IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
連続投稿八話目。燦編はこれ含めてあと二話でおしまいです。
side 五反田 燦
私の世界とこちらの世界。大きな違いは一夏さんの性格その他だと聞いていたけれど、どうやら私達が関わってきたことでその他の部分にも大きな違いが出てきているようだ。
……正確には、こちらの世界の本来の姿から大分変わってきているらしい。お兄は私と話をしていてもあんまり違和感を感じないし、逆に私は私らしくない。話をしているだけでこちらの世界の私がまだまだ子供だとわかってしまうほどだ。
……まあ、それはそれ。自分自身のこととはいえ世界が違えば他人も同然。私がどうこう言えるような立場じゃないし、言ったところで聞かないだろう。きっとこれから沢山の失敗を積み重ねて、そうやって少しずつ大人になっていくんだろう。
お兄が言っていたけれど、恋に生きている間はまだまだ子供。恋でなく愛に生きることができるようになってようやく大人になれるそうだしね。
その理屈で言えば、確かにこっちの世界の私は子供で、こっちの世界のお兄は大人なんだろう。ついでに言うとこっちの世界の一夏さん達も子供で、篠ノ之博士と千冬さんは多分大人。でも、二人とも子供でいる時期を全部すっ飛ばして大人になっちゃったんじゃないかと思うと少し不安だ。
正しくない順序で成長した人間は、結果としてどこかしら歪なところが出てくる。もちろん正しい順序で成長したからといって必ずしも綺麗な成長をすると言う訳ではないし、人間は肉眼で把握できる情報だけでも千差万別なのだからそもそも正しい形などと言うものが存在するかどうかすら定かではないのだけれど、少なくとも社会に馴染むのにかなりの努力をする必要があるだろう。
そう考えると、篠ノ之博士は上手いことやったと言えなくもない。あの人は一夏さんと千冬さんが大好きだし、その二人と自分の妹である箒さんでは種族的に外れている部分の有無と言う点で二人の方が社会に溶け込みにくいだろう。
そこでISという道具を作り、まずは千冬さんを祭り上げる場を作ることで千冬さんを排除できなくする。それから今度は一夏さんを祭り上げさせ、同じように。
千冬さんを祭り上げさせた時点で一夏さんは千冬さんと言う防波堤が守っていたけれど、次は一夏さん自身を千冬さんへの防波堤として働かせる。同時に自分が二人を守るための防波堤となって、三者は世界から手を出せなくなる。
箒さんは、まずは篠ノ之博士自身の逆鱗として用意する。弱点であると同時に触れられれば怒りを買うことがわかっている箒さんに触れようとする人はいなくなる。そのときに本当に触れようとした馬鹿な人には制裁を加えれば、そしてその制裁の規模を必要以上に拡大して行えば、被害の規模から失敗した時のリスクを考えて余計に手を出さないようになる。
そうして自分で守っている間に箒さん自身に力をつけさせ、同時に一夏さんの幼馴染みと言う情報を広げることで一夏さんからの庇護を偽装する。狙う相手からすれば全体がどこかを潰そうとすると即座に別の部位が現れて反撃してくると言う恐ろしい状態になるわけだね。
しかも、篠ノ之博士は情報と隔絶した技術力によって社会的あるいは国際的に責めてくるのに対し、千冬さんは世界最強と言うネームバリューから来るカリスマと本人の実力による戦力を使って内部分裂をさせてきたり味方を増やしたりしてくるし、一夏さんに至っては個人による大国兵器。これで手を出そうと言う方がおかしい。
しばらく前に起こった世界戦争でも、世界の過激な国はIS学園に手も足も出せずにボロボロにされていた。今私達の世界が平和になっているのも、その戦争によって世界の絶対強者が誰かと言うのが決定付けられたからだと言うのもあるだろう。
つまり、私達の世界において篠ノ之博士は自分達を受け入れざるを得ない世界を自分達の力を使って作り上げて見せたと言うこと。
社会や倫理、情勢や感情、そういった物をほとんど完璧に計算しつくし、その上で自分の望んだ方向に世界を誘導する。流石は大天災と称される篠ノ之博士だ。
そんな篠ノ之博士の計算違いは、やっぱり一夏さんだろう。
一夏さんに引かれた女性達が国を離反し、そしてあれだけの実力を見せつけるようになるとは考えていなかったんじゃないかと思う。勿論途中からある程度計算に入れようとしていただろうけど、そのあたりは一夏さんの異常な常識に染められてしまった人達な訳で……早々計算のうちには入らなかった事だろう。私の知ったことではないけれど、一夏さんが平和ならよかったと思う。
……こっちの世界だと、お兄はまだあの領域には届いていないらしい。もしかしたら世界の作りが根本から違うから絶対に届かない可能性もあるけれど、わかることがある。
それは、こっちの世界のお兄は多分モテると言うこと。一夏さんが側に居たからあれだったけどお兄も結構な二枚目だし、性格的にもかなり男前だしね。
ただ、もう相手がいるみたいだしモテても困るかもしれない。是非その人の前で誰かに告白されたりして嫉妬されてそこからちょっとした事件を起こして仲を深め、最後には相手の家の事情とかそう言うのを振り切って結婚して幸せに過ごしました……とか、そういう風になってくれると嬉しいかな。ドラマチックで。
うん、とりあえず考え事はこれくらいにしておこう。色々と面白いことはあったし、私と言う存在を知ったこっちの世界の私はいったいどうするのか。どんな行動に出て、どんな成長をするのか。お兄じゃないけれど、確かにこれは楽しみかもしれない。
私はIS学園に行こうと思っている。こちらの世界の私がどうするのかは知らない。
でも、できることなら幸せになってほしいと、幸せを掴んでほしいと……そう思う。なにしろ、世界は違えど私のことだしね。