょうがない。

出力最大でもあまり効果は見られない。

さてどうしよう?

 

「避けてばかりでそんな攻撃ではどうにもならないぞ」

 

そうは言われてもどうしよう?

とりあえず挑発でもしてみよう。

 

「なんだよそっちだって龍って言ってるくせにサラマンダーみたいじゃないか!!」

 

「ふん、何を言ってるんだか」

 

でもほんとにそんな感じだと思うんだけどな?

ちなみに今ベルロンドは貴族のような服装は変身によって破れて無い。

角をはやし、皮膚は鱗になっている。

 

「そろそろ終わりにしようか!」

 

それに対しナイフを投げ強力な電撃で相殺するとともに、ワイヤー機能で離脱しようとする。

 

プスッ!!

 

「ゲッ?!」

 

「終わりだな」

 

今の音はナイフの放電機能のバッテリーが切れたことを意味していた。

そうなってはただのナイフでしかない。

今回の特大の火球を避けるには、ワイヤーだけではだめだった、このままではよけきれない。

 

 

 

 

 

「何でわかってくれないんだよ?!」

 

明久の危機的な状況の一方で勇者は悲痛な叫びをあげる。

長谷部翔希は隙を見て機関員を昏倒させてきたが、まだたったの七人だ。

今や勇者の相手には菊人も混ざっている。

 

「お前たちは騙されてるだけなんだ!そこのベルロンドってやつに!」

 

「違う・・・・これは俺たちの悲願を知らしめるための戦いだ!」

 

「平和を、国を、国民を守るためだからってなんで私たちが戦わなけりゃいけないの?!」

 

「E3の様に志願したわけでもないのに?!」

 

「分かるかよ?!勇者ぁ!・・・・・この国のために俺たちの仲間が一体どれだけ死んだと思う?!なのに守られるあいつらは花束の一つも送りゃしねえ!ふつうの生活を求める俺たちに何の罪がある!?」

 

「だから終わらせるのよ!」

 

一人の局員の手から光弾が放たれる。

間一髪勇者はそれを受け止めるが、次から次にと打ち込まれる。

そして煙に覆われる。

 

「ああ、お前たちの気持ちはわからないかもしれない」

 

確かに勇者は神殿教会で感謝され奉られる存在だ。

対する俺たちはその対極の知られざる兵士だ。

 

「だけどお前らが平和を乱そうってんなら戦わなくちゃいけない。この力は、第三世界の魔の力は今の世には強すぎるんだ」

 

ひとたびそれが世に出ればあまたの混乱を生むだろう。

 

「だから神殿教会もお前たちも世から隠れて行動してきたんだろう?だからこそこんなことをすれば神殿教会は黙っていない。真琴はお前たちを神殿教会から守るために魔物の巣窟の奥まで言ったんだぞ!無力な女の子がだ!」

 

局長に視線が集中する。

局長は今まで俺たちの前では高慢にふるまってきた。

なめられない為だ。

頼れるのは鉄人くらいだろうか?

その鉄人も戻ってきたのはおととしだったし、副業の教職も真剣にやっているから忙しい。

そんな局長が自分たちのために動いていたというのに驚いていた。

 

「俺たちみたいな戦う力を持たない女の子が魔物に向き合ったんだぞ!お前たちならそれがどれほど勇気がいることなのかわかるだろ?!」

 

局員には明らかに動揺が広がっていた。

 

そこで轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

火球が当たる直前僕は死にたくないと思った。

まだ自分のこともよくわかっていない。

明日はカッコたちと笑って過ごしたい。

雄二が始めた試招戦争にも参加していない。

まだ死ねない。

そう思った時だった。

一度見た稲妻をまた見た。

 

 

 

 

轟音の正体は巨大な電撃だった。

その発生源に明久は立っていた。

これが情報にあった雷。

春休みの事件で見せたという。

 

「それがあなたの力ですか」

 

「行くよ」

 

そう呟いて明久はナイフを投げる。

その内部に雷が集中し、ベルロンドの放った炎を突破しその鱗に傷をつけた。

今の明久からは確かに魔力を感じる。

普段は感じなかったのに。

 

「・・・・・・なんだあれは」

 

そのすさまじさに思わず言葉が漏れた。

 

 

 

 

 

神殿でのときのように僕から電気があふれるように出てくる。

使い方もわかる。

 

「このドラゴンの鱗に傷をつけるとは・・・・・」

 

「だからドラゴンぽくないって」

 

「うるさい!」

 

またナイフを投げる。

今度は全力で電気を流す。

それはイケメン野郎の目の前で爆発した。

 

 

「え?」

 

あいつは爆発のダメージをほとんど受けていない。

っていうか爆発がまず想定外だった。

電気を流し過ぎたっぽい。

 

「もうおしまいのようだな」

 

あわてて電気を放とうとするが、急速に電気は消えて行ってしまった。

 

「え?」

 

「ふん!」

 

「がっ」

 

電気を出すどころか避けることもままならなかった。

 

 

 

 

電撃を使った明久の戦いはすさまじかった。

しかし突如電撃は使えなくなり、明久は倒された。

魔導被膜性の戦闘服のおかげか重傷には至っていないが、戦えそうにはない。

 

「人間としては素晴らしいレベルの戦いだった。化けものと言ってもいいな。恐るべき反射神経だったよ」

 

結局明久が与えたダメージは一撃、それも軽くだった。

 

「さて関東機関員よ。勇者のご高説に何を思ったかは知らんが、私の力を忘れたわけではあるまいな」

 

そういってベルロンドは手近なビルを溶かす。

その圧倒的な熱量に中の鉄筋すら溶ける。

局長も余りのことに震えている。

前局長はこんなものを作り出そうとしていたのか?

 

「さて勇者、臆したかね?」

 

「誰が?!」

 

果敢に勇者は突っ込み切りつける。

だが甲高い金属音が勇者の剣から出た。

 

「何?」

 

「その程度では貫けんぞ?」

 

「ち、光よゆ・・・・・」

 

「遅い」

 

その龍の腕の一撃によって勇者が吹き飛び壁に叩きつけられる。

さっきの明久より状態はひどそうだ。

 

「詠唱を唱えなければ魔導力も操れぬ人間が、こんなものが勇者だと?弱い、弱すぎる」

 

さっきの明久の時は様子見だったのだろう。

それにしてもあの戦果はすごいが。

 

「ぐぅ」

 

壁に叩きつけられた勇者は焦点の合わない眼をしている。

 

「長谷部君!!」

 

「動くな」

 

状況は悪化の一方だ。

 

「真琴すまねえ、ちょっとやばいかも」

 

「別れの挨拶はすんだか?」

 

そういってベルロンドはとどめを刺そうとする。

 

「なんだこの音は?」

 

何かの音に気づきベルロンドの動きが止まる。

それはどんどん近づいてくる。

エンジン音?

 

「私って奇跡とこ信じないタイプなんだけどね・・・・・・」

 

「どういうことだ局長?!」

 

局長に銃を突きつけた局員が言う。

 

そして壁の東京直通通路のハッチが潰され、車が突っ込んできた。

 

 

(コードエネミー)0のお出ましよ」

 

 

 

 

 

 




ちょっと勇者が弱い印象かな?

次回もお楽しみに。

あと感想待っています。

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