IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
連続投稿二十一話目です。
side 五反田 弾
学校から帰ってきてからと言うもの、なんでか蘭の奴は元気がない。何があったのかと聞いてみても『何でもない』の一点張りで取り付く島もない。なんでもない奴はあんな顔をしたりはしないんだが……まったく、何を悩んでんだろうな? 女心ってのはよくわかんねえもんだ。
とにかく、今のところ俺にできることは何もない。流石に相談もなしに相手の悩みを見抜くなんてのはちょっと無理があるからな。少なくとも俺にはまだ無理だ。
「つーわけだ。なんか知らないか? 燦」
「よくある『死んだ後はどうなるんだろう』と言う疑問と同じようなもので悩んでるんですよ。未来の見通しが立たなくて歩みを止めてしまっているのに、自分の近くにいる人がどんどんと前に進んで行ってしまうのがわかって自分の情けなさに辟易しつつも勇気が出せなくって悶々としているという感じです」
「……え、なに、そんな細かくわかるの?」
「まあ、お母さんとは私が産まれて以来の付き合いですからね。ちょっと見てみれば大体は」
「それが全ての人間に適用されるわけでもなければ誰にでもできるわけでもないもので本当によかったよ。サプライズにならないサプライズプレゼントとかいう寒いもん渡しちまうとこだった」
「弾お兄さんも付き合いが長くなればなんとなくわかってくると思いますよ。もちろん、相手の方も隠す技に長けてくるわけですけどね」
クスクスと笑いながら口元を片手で隠す燦だが……知ってるか? こいつ自己申告で9歳なんだぜ? いったいどんな教育を受ければこんな子供ができるのかを知りたいような気がする。
子供らしくない子供がいるのは別に構わない。人間がどんな場所でどんな育ち方をしていようが俺の知ったことじゃないし、それこそ人それぞれってやつだ。好きにするといい。
ただ、俺は子供のうちくらいは多少我儘に生きていってくれてもいいと思う。子供のうちに危ないことややってはいけないこと、それに倫理観なんかをしっかり学ばせないと社会不適合者になって生きにくくなるからな。
篠ノ之博士みたいな無茶苦茶な能力でもあれば話は別だが、残念ながらそんなものは期待できない。あれはまさしく人知を越えているし、真似しようと思って真似できるようなちゃちなものでもない。
それに、自分の子供に他人のコピーや下位互換のような生き方はして欲しくないと思う。どうせ生きていくならば、自分らしく生きていってもらいたい。親としてそう思うわけだ。
……親の欲目と笑ってくれていい。未来の自分の息子に会ったこともあるが、俺は未来で子供ができてあの性格にならなくても気にしない。俺にそっくりでなくても構わないし、なんなら女の子が産まれてもいい。どちらにしろ俺の子供であることには変わらないし、どちらにしろ愛してやれる自身がある。
ただ、蘭はその辺りはまだ納得できていないらしい。蘭はまだまだ中学生だし、はっきり言って子供だ。恋に生きると言うのは悪いことではないだろうが、恋しか見ていないで突っ走った先に何が待っているのかは本人ですらわからないだろう。
そして今、蘭はふと走るのをやめて周りを見渡してしまった状態なんだろう。
見たこともない風景。どこに繋がるのかもわからない道。知ろうともしなかった事が突然目の前に現れ、そして足がすくんでしまったのだろう。まあ、迷子の子供にありがちな話だな。
ここで俺が迎えに行ってやるのも悪くないんだが、できれば自分で歩き出して貰いたい。一夏を追ってISに関わって行くんだったらそのくらいの事はできて欲しい。
「でなければお父さんの心を射止めるなど永遠にできないでしょうしね」
「そうだな。ところで晩飯は何がいい?」
「お任せします。現状三大栄養素がバランスよく取れているのでこの調子で行きたいですね」
この子供、考えることが子供じゃない。俺がこのくらいの年の時はとにかく肉ばっか食べたがってたような記憶があるが……やっぱり性別が違うとその辺りも変わってくるのかね?
リクエストも受けたし、燦の頭を軽く撫でてから席を立つ。昼は基本的に爺ちゃんの賄いで済ませてしまうんだが、晩は母さんの作る飯が一番多いのでその辺りは母さんにお任せだ。
……ちなみに、だが。俺はできればこの店を継ぎたいと考えている。
別に仁がそう言っていたからではない。俺がそうしたいと思ったからそうしようとしているだけの話だ。
そのために、今は色々と勉強中。調理師免許やらなにやらが必要だってんで、その辺りを手に入れるために大学にも行かなくちゃいけない。爺ちゃんの料理も継がなきゃならない。やることは沢山あるし、迷っている暇なんてどこにもない。
やれることは全部やる。勉強、料理、恋愛、全部を全力で楽しみながら生きてやる。誰にでもなく、俺は俺自身にそう誓ったのだから。
「キャーダンオニイサンカッコイー」
「なんでそこで棒読み?」
「棒読みでやる方が面白いから、ととある人に習いまして」
「誰だよそいつ……」
「時速98kmで走ってくる荷物満載の2tトラックを崩拳一発で真正面から粉砕した某O斑M秋さんです」
「あいつって人間じゃなかったのか……はじめて知ったわ……つか人の姪になに吹き込んでんだよ……」
「弾お兄さんの姪であると同時に某O斑M秋さんの妹ですけど」
「知ってて言ってる。流せ」
妹に色々吹き込むくらいは別にいいか。俺も昔変な知識を蘭に教えたこともあったしな。
昔はそれが正しいことだと本気で思ってたんだが、今じゃあどうなんだろうな? 少なくとも、ちゃんと役に立つことしか教えてないと思うんだが。
……偶には何の役にも立たない知識で遊ぶのも楽しいし、いいことにするか。うん。