バカと魔王と澱の神   作:アマガキ

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過去最高の長さです。


第十八話 天の門

現在、明久たちは交通渋滞に巻き込まれていた。

 

「くそっ、一般人ども」

 

協会が神が下りると大々的に宣伝したため、それを見ようと野次馬が集まってしまっていた。

 

「これじゃつけませんよ」

 

明久たちがぼやいていると何やら神殿のほうからシスターが一人走ってきた。

そのシスター人を押しのけながらやってくる。

邪魔をした人間がいたようだが何やらぼこぼこにしている。

ひとしきりぼこぼこにした後こちらに来たそのシスターはどこかで見たことがあった。

というかクラリカだった。

 

「クラリカなんでここに!?ほんとにグルだったのか!?」

 

「はいはい、そうっすよ。必要悪ってやつっすよ。それよりまずいっすよ!すでに儀式が始まっているっす」

 

「何!?儀式はまだあとじゃないのか!?」

 

「それが鈴蘭さんが薬を飲まされたっすよ」

 

「そういうことか」

 

状況は悪化したようだ。

 

「おいイカレシスター、あの衝撃波でここのやつらを押しのけれるか?」

 

「斥波っすか?」

 

斥波とは古くに協会が定めた魔法の七大系統火水風土雷光闇から外れる近代魔法。

物を押しのける衝撃波を放つ魔法である。

 

「わかりました。それでいくっすよ」

 

そういって車の上に飛び乗った。

 

「待てよ、伊織。さっきはああいったけど枢機卿クラスがいるとこに明久連れて行って大丈夫なのか?あの沙穂って子もいないんだし」

 

沙穂の刀を翔希が追ってしまったため、沙穂はドクターと一緒に留守番をしている。

 

「問題ないとリップルラップルは言っていた」

 

「でも・・・・」

 

「この子はお前よりも頭がずっといい。だから考えるだけ無駄だ」

 

「そうかよ・・・・」

 

「それじゃいくっすよー」

 

翔希に構わずクラリカが声をかける。

 

(あれ?斥波ってものを吹き飛ばすんだから・・・・)

 

「ちょっとま・・・・」

 

翔希も気づき声を上げかけたが。

 

「斥!」

 

目の前の車をクラリカの魔法で排除しながら伊織たちの車は進んでいった。

相手の車に相応の被害があったことをここに追記しておく。

 

 

 

 

鈴蘭は大聖堂で幾百人の信徒にひざまずかれていた。

 

(いい気分)

 

厳粛な趣のフェリオールに手を引かれ鈴蘭は白髪、白眉、しら髭の老人の前に立った。

この人こそが枢機卿ランディル・ディー

神殿教会に四人しかいない枢機卿の一人。

 

「さあ。聖女様」

 

そういってフェリオールは促すが、彼の表情にわずかに焦燥が見える。

しかし薬品によってトランス状態の今の鈴蘭にはわからない。

そしてフェリオールが立ち去ろうとしたときにランディルが言葉を発した。

 

「子のもっとも喜ばしい日に、皆に伝えねばならんことがある」

 

突然のことにその場にいた一同が戸惑う。

 

「この中に光に背き、教えを捨てた背信者がいる」

 

「その者の名はフェリオール・アズハ・シュレズフェル」

 

枢機卿のみが直轄する特異な鎧を着た騎士・大強者がフェリオールに剣を突き付けていた。

群衆は審議を見極めるかのようにざわめいている。

 

「皆の者よ。これから主が下りることで、この悪は消滅するだろう。しかと目に焼き付けておくのだ」

 

そういってから鈴蘭を見る。

 

「さあ、聖女よ。祈るのだ」

 

「はい」

 

ぼうっとした鈴蘭は言われるがままに祈る。

神が下りるように祈る。

神が下りる様を想像する。

 

(まずは空がパーッと裂けて・・・)

 

その祈りに反応するかのように空のヘブンズゲートが光り輝く。

 

「扉は開かれた。主は今こそ・・・」

 

その言葉を遮るように聖堂の扉が破られる。

 

「光よ、導け!ライトニングレイ!」

 

司教階級以上か勇者のみにしか使用・習得が許されていない光輝系魔法。

それが扉を破壊した。

 

「神聖な儀式を邪魔するのはいったい何者だ」

 

「俺は勇者しょ・・・・・」

 

「「悪の組織だ!!」」

 

翔希を蹴り飛ばし伊織と明久が名乗った。

 

 

 

 

 

「・・・・・遅かったですね貴瀬」

 

身動き取れないままにフェリオールが言う。

 

「貴様の犬が案外使えなかったのでな」

 

そういってつかんでいたクラリカを地面に落とす。

「ども」

そういってクラリカは意識を失った。

 

「ふん。悪のやからと手を組みおって。そこまで堕ちたかフェリオール」

 

「より大きな悪を倒すために子悪党を利用しているだけですよ。不老不死に魅せられてゼピルムの言いなりになった。背信者はあなたです」

 

「痴れ者が」

 

ランディルが杖を向けると衝撃波が起こり、大強者ごとフェリオールを吹き飛ばす。

壁にぶち当たったフェリオールは血を吐きながら叫ぶ。

 

「師よ!あなたはどこまで私を失望させるのですか?!預言者様はすべてを見ていらっしゃいます。あなたの心のうちすらも!」

 

あまりの光景に信徒たちはあわててこの場を離れ始めた。

それを明久が誘導する。

 

「愚かな」

 

そういってランディルは杖を掲げる。

するとそれに従うように鈴蘭も天を仰ぎ祈る。

するとそこに光が降り注ぎ始めた。

光はランディルと鈴蘭を焦点とするように降り注いだ。

 

「今だ!クソガキ」

 

伊織の声に呼応して蹴られた後ずっと伏せていた翔希が走り出す。

そしてあっという間に距離を詰め、鈴蘭を抱きすくめすばやく光の中から飛出した。

 

「吾川!」

 

「・・・・長谷部先輩?」

 

翔希の叫びに鈴蘭は正気を取り戻したらしい。

だが油断はできない。

まだ終わっていないのだから。

 

「おのれ小僧!!」

 

正気に注意が向いたランディルに無数の銃弾が襲い掛かる。

伊織が小型機関銃を打ちまくっていた。

銃弾にさらされ続けたランディルはやがて地に伏した。

 

「お・・・のれ・・・・聖騎士はいったい何を・・・・」

 

「私の部下には何があっても立ち入るなと言ってあります」

 

「闇の世界で雷神といわれた男だ。まだ死なんはずだよな?もう終わりにしろ、枢機卿」

 

「くっ・・・・聖女!!」

 

 

翔希は自分がナイフを刺されたことに気付いた。

 

「ぐっ・・・・吾川・・・・」

 

「・・・・・・ゲートを全開放します。主が降臨します」

 

血塗られた探検を持った鈴蘭が静かにつぶやく。

直後ヘブンズゲートから光がはなたれ降り注いだ。

光がなくなったとき、聖堂の天蓋はなくなっており月しか見えない夜空が広がっていた。

そして聖堂内で傷の消えたランディルの体は淡く光っていた。

 

「見よ。神はここに下りた」

 

 

 

 

「くそじじいがあああああ」

 

伊織が機関銃を乱射するもその弾丸はランディルの前に空中で止まる。

魔導障壁。

ただの物理運動はそれにより大幅にそがれる。

ましてや邪心の力を得たランディルという実力者にかかればその魔導障壁の力もすさまじくなる。

 

「失せよ、悪」

「がはっ?!」

 

ランディルが錫杖を向けると伊織は雷に打たれて、ぼろ雑巾のように吹っ飛んだ。

 

「社長?!」

 

避難誘導を終えた明久がナイフを投擲するもすべて空中で止められる。

そして明久にも雷が襲い掛かりその手からワイヤーを弾き飛ばした。

 

「うわっ」

 

明久も伊織同様に吹っ飛んだ。

ナイフで刺されていた翔希もその場に崩れ落ちた。

 

 

 

われに返った鈴蘭はまず悲鳴を上げた。

 

「先輩!ご主人様や吉井君も・・・・・・」

 

「大丈夫だ・・・・俺は平気だ吾川・・・・」

 

言葉とは裏腹に相当辛そうである。

そしてランディルが近づいてきた。

 

「何をしている聖女よ。さあ力をささげよ。われはまだ完全ではないぞ」

 

「あなたは・・・・」

 

「さあ、神に力をささげよ。汝を苦しめた一切合財に神罰をくれてやろう」

 

そしてランディルの目を見た瞬間鈴蘭の心に暗い感情が渦巻き始める。

 

「見よ。この者たちもお前を利用していたにすぎん」

 

鈴蘭の頭に伊織やクラリカ、フェリオールの視点でこの件が進行しているさまが伝えられる。

 

「みんなが私を・・・・」

 

「そうだ。聖女よ・・・」

 

「そう・・・ダマしたんですよね、ご主人様も・・・」

 

「・・・・そうだな。否定はせん」

 

しかし伊織はさらに言葉を続ける。

 

「だが信じたのは君だ」

 

「・・・・ご主人様・・・・」

 

そうだ。

いつの間にか何も信じられなくなっていた。

そんな自分が嫌で自分が信じられなくなった。

だけど伊織と会ってからは少し違った。

何もかもむちゃくちゃで信じられないようなことばかりだったが、信じるしかなかった。

そんなことは意図してなかったんだろうけど、信じることができた。

伊織やクラリカ、フェリオールは画策もしただろう。

でもそれは自分を信じてくれたからだ。

長谷部先輩や吉井君に至っては純粋に自分のために動いてくれていた。

みんな生きるって決めた私を信じてくれた。

だからそれに応えなきゃ。

 

「神である私には見える。汝を苦しめたすべてが。さああのような愚者は一掃し新しい世界を作るのだ」

 

「・・・・・」

 

しかし鈴蘭は差しのべられた手を無視する。

 

「さっきあなたの心も一緒に見えました」

 

含みを持たせた間を作り鈴蘭はネタ晴らしをする。

 

「ヘブンズゲートなんて嘘っぱちだったんですね」

 

フェリオールと伊織があまりのことにぽかんと口をあけている。

ちょっといい気分だ。

 

「神も神を下す聖女もいないんだ。あなたが神になったように見せかけるための演出。ゼピルムにそうするよう指示されていただけ。ほしいのは私の魔王の力なんだ」

 

「・・・・・それでどうした小娘が。操られなければ魔導力も操れんくせに」

 

「やっぱりだましてたんですね」

 

「・・・・・・やっぱりみんな騙すんだ。」

 

「・・・・・・・でもそれを信じた私がいました。それにだました今までの両親がいなければ私は今ここにいないんだ。」

 

「・・・・だから私はみんなに感謝します」

 

「それがどうしたのだというのだ?」

 

「だから私はみんなを守るためにやるべきことをします」

 

そういって翔希を刺したナイフを拾い上げる。

 

「そんなちっぽけなナイフで戦うつもりか」

 

「いいえ」

 

そういって鈴蘭はナイフを首にあてがう。

 

「あなたには何もあげない」

 

喉笛を掻き切った。

少女はみんなを守るために自害した。

最後に見せた表情は美しい笑顔だった。

鈴蘭の意識はゆっくりと無くなっていった。

 

 

 

しかしそこで邪魔が入った。

 

 

 

ランディルの手が鈴蘭に刺さっていた。

 

「ふんっ抵抗もしないとわな。おかげで簡単に手に入った。無駄死にだったな」

 

 

「ちっくしょおおおおおおおお」

 

 

 

 

 

 

「完璧だ。すべてが見える。すべてがわかる。これが魔王の、いや神の力か」

 

「裁きの雷、主の導きにより闇を滅せよ、サンダラーズ・レイン」

 

フェリオールが放ったのは電雷系魔法最上位の魔法。

師であるランディルに習ったもの故どこまで通用するかはわからないものだ。

大気中の魔動力子に働きかけ、白雷の渦を巻き起こした。

そして雷が収まると同時に翔希が仕掛ける。

 

「光よ、勇者の名のもとに集え」

 

ランディルに剣を突き立て怒りに燃える勇者が叫ぶ。

 

「ライトニング・エクスプロージョン」

 

自らの足場をも巻き込まんとする光の爆発がランディルを襲った。

この連携ではさすがに片が付いたと二人は気を抜いてしまった。

フェリオールなど師のあっけない最後にむなしさをおぼえもした。

が、そんな簡単にことが終わるわけはなかった。

 

雷電がほとばしり翔希とフェリオールは地に伏した。

更にランディルは後ろにも雷撃を放つ。

見た感じ雷電魔法最下級のサンダラーズ・アロウのようだが魔王の力で放たれているため威力は絶大だ。

 

「があっ」

 

明久が武器を取ろうとしたようだがそこを狙われたらしい。

 

「ちょこまかと動きおって」

 

そういって明久をにらむ。

 

「神に従わぬ者の末路を見せてやる」

 

そういって明久に杖を向ける。

 

しかし明久とランディルの間に入るものがいた。

 

「ノエシスプログラムは局地的に状況DからCに移行したの」

 

「邪魔をする気か?」

 

「明久を殺されるのは困るの」

 

「立場が分からぬようだな」

 

そういってさっきとは比べ物にならないほどの雷がリップルラップルに放たれる。

 

明久はこの状況に無理やり体を動かしてリップルラップルの前に立った。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおお」

 

 

 

 

雷は雷によって相殺された。

しかし雷を放ったのはフェリオールではない。

リップルラップルでも翔希でもない。

雷は明久から発せられていた。

 

「なんだそれは?!」

 

ランディルも驚愕の声を上げる。

当然だ。

自分が策を練ってまで手にした力を少し前まで一般人だったものに相殺されたのだから。

明久の体からはいまだ電気が発生している。

 

「はあ・・・・・なにこれは?」

 

「なかなかのものなの」

 

息も絶え絶えだが状況を認識したようだ。

雷をランディルは再び放つが、また明久が放電することによって相殺する。

 

「いける・・・・これなら」

 

明久がランディルに向かって進み始める。

 

「なんなんだ貴様は?!」

 

正直この場にわかっている人間はいないだろう。

 

いつの間にか距離を詰めていた明久は先ほどのランディルの雷よりも強力な雷をまとった拳を構える。

 

「これで・・・・・終わり・・・・」

 

「おのれ・・・・」

 

しかし当たる直前で雷は消えてしまった。

 

「え・・・・・」

 

隙アリとばかりにランディルは明久に雷を当て吹き飛ばす。

さらに執拗に雷をたたきつける。

 

「貴様のような手におえんものには消えてもらう」

 

恐慌状態に陥った、ランディルは容赦なく明久を痛めつける。

 

「目障りだ」

 

そういって矛先をリップルラップルにもむける。

そしてポーンとリップルラップルも吹き飛んで行った。

 

「やめなさい!」

 

その時割って入ったのはみーこだった。

 

「どうしてこんなことをするの!鈴蘭ちゃんも平和を願っていたじゃない!」

 

しかしランディルにはそんな言葉は届かない。

ただ品定めるように見つめて、冷静さを取り戻しただけだった。

 

「フム、驚いたな。億千万の口か・・・・」

 

「え・・・・あ、あ・・・・・・」

 

その言葉を聞いた瞬間にみーこの様子が激変する。

 

「ああ、あ・・・・・」

 

何かにおびえるように。

何かから逃げたいかのように。

 

「やれ、みーこ。伊織の当代として命じる」

 

その言葉を聞いた途端震えが止まる。

そして目が危険な色に輝き始めた。

 

「ヨワイモノイジメナンテ大っ嫌い」

 

 

 

 

 

 

 

ランディルは唖然としていた。

目の前の何もないところから巨大なワームのようなものが四匹現れたのだ。

 

「なんですかあれは?ワーム?」

 

「野槌だ」

 

フェリオールの疑問に伊織が答えた。

 

「貴様に日本の妖怪といってもわからんだろう。そういうものだと思え」

 

「そうですか」

 

「これがカミを持ってカミを落とす邪流のやり方だ」

 

ランディルは雷撃で一匹を打ち滅ぼしてからは、倒せると分かったからか冷静に対処し始めた。

 

「しかしこの後は僕らに来るだろう。覚悟はしておけ」

 

そうこう話してるうちにランディルは最後の野槌を倒していた。

 

「これで終わりか億千万の口・・・・」

 

「終わり?何を言っているの第四世界のつぶしあいはここからでしょう?マラー、アヌビス、斉天大聖、トラソルテオトル、ベルゼべブ・・・・・ほんとに懐かしい」

 

言いながら再び野槌を出す。

今回は次から次に増え続ける。

それを見てランディルの心が折れた。

 

「私は完全になったはず・・・・」

 

「そんな鈴蘭ちゃんの力の一部で?」

 

その言葉に伊織とフェリオールは絶句する。

 

「ならば完全に取り込むまで!勇者もつれていく。それにあの男の報告もすればゼピルムは受け入れてくれる。」

 

そういって翔希と鈴蘭をつかんで消えた。

 

「くそ!隔離世か!沙穂がいれば見通せるんだが・・・・」

 

隔離世、俗に幽霊が住むといわれる第零深度の平行世界に飛ばれたのだ。

 

「これでは仕方あ・・・・・・」

 

「ヨワイモノイジメは大っ嫌い」

 

野槌が何かを探すように動いている。

そして止まった。

 

「やめろみーこ!」

 

空間にひびが入る。

 

「無理無茶無謀は・・・・・大好き!」

 

衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

伊織が目をあけると巨大な魔導障壁が一帯を覆っていた。

 

「リップルラップルか・・・・・」

 

そのリップルラップルは明久の横にいた。

明久は気絶しているようだ。

みーこも浮いて寝ている。

 

「一件落着ですかね?」

 

フェリオールが言う。

見ると、翔希たちは優しい光に守られていた。

鈴蘭の顔はまるで聖女のようだ。

二人とも傷一つない。

ランディルは地に倒れ伏していた。

その腹を勇者の剣が貫いている。

 

「最後に決めたのはクソガキか。まるで勇者のような奴」

 

 




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次回 第十九話 春休み

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