IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
超外伝、未来図? 移動編
朝起きると、目の前に一夏の顔が広がっていた。それも鏡ではなく、原作の一夏の顔だ。
どうなったのかを考えると、恐らく俺が寝返りでも打って平行世界を渡りでもしたんだろう。
…………こうなったら楽しまなくちゃな。とりあえず原作一夏の呼び名は『パパ』で固定して、背は百六センチくらいにしておけば良いだろう。
平行世界からやって来たんだが、ここはいつも通り未来からやって来たとでも言っておこう。どうやってかは…………束姉さんの科学力は、ついに時空すらも越えたとか言っておけばなんとかなるはずだ。
……きっと。
……そう言えば今はいつだ? 三巻か? 四巻か? まさかの五巻六巻? その先? ののちゃんがいないから一巻ではないだろうし、シャルがいないから二巻では無いだろうけど、正確な時間はわからない。
……お、一夏が起きそうだ。ここは朝一で『おはよう』と言ってやらなくちゃな。
そうだ、名前はどうしようか。面倒だし織斑家ルール(数字+季節)で百秋にでもしとけばいいかな。シロ、しばらく名前の偽装よろしく。
シロがきらっと輝いた次の瞬間、一夏が目を覚ました。
そして俺のことをぼんやりとした目で見つめている。微睡みタイムだな。いいよね微睡みタイム。
「………………ん?」
「おはよ、パパ」
一夏はぱちぱちと数回まばたき繰り返して、それからようやく俺のことを抱き締めていることに気付いたらしい。そして俺が誰かも。
そして、大きく息を吸い込んだ……これは来るな。
急いで耳を塞ぐと、ギリギリでそれが間に合った。それでも五月蝿いけど。
「なにぃぃぃいいぃぃっ!!?」
この日、IS学園は一夏の声によって朝を迎えた。午前4時30分ごろのことだった。
…………迷惑だなぁ……。
いきなり一夏が叫んだことで、一夏に近しい少女たち(精神年齢的にはこっちが上)が一夏の部屋に集まってきた。
「一夏っ!何があった!?」
「どうしたの一夏っ!」
「敵襲か!?」
ばたばたと騒がしく集まってきた少女たちが一夏の部屋で見たものは……。
「……ふに………」
一夏の胸元に額を当てて寝ている俺(ここまで小さくなると女顔に見られる)と。
「ちょ、待った、なんでここに…………あ」
……そんな俺の肩に手を置いて、見ようによっては押し倒そうとしているように見える一夏の姿だった。
「……ほう? まさか私達の目の前で、知らぬ女を連れ込むとは…………」
「一夏? グレネードの威力実験に付き合って? 今すぐ」
「蜂の巣にして差し上げますわ!」
……大変だな。一夏。
朝っぱらから爆発音と破壊音が響き、一夏は起きたばかりだと言うのにボロボロになってしまった。
……可哀想に。
「……って、この子どこかで見たことあるような………」
「……たしかあれは………」
「……夢で見た、僕と一夏の…………」
「いや、私との子だろう。なんと言っても夫婦だからな」
シャルさんや。爆弾発言はいい加減にしないと怒られるよ。後ろにいる鬼神(‘きしん’ではなく‘おにがみ’と読む)に。
「朝っぱらから喧しい!」
パアンッ!×6
お、こっちだと叩かれる音はまともなんだ?
「まったく、いったいなんの騒ぎだ……ん?」
そこでちー姉さんは俺に気付いたようで、キョトンとした目を向けてきた。
「……お前は確か……一夏の息子……だったか? なぜここに居る?」
「大天才さんの技術力は、ついに時空をも越えたって」
「……またあいつか…………」
ちー姉さんは頭痛がするのか頭を抑えてしまった。大丈夫かな?
とててっと近付き、手を引っ張ってしゃがんでもらう。
そしてちー姉さんの頭を撫でる。いたいのいたいのとんでいけー。
……アホらしく見えるが、俺がやると少し効果がある。マジで。
「……ああ、ありがとう………名前は聞けないんだったか?」
「大天才さんは、俺が過去に行った世界と過去に行ってない世界に分かれるから大丈夫だって言ってた」
元々平行世界だしな。全く問題ない。
「そうか。……名前は?」
その問いにはにっこり笑って答えよう。大嘘だけどな?
「織斑
身長的には、一応そのくらいで通るはずだ。
超外伝、未来図? 狂乱編
織斑百秋、十歳(大嘘)です。シロにもそう登録されてるけど。
とりあえず意識せずに原作の世界に来てしまった俺は、現在はこっちの世界のちー姉さんと織斑一夏と一緒に食事中だったりする。
なんだか周りが色々騒がしかったりするけれど、俺は全く気にしない。
……そうそう。ののちゃんがISを貰っていなくて、かつシャルとラルちゃんがいることから二巻と三巻の間の空白期だと予想される。
中々面倒な時期に飛んだもんだな。
「そういやさ。お前って結局俺と誰の子供なんだ?」
一夏によるいきなりの爆弾発言。これによって周りにいた一夏のことが好きな皆が聞き耳をたて始めた。耳がダンボのように大きくなっているように見えるのは、きっと気のせいだと思う。
だが俺は素直には答えない。にっこりと笑いながらこう切り返す。
「当ててみて?」
すると一夏は悩み始める。そしてそれと同時に、一夏のことが好きなこっちのののちゃん、鈴、セシリー、シャル、ラルちゃんが一夏を睨み始めた。なんだか一番最初に出された名前が本命だとか考えているような気がするけど………相手は鈍感選手権世界記録保持者の一夏だよ? 髪の色とか目の色とかで考えるに決まってるじゃん。
「……ん~………箒か? 髪真っ黒だし日本人っぽいし」
ほらね。
ちなみにののちゃんは今の一瞬で笑顔を浮かべ、凍り付き、殺気を放っている。
とりあえずこっちの一夏を殺させないように、一夏の膝の上に座ってみる。
「違うよ?」
なんだかののちゃんの殺気がこっちにも向いた気がする。怖い怖い。
さてと。それじゃあこっちからも爆弾落とし返すか。
「母さんの子供は女の子だけだから」
「ちょっと待て!?」
なんでか叫ばれた。なんでだろうな?
「母さんの子供はって……じゃあお前は!?」
「母さんは母さんで、おかーさんはおかーさんで、シャルママはシャルママで、ラルママはラルママで、鈴母さんは鈴母さんで、セシリーママはセシリーママだよ?」
「なにその状況!? 俺未来でいったいなにやっ」
ゴズンッ!
「―――一夏。少し話があるのだが」
「あたしもね。どういうことかしら……?」
「もちろんわたくしもお忘れなく……おほほほほ………」
「へぇ? 一夏って重婚なんてしちゃうんだ? 僕、びっくりだな」
「お前は私の嫁だろう。何を勝手にそんなことをしているのだ」
「まだなにもしてねえよ!なあ、百秋からもなんか言ってやってくれ!」
なにか……なにか…………。
「パパって夜のお布団の上だとおかーさん達よりずっと凄いのに、やっぱりお昼は」
「うぉぉおぉぉい!? 未来の俺はなにやってんだ!? 見られてるぞおいぃぃいぃぃ!?」
反応楽しっ。
そう思っていたら、いつの間にかちー姉さんの膝の上に移動していて、一夏が五人に連れていかれているのを見ることになった。頑張って生き残ってね?
「……それで、お前を産んだのは誰だ? ん?」
俺はそれに答えずに、ちー姉さんに背中を預けたまま眠りについた。全員の居る前で言った方が面白そうだし、あと普通に眠いし。
……ふぁ……。
起きたら既に時間は昼だった。場所は………多分、寮長室。
備え付けのベッドは他の部屋と同じように柔らかく、体が布団に沈み込む。
……ちなみに、俺としてはもう少し固めの方が好み。そして枕は抱き枕推奨。
別にいいけどね。寝れるし。
……さてと。もう一眠りするかね。昼食ってないけど平気だろ。多分。
ちなみに俺の無駄特技として、寝ながらご飯を食べる(受動)というものがある。
簡単に言うと、鈴や弾にご飯を食べさせてもらいながら寝れると言う特技。自分からは動かないから、無駄特技。
とはいえ、割と使われる頻度の高い無駄特技だったことは認めるが。
そうして無駄なことを思い出しつつ二度寝の体勢に入ると同時に、寮長室(仮)の扉が開いてちー姉さんが入ってきた。
「百秋。起きているか?」
「……ん~………まだ寝る……」
「昼を食べてからにしろ。一夏達も待っているようなのでな」
……仕方無いなぁ。
そう思いつつ、俺はゆっくりと起き上がる。……やっぱりもうちょっと寝ていたい。
いつの間にか装着されていた狼耳をぴこぴこと動かし、ぎゅぅ~っと体を伸ばしてからぷるぷると頭を振る。
それから顔を上げると、なんでかちー姉さんが、よく鈴や弾がしてる目と同じ目をしていた。言葉で言うと、「ああ、こいつ可愛いなぁ……」という目。
それから手を繋いで食堂まで一緒に歩く。数人の女生徒がちー姉さんの子供かと噂してアイアンクローを食らって撃沈したり、お菓子をくれたりした以外は普通だった。
「それで、結局百秋は誰の子供なんだ?」
「パパのだよ?」
わざと惚けて当たり前の事を言ってみる。
「いやだから……百秋を産んだのはだれかって聞いてるんだけど」
直接的に聞いてきたか。まあ、これで爆弾を落とす準備はできたかな?
「おかーさんの事が知りたいの? パパだって知ってると思うんだけどなぁ?」
「じゃあヒント!ヒントをくれ!」
……ヒント………ヒントねぇ……。
……わかりやすくていいか。
「ヒント1。料理は上手じゃないよ」
ここでシャルとののちゃんと鈴が脱落。一夏に憎々しげな表情を向けている。
ちなみにちー姉さんはそんな状態を見てにやにやしている。
「ヒント2。おかーさん達の中ではかなり強いよ」
ここで視線はラルちゃんに向く。ラルちゃんは勝ち誇った顔をしている。
「ヒント3。ここにいないたっちゃんやかんちゃん達とは違うよ」
「おいぃぃいぃぃぃ!? 俺何人と付き合ってんだよぉぉ!?」
「………いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、ろく、なな、はち、きゅう………いっぱい?」
「いぃぃちかぁあぁぁああっ!!そこに直れぇぇえぇっ!!」
こっちの世界のののちゃんは怒りっぽいなぁ。そんなことをしてて好きだと気付いて欲しいって言うのは虫がよすぎないか?
……俺には関係ないし、別にいいけど。
……うん。ここのチャーハンは美味しいね。薄味で、寝惚けた舌にはちょうどいいよ。俺は大抵寝惚けてるけど。
「……結局、誰かは言わないのか?」
ちー姉さんがそんなことを言うけれど、ののちゃん達の暴走が酷くて言えないだけなんだよね。
「……聞きたい?」
「ああ。教えてくれるのか?」
「いいよ?」
にやにやと笑っているちー姉さんの耳元に口を寄せる。なんだかすぐ近くでISを使っていれば聞き取れそうだけど、その辺りはあえて無視して言ってみる。
「俺のおかーさんの名前はね―――」
「ああ。なんだ?」
「―――織斑千冬って言うんだよ。おかーさん」
すると、すぐ近くでISを使っていた数人と、ちー姉さんがまるで石化したかのように固まった。
………さてと。ご飯の残りを食べちゃおうかね。
数人が固まっているのに気付き、不思議そうにしているののちゃんと一夏以外の専用機持ちは、全員がちー姉さんのことを凝視している。
「……な……なぁ………何があったんだ?」
一夏の能天気なその言葉が静かなこの場に響いた後、
「…………な……」
「な……なな……」
「……な…………」
ここで俺は耳を塞ぐ。やばいことになりそうだし。
「なにいぃぃいいぃぃぃっ!!?」
俺が耳を塞ぐと同時に、辺りに絶叫が響き渡った。
……ほら、やばかった。耳を塞ぎ損ねた一夏とののちゃんなんて悶絶してるし。
大変だね。
超外伝、未来図? 終了編
俺による大暴露(大嘘)が行われ、IS学園は局所的に大混乱を起こしていた。
「えっ、ちょっ、まっ、え、じょうだ、えっ、ち、千冬さあぁぁんっ!?」
「ま……まさか……そんな………」
「怪しいとは思ってたけど………やっぱり二人の秘密の時間とか……」
……ここで嘘だって言ったらちー姉さんにボコされる気がする。まあ、絶対に言わないけど。
「おかーさんいわく、ブラコンで何が悪い。いいじゃないかブラコンで」
「千冬さんついに開き直っちゃった!? いや未来の話だけど!」
「織斑先生だ馬鹿者!」
ズッパァンッ!!というかなり良い音が鈴の頭から響く。ちー姉さんも良い感じにテンパってるね? 突っ込むところはそこじゃないと思うけど?
「な……なあ、千冬姉。なんの話だ?」
「織斑先生だと言っているだろうが馬鹿者っ!」
また良い音が、今度はこっちの一夏の脳天から響いた。痛そうだな。よくちー姉さんは肩から先の動きだけであそこまで良い音を出せるな。
まあ、べつにいいけど。
「パパ。パパはやっぱり鈍いんだね」
「いてて……鈍いってなんの話だよ?」
…………こいつ本気で言ってるのか? 確かにあれだけボコられてれば好かれてない、むしろ憎まれてると思ってもおかしくないと思うが、もう少し深いところを見てやろうぜ?
………それで一夏がモテてることを自覚したら、いったいどんな反応を返すのか……ちょっと興味があったりするが、俺は気にせず寝る。面白そうではあるけど、絶対見たいって訳じゃないし。
「……ふぁ……それじゃあおかーさん……おやすみなさい……」
「ちゃんと歯を磨いてから寝るんだぞー」
「はーい」
食器を片付けて、それから寮長室に行く。歯磨きは千の顔を持つ英雄で作ったブラシを使う。使った後はすぐ消せるから、とっても衛生的。
布団に入って毛布にくるまり、抱き枕を千の顔を持つ英雄で作って抱き締めて寝る。
……こっちの世界は少し騒がしいが、それでも気持ちよく寝れそうだ。
………すか~…………。
目が覚めたら鈴が一緒の布団で眠り、丸まっているぷちかが目に入ったことから元の世界に戻ったのだと理解した。
それにしても、向こうではこれからいったいどんな変化が起こるのか、ちょっと楽しみかもしれない。
またいつか行ける時が来たら、その時にでも色々と話を聞こう。
……向こうのちー姉さんが暴走してたりしなけりゃいいんだけど…………まあ、してたらしてたで面白そうだから構わないけど。
side 織斑 一夏(原作)
朝から夜まで俺達を引っ掻き回し、爆弾をばらまくだけばらまいていった俺の子供は、次の日の朝には綺麗に姿を消していた。
恐らく初めから一日だけと言うタイムリミットがあったんだろうが、いなくなるときには挨拶くらいしていってもいいだろうと思うのは、我儘だろうか?
百秋がいたと言う証拠はどこにも残っていない。IS学園のカメラ等の映像にはなにも残っていなかったし、俺の白式やセシリアのブルー・ティアーズ、シャルのリヴァイヴと言ったISの記録にも残っていなかった。
しかし、少なくとも俺達全員の記憶の中には、百秋という眠たがりで素で爆弾を落としていく子供の姿があるし、俺達を見ていた他の一年生達も百秋のことを覚えていたから、百秋は本当にこの時代に来ていたんだと言うことがわかる。
……束さんなら、きっとまた百秋を送ってくると思うし、それでなくてもいつか俺は百秋に会うことができる。悲しむことはないさ。
……さてと!今日も一日頑張りますか!
……そう思った矢先に、鬼のような視線を箒と鈴から突き刺された。理由はわかんねえけど、酷くね?
空気が悪い中で朝食を食べ終えてから教室に行くと、なんでか千冬姉に元気がない。励まそうと思ったんだけど、それはどうしてかシャルとラウラとセシリアに強く強く止められた。
何というか今日の千冬姉は、自分が心から信じていた大切ななにかをボッキリ折られた敬虔な宗教家のようにも見えた。一体なんで千冬姉がこんなに憔悴してるんだ?
そのことを箒たちに聞いても
「知るか」
「知らないわよ、このシスコン!」
「自分の胸に聞いてみたらどうかな?」
「無知は罪ですわ」
「的外れな事を言って教官に殲滅されてしまえ」
……というありがたーい言葉しか返ってこなかった。俺が何をしたって言うんだよ?
「まだなにもしてないけど、これからするんでしょうが。この変態」
「ちょっと待て!? 誰が変態だよ!?」
「あんたよあんた!いったい子供になに見せてんのよ!」
「まだなにも見せてないし、見せる予定もねえよ!」
多分百秋の言った言葉のお陰で怒ってるんだと思うんだけどさ………正直、なんで怒られてるのかわかんないんだが……。
千冬姉も俺から逃げるみたいにすぐいなくなっちまうし……何があったんだ?
side 織斑 千冬
百秋は、一夏が父親で、私が産みの親だと言っていた。
つまりそれは、私と一夏がヤったと言うことで、しかも私はそれについて後悔はしていないと……。
ぐるぐると頭の中で思考が巡る。
私の大切な弟である一夏が、私の大切な男になる…………。
ただ、その状況が頭の中が何度も何度も巡ってしまう。
弟だと思っていた一夏に女として抱かれ、微笑む私。
IS学園を辞めて、一夏に習いながら少しずつ料理などの家事を学んでいく私。
一夏が他に女を作ったと聞いて、怒る私。
その相手が篠ノ之や凰、デュノア、オルコット、ボーデヴィッヒだと聞いて、どこかで納得してしまう私。
…………ああ、まったく………私らしくない。
百秋は言った。百秋が来た時点で世界は分かれ、未来は変わったと。
ならば、百秋の言った言葉がすべて実現するとも限らん。
そう思うと、私はようやく思考の渦から抜け出すことができた。
……まあ、一夏についてはなるようになる。どうなるかは今の私にはわからないが………もしかしたら、私が―――
頭を振ってそんな考えを追い出す。やれやれ。調子が狂うな。