「というわけだ、鈴蘭」
「いやいや全然わかりませんよ、ご主人様」
鈴蘭には自殺を図ったが何の意味もなくて気が付いたら傷一つなかったというわけのわからない状況だった。
傷がなくなったのは魔王の力らしいのだが確か奪われたはずである。
現在翔希は教会の関係者に治療されている。
明久はリップルラップルが治療したらしい。
今は妙なことをやっている。
「吉井君は何やってるんですか?」
何やらはああーとか唸っている。
「明久はよく分からないことになっていてな」
「雷出したんですよね?」
「ああ、それもとんでもない高出力でな。ランディルを圧倒していた」
「出ないんですか?」
「ああ、これっぽっちも出ない。マジカライズインジゲーターにすら反応しない」
「魔法じゃないんですか?」
「フェリオールは明らかに魔力を感じたと言っていた」
「それなのに魔力がないんですか?」
「不自然だろう?」
(全く、ほんとにあいつだけは最初から訳が分からん。リップルラップルはこれを予見していたのか?)
そんなことを話していると、リップルラップルが頭を木製バットでたたき明久を連れて行った。
「そういえばリップルラップルは何してるんですか?」
「何故か、後片付けの現場監督をしているぞ」
見れば確かにリップルラップルが聖騎士を指揮している。
ここをこんな風にしたらしいみーこさんは今は宙に浮いて寝ている。
そこにフェリオールがやってきた。
「ご苦労様でしたね、貴瀬」
「ふん。僕たちはどうしようもない道化を演じただけだろ。それと約束は守ってもらうぞ」
「ええ。ちゃんと東京から撤退しますよ。しかし油断しないことです。あいた枢機卿の座にはいずれ私が付きます。その時に闇はすべて滅します」
「ふんっ、やってみろ」
そういうお互いの目は笑っていない。
そしてフェリオールはこの人たちそういえば幼馴染だったっけと考えている鈴蘭のほうに向いた。
「鈴蘭さん、このたびはほんとにご迷惑をおかけしました」
「あ、いえ」
頭を下げるフェリオールに鈴蘭は戸惑う。
さっきの貴瀬との会話とは違い柔和に笑っている。
「今回は力及ばず闇の力を借りることになりましたが、あなたがあの魔人の心をも動かしたおかげです」
「これも計算づくですか?」
「いえ、人の心は無限大です。計算などで測れるものではありませんよ」
神殿教会はこれ以降は表舞台には出てこず、第三世界の闇に潜むのだろう。
「何かあれば、翔希さんを通じてお知らせください。最優先でご協力しますよ」
「えっと・・・・・ありがとうございます」
「では」
そういってフェリオールは去っていった。
「鈴蘭、こちらも帰るぞ。みーこを引っ張ってこい」
伊織が言う。
「あのみーこさん寝てるんですけど・・・?」
「あの状態のみーこは滑る。おーい、明久帰ってこい!!」
「はいはい」「はーい」
「やれやれ、世界の危機だったというのにうちの連中は」
リップルラップルを負ぶってくる明久とみーこを引っ張ってくる鈴蘭を見てつぶやく。
「さて、鈴蘭」
屋敷に戻ってきた伊織が唐突に切り出した。
「例の一件は片付いた。ということで、君は内に要らないというわけだ」
「ハァ」
「というわけでクビだ」
「えっ!?」
「世俗に帰れ」
また捨てられた、そう鈴蘭は思う。
恨みはしないが悲しく思う。
「退職金代わりと言ってはなんだが君の母親を見つけておいた。」
「へ?」
そういわれて前を見るとそこにどこかで見たような顔の三十歳ぐらいの女性がいた。
「そっくりだな」
「おかあ・・・さん?」
うなずく女性に鈴蘭は抱きつく。
そのまま泣きじゃくっている。
そこに伊織が声をかける。
「君の母親は先代の名護屋河だったが、君が神殺しの血に縛られるのを恐れて捨てたそうだ。そんなことは君を苦しませただけだったが」
更に伊織は続ける。
「いいか。鈴蘭進むべき道から逃げればそこには魔がさす。君の母や僕がいい例だ。しかしあのクソガキのようにあきらめず、進めば道は続いている。」
「はい!」
「僕は悪だ。悪は決して勝てない。だから僕は逃げ続ける。」
「聖女のような君は悪の組織には要らん」
「はい!・・・・・・・あれ吉井君は?」
「あいつはいろいろ本人もわかっていない謎が多い。しばらくは内に所属させ続けるさ」
鈴蘭が去ってから、
「明久、飯の支度をしてくれ」
「はい」
言われて明久は食事を作りに行く。
「それにしても鈴蘭はなかなか惜しくはあったな」
「よくなじんでいたの」
「ああ、明久に比べると劣るが、よく適応していた」
コクコクとリップルラップルがうなずく。
「まあ、明久は謎が多いがな」
「・・・・・」
「何か知ってるのか?」
「別に隠しているようなことなどないの」
「そうか・・・・・・しかし鈴蘭は惜しかった」
「悪の組織なの。嘘八百は当然なの」
ポンッとそれを聞いた伊織は手を打つ。
まだまだ鈴蘭の受難は続きそうである。