IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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他の子・十柄編10

 

 

 

 side 篠ノ之 箒(原作)

 

 未来から私の娘、十柄が来てからと言うもの、私は色々と考え事をするようになった。

 

 一夏は私だけでなく、多くのものを妻としている。それを聞いて嫌な気分になったことは否定しない。

 だが、現在の一夏の立場を鑑みればそれもある意味では仕方のないことなのかもしれないと思うようになった。

 

 世界で唯一の男性IS操縦者。

 世界最強の戦女神(ブリュンヒルデ)、千冬さんの弟。

 白式と言う代四世代のプロトタイブ機体の乗り手。

 天才にして天災・篠ノ之束(姉さん)の興味の内側に居る者。

 

 一夏自身は嫌がるかもしれないが、そういった肩書きのどれか一つだけでも世の中の多くの女にとって魅力的、あるいは憎悪の対象として見られることだろう。

 そんな状態で自分の身と結婚相手、そして子供を守ろうとするなら、確かに百秋が言っていた通りに重婚するのが効果的ではある。筆頭が千冬さんと言うのは攻撃される材料になりかねないが、一夏は現在どこの国にも在籍していないそうだし結婚した場所が未来のIS学園となれば法律面から見て問題があるわけではない。

 ……倫理的にどうかと言う所はあるが、それを女性権利団体や国家に言われたくはないだろう。一夏は倫理も人権も無視して国籍を失っている訳だしな。

 むしろ倫理的に問題があるからこそ、各国は一夏を正面から堂々と取り込むことができないのであって……どこの国でも血の繋がった姉弟の結婚は認められていないし、私の知るようなメジャーな宗教でも肉親同士による姦淫はまず間違いなく禁忌となっていたはずだ。

 そして、宗教の力は侮れない。ヒンドゥー教やキリスト教、仏教等々が口を揃えて一夏を国民にすることを嫌がって見せれば……まあ、宗教の力が強い所では勝手に国と宗教で争いあってくれるだろう。

 そう、未来において一夏が千冬さんを正妻に迎えるのはけして悪いことではないと頭では理解できている。できているのだが……やはり納得することはできなさそうだ。

 ついでに言えば、対宗教関係において日本ほど強力な国はないと言い切れる。きりすと教も仏教もヒンドゥー教も神道も道教も皆まとめて受け入れ、呑み込み、結局自分たちに都合のいい形に変えてしまうのだから、宗教家による統一などどうにもできないし、宗教の力が殆ど政治に効果なし。ここまで宗教が混とんとしている国は日本以外にはありえないだろう。だからこそ、基本的にあらゆる物を受け入れる日本に最後には国籍を置くことになったのかもしれない。

 

 ……ふと、未来の娘を名乗る十柄という少女の言葉が甦る。

 

「嫉妬の心は言い換えれば向上心とも言えるもの。私たちの来た世界では学生時代に未来の子供が現れるなんて事がなかった世界。つまり、母上が嫉妬を向上心に変え、努力を続ければもしかしたら未来が変わる可能性も十分にある」

 

 と。

 

 ……世界が違う。頭の悪い私にはその言葉はよくわからないが、姉さん辺りに聞けば何となくわかるのだろう。過去を変えれば現在も未来も変わる。現在を変えれば未来も変わる。現在を変える度に世界は分岐し、二度と合流することはない。

 ……そして、百秋は時を越えることで未来を変えてみせた。つまり、私達は百秋達の言っている通りの未来を掴むことができるとは限らない。もしかしたらそれ以上にいい世界になるかもしれないし、逆にもっと悪い世界になるかもしれない。

 どんな未来を掴むのかは……今を生きる私達次第と言うことだろうな。

 

 ……迷いは晴れた。今ならば気持ちのいい剣が振れそうだ。

 傍らに置かれていた竹刀を取り、正眼に構える。竹刀の切っ先にまで意識を集中し、今はいない相手を目の前に置く。そして刀を振り上げ、即座に面に打ち込む。

 防具で包まれていたはずの相手を打つ感覚はなく、私の振った竹刀は空を切る。だが、私の手には空想ながら確かに感触が残っていた。

 

 ───斬った。

 

 手には緋宵。目の前には岩。すべらかな断面を見せながら、ゆっくりと両開きに倒れていく様が見えた。

 迷いのある剣ではこうはいかない。未だ鉄を断つことはできないが、いつか鉄を切ることができると確信が持てるようになったならば全力でやってみるとしよう。

 ……姉さんならば簡単にやって見せるのだろうが……いや、『意味がない』と言って見せてはくれないかもしれんな。姉さんは快楽主義者ではあるが、同時に効率主義でもある。楽しいことを最高効率でもってそのオーバースペックを余すことなく発揮して楽しむ。その結果として『姉さん』と言う巨大な質量を支えきれない人間社会が崩壊しそうになってもどこ吹く風……と言う感じだ。

 

 ……いつか私も姉さんに勝って見せたい。何か一つだけでいい。全力で勝ちに来る姉さんと戦い、そして勝利をもぎ取って見せたい。

 そして、姉さんに向けてこう言ってやるのだ。

 

『楽しかった。またやろう。今度も負けないぞ』

 

 と。

 

 きっと姉さんはきょとんとした顔で私を見て、それから大きく笑い出す。そして笑いが収まらないうちに私に飛び付くように抱き締めて、こう返すだろう。

 

『いいよ!でも、今度は束さんが勝つからね!』

 

 ……姉さんに勝つには、あの才能をひっくり返すほどの努力が必要だろう。いつになったら勝てるようになるかもわからないし、もしかしたらずっと勝てないまま終わってしまうかもしれない。

 けれど、それでも歩けるうちは歩いていこう。走れるうちは走っていこう。私にできる全力で、私なりのやり方で、どこまでも。

 

『そして父上に思いを伝えるのだな。わかるぞ母上。何かを成し遂げた時の達成感に酔ったままなら素直になれるかもしれないし』

「五月蝿いっ!」

 

 頭の中で響いた未来の娘の声を無理矢理に振り払う。まったく、意識してしまうと色々と不都合があるから意識の外側に置いておいたと言うのに……。

 

 ため息を一つついて、私はゆるりと竹刀を構え直した。

 

 

 

 

 




 
 こうして箒ちゃんはちょっとだけマシに……なるといいなぁ……。

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