船久保浩子はかく語りき   作:箱女

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 熊倉家に白望が泊まりにきて共に麻雀を打ってからの日々は、まさに特訓といって差支えのないようなものだった。ただひたすらに打ち続け、多くの局で苦杯を舐めた。それでも食らいつきつづけたのは、彼女たちと打っている間にちらちらと突破口のようなものが脳裏をかすめたような気がしたからだった。それはまだ言葉としても感覚としてもまったく体をなしていない、ただの予兆。何をどうすれば状況が変わるのかなど見当もつかないような小さな小さな可能性。それは勘違いでなにかの拍子に消えてしまえばいっそラクになれたのかもしれないが、そのちらちらと光る可能性は浩子の意識から消えることはなかった。

 

 百の対局をゆうに超えて、それでも可能性ははっきりとした姿を見せなかった。浩子にわかるようになったのは、豊音と白望のクセというにはあまりにも希薄な雰囲気のようなもの。健夜とトシの雰囲気は感じ取ることができなかったが、豊音と白望の二人ならばたとえそれが何巡目であっても聴牌の気配は手に取るようにわかるようになった。もちろんこれまでも河を見ながら聴牌が近い遠いの推測はしてきた。だがそれとは違う。何を見て判断しているのか、と聞かれてもそれは浩子には答えようのない事柄で、ただわかるのだ、としか言いようがない。それでもその成長は確かな利点となって浩子に返ってきた。豊音が先制リーチに対して仕掛けるときには同時に豊音も手が仕上がっていなければならず、聴牌が判断できるようになった浩子は豊音がいる場でもリーチをかけるタイミングを判断できるようになった。それについては健夜もトシも素直に驚いていた。白望も不思議そうな顔で浩子を見ていた。本人はそれだけでは納得のいかない様子だったが、これは後につながる大きな成長だと言えるものであった。

 

 そういった麻雀漬けの日々を過ごし、宮守女子へと通い始める日がやってきた。

 

 宮守女子高校への編入はひどくあっさりしたものだった。高校二年での転校生などまず見られないような珍しさのはずなのだが、どうしたことか二年二組の生徒たちはやたらと度量が広かった。浩子の性格は親しみやすいものではあるが、情報収集が趣味ということもあって嫌味ったらしさがないかと言われると疑問が残る。たしかに完璧な性格の人間などどこを探してもいるわけがないので、つまりその部分を含めて浩子は新たなクラスに受け入れられたのだった。あまり物怖じもせず、頭の回転が速いのも助けになったのだろう、日に日に浩子は友達を増やしていった。あれからもう一度だけ宮守の先輩と学校で集まって打つ機会もあり、学校ですれ違うたびにじゃれつくぐらいには仲を深めた。そうやって始業式から初めての金曜までを過ごし、金曜の放課後に新幹線へと飛び乗った。

 

 

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 二週間ぶりの地元大阪は、まだまだ暑かった。コンビニで買ったペットボトルのお茶を片手に、目に見えてうきうきしながら浩子は千里山女子への通学路を歩く。本人からすれば久しぶりに帰るべきところへ帰るのだから気分が高揚するのも仕方がない。たった二週間見なかっただけで、これまで当たり前に見ていた景色が妙に親しいものに見えてくる。やはり自分は大阪の、それも千里山女子に含まれているのだと強く確信する。もちろん他にも好きな場所はある。たとえば愛宕家の姉妹といっしょにいる空間もそうだし、宮守も時間こそ短いがもうすでに大事だと思い始めている。そういうすべてのもののなかで、浩子はこの千里山女子を特別だ、とそう思う。

 

 浩子の傍らには現在だれもいない。やたらと目の鋭い白髪の男もいなければ、ついついからかいたくなるような困り眉の女性もいない。一人で歩いている。赤木とは昨日の夜にともに大阪入りした。当然だが浩子は自宅に帰って明日に備えるつもりだったが、赤木の予定は聞いていなかった。そこで確認してみると、どうやら行くアテがあるらしかったのでそのまま駅で別れた。金曜の夜の駅は普段より雑多な匂いがして、人の営みを感じさせた。翌日が土曜ということもあって、昨日は酒を飲む人が多かったのだろう。

 

 昔と比べてセミの数が減った、と最近よく聞くような気がするが浩子はとくにそうは思わない。現にそこらじゅうの木や電柱やマンションの壁だとかにひっついてそれぞれ元気いっぱいに鳴いている。人の記憶は信頼の置きにくいもので、セミはうるさいというイメージから過去の情報を上書きしている可能性だってけっこうある。要するに道を歩いていて、変わらず夏の象徴はやかましいのだ。二週間ぶりの感慨にふけろうにも合間合間に音を差し挟まれればうまくいくはずもない。そういえば大阪に比べれば岩手はセミの数が少ないような気がする。あちらは大阪と比べれば涼しいからかもしれない。そんなことを思っているうちに校門が見えてくる。浩子はふと立ち止まって校門から先の景色をじっと眺める。理由のわからない安心感に包まれていることに気付いた浩子は驚いた。ペットボトルの中身はたぷたぷと揺れていた。

 

 校門をくぐると見知った顔が部活動に勤しんでいる。校庭で走り回るクラスメイトに手を振る。クラスメイトは一拍置いて気付き、浩子の方へと駆け寄ってくる。

 

 「おおお、浩子やん!どしたん?ウチのことが忘れられんで帰ってきたん?」

 

 「ちゃうわ」

 

 「……もうちょっと乗ってくれてもええと思うんやけどなぁ」

 

 「あとで構ったるからちょっと待っとき」

 

 「にしても留学レベルで遠征やって?名門の部長さんは大変やんな」

 

 「まあ私自身ようわかってないところあるけどな」

 

 「そんなもんなん?」

 

 「それより部活ええん?部員の子、さっきから呼んでるで」

 

 「おっと!じゃあ浩子、頑張りや。来年のインハイ期待してるで!」

 

 浩子は校舎の中へと入っていく。

 

 

 いくら九月に入ったとはいえ、校舎の中はまだまだ暑気が残っていた。外が暑かったのだから当然の話だが、日差しがカットされているのだからもう少し涼しくてもよさそうなものだと浩子はうんざりした気持ちになる。だが天気を呪ったところで何一つ解決されないのはわかっているので、エアコンのある部室へと心持ち急ぐことにした。二学期が始まっているので校舎内で活動している部活もいくつかあるようだ。先ほどから吹奏楽部のチューニングが遠くのほうから聞こえてくる。もう少し待てばパート別の練習か楽曲を合わせる練習が始まるだろう。そこにも仲のいい友達がいるため顔を出そうかとも思ったが、浩子自身麻雀部に早く行きたかったため止すことにした。

 

 いざ部室の前までやってきて浩子はどうしようと考える。普通に入ってよいものか、それともなにか面白い入場でもするべきか。さいわい部室の前に来るまでに麻雀部員とは誰とも会わなかった。むしろ誰かと会っていれば話をしながらそのまま入室することができただろう。ううむ、とうなる。いっそのこと監督のところに顔を出して一緒に部室に入るべきだろうか、というかそれが筋ではないだろうか、と考えていると真後ろからタックルを食らった。

 

 「船久保先輩!お久しぶりです!お元気でしたか!?」

 

 「……今の泉のタックルで急激に元気じゃなくなったわ」

 

 「そんな!あたりどころ悪かったですか!?」

 

 大げさに反応こそしてはいるものの顔は満面の笑みである。もう何一つ悪いことなどしていないと言わんばかりの弾けるスマイルだ。一年生にして千里山女子のレギュラーをつかみ取ったこの少女は、勝負となれば真剣で高校一年生とは思えないほど責任感が強いが、普段は底抜けに明るく気を遣えるかわいらしい女の子だ。それは浩子も認めざるを得ない。まだ年相応に精神的に若い部分も持ち合わせているが、それは時間が解決することで彼女 ――二条泉を損なうようなものではない。

 

 「泉、私がおらん間に問題とか起きんかった?」

 

 「とくにはなかったと思いますよ。監督もいましたし」

 

 なるほど、と頷きはしたもののそれはそれでどこか腑に落ちない部長・船久保浩子であった。

 

 

 そうして泉とともに部室へと入り、事情の説明や再会のあいさつなどを交わしていると愛宕雅枝が入ってきた。一見して様子は普段通りだったが、浩子にはどこか疲労の色が見えたような気がした。チーム再編の時期ではあるし、そんなときに自分もいないのだ。もし本当に監督が疲れているのならその原因のひとつは自分だよな、と浩子はちょっぴり責任を感じた。そんな浩子の思いとは関係なく、雅枝の振る舞いはいつも通りのものであった。二週間ぶりに姿を見せた浩子に対してもなんら特別な対応をすることなく、練習は練習として普段と変わることなく進められた。

 

 

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 違和感は、一局目ですぐにやってきた。()()()()()()。これまでも対戦相手が何かを仕掛けようとしているのは見抜いてきたし、調子がよければその方向性もつかむことができた。しかし今ははっきりと相手の捨牌からその道筋を説明できる。同卓しているのはまだレギュラーには届かないであろう実力ではあるが、三人ぶんの意図がすべて透けて見えるというのは明らかに異常な事態だった。これまで自分の相手をしてくれた人たちが異常だったのか、それとも自分自身になにか変化が起きたのか浩子にはわからない。原因もわからない。ただ一つ判明しているのは今のこの状況が夢でもなんでもない現実だということだけである。局後に確認してみると相手の意図は浩子に見えたとおりのものだった。

 

 異常事態は続く。対戦相手が変わっても見えることそのものに変化はない。意図が見える以上、そこを外せば浩子が振り込むことはありえなかったし、あるいは目論見を崩すことも手が揃えば簡単なことだった。いくらこれまで一緒に練習してきた仲間とはいえここまで考えが透けることなど経験がない。なにか特別なことをしたつもりもない。オカルト能力でも目覚めたかと考えるがそれはすぐさま否定する。赤木が、健夜がそうではない領域だと断言している。となれば自分に起きている事態は人間の範疇のことであって、自分の中のなにかが変わったのだと浩子は結論を出さざるを得ない。いきなりの変化に浩子は戸惑うが、一方で自分が求めたものの一片だとどこかで理解もしていた。

 

 すぐさま浩子は自分ができるようになったことに対するいくつかの仮説を立てる。それが発動する条件のようなものを仮定するのだ。鍵となるのは、岩手ではなくこの千里山女子でできるようになったこと。あるいは岩手に戻ったらできなくなっているかもしれないし、そうではないかもしれない。泉を相手にしてできるかもわからない。この千里山女子でできる限りのことをして、どの仮説を残すべきなのかを浩子は判断したかった。

 

 

 「船久保先輩、絶好調やないですか!」

 

 「んー、まあ今のところマイナスはないなぁ」

 

 休憩時間に泉が寄ってきて浩子に話しかける。浩子本人からすると絶好調というよりは、あるタイミングを境に自転車の乗り方を突然理解したような妙な感覚が強い。ただ自分の身に起こったことを泉に正直に話したところで何が変わるわけでもなく、それ以前に眉唾ものである。決して信じてもらえない、の謂いではない。先輩には未来予知をする人もいたくらいなのだ。対戦相手を捨牌含めよく見ていたら手牌や意図が透けるようになった、程度のことを受け入れるぐらいの度量は泉は持っているだろう。能力面の話ではなく、船久保浩子という選手が突然に開花したという事実が眉唾なのだ。浩子は自身を客観的に見て、インターハイレベルでは凡庸な選手であると自覚している。分析能力は並外れたものがあるが、それさえあれば麻雀は勝ち抜けられるというものでもない。そんな選手が手牌や意図を見透かすなどといった反則じみた力 (今のところ千里山の部員に対してのみではあるが) をたかが二週間の特訓で手にできるだろうか。多くの人は無理だと答えるだろうし、浩子自身がその多数派として無理だと言うだろう。だから浩子は実力的に部内でもっとも信頼できる泉にも話さないことにした。

 

 「それより泉は調子どうや?」

 

 「まあ調子がどうとか言うてられへん、って感じです」

 

 「はは、泉らしいわ」

 

 「言うて普段は今のところレギュラー私ひとりですからね」

 

 「堪忍な、泉。しばらく頼むわ」

 

 ぽんぽん、と泉の頭を軽くたたいて浩子は立ち上がる。

 

 「そのかわり、今日は思いっきり相手したるからな」

 

 浩子はこの時点で泉の手が透けるかどうかを判断材料のひとつにしようとしていた。実力があっても透けるのかそうでないのか。泉の実力は高校一年生ながらインターハイでも当たり前に通用するレベルである。相手としては申し分のないところだ。もし実力に関係なく透けるのであるのならば、赤木に、健夜に対抗できる可能性が生まれる。もちろん泉に通じてもその二人に通じない可能性はあるし、どちらかといえばそちらの可能性のほうが高いだろう。それでも試さないわけにはいかない。強くなるとはそういうことだ。

 

 

 果たしてその力は泉に通じるものであった。それどころかよりクリアに泉の思考が読めた気がした。手牌を切り出すタイミングでさえつかめそうな気がした。おそらく相手の実力に因らないところで自分の力は発揮されている、と浩子は実感をもって理解した。今のところ千里山女子の部員を相手にした場合、対戦した全員の手も意図も透けている。しかし部員全員がそれにあてはまるとも限らない。こういうときに例外の存在は極めて有力な手掛かりになる。そう考えた浩子は、できるだけ多くの部員と打てるように雅枝に取り計らってもらった。

 

 結果として部員に例外はいなかった。この空間でただ一人の例外は監督である愛宕雅枝だけだった。今の浩子にとって勝ち負けは問題ではなく、なぜ部員の手は透けて雅枝の手は透けないのか、これが問題だった。この問題を解決まで導けば、今のこの自分の事態に説明がつくと浩子は確信していた。だが答えを導くにはまだ確かめなければならないことがいくつかあって、それはこの千里山では確かめきれないことだった。余談ではあるが、この日浩子は雅枝以外には負けるどころか振り込むことさえなかった。二週間ぶりに帰ってきた新部長が並外れた戦績を残したことで、部員たちの浩子への信頼は跳ね上がった。

 

 

 部員全員と対局を済ませたところで、雅枝と話をするタイミングが訪れた。千里山ほどの名門ともなれば必然と入部してくる部員のレベルも高くなってくるため、監督やコーチが出張るまでもないシーンが多く見受けられる。基本的なものであれば先輩が後輩に指導をし、ある程度の発展的な内容でも二条泉をはじめとするレギュラークラスが対応できる。そういった部員同士のやりとりがさらに質を高める。雅枝は個人個人に合わせたアドバイスを中心とした指導をしている。かなりの数の部員をそうやって仕切れるあたり、雅枝の監督としての腕がわかるだろう。

 

 「なんや浩子、別人みたいなデキやんか」

 

 そう声をかけられ、浩子は一瞬のうちに監督には今の状態を話そうと決めた。解決を求めるのではなく、単に千里山女子の戦力として監督の耳に入れておくべきだと判断したからだ。

 

 「……実は今日、部員のみんなの手から意図から全部見えてるんです」

 

 二人の子持ちとは思えないほどに若さを保ったその顔にほんの短い間、険しい表情が浮かんだ。

 

 「ひょっとして何か仕込まれたんか?」

 

 「いえ、ずっと対局はしてもろてますけど、それだけです」

 

 雅枝の表情は今度は不思議そうなものに変わっている。雅枝からすれば赤木は浩子を連れていくと言っただけで場所の指定をしていない。つまり浩子がどんな環境にいるのか雅枝は知らないのだ。対局してもらう、という言葉から少なくとも赤木のほかにあと二人は人がいる環境にいることは容易に推測できるが、じゃあどこの誰だとなればとんと見当もつかない。

 

 「相手は誰や?」

 

 「ええと、健夜さんと宮守女子の豊音さんとシロさんです。あ、熊倉センセもやな」

 

 出てきた名前に声を洩らさなかっただけよく我慢したといっていいだろう。伝説級が二人も並んでいる。かたやプロ生活中無敗という人ならざる領域のど真ん中に住んでいる怪物。かたや日本の女子プロの歴史を語るのなら真っ先に名前の挙がる超人。それに浩子の出した宮守の二人も各校の監督やあるいはスカウトから注目を浴びていた存在だ。おそらくシロとは小瀬川白望のことだろう。雅枝自身、熊倉トシの作り上げたチームだということで注目していた。チームとしての完成度もさることながら、先に挙げた二人の存在感たるや雅枝をして山が反対でよかったと思わせるほどであった。あれでチームができてから一年も経っていないというのだから恐れ入る。勝負の綾もあって二回戦で姿を消したものの、だからこそその実力は計り知れないものがある。そんな相手と浩子は日々打っているという。しかし打つ相手が変わっただけで相手を見通す力がつくだろうか、と雅枝は疑問を捨てきれないでいた。

 

 「ところでおばちゃ、監督、疲れ溜まってません?」

 

 「なんや出しぬけに。いつも通りやろ」

 

 「いやなんかよく見てたらそんな感じしたんですけど」

 

 「“よく見てたら”?」

 

 「えっ、ええ、そうですけど……」

 

 「浩子、向こうで打ってる時に何に気ぃ使うとる?」

 

 「いきなりどうしたんです?」

 

 「ええから」

 

 「……よう見ることですかね。あの人たち相手やと些細な情報がすごい大きなるんで」

 

 聞いた瞬間に雅枝は赤木がどう鍛えるつもりなのかを理解した。それと同時に歯噛みもした。浩子の資質を理解していながら、自分には鍛え上げることができないというその事実が雅枝に重くのしかかる。たしかに()()はオカルト能力ではないし、ましてや魔物のように運の領域にはっきりと影響を及ぼすものではない。その意味で言えば浩子がいま持っている可能性はあくまで人間の領域のものである。だが、使いこなせる人間などそうはいない。赤木や健夜の手の内の一つなのだ。そもそもの原理は “よく見ること” に集約されているため、言葉にして伝えるのは極めて簡単な事柄ではある。だが、繰り返しになるが、使いこなせる人間はそうはいないのだ。

 

 「ちゅうことは浩子、私の手は透けてへんいうことやな?」

 

 「はぁ、監督ようわかりますね。全っ然読めませんでしたわ」

 

 浩子は感心したように雅枝を見ていた。たったあれだけの問答で自分にははっきりとは出せなかった答えを導いたのだ。やはりまだまだ実力者たちとの差は大きく開いているのだな、と表情には出すことなく思う。

 

 赤木と行動をともにしてからの日々は、濃密で実りの多いものであったが、それでもこの一日は浩子の成長にとってとりわけ重大な一日だった。自分の実力が明らかに向上 (あるいは変化というべきだろうか) していることを自覚できた。しかし現在の師二人が言うところによれば、浩子はまだスタート地点にすらたどり着いていない。その事実にめまいを覚えそうになるものの、成果が出ていることはまだ高校二年生である浩子の背中を押していた。

 

 

 久しぶりの千里山からの帰り道は、部員たちに囲まれてのものとなった。浩子はどうして自分の周りにこれだけの人がいるのかがわからない。そもそも自分自身そんなに人望があるタイプだとは思っていない。清水谷先輩や江口先輩とは器が違うのだ。それがやいのやいのと同級生に後輩に大人気なのだから何が何だかわからない。実際のところは本人が思っていた以上に慕われていて、久しぶりの再会に全員が我慢できなかっただけであるが、それは浩子の知るところではなかった。

 

 


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