第二十話 副担任は社長
文月学園始業式の日 早朝
校門
「今日機関員がクーデターを起こした」
「・・・・・あいつらが?」
「お前と違い境遇のせいであそこにいた奴らだ。前線に出て命をかける奴らに対して政府は見向きもしなかったからな。不満が爆発した。が、その不満に付け込んでクーデターを先導したのはゼピルムだ」
「・・・・・しかし全員がというわけでは?」
「ああ。全員ではない。だが大半だ。クーデター反対派で動けるのはお前とおれと菊人だけだ」
「・・・・・・ほかのやつに封じられていると?」
「ああ。E4以下は全員あちらだ」
「・・・・・E2は?」
「拘束されているらしい」
「・・・・・・おれはどうすれば?」
「指示を待てとのことだ。局長は、長谷部や吉井にも協力を要請したいらしい」
「・・・・・明久の力が必要とは、事態はそこまでと?」
「そういうことだ」
「・・・・・・分かった」
「やばい!やばい!遅刻するー!」
春休み前にいろいろありそのまま春休に突入したりといろいろあった少年吉井明久は疾走していた。
現在時刻は八時十五分。
そして朝のホームルームは八時二十分からだ。
つまり遅刻寸前だった。
くそ、吾川さんだったら間に合うのに・・・・・
などと不穏なことを考えながら明久は何とか間に合った。
しかし校門を入るときに呼び止められた。
「吉井どこに行こうとしている!」
「あっ、鉄じ・・・西村先生」
「吉井、今鉄人と言おうとしただろう」
「いえ、そんな・・・・・」
「そんなあだ名で教師を呼ぶようなことはするなよ」
「はい・・・・」
どうもあだ名で呼ぶ癖は治らない。
「それでなんで呼び止めたんですか?」
「クラス結果を渡すためにきまってるだろ」
そうだった。この学校試験召喚システムの試験校なだけに妙なところがいろいろとあるのだ。
個別にクラス分けの結果を渡すのもその一環である。
「でも結果なんてわかってるのに」
「まあお前と吾川・・いや、名護屋河の場合はな」
そう、吾川さんは母親の名字になり今は名護屋河を名乗っている。
テレビに名が出ていたのでいろいろカッコには質問攻めにされたらしい。
「名護屋河がらみでいろいろ大変だったそうだな」
「ええ、まあ」
どうもあが、名護屋河さんと一緒にいなくなったことから知っているらしい。
「まあ、これからもいろいろあるだろうががんばれ」
「はい」
鉄人と会話した後、教室にまっすぐ向かった。
しかし、
「これは教室じゃないでしょ・・・・・・」
見るからに朽ち果てたといった感じの一室が見えた。
みーこさんが破壊した教会の聖堂もひどいものだが、これはもっとひどかった。
とりあえず入ることにした。
「ギリギリだぞカッ・・・・・・なんだ明久か」
「ひどい言い草だよ!!」
「気にするな。カッコが来ていないんでな。勘違いした」
「へー、珍しいね。ってか、雄二が何でそんなところに!?」
そこにいたのは僕の悪友、坂本雄二。赤髪のがっしりした体つきの男がそこにいた。
春休みにリップルラップルを初めて見た時、僕を犯罪者呼ばわりしてくれた男だ。
しかしなぜかその悪友が教卓の前にいた。
「何せ俺が代表だからな」
「ふーん。それでカッコがいないってのは?」
どうでもいいことを聞き流し、大事な友人について尋ねる。
「まだ来ていなくてな。お前はどうせ遅刻だと思ったんだよ」
「そんな言い方ないでしょ!」
「大体お前よくカッコがFクラスだと知っていたな」
「本人が言ってたけど?」
「そうかよ」
「席につかんか。バカ者ども」
言われて後ろを見ると鉄人がいた。
「「何でここに鉄人が?」」
「西村先生だといっているだろう」
呆れながらも鉄人は言う。
それで僕らは席に着こうとした。。
「ところで雄二どこに座れば?」
「席は決まっていない。あいてる席にでも座れ」
「りょーかい」
もうそんなに残っていない席に座ると隣の席の人が話しかけてきた。
窓際に座れたのは幸運だった。
「吉井君、久しぶり」
「吾がW、名護屋河さんこそ」
隣にいたのは吾がW、じゃなくて名護屋河さんだった。
「春休みどうだった?」
いろいろ含んだ質問をされた。
「別に何ともなかったよ」
「そう」
何やら安心したみたいだ。
まあ、改造手術までされちゃね。
それにしてもぼろい教室だ。
頑丈な人間じゃなきゃ体を壊すんじゃないかな?
と、気付けば自己紹介が始まっていた。
「木下秀吉じゃ。部活は演劇部に所属しておる。一年間よろしく頼むぞい」
どうやら友達の秀吉の番だったみたいだ。
「うおおおお!美少女だ!」
「女神だあああ!」
「違う!わしは男じゃ!」
「「「「「「「「そんなあああああああ!!」」」」」」」
どうやらこのクラスはバカばっかり見たいだ。
でもその分この部屋でも体を壊さないだろう。
「・・・・・です。去年ドイツから来たので日本語は話せはしますが読み書きが苦手です。」
なんかどっかで聞いたような自己紹介だな?
「趣味は吉井明久を殴ることです」
「そんなこと言うのは誰だ!って、島田さん!?」
「ハローハロー。吉井」
去年のクラスメイトの島田さんがいた。
去年ちょっといろいろあった中なのだが、そのせいか僕に暴力を振ることに抵抗がなくなってしまったようで、よく殴られる。
今度鉄人に相談したほうがいいかも。
「おい土屋!次はお前の番だぞ」
「・・・・・・すみません」
また友達だ。
このクラスは友達ばっかなのだろうか。
まあ友達の声に反応して考え事をやめているだけなのだが。
「・・・・・・・・土屋康太」
なんだか別のことに気を取られてるみたいだ。
雄二や秀吉も気づいたのか怪訝な顔をしている。
「・・・・・・・・・以上」
いつもの康太らしくもない。
気もそぞろといった感じだ。
おっと、また気がそれている間に自己紹介が進んでいた。
もう真ん中あたりまで来ていた。
「姫路瑞希です。その、よろしくお願いします」
ふうん、姫路さんもいるのか。
・・・・・・・?!
確か姫路さんは学年トップクラスの学力があったはずだけど。
「質問です。なんでここにいるんですか?」
取りようによっては失礼な質問をする者がいる。
「その、テストの日に熱が出ちゃって」
「そういえば、俺も熱(の問題)が出てFクラスに」
「ああ、化学だろあれは難しかった」
「弟がインフルエンザで心配で」
「黙れ一人っ子」
「前日彼女が寝かせてくれなくて」
「「「「「今年一番のウソをありがとう」」」」」
バカがバカな発言をしまくってる。
めちゃくちゃカオスだ。
「私語は慎まんか」
鉄人の一括が入った。
しかしこれで窓際の席がなぜ空いているのかわかった。
姫路さんが真ん中に座ったためなるべくその席の近くに座ろうとしたのだろう。
その後、自己紹介は滞りなく進んでいった。
しかし僕の隣の席の人が問題だった。
「えっと、名護屋河鈴蘭です。実母が見つかって苗字が変わりましたがよろしくお願いします。」
吾が、名護屋河さんはテレビでフェリオール司教が名前を出したのに大丈夫なのだろうか?
まあ、そんな心配はなかった。
こいつらはフェリオール司教が女子高生騒がれるので気に入らないって程度なんだろう。
が、姫路さんはなんか引っかかったようだ。
大丈夫だと信じたい。
そんな風に考えていると僕の番になっていた。
「えっと、吉井明久です。趣味はゲームです。振り分け試験は事情で受けられなくってこのクラスに来ました」
よしっ。これでバカとは思われないはず。
「何言ってんだ。お前は受けてもFクラスだろ」
「いきなりばらすなあああああ!」
「事実だろうが!」
「私語は慎めと言っている」
ごんっと机を鉄人が叩いたため崩壊した。
鉄人がすごいのか机がもろすぎるのかどっちだろう?
「ここまでもろいとは・・・・・・・替えを取ってくる。少し待ってくれ」
その間雄二に話しかけることにした。
「ねえねえ雄二、ちょっと話があるんだけど」
「試招戦争のことか?」
「さすがにこの設備じゃ勉強に支障をきたすでしょ?」
「お前は勉強のことなど気にしないだろ。一体誰のためなんだ?」
いやな笑いを浮かべて聞いてくる。
「まあ隠すこともないし、さすがにこの設備じゃ姫路さんあたりが体を壊すでしょ?」
「ほう意外だな。カッコのためとか、名護屋河のためとかいうのかと思ったが?」
「いやカッコってなんか大丈夫そうだし」
「確かに、まあそんな感じはするな。名古屋河は?」
「あ・・・・・・。忘れてた」
改造されてるから大丈夫とか言えない。
「ひどいこと言うなよ。お隣さんが聞いてるぞ」
「えっ」
横を見ると吾川、名護屋河さんが私なんて・・とか言っていた。
「まあ、試招戦争は始めるさ、今日からな」
その後鉄人が戻ってきた。
「最後に代表の坂本、前に来てやってくれ。この後全校集会だから手短に済ませてくれ」
「今言われた通り代表の坂本だ。さてみんな、ここで尋ねたいことがある」
そういって雄二は設備を指し示す。
ひび割れた窓や綿のあまり入っていない座布団、ちゃぶ台を。
「Aクラスの設備は見たと思う」
あれ?見てないや。
どんなんだろう?
「不満はないか?」
「「「「「「「「大有りじゃーーーーーー!!」」」」」」」
二年Fクラス魂の叫びだった。
「そうだろう。そこで俺たちFクラスはAクラスに支障戦争を仕掛けようと思う」
雄二の言葉に一同騒然となる。
「無理だろ!」
「これ以上設備が下がるのはいやだー」
「姫路さんがいれば何もいらない」
誰だろう?姫路さんにラブコールを送っているバカは?
「大丈夫だ。このクラスにはAクラスに勝てる要素がそろっている」
「「「ええー?」」」
「まずは姫路瑞希だ」
「ふぇ?!」
「姫路の実力は皆も知る通りだ。うちの主戦力となるだろう」
「確かに姫路さんなら」
「姫路さん結婚してくださーい」
またバカがいる。
「それに康太こっちにこい」
言われた康太は、無反応だった。
「おい!康太」
声を大きくされてようやく気付いたようだ。
「・・・・・・なんだ?」
「ムッツリーニという通り名は知っているだろう?それがこいつだ」
「なんだと?!」
「あの寡黙なるせ性職者がこの男なのか」
ぶんぶんと首を振って否定するも誰も気にしていない。
「それに木下秀吉がいる」
「確かAクラスの木下優子の双子の・・・・・・妹!!」
「弟じゃ!!」
秀吉の叫びもスルーされている。
「それにこのおれも・・・・・」
「時間だ坂本。校庭に移動だ」
しかしいいところで雄二の話は腰を折られた。
ところ変わって校庭。
鈴蘭は眠たくなりそうな教頭の竹原の話を聞き流しながらぼうっとしていた。
ここ最近は平和そのもの。
第三世界とのかかわりもない。
「続いて今年度からの新任の教師の方を紹介します」
一体どんな先生が来るのかな?
ようやく話を聞き始めた。
「・・・・・続いて二年の美術を担当する。文科省に推薦されてこられました。非常勤の伊織貴瀬先生です」
?!
なんだか耳にするはずのない名前を聞いた気がする。
しかし壇上の姿は明らかにあの男。
「ええ紹介にあづかりました伊織です・・・・・・・」
この声も間違いない。
そんな、平穏な日常は・・・・
「ちなみに二年Fクラスの副担任も務めています」
なんだか絶望的な情報が増えていく。
「この場を借りて連絡させていただきますが、二年Fクラス名護屋河さんこの後美術準備室に来るように」
もうなんだろこれ・・・・・・・・・
「先生ー、名古屋河さんが倒れましたー!」
キャラ紹介を近々更新する予定です。
次回もお楽しみに