IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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 連続投稿十二話目です。


他の子・燦編02

 

 

side 五反田 燦

 

「……」

「はい、着替えです」

「……ありがと……」

 

 お母さんはぼんやりとしたままわたしの差し出した服を受け取って着替える。少なくとも人前に出ても恥ずかしくない程度の服で、着替えるのも楽なものを出したので問題はないはずだ。唯一の問題はわたしがここに居るということなのだが、お母さんはどうもそれに気づいてくれないらしい。

 

「……」

「……」

「…………ん?」

「…………」

「………………えぇ!? ちょっ、誰!? って言うか私!? ちっちゃいよ!?」

「落ち着いてください。ほら、一夏さんの数を数えるのです。一夏さんはこの世に唯一の男性IS操縦者と言う孤独な人。あなたに勇気と希望を与えてくれます」

「う、うん……一夏さんが一人、一夏さんが二人、一夏さんが三人、一夏さんが四人……」

 

 どうやら本当にテンパっているようで、一夏さんの数を非常に真面目な顔で数え始めた。一夏さんが一人より多いわけがないと……あ、そう言えば分身できてたね、一夏さん。二人以上居たよ。わたしも一応できない事は無いけど。

 ……ところで、お母さんはいったいいつまで一夏さんの数を数えているんだろうか。わたしが言った事とはいえ、ここまで素直に数え続けられるとちょっと罪悪感に襲われそうだ。

 ちょっとだけ、と言うと本当にちょっとだけなんだけどね。相手に被害らしい被害がないのに抱く罪悪感なんてそんなもの。自分があまりにもやっちゃったと思うなら話は別だけどね。

 

「……ふぅ、落ち着いた。えっと……前にお兄の言ってた『未来の子供』なのかな?」

「はい。ですからこの時間軸上ではわたしとお母さんは『初めまして』と言うのが正しいと思います」

「あー、うん、そうね」

 

 お母さんは少しやりにくそうに話している。まあ、確かにいきなり未来から自分の子供が現れて云々って言われたところで普通はそういう反応になる。わたしだってなる。

 けれど、その非常識を解きほぐす鍵として、弾お兄さんと一夏さんの言葉がここにかかってくる。

 つまり、「未来の自分たちの子供を名乗る少年少女が現れた」と言う話。聞いた時には胡散臭いと思っていたかもしれないけれど、わたしがこうして実際に来る以前にその話を聞いていると言う事が重要になってくるわけだ。

 ちゃんと弾お兄さんが私たちの存在を話しておいてくれて助かった。百秋さんとお母さんがこっちの世界て直接会ったかどうかは知らないけれど、少なくとも夢の中では出会っているはずだから信じてくれる可能性自体は割と高めだったんだけどね。

 

「……」

「……」

 

 お互いに何も言わないまま時間が過ぎる。お母さんの方はかなり気まずく感じているようだけれど、わたしの方はそうでもない。何も言わない相手と向き合ったまま時間が過ぎるのを待つのには慣れている。正直慣れたくなかったけれど、女子高の生徒会長をやっているとそれなりに問題児達との付き合いなんかもできてしまうわけで。

 問題を起こして悪びれないほど人格が破綻している生徒は居なかったけれど、その一歩手前くらいの子は時々いるからね。悪いとは思っているものの話をしたくないとも思っている子には、こうして何かを話さなくちゃいけないような気分にさせたうえでしばらく向き合うのが今のところ一番手っ取り早くて確実なんだよね。時間がないとできないけどさ。

 

 そう言った経験を無駄に活かして、とりあえず主導権を得る。こちらは余裕があるようにのんびりと振る舞うことに気を付ければいい。あとは向こうが話しかけてくるのを待つ。

 数分後。沈黙に耐えられなかったらしいお母さんがわたしにおずおずと話しかけてきた。

 

「えっと……燦……だったっけ?」

「はい。燦ですよ?」

「……えっと、なんでここに?」

「アルバム作成です。未来のお母さんから了解はとりました。寝顔も撮影済みです」

「やめて!? と言うか私の許可を取って!?」

「未来でとりましたが……」

「過去に適用させないで!? 未来の法律で過去の出来事は裁けないんだよ!?」

「わたしが『写真を撮ってもいいですか』と聞いたら寝言で許可をくれたじゃないですか。お父さんの名前を呼びながらだったのでいい夢を見ていたようですが」

「本当にやめて!? と言うか明らかに寝ている相手の寝言を根拠に行動しないでよ!」

「大丈夫です。婚姻届けに判を押す時に相手が寝ていても効力を発揮するという話は有名ですから」

「……えっ? それちょっとどころじゃなくまずい発言な気がするんだけど?」

 

 お母さんの判断は正しい。なにしろそれは額面通りにかつ少し頭を捻って受け取ると、『結婚の時に相手に無断で婚姻届けに判を押して勝手に届け出た』と言う風にも取れるのだから。しかも、それを言ったのが自称とはいえ自分の娘で、未来人であるという可能性が否定できないともなれば……ねぇ?

 実際のところわたしは単なる事実を言ったのみに過ぎないのでそこまで深く考えて受け取る必要などありはしないのだけれど……どういう反応をするのか楽しみではある。

 

「それ……誰から聞いたの?」

 

 自分ではありませんように……と言う表情を浮かべているが、これについての答えは既に出てしまっているし、変わることもない。 故にわたしはこう答える。

 

更識盾無(耳年増のヘタレ)がイメトレしてたのを聞きました」

「よかった!すごいよかった!いやよくないけど私じゃなくてよかった!」

「お母さんは正面から堂々と告白したと聞いています」

「……その話、詳しく聞いてもいい?」

「ダメです」

「なんで!?」

「許可をもらってません」

「さっき私が許可してないのに私の写真撮ったよね!? しかもその理由が未来の私の言葉だったよね!? 過去の私が許可するから教えてよ!?」

「未来は変わる可能性はあるけれど過去が変わることはなく、未来が変わった瞬間に未来のお母さんと過去のお母さんは解離するそうですので今のお母さんと未来のお母さんは別人だと認識できるためダメです」

「それを適用すると許可を出した未来の私と今の私も別人だから写真撮っちゃダメだよね!?」

「寝言で本人から許可はいただいていますので。未来のお母さんの策ではありますが」

「酷い!」

 

 わたしはお母さんをからかいつつ諭し続ける。きっといつか諦めてくれるはずだ。うん。

 

 

 

 


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