IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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夏休みシリーズ 5~8

 

 

超外伝、夏休み その5

 

今日はののちゃんの神社の夏祭り。一夏と手を繋ぎながら神社に歩く。ちなみに俺も一夏も服は普通。

 

「いやいや百秋。甚平は普通の服に入るのか怪しいところだぞ?」

「きっと入るよ。無理が通れば道理は引っ込むものだっておかーさんも言ってたし」

「ちょ……誰だか知らんけど百秋にいったいどんな教育を……っ!」

 

悩んでるところ悪いけどほぼ全部嘘だわ。ごめん。

嘘じゃないところは、ちー姉さんが

 

「無理を通せば道理が引っ込むという言葉があるが、あれは実際には間違いだ。無理を通すとその無理が通った時点で無理は無理から道理に変わり、それまでの道理は無理へと変わる。そう、これを一番体現したのは、束だ。あいつはISという無理を押し通し、それまでの兵器をガラクタに変えた。あいつのようになれとは言わないが、周りの決めたルールが気に入らないなら押し通れ。認められた不条理という道理をお前の道理に変えて見せろ。この先ではお前に様々な不条理が襲いかかってくるだろうが、お前ならできる。私も協力する」

 

…………と、IS学園に入るのが決定した時に言われた。

まあ、そんなことを言われる前から俺は割と無理を通してたけどな。不利な喧嘩に乱入したり、学校の放送機材をジャックして曲流したり、束姉さんと協力してゲームを作ってかなりの売り上げを出したり、粛清にゾナハをばらまいたり。

そして俺は、その事をやりすぎだと思ったことはほとんど無い。あっはっはっは。

 

……まあ、その事は置いておくとして、今は綿飴でも食べるべきだろ。祭りだし。

一応こっちの世界の金はあるし、結構拾ってるから困りはしない。幸運と黄金率はいいな。いろんな意味で。

 

「お兄さん、綿飴ひとつ」

「へい毎度」

 

綿飴ひとつ三百円これって確実にぼったくりだよな。原価は確実に十分の一にすら届かないだろうし、機械を動かしてる分の金だって結構簡単に元がとれるだろうし。

まあ、それでも場所代とかを考えると結構必要になりそうだけど。機材を買うお金も必要だろうし、壊れたら修理するのも必要だ。やっぱり接客業ってのは色々と面倒だな。

 

「はいどうぞ嬢ちゃん。しっかり持てよ」

「ありがと、お兄さん」

 

間違えられたことはスルー。結構慣れてるし、正直どうでもいい。

綿飴は噛み千切るもの。そんなわけで綿飴を頭の方から食べていると、なんでか一夏に『こいつ可愛いなぁ……』という目を向けられた。

……まあいいや。綿飴美味しいし。

 

………そう言えば、全く関係ないことなんだが、鈴の使う衝撃砲の名前は龍‘咆’で、衝撃‘砲’の‘ほう’とは漢字が違うそうだ。

 

……あ、ののちゃん発見。神楽綺麗だねー。一夏も見とれてるし、ここらで一歩進んでみるのもいいかもしれないよ? ののちゃん。

…………まあ、ここの一夏は元々の唐変木に磨きがかかってフラグバスターの称号を持っていても何らおかしくないくらいの唐変木オブ唐変木だから、一夏をボコって普通なら死ぬと言うか死なないとおかしいくらいの攻撃を加えることには躊躇いを持たないくせに、恋心の告白とかそういったことを伝えるのには理由が全然わからないけど躊躇してしまうこっちの世界のののちゃんには難しいかもね~?

 

……普通の奴でも難しいと言うのは置いておく。だってただ本人と顔を合わせて『あなたのことが好きです。買い物とか用事とかそういう意味ではなく、男女交際という意味で付き合ってください』とでも言えば伝わるだろうし。

 

……伝わるよな? いくらなんでも伝わるよな? 日本語で言うべきを外国語で言ったとかそう言うのがない限りは通じるよな?

 

一夏の顔を見上げてみる。神楽舞を踊るののちゃんに見惚れていた。

 

……通じると思う。多分だけど。

 

だけど、こっちの世界のののちゃんや鈴はなんで一夏の鈍さを知っているのに、その鈍さを責めるだけで自分のアピールが足りないとは思わないんだろうな?

一夏の鈍さを知っているなら、一夏が相当の唐変木の激鈍だということをしっかり念頭にいれたアピールのしかたってのがあるだろうにさ。

例えば、さっき言った(正確には‘思った’か?)みたいに取り違えの無いような告白をするとか、鈍いのは前提として、外堀から埋めていって逃げ道を塞いで気付いたら結婚して家庭を持ってて子供がいるような状態に持っていく、とか。

他のライバル達が冷たくして落ち込んでいるところに優しくするとか、そういう風に『困っている時にはそばにいてくれる存在』だという認識を持たせれば結構簡単に落とせると思うけど………なんでやらないのかねぇ?

 

こんなことを考えているけど、正直に言うと割とどうでもいい。自分のしたいようにすればいいんじゃないか? 結果的にどうなっても俺は知らんけど。

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

「よう」

「………………」

「お疲れ」

「お疲れー」

 

一夏はこの祭りには来ないものだと思い、神楽を舞い終えて汗を流し、お守り売り場でお守り販売の手伝いをしていたら、目の前に百秋の手を引いている一夏が居た。

どうやら百秋を祭りにつれてきたらしいと言うことはわかるのだが、なぜここにいるのかがわからない。

 

「それにしても、すごいな。様になってて驚いた」

 

……そうだ。これが夢という可能性はないだろうか。あり得ないことが起きるときは大抵夢だ。

 

「夢じゃないよ。お母さん」

「ッ!?」

 

心を読まれた!? ならば……やはり夢

 

「それに、何て言うか……綺麗だった」

 

―――?

―――!?

―――!?!?

 

待て、落ち着け篠ノ之箒!相手はあの一夏だ。立てばフラクラ(フラグクラッシャー的な意味で)座ればニブチン、歩く姿は唐変木の、存在そのものがフラグスレイブとすら言われる一夏だぞ!? どうせ私の服が綺麗だったとか紅の引きかたが綺麗だったとかそういう意味に違いない!まったく一夏、お前と言う奴はいつもいつもこうして女に期待させるようなことばかり言いおって。そんなことだからお前に惚れてつれなくされて落ち込んだところでまた甘い言葉をかけて私のように落として行くのだなこの節操無しめが。ああまったく少しは女に興味を持つということをしないのか一夏は。……待てよ? 女に興味がない……まさか、一夏は男色なのか!? むぅ、これはいかん。私がどうあってでもその性癖を叩き直して私のよさをわからせてやろうではないか。ふふふふふふ…………。

 

「……あーあ、しばらく帰ってきそうも無いなぁ」

 

聞き覚えのある誰かの声が聞こえたような気がしたが、私は一夏の性癖を矯正させる計画を練ることに必死でよく聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超外伝、夏休み その6

 

しばらく鳥居に頭をぶつけ続けるののちゃんが復活するのを待って(一夏は必死で止めていた)、祭りの真っ最中の神社を歩く。ラッキーなことに、ここにも焼きそばのおっちゃんが居たからそこで焼きそばを買って食べる。美味い。

ただ、なんでか俺のところではあった組のみんながやっていた店の数が少ないような気がする。どうしてだろうな?

例えば、綿飴をふんわり作るのが上手い綿飴のおっちゃんとか、外はカリカリ、中はふわとろのたこ焼きを作れるたこ焼きのおっちゃんとか、ソース作りが上手いお好み焼きのおっちゃんとか、水飴に果物を擂り潰したのを混ぜて味を付けたのを売ってる水飴のお兄さんとか、かき氷にかけるシロップを甘さ控えめとかそんなのまで用意しているかき氷のお姉さんとか、そういった人達がいない。

……ちょっと寂しいような気がしなくもないような…………微妙な気分だ。

 

けどまあ、俺の世界は俺の世界、こっちの世界はこっちの世界って考えれば、それはそれで楽しみようもある。つまり、自分の周囲とほぼ同じ風景の広がる外国とでも考えればいい。

……ところで、ののちゃんからすると俺は邪魔かな? 俺がいると恥ずかしくて行動できなかったり?

 

………まったくもう、ののちゃんは恥ずかしがりなんだから。好きな相手がいるっていうのは、それだけで結構幸せなことなんだよ? ののちゃん達は理解してないみたいだけどさ。

 

……まあ、別にいいけどね。したいようにするがいいさ。一応応援だけはしとくよ? 本当に応援しかしないけど。

手は貸さないし、口出しもしないし、アドバイスも………いや、聞いてきたんだったらアドバイスくらいはあげてもいいかな。

 

……さてと。それじゃあ俺はちょっと席を外そうか。こっちの世界のののちゃんはシャイらしいから、俺がいたら進まないだろうし。

 

「そんなわけで、鈍いパパは置いて帰ります。お母さんは『色々と』頑張ってね?」

「なっ!?」

「……なんで俺は今鈍いって言われたんだ?」

 

俺の言葉に真っ赤になるののちゃんと、そう言われてしまう原因が日頃の行いにあると言うことが本気で理解できないらしい一夏。どう考えてもこの二人がくっつくにはののちゃんの方が一回キレるか何かして内心をぶちまけないと話が進みそうに無いよな。

 

「それじゃ、またね、パパ。お母さん」

「おう!」

 

…………さてと。それじゃあ帰ってのんびり寝るとしようか。正直なところ、かなり眠いし。

残念なのは、こっちの世界の蘭ちゃんに会えないってところか? 会えたら確実に面白いくらいカオスな反応が見れただろうに。もったいない。

 

 

 

一人寝は寂しいと言うことがあるが、俺は寝ることができればそれでいいからそう思ったことはあまりない。居れば居たで良いし、居なければ居ないで構わない。それが俺。

だから俺は今日ものんびりとこの異世界で眠る。一夏の部屋にあったベッドを片方借りて、そこに潜り込んでいるんだが………貧乏性かなんだかわからないがベッドより敷布団の方が寝やすいと思うのは何故だ?

 

恐らくそれは気のせいだろうということにして、俺は千の顔を持つ英雄で出した抱き枕を抱えて眠る。

……お休み、いい夢を。

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

『お母さんは『色々と』頑張ってね?』

 

そう言って笑った百秋の言葉が頭の中身を掻き乱す。

い、色々とはなんだ色々とは!と言うか、子供がいったい何を言っているのだ!

 

そう考えながら、つい百秋の言っていた『色々』に含まれたことを考えてしまった。

それは例えば同じ箸で焼きそばを食べる私と一夏だったり、同じ楊枝でたこ焼きを食べる私と一夏だったり、堂々と手を繋いで歩く私と一夏だったり、私の頭を撫でてくれる一夏だったり、花火の下で寄り添う私と一夏だったり、寄り添っていた私がふと顔をあげると、偶然私のことを見つめていた一夏と目が合う。

 

『……何を見ているんだ。花火が見れないぞ』

 

じっと見つめられている私は、ついそんなことを言ってしまう。

けれど一夏はそんな私に優しく笑いかけて私の体を抱き寄せた。

そして、私の耳元で一夏の声がする。

 

『いいんだよ。花火なんかより、箒の方がずっと綺麗なんだから』

 

連続して上がる花火の轟音がある中でもなぜかはっきりと聞き取ることができたその言葉が私の頭の中で意味のある文章になった瞬間に、時が止まったような気がした。私は暴れることも、呼吸のしかたすらも忘れたような気分で、ただ一夏の顔を眺めていた。

一夏はそんな私の頭を撫でる。撫でられた所からじわじわと暖かい感触が拡がって行き、そのぞわぞわとした感覚が私の脳裏に靄をかけた。

 

一夏の腕の中で、ただ呆然としている私に一夏がまた声をかける。

 

『箒。好きだよ』

 

靄のかかった脳裏に稲妻が走り、私の全身を貫いた。

今度こそ呼吸が止まり、一夏の吸い込まれそうなほど黒い瞳を見つめることしかできなくなってしまう。

ぎゅう……と抱き締められていた腕が離れた時、私の喉から物欲しげな、それでいていつもの私ならば絶対に出さないだろう媚びるような音が混じった声が漏れる。

しかし、それは直後に上がった花火に掻き消され、誰の耳にも届くことなく消えていく。

 

……しかし、一夏はなにかに気付いたようで、くすりと私に笑いかけた。

私は急に恥ずかしくなり、一夏から目を背けてしまう。

 

しかし私は一夏に片手で肩を抑えられ、もう片方の手で顎を持ち上げられて一夏と正面から向き合う形にさせられる。

そしてこの形から想像できることは、一つだけ。

 

『い……いち………かぁ…………』

『箒……』

 

ゆっくりと私と一夏の距離が縮まっていく。

 

『ご……強引だぞ………っ』

『……悪いけど………止められない』

 

ゆっくりと視点が私達から下がり、私と一夏の顔の辺りで上がった花火が、繋がった私と一夏のシルエットで見えなく―――

 

「箒!聞いてるのか?」

 

一夏の顔が、目の前にあった。それこそ少し何かがあれば唇と唇が接触してしまいそうなほど…………待て、私は今の今まで何を考えていた?

 

「……なあ。顔が赤いけど……熱でもあるのか?」

 

こつん、と額を合わせてきた一夏を殴り飛ばしてしまった私は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超外伝、夏休み その7

 

…………………………。

えー…………と。

………………俺は、いったいどんな反応を返せばいいんだろうか?

 

とりあえずページを捲ってみる。すると話は進み、俺が一夏の手でベッドに押し倒されている絵が一番上に描かれていた。

またページを捲り、それを最後のページまで繰り返す。

 

…………とりあえず、こっちのちー姉さんに報告しとこうか。それともここはまず一夏に見せにいくべきか…………悩み所だ。

 

数秒考えて、一夏に見せに行くことに。いったいどんな反応を見せてくれるだろうか?

 

……ああ、俺が持ってるこの本? なに、大した物じゃない。ただの俺と一夏の絡みを描いたIS学園の生徒の一部の間で流行っているらしい同人本(対外的には十歳の俺が出てるのにまさかの18禁一夏×百秋調教物)だ。落ちてたのを拾った時には割と本気で驚いた。

その他にもシャル(男)→一夏×百秋の切ない恋系の本とか、一夏×百秋前提の弾×百秋(中学時代に弾×一夏、しかしIS学園で一夏×百秋になり、嫉妬に駆られた弾が百秋をひたすら……っていう)本。さらにさらに千冬さん(男)×一夏×百秋っていうのまである。

 

………これ描いた奴は本当に命知らずだな。千冬さんに知られたら殺されてもおかしくないぞ? いやマジで。

実際俺の世界でこういうのを描いていた奴はある日食堂に亀甲縛りで吊るされてたし。

 

……まあ、俺のところの弾だったらともかく、こっちの世界の弾や一夏にそういう意味で襲われたら………新鮮な挽き肉ができるかもな。60キロくらいの塊が二つほど。

 

それはそれとして、一夏やヒロインズがどんな反応をするのか楽しみだ。

 

 

 

 

 

side 原作一夏

 

頭をかきむしりたくなる衝動を、百秋の前にいるんだと自分に言い聞かせることで無理矢理に押さえ込む。

…………とりあえず聞くべきことは……

 

「百秋」

「ん? なに?」

「お前……これに描いてあることの意味がわかってるのか?」

「わかってるよ? おんなじようなのが家にあるから」

「誰の趣味だよ!?」

「お母さん達かな? たっちゃんはこれを見てパパをからかうネタにしてたし、シャルママなんかは」

「待って!僕はそんなことしないから!百秋の言ってる僕は百秋の所の僕なんであって、僕とはなんの関係も無いからね!?」

 

百秋の言葉に反応してつい視線を向けてしまった俺達全員の前で、シャルが全力で反論する。だけどその顔はなんだかひきつっていて…………いや、まさかな。

 

あっはっはっはっは、と笑っている百秋を涙目で『ジト――…………』と睨み付けているシャルだったが、百秋はそんなことは一切気にした様子がない。

のんびりとしたその表情は完全にいつも通りのそれで、なんと言うか……気が抜ける。

 

……けど、流石に今回は見逃せない。

俺を題材にするのは……まあ、一兆歩譲っていいとしても、年端もいかない百秋を題材にしたこういう本がが出るっていうのは問題だ。

しかも内容が、何も知らない純粋無垢な百秋に俺がそういう系統のことを千冬姉達に内緒で教えて………とか、なぜか俺と中学時代でそういう関係だった弾が百秋を………とか、そういうのばかり。これはちょっと目に余る。

 

「……む………これは……………」

「い、いいい一夏さんが他の殿方とっ!? い……いかがわしい!いやらしいですわ!!」

「…………一夏。お前が私達に手を出さないのは……まさか…………」

「俺にはそんな趣味はねえ!!」

 

ラウラはいったい何を言ってるんだよ? 俺にそんな趣味があるわけ無いだろ。

……って、なんでみんな少しほっとしたような顔をしてるんだよ?

 

「パパは鈍いからねー。お母さん達は大変だ。おかーさんがやったみたいに逆レイプ気味に食べちゃえばいいのに」

「俺そんなことされたのか!?」

「ちょっ!? なにやってるのちふ」

 

ドゴッシャァ!!

 

「………………凰。私とゆっ……くり、話をしよう。なに、寮長室はいつでも空いている。手料理も振る舞ってやろう。遠慮はさせんし、拒否権も無い。安心して………くくくくくくくくくくくくくくくく…………………」

 

急に現れた千冬姉によって、鈴は寮長室(と言う名の魔窟)に連れていかれてしまった。しかもいつもより大分威力の高そうな激突音を響かせた出席簿からはうっすらと煙が上がっていて、その威力の高さを想像させる。

 

「……ああ、百秋」

「はーい」

「一夏には、言うなよ」

「はーい」

「なにをだよ!?」

 

千冬姉にそう聞いてみたが、返事は返ってこなかった。

 

「パパは鈍いから大丈夫だと思うけどねぇ?」

「また鈍いって言われた………」

「実際パパは常識外れに鈍いからね。鈍いって言われたくないんだったら、もう少し戦闘とか直感とかそういうもの以外で鋭くなってみなよ」

「常識外れと言われるほど鈍くはないだろ!?」

「いいや鈍い」

「百秋さんの言う通りですわ」

「ごめんね? いくら僕でも弁護できないや」

「重篤な疾患ほど自覚症状に乏しいと言うことがあるらしいが、鈍感と言う病もその口らしいな」

 

百秋の言葉に反論した俺の言葉は、直ぐ様その場にいた全員に切って捨てられた。

……って言うか、ラウラ酷くね? 重篤な疾患扱いかよ。

 

「むしろ疾患の方が救いようがあるかもね。万に一つの可能性で治るかもしれない疾患と、直るにはいっぺん死んで生まれ変わるか記憶が欠片もなくなるほど壊してから洗脳するかしないと直りそうにない天然物…………まあ、治りそうにないって所は共通してるけどさ」

「確かに」

 

……なあ、酷くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超外伝、夏休み その8

 

「……そう言えば、始めはこの本の話じゃなかったっけ?」

 

そう言って置きっぱなしにされていた本を指差すと、一夏達は『はっ!』という顔をした。どうやら話の元々の場所を見失っていたらしい。道理で妙なくらい簡単に一夏に言葉の矛先が向くと思ったよ。

そう考えていたら、いつの間にか一夏達が素晴らしく明るいどろどろとしたものを内側に無理矢理押し隠しているのがまるわかりの笑顔を浮かべていた。どうやら一夏達の間で何らかの決着が着いたらしい。

 

「……で、百秋。この本は誰のだ?」

「さあ? 拾っただけだしわからないや」

「……仕方無い、千冬姉に相談しよう。多分協力してくれると思うし………これの作者と見せに行った俺の命があるかどうかは別として…………」

「……頼んだぞ、一夏」

「冥福をお祈りしていますわ」

「織斑上等兵(二階級特進済み)に、敬礼!」

 

……その通りのことになると思うけど、酷くね? 俺には関係はあんまりないからいいけどさ。

 

「だ……大丈夫だよ!僕も一緒に行くから!ね?」

「シャル………」

 

あ、いい雰囲気。やっぱりこうやって困っている時に側にいてくれる人には好意を向けやすいよね」

「「「!?」」」

 

途中から声に出してみたら、他のヒロインズ-1(この場にいない鈴)が『出遅れたっ!?』という顔をした。いい雰囲気の一夏とシャルは聞いていない。

 

……まったくもう。手のかかる『お母さん』達だなぁ。面白いから別にいいけど。

 

「それじゃあ俺は寝てるから」

「ああ。おやすみ、百秋」

「……それじゃ、行こっか」

「……そうだな。行こう。……地獄まで」

 

一夏とシャルはいたって真面目なんだろうけど、ののちゃんやセシリー達が悔しげな表情をしているのを含めて横から見てるとただのコメディにしか見えないな。

 

そう考えながら俺は一夏の部屋に戻って布団に潜り込む。

……なんと言うか、そろそろ帰る……と言うか、新しい場所に行くことになりそうな気がする。

………気のせいかね?

 

 

 

 

 

side 原作一夏

 

こんこん、と千冬姉の部屋である寮長室の扉を叩く。

するとガタガタと中で音がして、数秒で千冬姉の声がした。

 

「……入れ」

「失礼します」

 

千冬姉が俺達のことを認識すると、薄まっていた重苦しい雰囲気が一気に密度を上げた。その隣には、ぐったりとしている鈴がうつ伏せで倒れ臥している。

時々指先がぴくりと動いているから死んではいないようだが、写真でこの場を見せられたら確実に殺人事件の現場だと思うだろう。

 

………ちなみに、鈴の前には恐るべき産業廃棄物未満とすら言われた千冬姉の料理が置かれている。しかも、何度か口がつけられている。

そして鈴の右手にはスプーンが握られている。

 

…………御愁傷様。って言うか、本気で鈴の命が心配だ。生きてるのはわかってるけど、後遺症とか残ってないか? トラウマに………残っちゃうのは仕方無いとして、寿命が食前と比べて1/10になってたりしないか!?

 

「……私に喧嘩を売っているのか? 今の私は中々気が立っているからな? 貴様の言い値の万倍で買ってやろうじゃないか」

「ごめんなさいっ!ほら一夏も早く謝って!」

「ご、ごめんなさいっ!」

 

……って、こんなことしてる場合じゃ無いんだった!千冬姉に生贄(百秋本を描いた誰か)を捧げて鈴を助け、その上で百秋本をこの学園から駆逐しないと………!

 

 

 

そんなわけで頑張って千冬姉に状況説明。なんとか納得してもらったのはいいんだけど、なんかくすくすくすくすと不気味に笑っている千冬姉が、すっごい怖い。

シャルに目配せして鈴を外に連れ出してもらう。この事で怒られたら、鈴の代わりに俺が千冬姉の料理を………料理……を………………っ!

 

「……くくくくく………そんな怯えなくとも叱りはしないし、料理を振る舞いもしないさ」

 

千冬姉にそう言われて、気付いたらがくっと体の力が抜けてしまった。

 

「食わせる相手はこの本の作者だ」

 

誰だか知らないけど冥福をお祈りします。俺はまだ死にたくないから千冬姉を止められない。ごめん。

けど作者達が悪いんだぞ? こんなものを書いてしまうから……。千冬姉の目に入ったら大変だと言うことを理解してない訳じゃないんだろ?

特に千冬姉と俺と百秋のやつなんて、確実に考案した人描いた人印刷した人含む関係者全員が『いっそ殺してください』と口を揃えて言うようになるかもしれない。

 

……それがわかってても止められない俺は、臆病者だ…………。

 

「いやいやいやむしろ今の織斑先生を止められる方が凄いから。勇者だから。止められない方が普通だから」

「シャルロットの言う通りだ。今の教官は神より怖い」

「そうだぞ一夏。恥じることはない。むしろあの千冬さんに向かっていけた方が異常だ」

「その通りですわ。止められて当たり前と思う方が間違っています。人間に鬼が止められるものですか」

「……………………(言葉がない、ただの半死半生の鈴のようだ)」

 

皆は口々にそう言うが、それでも俺は千冬姉の弟なんだから止めるべきところでは止められるようになりたい。

今は無理そうだけど、いつか必ず……。

 

『ダ―――――イ!!』

『きゃぁぁぁぁぁっ!!?』

 

千冬姉と誰かの声が寮中に響きわたり、それからしばらくの間音はやむことがなかった。

 

………が……頑張ろう……!

 

 

 

 


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