IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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 連続投稿八話目です。


他の子・シルヴィア編08

 

 

 

 

 side 織斑 百秋

 

 シルヴィアは本当にドM。それについては否定する要素が欠片もないし、もう諦めていることでもあるからいいとする。

 だが、シルヴィアはただのマゾではない。シルヴィアは確かにある程度以上関係の深い相手から苛められたりすることを好むが、それと同等以上に他者を踏みにじり、見下したいと言う願望も持っている。歪んでいるとは言わないし、むしろ凸と凹がいい感じに合わさって歪みなく見える気もする。あくまで見えるだけだが。

 

 そんなシルヴィアは、あくまで自分が他人を傷つける、あるいは自分を他人に傷つけてもらうことが好みなのであって、自分で自分に何かをしたり、他人が勝手に傷ついたりしているのを見て悦んだりはしない。消費も生産も自分で行わなければ気がすまないと言うのはいいことのように思えなくもないが、まあ……これを消費したり生産したりするのは……ねぇ?

 

「無自覚に色々と振り撒いたのは百秋さんなのですから、責任をとってたまにはわたくしも相手してくださいまし?」

「それは淑女としてどうなんだ?」

「淑女として、具体的な内容は口にしていませんわよ?」

「だがしかし、俺は非常識くらいしか振り回してないはずなんだがなぁ」

「結果的に妙な反応を起こして現在に至っているのですから言い訳は聞きませんわよ?」

「へいへいへい」

「へいは二回ですわ」

「へーい」

「ですから二回だと……わざと言ってますわね?」

 

 流石に気付くよな。むしろ気付かれなかったら困っていたところだ。困ったとしてもそこから続く何かがあるわけでもなく、ただ困るだけなんだがな。

 普通なら『何か必要としていることができない』から『困る』のだが、今回の場合は『別に必要としてない』けど『困る』と言っているだけ。しかも仮定の話だ。俺が困ることなんて何もないし、そもそも俺が困る理由がない。困ったって台詞もぶっちゃけポーズだ。必要だったかと聞かれれば間違いなく不要だ。なんの意味もない。

 

 だがしかし、シルヴィアの事に関しては困っていないが、シルヴィアのやったことがもたらした結果には若干困っている。

 世界は歪みを厭う。歪みを産み出す俺達が何かをすると、その度に歪みができては世界をたわませる。それを拒絶するために世界がやることは、俺とシルヴィアをもと居た世界に早急に放り出すこと……らしい。シルヴィアが新しく怪しい誰かさんの財布と命を刈り取った結果、そろそろ世界の方の許容限界が来たらしい。

 やっぱりと言うかなんと言うか、殺人は世界を歪ませやすい行為だな。殺した相手が一介の動物ならともかく、この世界の物語に関わる人間はまずい……と言うことなのだろう。

 元々が人間が描く人間の物語なのだからそうなるのも当然と言えるな。これが人間の物語でなく犬の物語なんだったら人間を殺してもあまり影響は出ないだろうが、今回の場合は敵対組織の構成員の一人だからな。何人居るのかは知らないが、俺の情報を持っていたと言う時点で優秀なのは間違いない。そんなのが死んだら……まあ、歪んでも仕方ないと言えば仕方ないのか? 代わりが用意できない訳じゃ無さそうだが。

 

「これで二人目ですからね」

「ああ、それもあったか」

 

 数の問題もあったか。じゃあ仕方ないっちゃ仕方ないな。

 人間の数に限りがある以上、代替できる人材の数にも限りがあるのは当然。さらに組織の違いやら派閥やらなにやらを考えていくと、本当に数が少なくなってくる。そんな人材を二人も消したんだから当たり前と言えば当たり前なんだろうな。

 

 なっちゃったものは仕方ないので、とりあえず財布を抜いてからメールを打つ。相手は当然パパ……つまり原作一夏だ。

 おかーさんの方にやったら次回が怖いし……まあそう言うことで。

 

 ……次回がいつになるのかは俺にはわからん。今回のことでこっちの世界も色々注意するべきことができただろうし、とりあえずしばらくはこちらに来ることはないだろうな。

 ここまでやられて何の対策もしないってのは考えにくい。だがしかし今までに俺達がやって来たことは黙認されていることから、多分だがこの世界は原作一夏達の強化と原作一夏の生存を目的としているんだろう。

 この世界は確かに原作に非常に近い世界だったが、俺が触れた時点で原作からは解離した。そして原作から僅かでも解離してしまった以上、原作一夏が原作の通りにヒロイン達に殺されず、敵にも殺されないと言う未来に必ず辿り着けるとは限らなくなった。

 そうなると原作一夏を主人公とするこの世界は困る訳だが、そこで俺を投入するわけだ。

 すると、暴力を振るったりすると俺から嫌みを言われたり、純粋そうに見える顔のまま猛毒を吹き付けられたりするようになり、暴力の公使を押さえようと言う考えも生まれてくる。

 また、子供である俺に負けたことで更に力を求めて頑張り、原作一夏達はより強くなれる。恐らくはそういう効果を求めて俺をこちらの世界に呼んだんだろう。

 

 ……世界がある程度歪むのは仕方がない。薬に副作用があるのと同じように、どこかを直そうと叩けば別の部分も歪んだり凹んだりするものだ。

 その副作用を勘定に入れてもなお、この世界は原作一夏を生かしておきたかったのだ。

 

 ……もしかしたら……あくまでも『もしかしたら』と言う可能性の話だが…………この世界はどちらかと言うと女性的なのかもしれないな。

 だからこそ世界が女尊男卑に簡単に傾いたりしたのかもしれない。

 

 で、なんで原作一夏を生かそうとするかと言うと……世界が原作一夏に惚れたのかもしれない。

 

『絶対にあり得ない』とは言えないかもしれないが、『間違いなくそうだ』とも言えない微妙な状態。だが、そう考えると何となくつじつまが合ってくるような気がしてならない。どんなツンデレだと罵倒してやりたくなるな。

 

 ……よし、メール送信、と。

 

「そんじゃ帰んぞ~」

「……」

「……」

「…………」

「……はぁ……そんじゃ帰んぞ『牝豚』」

「はい!」

 

 ああもう本当にシルヴィアはドMだな畜生め。

 

 

 

 

 

 


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