IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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 連続投稿十一話目です。


他の子・燦編01

 

 

 side 五反田 蘭

 

 目を覚ましてみると、わたしの目の前に『私』の寝顔があった。どうやらわたしは一夏さんの―――百秋兄の言う通りに平行世界等と言う名前で呼ばれる世界に移動してしまったらしい。わたしの願いは叶わなかったと言う事だけれど、偶にはこう言うのも悪くない……と考えることにした。物事を悪い方にばかり考えるのは消して良いことではない。寝不足になったり身体の調子が悪くなったりと色々問題ばかりが出てきてしまうことを考えればむしろ害悪ですらある。

 それがわかっていたとしても、わたしはすぐに意識の切り替えができるほど長く生きているわけでもなければ達観しているわけでもない。わたしにできることは、自分の心に仮面をかぶせて一度落ち着き、そして仮面の中身と外側に見せている面との擦り合わせをすることくらいだ。

 

 数秒でそれを終わらせたわたしは、とりあえず寝起きの汗を流すためにシャワーを借りる事にした。本当ならちゃんと時間をかけてお風呂に入りたいところだけれど、残念ながらそんな時間をかける余裕は今のわたしには無い。シャワーだけで限界だ。

 そう言うわけで、シャワーを浴びさせてもらった後は用意しておいた服に着替える。この服はわたしが可愛いと思って買ったものだけれど、どうやらこちらの世界に来た時に今のわたしに合うサイズに作り直されたようだ。どうやってかはわからないしわかりたくもないしわかろうとも思わないけれど、人間には中々難しい方法で出来ているんじゃないかと思う。

 

 そして、ここまでやってから確認をする。わたしの携帯電話から、百秋兄の持つ携帯電話に電話をかける。桁数は13桁で、666から始まるから間違える事は無い。

 百秋兄は、自分以外にも666から始まる番号の電話を知っていると言っていたけど、きっとそれは百秋兄の携帯電話を作った束さんあたりの事だろう。あの『大天災』ならば、百秋兄と頭の番号を同じにしてお揃いだと言って喜んだりしそうだし、きっとこれは間違ってはいないだろうと思う。

 そして、なぜか百秋兄の携帯電話はこちらの世界でも当たり前のように使うことができたらしい。だからわたしがこうして電話をかければ繋がるはずなのだけれど……繋がる以前の問題らしい。

 どうやら百秋兄の懸念は当たってしまったらしく、この世界には今追加要素としては私以外に見当たらないらしい。一応百秋兄以外にも連絡してみようと思ったのだけれど、残念ながら全て空振り。よくよく考えてみればこちらの世界で契約していない携帯電話が使えるわけがないのだけれど、百秋兄の周りにいる皆さんは連絡方法が愛情によるテレパシーなのを忘れていた。携帯電話はほぼ完全に仕事用なのだ。

 なお、わたしはそのテレパシーを受信することはできるが送信することができなかったりする。どうにも感覚がつかめないというか、人間の身体から何かが放射されるというイメージがしづらいのが原因なのだろうけれど……わかったからと言ってすぐに解決方法が確立されるような優しい世界ではない。なにしろわたし達の世界ではつい先日に世界全土を巻き込む大戦争が起きたばかりなのだから。

 ちなみに、宣戦布告は対IS学園連合が出したらしい。それに即応して動いたIS学園の皆さんが凄いのか、即応した上に大半の国の首都に直接襲撃をかけて降伏させた挙句にIS学園にはミサイルの一つも落とさせることがなかったという葉柄の人たちが凄かったのか、その両方か……。

 わからないなりに色々考えてはみるけれど、やっぱりわからないものはわからない。ただ、少なくとも今のわたしには到底できるわけの無いことだと言うことくらいはわかった。あと、流石は一夏さんだと言う事も。

 

 織斑千冬さんの弟であると言う事以前に、一夏さん自身が怪物過ぎる。一夏さんの周りに居る人達も、数人で中国やアメリカ、フランスなどを国家単位で相手して戦闘戦術戦略的に勝ち星をあげられるとか、もう本当にあり得ない。

 情報戦に篠ノ之博士がついて、前線指揮官に千冬さん。実際の戦闘は殆どが個人戦とか……情報戦では絶対に勝てないことは間違いないからここでかなり有利になったとしても、それで勝てちゃうとかいったいあの人達はどこに向かっているんだろうか。

 

 ……まあ、なんだかんだと言っても私もIS学園志望だからそれくらいはできるようにならなくちゃいけないんだけどね。簡易テストで適正がA+だったからと言って、それを磨かなければ錆び付くばかり。ちゃんと努力して、ちゃんと強くならなくちゃ。

 別に私は戦いたい訳じゃないから整備科に進んでみるのも選択肢としては十分にアリなんだけれど、一夏さんと一緒に居たいならある程度以上の実力は必要不可欠。社会って面倒だけれど、社会の中で暮らしているんならやっぱりそれなりの手順も必要になってくるんだよね。面倒なのは変わらないけど。

 

 ……そろそろ『私』が目を覚ましそうなので、それなりに準備をしておく。準備と言っても大したことではなく、ただ単に説明をしっかりできるようにあらかじめ決めておいたことの確認と、ついでに今回の予定を決めておかないと。

 わたしは今回お母さんの昔の写真を撮りに来た。時期的に合わないのは今回大天災さんの作った機械が発動直前にラーメンの汁(made in 千冬さん)を被ったせいで変な感じに起動しちゃった結果で、百秋兄も居るかいないかわからない……と。こんなところでいいかな。

 

 こっちの世界では確かお兄が来てたはずだから、多分証言はしてもらえるはず。こっちの世界のお兄のことはなんて呼ぼうかなぁ……流石に『伯父さん』って呼ばれるのはあれだろうし……『お兄さん』って呼ぶことにしよう。

『わたし』が居たのは大体14~5年くらい未来の話だとして、その頃になるとお兄は30に入ったばかりの頃。つまり、男でも年が気になり始める時期の筈。その頃に『お兄さんだ』って言われてそう呼ぶようにしてるってことにすれば説明はつく。これで大丈夫。

 

 ちょうど目を覚まし、低血糖のせいか少しぼんやりしている『お母さん』と視線を合わせる。

 

「こんにちは。初めまして。五反田燦と申します」

「ふぁ……はい、ごたんだらんです……はじめまして……」

 

 大分ぼんやりしながらも、私と『お母さん』は初めての挨拶を交わしあった。

 

 

 

 


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