IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
連続投稿十三話目です。
side 五反田 蘭
とりあえず、色々なことを諦めた。未来の知識が知りたい私と、未来のことを別に話したくない燦では立場が違う。それに、どうも私と母親を完全に同一視しているわけではないようで、少しガードが固い。
その理由を聞いてみたんだけど……
「誘拐されそうになったことがあるのですよ。基本的に未来ではお父さんの子供はみんな誘拐されそうになった経験があります」
「……え、それ本当?」
「はい。もちろん私もあります。だから見慣れない人を相手にするとちょっと……」
……うん、詳しくは聞けないよねこれ。これで更に詳しく聞くとか本当に空気読めないとかそう言うレベルの話じゃないね?
あと、多分だけど私をからかっているように感じるのも余裕を保ちたいからだと思う。見知らぬ相手は怖いけれど、その相手をからかっていられる間は怖がらないで済むから……って理由なんじゃないかな?
……私自身には覚えのない未来のことだけれど、私が産むかもしれない子供の話だ。一応は親として、子供にからかわれるのも良しとするしかない。
もしも私が未来で誰かとの間に子供を作ることになったら、しっかりと守ってあげなくちゃいけない。この子はその事を私にしっかりと教えてくれたような気がする。親の気持ちと言うものはまだわからないけれど……きっとこう言うことの繰り返しと積み重ねが私の未来のためになるんだと思う。
逆に言えば、こういったことの積み重ねがないままに大きくなったなら、いつまでも中身は大人にはなれないままに身体ばかり大人になっていくんだろう。あんまり想像したくないなぁ……。
さて、それはそれとして……。
「お母さん達への説明はどうしよう……」
「私に考えが……」
「うんごめんそれ待って。それ失敗するフラグだから待ってお願いだから」
「……では、言い替えましょう。提案があります」
「聞きましょう」
燦はにっこりと笑顔を浮かべながら私に言った。
「お母さんが認識している事実をありのままに伝えれば結構信じてくれると思います」
「悪いけど私が認識していることをそのまま言葉にして伝えたとして、それを何の根拠も無く信じちゃったらその人の頭の方を疑わなくちゃいけなくなるんだけど?」
「話を合わせてくれる人がいるから問題ないと思いますよ?」
「話を合わせてくれる人……?」
「聞いたことはあるでしょう? 当時信じたか信じなかったかはわたしにはわかりませんけど」
「……あ、お兄!」
「Exactly(その通りでございます)」
燦がパッチンと指を鳴らして私の答えが正しいことを示す。……なんだか少し仰々しいと言うか、大袈裟と言うか……とにかくなんだかおかしいような気もするけれど、きっとこれが燦の『いつも通り』なんだろう。
まあとにかく、できるだけ早くお兄に話をしに行かないと……。
「ん? なんだ蘭、そいつは……ああ、はいはいわかったわかった。とりあえず今度会ったら一夏は殴るとして、俺は母さん達に言っときゃいいんだな。じいちゃんの方は蘭の言うことの方が聞きやすいだろうから自分でやって来れ」
「……なに? お兄ってばエスパーにでも目覚めたの?」
「は? なに言ってんだ? そんなわけないだろちょっと考えればわかることだぞ。……あ、俺ちょっと一夏に電話するわ」
お兄はなぜか普段は発揮しない察しの良さを見せ、私が何か言う前にさっさと私の言いたいことを理解してしまった。
……いつもこうならもう少しモテるんじゃないのかと思うんだけどね。一夏さんほどじゃないけどかっこいい部類に入ると思うし。
「蘭」
「! なに?」
「俺、彼女いるからあの人以外にモテても困るわ」
「人の考えてること読むのやめてくれない!?」
「おいおい、人の心を読むなんてことができるわけ無いだろ普通に考えて」
「いやでもいm「お、繋がった繋がった。一夏~?」聞きなさいよぉ!」
お兄はさらりと私の言葉を無視して一夏さんへの電話を続けた。わざわざスピーカーホンにした意味がよくわからないけど……。
……ハッ!まさか、私からの追撃を抑制した!? スピーカーホンにすれば、私が大声をあげたりすることはできなくなる……お兄、いつの間にそんな作戦を練れるように……!?
「一夏か? とりあえず答えてくれ。そっちに今、誰かいるか?」
『……は? いやすまん、ちょっと待て、意味がよくわからないんだが……』
「大事なことだ。お前以外に、誰か、居るか?」
一夏さんはお兄の言葉に一瞬沈黙し、そして真剣な声で聞き返してきた。
『……何かあったのか?』
「ああ。こっちに蘭の子が来た。百秋がいないからそっちに居るんじゃないかと思ったんだが……いないんだな?」
『ああ』
お兄は顎先に指を当て、数秒考えながら沈黙したあと口を開いた。
「……悪い、ちょっと千冬さんに連絡とってくれないか? 番号知らねえんだよ」
『おう、わかった。ちょっと待ってろ』
……こう言う姿を見ると、お兄と一夏さんが親友同士なんだと納得させられる。言葉にしなくてもわかり合うのは男同士じゃないとできないと言う訳じゃないけれど、私と一夏さんではこうはいかない。
お兄に頼み事をされた一夏さんは、一旦通話を保留にした。きっと今の間に千冬さんに話をしに行ったのだろう。時間があまりないんだけれど……燦から聞いた話だとそのくらいの時間を使ってでも千冬さんに話をする価値はある。
『……五反田か。私だ』
「ども、千冬さん」
あ、千冬さんいけめんぼいすだかっこいいなー。