ハリポタ転生もの   作:たか等

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いえーぃ主人公鬱ってるぅ!


いち

 

 

親愛なるピーターおじさん、お元気ですか。私はきっと元気です。

覚えていますか? 私たちが初めて出会ったあの日のことを。

私が学業に追われ続けるいつもの一日を終えて、ぶらぶらと散歩という日課を行なっていた時の話です。

一匹のネズミが私の目の前にいましたね。そのネズミはとても肥え太っていて、喧嘩でもしたのか、指が一本ありませんでした。

不思議な話ですが、そのネズミは私のほうをじっと見つめていました……きっとエサが欲しかったのでしょうね。

ちょうど私のポケットには家から送ってもらったキャンディチーズがあったわけですし、それをおいしそうに口にしているあなたを見て私も嬉しくなりました。

ほんと不思議ですよね。毎日、肌身離さずチーズを持ち歩いている女の子なんて私くらいでしょうし。

いえ、チーズを持って散歩していればネズミが釣れるかな? ……なんてそんなことを思ってたわけじゃありませんよ? はい。

周りの目も気にせずチーズにパクついていたあなたは、まるで久しぶりのご馳走に出会えたというように尻尾を振って喜んでいましたね。

もっとも、そんなあなたを見て、私もついつい絆されてしまったのでしょう。

おかげで毎日餌づ――おっと、あなたに餌をあげることが習慣になってしまいましたね。

……しかし奇妙なのは、どうしてあなたは最初、女子トイレの前にいたのでしょうか? 私にはそれが不思議でなりません。

もっともネズミが女子トイレにいてもおかしくはありませんけれど……やはり餌をあげる場所は少し変えるとしましょう。

 

 

ああ、それと一応ここで断っておきますけれど、私はネズミさんに餌をあげているだけであってなんら下心はありません。

毎日出会うネズミさんに心の中で『ピーターおじさん』という名前をつけている不思議ちゃんっていうだけの話です。はい。

 

たとえば。

『動物もどき』でネズミに変身したらその生態はどうなるんだろうな? ……性的対象も変わってしまう? とか。 

『動物もどき』では自身の骨格を変化させている? ……だとしたら尻尾切ったら仙骨もなくなっちゃうのかな? とか。

 

……そういうことを検証したいわけではありませんよ、はい。まったく体のいいモルモ――ごほごほ。

いえいえ、キャンディーに何も混ぜてませんよ? ほんとですよ? まあ……私が魔法薬学好きなのは事実ですけど。

 

 

 

 

 

 

この届くはずのない手紙――というか私の愚痴を書いている日記ですけど――を書いているとき、あなたはいったい何をしているのでしょうか?

私にはだいたい予想がつきます。今頃きっとあなたは元気にロナルド君のすね、もとい指でもかじって無聊をなぐさめているんでしょうね。

しかし、たとえ意図せぬ失せ物であったとしても間違ってはいけません。それは彼の指です。あなたのではありません。

きっとそのうち『指なんてちっちゃいことを悩んでいたなぁ』と実感できる日が来るでしょうから大丈夫です。もうバッサリといきますから、はい。

 

ネズミの『ピーターおじさん』。

そのうちきっといいことあると思うので、毎日臭いメシを食ってでも頑張って生きてくださいね。

ちゃんと餌づ――いえ、毎日チーズあげますから頑張ってください。そしてその……強く生きて下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ご挨拶はここまでとして私の現状を記すとしましょう。

早いもので、あの毎日がホリデイな帽子さんの晴れ舞台からもう三か月もの時が経ちました。メリーさんです。クリスマスです。

防衛術の先生なのにトロールさんをスル―したクィレル先生の迫真の演技も、獅子さん対蛇さんの試合で金の玉をごっくんした男の子も見物としては悪くはありませんでした。

私自身、クィディッチに欠片も興味がないわけなのですけれど、盛り上がってるなぁーという雰囲気でお腹一杯です。

もちろん我がレイブンクロー寮生にもいろいろと頑張ってほしいものなのですけれど、その……今年はきっと三位とかになるのでしょう。

我らレイヴンさんや某黄色い熊さんは地味なので仕方がありません……というか緑ぃ蛇さんも真っ青のあのご都合主義ゆえ仕方がないのです。

ダンブーの茶目っ気ともいいますか、蛇嫌いなのか蛇さんを煽りすぎですよね。といっても、あの上げて落とす手法は素晴らしいものだとは思いますけど。

 

あ、そうそう。クィディッチといえばかわいいと評判のシーカーさんも見ました! っていうか同じ寮生でお隣さんですけど。

そう、チャンかわいーさんです。黒髪かわいい系でした。そのうち美しくて冷たい系に進化するのでしょうか?

そこらへんは私にはわからないのですが、眼鏡っ子に人気なのも頷けます。前世の私でしたら惚れてしまうところです。

……そしてちなみに私は単に冷たい系です。誰も近寄って来ません、はは。

彼女とは出身地が近くって文化圏も似たようなものなので仲良くしたいなー、とか以前は思っていたのですが結局、声もかけられません。

前世で中国語なんてかすりもしませんでしたし話せるわけありません。

 

……いえ、問題はそこではありませんね。

というのも私にはそんな寄り道をする暇もなく、主に勉学が厳しすぎてわりとヤヴァい感じなのです。

そもそも私、今までの41年間を振り返っても英語圏に属したことなどありません。

そういうわけで、つまるところホグワーツは最初からハードモードだった、というわけです。

だいあーごーんでマグマグに買い物をまかせっきりで浮かれていた過去の私を殴りつけたいです。

リーディングはなんとかなるのですが、リスニングやライティングがひどいものです。

というかなぜ英語もできていないのにラテン系の言語を使用するであろう授業についていけると思っていたのでしょうか?

バカじゃないの私。できるわけないじゃん! 教科書読めても実技がほぼ詰んでるよ!!

ヒューヒョイ! じゃないよ! ばーかばーか! あああぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!

 

 

 

 

 

…………失礼しました。

まあ、ともかく基礎もできていない私の英語力で各授業の基礎を習いました。

きっと習ったようなものです。ええ、ひどいものです。付け焼刃に他なりません。

そしてそのため毎日が語学勉強と復習の日々です。クリスマスぐらいは家に帰ろうかとも思いましたがそんな暇はありませんでした。

というか今までずっと、授業に出て図書館に籠ってそれから帰って眠るだけの毎日でした。

将来のことを考えるとこんなところでウカウカしていられないと焦ってもいたのでしょう。

鬼気迫る様子で、書きにくい羽根ペンにイライラしながら羊皮紙をガリガリやってる私に話しかけてくるような奇特な人はいませんでした。

 

『将来の幸せのために今は捨てる』

 

……いえ、そんなカッコいい言葉はいりませんね。

悲しいですが、これはいわば『ぼっち』というものなのでしょう。寮生の間にすでに壁ができています。

そうです。何をとち狂ったか私はレイブンクロー所属なのです。基本的に勉強できないやつはありえない、そんな雰囲気です。

そもそも寮に入る際のなぞなぞすら難しいのです。答えがわかっても単語がわかりません。私の変換機能にはきっとバグがあるのでしょう。

そして、わからなかった場合は気まず過ぎてヤヴァいです。寮へ入る人、もしく出て行く人を待つしかありません。

気分はオートロックのマンションに忍びこむストーカーさんです。不審者です。眼を合わせられません。コミュニケーション能力の不足で普段から喋らないというのに。

もっとも、だからこそこんな、誰にも出さない手紙に愚痴を連ねているわけでもあります。ネズミに声をかけて餌をあげたりもするわけです。

正直、私もそんな様子を見たら引きます。声をかけようとは思いません。ヤンデレスメルが漂ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

あーもうやだ……死にたくないけど死にたい……必要の部屋、探しそっかな。

 

……はあ。

……ピーターおじさん、私どうすればいいのかな。

森小屋の一年目は厄介事だらけで近づきたくなかったけど、そろそろ私限界かもしれない。

 

……ピーター……私もう疲れたよ。

ノリスちゃんは近づいたら逃げちゃうし、ファングをもふもふしてこの嫌な現実から逃れたいよ。

森小屋でドラゴンさんと鉢合わせするのも悪くないかもなぁ……つぶらな瞳と見つめ合いたい。

 

……それかもういっそフラッフィーでもふもふして癒されてこよっかな、近いし。

確かあの子って歌でも歌っとけば大丈夫だった気がするし。

……まあその、 突入 (ゴール)しちゃってもいっかな……。

……………………。

………………。

…………はっ!

なに死亡フラグ立てちゃってんの私! 無理でしょ!

スネイポォも怪我してたじゃん! 我が輩さんも怪我してたじゃん!! そんなん私死んじゃう死んじゃう!!

 

 

 

 

 

 

はは。

……正直言って、自分はすべてを甘く見ていたようです。

そもそも私は先輩たるあなたを、本で読んだ際の第一印象から意識的にも無意識的にも下と捉えていました。

慢心です。

うぬぼれです。

阿呆でした。

 

『変身術の教師になるのも悪くないねー。というか校長になるための出世街道?

 ふふふ、もしかしたらもしかしたら私も将来校長の座を狙える? ふふふふふ……』

 

ええ、私はクズでした。

そもそも『動物もどき』以前に変身術がわけわかめでございます。

 

『バカいっちゃあいけないよ。

 動物もとい生命の神秘たる存在が指先一つで簡単に無機物に変わってたまるもんか。なにがなるようになる、だ。あーやだやだ』

 

あーやだやだ。

『そんなわけないじゃない』が口癖になり始めた今日この頃。

そして日本語だから、だれもが何言ってんだコイツ的な目線で見られる、やだやだ。

ありえない現実に直面して笑うしかなくなってる私不気味、やだやだ。

 

たぶん固定観念なのでしょうけれども恐ろしいものです。

ケセラセラが信じられません。そして私の頭は固いのです。

あれです。

魔法薬学とか薬草学とか、もしくは一歩引いて護身術としての魔法とか呪文はわかります。

魔法薬学は派手になった化学実験ですし、薬草学も似たように派手になった薬草の知識です。

麻痺光線ぶっぱするような呪文も、ファンタジーだなーと区切りをつけることができます。

しかし、変身術、そして妖精の呪文もとい呪文学はダメです。意味がわかりません。

イマジネーションが大事らしいですけれども、たぶん私はきっと根っからの左脳思考なのでしょう。

それかダーウィンさんの進化論を考えながら『動物もどき』を考えるなんて魔法界では邪道としかいえないのでしょう。

 

なるようになる。

人間が動物になる。

もしくは虫になる。

 

……ありえない。

ええ、ありえません!

『動物もどき』はまだ脊椎動物レベルなので骨格をどうにかしてるんだな、って思います。骨をずらしたり太くしたり、体毛を増やしたり減らしたり、です。

しかし、虫にもなってしまうのです。

足が増えます。

ムカデは考えたら一歩も歩けなくなります。

骨が外骨格と化します。

カメさんの肋骨レベルじゃありません。皮膚が硬くなるとかそういう話じゃありません。

「『昆虫もどき』!? はぁ!?」ってレベルですよ。

 

そう、変態なのです。コガネ虫は変態なのですよ。

変態です! 大変です! あの眼鏡女絶対変態です!! メタモルフォーゼしやがった!!

 

 

……って考えてみたら『ポリジュース薬』なんて代物があったくらいですねー。

変身術があるというのにそのような薬が存在するのです。

つまるところ、変身術とはやはり極めて難易度が高いといえるでしょう。出世コースなのも頷けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるピーターおじさん。

たとえネズミっぽくとも才能は確かなあなたと比べたら私はなんでしょうか?

一時期は『動物もどき』で空を飛ぶ夢を見ました。

しかし現実は私を無様に地に縫いつけたのです……もっとも自縄自縛的な感じもするのですが。

あなたがロナルド君の飼いネズミのスキャ……えっと? トレバー? ……ん? これカエル?

……ともかくあなたさまが小汚いネズミに身を落としているとはいえ、その才能を私は尊敬しております。

なにせあなたがネズミであるのならば私はいわば蚊とんぼでしょう。羽虫でしょう。

それか、空を飛ぼうと足掻いているのですからむしろ蚤かもしれません。

 

いわゆる、ムーニー、ワームテール、パットフッド、プロングスのどれだかは忘れましたが、彼らは私なぞと比べますと誰もが偉大な魔法使い様であることをここに認めます。

私にとって、彼らは全員主人公の眼鏡君に匹敵する偉大な魔法使いです。……というか主要な登場人物みんなすごいです。

 

それに比べたら私はモブキャラです。

そう、MOBです。

群集にまぎれた一人の魔女っ子です。

どうせモブです。役はありません。

脇役どころか物語におけるキーパーソンたるピーターおじさんとはまったく立場も扱いも異なります。

ヒエラルキーでいえば、ド最底辺の私と主要キャラの一つ下程度に位置付けられているあなた様を比較しようなんておこがましいどころの話ではなかったのです。

 

 

 

 

認めます。

私はきっとネズミ以下なのだと。

だからこうして、たかがネズミ相手に出しもしない手紙を書いて自分を慰めているのです。

哀しいです。自分で自分が哀しいです。

今は少し酔って陶酔感に助けられていますけれど、明日の朝これを見たらもう破りすてて暖炉に放り投げてふて寝するレベルでしょう。

 

ピーターおじさん。

私もうダメかもわからんのです。

だからどうか助けて下さい。お願いします。

 

 

 

 

 

 




書いてて気が重くなってきた。
……次回は他者視点かなー。



段落とか少し修正

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